企業のブランド刷新でロゴを変更する場合、既存の商標登録との関係をどのように整理すべきかは悩みやすいポイントです。すでに登録しているロゴがある場合でも、変更の内容によっては新たな商標出願が必要になるケースがあります。本記事ではロゴ変更に伴う再出願の要否、既存商標の類似範囲、旧ロゴの適切な管理方法まで実務上の判断ポイントを弁護士が分かりやすく解説します。
もくじ
第1章 ロゴを変更すると既存の商標登録はどうなるのか
1-1 商標権は登録されたロゴに対して発生する
商標権は、特許庁に出願して登録された商標に対して認められる権利です。
企業ロゴについて商標登録をしている場合、その商標権は企業名ではなく、登録されたロゴの表示に対して認められます。具体的には、図形の形状、文字の書体、配置、全体の構成といったデザインの内容が商標として登録され、その表示に対して権利が発生するものです。
このため、ロゴのデザインが変わると、新しいロゴは原則として既存の登録商標とは別の商標として扱われます。旧ロゴについて取得している商標権は、その旧ロゴの表示に対する権利であり、新しく作成されたロゴに当然に及ぶものではありません。つまり、旧ロゴと新ロゴはそれぞれ別の商標として考える必要があります。
1-2 ロゴを変更しても既存の商標登録の内容は変わらない
企業がロゴを変更したとしても、既存の商標登録の内容が自動的に新しいロゴへ変更されるわけではありません。商標制度では、登録された商標の表示を後から変更する制度は設けられておらず、登録簿には出願時の商標の表示がそのまま記録されます。そのため、新しいロゴを企業ブランドとして使用する場合には、そのロゴについて改めて商標出願を行うことを検討する必要があります。
もっとも、新しいロゴについて商標登録を行ったとしても、旧ロゴの商標権が自動的に消滅するわけではありません。旧ロゴの商標権は、放棄や取消しなどの手続が行われない限り存続します。その結果、ブランド刷新の過程では、旧ロゴと新ロゴの商標権が併存する状態になることもあります。
第2章 旧ロゴの商標登録はどこまで使える?新たな商標登録が必要になるライン
2-1 商標の同一性とは何を意味するのか
ロゴを変更した場合でも、その変更内容によっては既存の商標登録の範囲で対応できることがあります。ここで問題になるのが、登録商標と実際に使用している商標が「社会通念上同一」といえるかどうかです。
実務では、企業がロゴ変更を検討する段階で、まず既存の登録商標と新しいロゴの内容を比較し、どの程度デザインが変わっているのかを確認します。そのうえで、新しいロゴについて商標出願を行い、特許庁の審査を通じて権利関係を整理することが一般的です。
なお、商標の評価では、ロゴの見た目(外観)、呼び方や読み方(称呼)、意味やイメージ(観念)という三つの要素を総合的に考慮して判断されます。
2-2 書体変更や配置変更だけの場合
ロゴ変更の中には、文字の書体を変更する場合や、文字の配置を調整する場合があります。このような変更は比較的軽微な変更として扱われることもありますが、必ずしも既存の登録商標の範囲に含まれるとは限りません。
例えば、同じ文字列を使用していても、書体が大きく変わることでロゴ全体の印象が異なる場合や、文字の配置やデザインのバランスが変わることで図形的な特徴が強くなることもあるでしょう。
この点は、最終的には特許庁の審査によって整理されることになります。
2-3 図形要素やロゴ構成が変わる場合
ロゴ変更で図形要素が追加される場合や、シンボルマークの形状が変わる場合には、既存の商標登録の範囲に含まれない可能性が高くなります。
特に、図形と文字を組み合わせたロゴの場合には、図形部分の印象が変わることでロゴ全体の外観が大きく変化しているとみなされ、既存の登録商標とは別の商標として評価されることが多くあります。
第3章 ロゴ変更で再出願を検討すべき典型ケース
3-1 ロゴのデザインコンセプトが大きく変わる場合
ブランド刷新の際には、ロゴの配色、形状、構成などを大きく見直すことがあります。このような変更では、ロゴ全体の印象が従来のロゴとは異なるものになることが多く、既存の登録商標とは異なるロゴとして扱われるケースが多いといえます。
例えば、従来のシンプルな文字ロゴから図形を強調したデザインへ変更する場合や、ブランドカラーやデザイン要素を大きく変更する場合などがこれに当たります。このようなケースでは、新しいロゴについて改めて商標権の取得を検討することが一般的です。
3-2 指定商品・役務の範囲を広げる場合
ロゴのデザイン変更だけでなく、ロゴを使用する事業の範囲が広がる場合にも、新たな商標出願が必要になることがあります。
商標権は、指定商品または指定役務と呼ばれる区分ごとに認められます。この区分とは、商標をどの商品やサービスで使用するのかを登録の際に特定する仕組みで、例えば衣類、飲食サービス、ソフトウェアなど、それぞれ異なる区分として整理されています。
そのため、これまで特定の商品ブランドとして使用していたロゴを、新しいサービスや事業分野で使用する場合には、既存の商標登録の範囲では権利が及ばないことがあります。
例えば、次のようなケースが考えられます。
- アパレル商品のブランドロゴをオンラインコミュニティサービスのロゴとして使用する
- 店舗ブランドのロゴをECサイトやアプリのサービスロゴとして使用する
- 飲食商品ブランドのロゴをカフェやイベント事業のロゴとして使用する
