労災保険ってなに?
最近よく耳にする「労災保険」。一般的には「労災」と呼ぶことが多いのではないでしょうか?
「労災」は正式には「労働者災害補償保険」と言います。
特徴は大きく次の3つです。
②保険料が事業主の全額負担となっている。
③被保険者という概念がない。
それではそれぞれ解説していきます。
①業務上(通勤上を含む)の災害を保険事故としている。
プライベートの病気やケガは医療保険が適用されますので、病院に行く場合は保険証を窓口で提示することになります。
一方、仕事中や仕事の行き帰りの事故などは労災が適用されますので、病院に行く場合は、労災の書類を窓口で提出することになります。
労災は他にも休業補償や、障害、死亡の場合などがあり、医療保険よりもかなり手厚い給付内容になっています。
②保険料が事業主の全額負担となっている。
今まで解説してきた医療保険、雇用保険、介護保険は事業主と労働者が折半して保険料を支払いますが、労災保険は労働者の負担がなく、事業主が全額負担します。
なぜでしょう?
本来であれば仕事中のケガなどについては使用者責任により会社が被災者に補償金を支払わなければいけないという原則があります。
そうすると、もし死亡事故などが起こった場合には会社は多額の補償金を被災者に支払わなければいけません。
そうなると、会社側としてもそのような多額の補償金の支払いリスクを抱えたくはないので人の雇用に消極的になり、それが連鎖していけば日本全体の雇用の安定が損なわれることも考えられます。
また、会社に多額の補償金を支払うお金がない場合や、会社が倒産した場合には被災した労働者は補償金をもらえなくなり泣き寝入りをしなければいけなくなります。
それらを解決するために、予め労災保険料を会社から徴収し、労働者に万が一のことがあった場合に間違いなく被災者に補償金を渡せる労働者災害補償保険という仕組みを国は作ったのです。
なので、元々は会社が負担すべき労働者への補償金を、国が社会保険の制度を使って労働者が困らないようにしているので、保険料も会社負担となっているのです。
全額会社負担となった経緯がなんとなくお分かりいただけたでしょうか?
③被保険者という概念がない。
雇用保険や医療保険、厚生年金などは、労働者が加入条件を満たした場合に手続きを行い加入させる必要があり、その手続きが済めばそれぞれの制度の被保険者になります。
一方で条件を満たさないため加入の手続きをしていない労働者がいるのであれば、「被保険者以外の者」も会社には存在することになります。
ところが労災保険の場合、労働者一人一人を労災保険に加入させる手続きがありません。
退職した場合でも労災保険から外れる手続きがありません。
これは何を意味するのか?
それは、労働者(正社員、パート、アルバイトを含む全労働者)は会社に雇用された瞬間から労災保険に強制的に加入させられるということなのです。
新しく入ってきた労働者が「俺は安全対策に自信があるので労災は必要ない!」「私はパートなので労災は入らない!」と言っても、雇用された瞬間から労災に加入していることになるのです。
つまり、「正社員」や「パート」という区分は関係なく、雇用される全ての人が強制的に加入する保険であることから「被保険者」と「被保険者以外の者」に区分することができない、すなわち「被保険者という概念がない」ということなんです。
ちなみにですが、これと似たような話が会社にもあったりします。
例えば、立ち上げたばかりの社長一人の会社があったとします。
社長は原則として労災の対象になりませんし、社員が一人もいないので、労災が適用される会社にはなり得ません。ところが、もし一人でも社員を雇用したら、その瞬間から労災保険が適用される会社になるのです。
社長が「うちは労働災害を起こさないから会社に労災を適用させなくていい!」と言って何の手続きをしなくても、社員を雇用した瞬間から強制的に労災が適用されることになるのです。(だからと言って手続きが不要なわけでなく、適用になった会社であることを監督署に届け出る必要があります)
つまり、会社は労働者を雇用した瞬間から強制的に労災が適用される会社となり、社員は会社に雇用された瞬間から強制的に労災に加入させられているということなのです。
(個人経営の農林水産業で小規模事業所の場合など一部例外を除く)
今回は労災保険の3つの特徴について解説しましたが、次回はもう少し労災保険の具体的な考え方や給付の種類について解説していきたいと思います。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。