このような場合には、新しく使用する商品やサービスの区分を確認したうえで、その区分に対応した商標出願を追加で行うことを検討します。ブランド展開の範囲が広がるほど、商標登録の対象となる区分も増えるため、事業計画とあわせて商標の対応を整理しておくことが重要といえます。
3-3 文字ロゴにシンボルマークを追加する場合
企業ロゴの変更では、従来の文字ロゴにシンボルマークを組み合わせる形へ変更するケースもあります。このような変更では、ロゴ全体の構成が変わるため、既存の登録商標とは別の商標として扱われる可能性が高いといえます。
例えば、企業名の文字だけで構成されたロゴに、図形やマークを組み合わせた新しいロゴを採用する場合には、新しいロゴについて改めて商標出願を行い、権利を確保することが望ましいでしょう。
3-4 文字ロゴと図形ロゴを別々に使用する場合
ブランド刷新では、従来のロゴとは別に、シンボルマークのみを独立して使用するケースもあります。
例えば、ウェブサイトやアプリのアイコンとして図形マークだけを使用したり、店舗のサインとしてシンボルマークのみを表示したりする場合です。
このような場合には、文字を含むロゴとは別に、図形マーク単体の商標についても権利を確保しておくことが検討されます。ロゴ全体での商標登録だけでは、図形部分のみを使用した場合の権利関係が十分に整理できないことがあるためです。
第4章 再出願をしない場合に起こり得る実務上の問題
4-1 新しいロゴについて商標権を主張できない可能性
ロゴを変更したにもかかわらず新たな商標出願を行わない場合、新しいロゴについては商標権による保護を受けられない可能性があります。
商標権は登録された商標に対して認められる権利であるため、旧ロゴの商標登録しかない場合、その権利が及ぶのは登録されたロゴの表示に限られます。したがって、新しいロゴが旧ロゴとは別の商標と評価される場合には、新しいロゴについて商標権を主張することが難しくなります。
例えば、第三者が新しいロゴと似たロゴを使用したとしても、企業側が保有している商標登録が旧ロゴのみである場合には、その商標権を根拠として使用の差止めや権利主張を行うことが困難になる可能性が高いでしょう。
4-2 新しいロゴが他社の商標権を侵害するリスク
新しいロゴについて再出願を行わない場合、そのロゴが既に登録されている他社の商標と類似していないかを特許庁の審査の中で確認する機会がありません。そのため、他社の登録商標と似たロゴであることに気づかないまま使用を開始してしまうおそれがあります。
その結果、新しいロゴが他社の登録商標と類似していた場合には、商標権侵害として新しいロゴの使用の差止めや損害賠償を求められる可能性があります。
こうしたリスクを避けるためにも、ロゴ変更の際には新しいロゴについて商標調査を行うとともに、必要に応じて再出願を行い、他社の登録商標との関係を事前に確認しておくことが重要といえます。
第5章 ブランド刷新時の旧ロゴの商標管理
5-1 旧ロゴの商標権を残しておくべきケース
ブランド刷新により新しいロゴを採用した場合でも、旧ロゴの商標権を直ちに放棄する必要はありません。旧ロゴが市場で一定の認知を持っている場合には、その権利を維持しておくことが企業にとって有益なことがあります。
例えば、旧ロゴを使用した商品や広告物が市場に残っている場合や、取引先や顧客が旧ロゴを引き続き認識している場合には、旧ロゴの商標権を保持しておくことでブランドの権利関係を安定させることができます。そのため、新しいロゴの商標登録を行ったとしても、旧ロゴの商標権を当面は維持するという対応がとられることが一般的です。
5-2 旧ロゴの不使用取消審判に注意する
一方で、旧ロゴをまったく使用しなくなった場合には、不使用取消審判の対象となる可能性があります。
商標法では、登録商標が一定期間継続して使用されていない場合、第三者がその登録の取消しを求める審判を請求することができる制度が設けられています。一般的には、継続して3年以上使用されていない場合に問題となることがあります。
そのため、ブランド刷新の際には、旧ロゴの商標権を維持するのか、それとも将来的には権利を放棄する方向で進むのかを検討しておく必要があります。
旧ロゴの権利を残す場合には、一定の範囲で使用実績を維持しておくことも商標管理の一つの方法となります。例えば、旧ロゴを使用した商品パッケージを継続して販売する、会社案内やウェブサイトの一部に旧ロゴを掲載する、店舗の看板や広告物で旧ロゴを使用する、といった形で使用実績を維持しておくことが考えられます。こうした使用が確認できれば、不使用取消審判への対応がしやすくなります。
第6章 ロゴ変更の際に企業が整理しておくべき商標実務
ここまで見てきたように、ロゴ変更は単にデザインを新しくする作業ではなく、既存の商標登録との関係を整理しながら進める必要があります。まずは、現在登録されている商標の内容を確認し、新しいロゴとの関係を整理することです。変更の程度によっては既存の登録商標の範囲で対応できる場合もありますが、多くの場合は新しいロゴについて改めて商標出願を行うことが検討されます。
自社だけで判断することが難しい場合には、専門家に相談しながら対応方針を整理する方法もあります。私たちNexill&Partnersグループでは、企業法務に精通した弁護士が中心となり、ブランド管理や商標実務に関するご相談にも対応しています。ロゴ変更や商標登録に関する対応でお悩みの際は、お気軽にご相談ください。
