不動産の登記簿を見てみると、「抵当権」という文字が記載されていることがあります。抵当権とは、住宅ローンなどの借入金を返済できなくなった場合に、金融機関が不動産を競売にかけて債権を回収できる権利のことです。
ローンを完済すれば抵当権は不要になりますが、「完済したから自動的に消える」と思ってしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、抵当権は抹消登記をしなければ登記簿上に残り続けるのです。
抹消登記をしないまま放置するとどうなる?
完済後に抵当権が残っていても、すぐに不利益を感じることは少ないかもしれません。しかし、いざ不動産を「売却したい」「相続したい」となったときに問題が表面化します。
抵当権が登記簿上に残っている限り、その不動産は第三者から見ると「担保に入っている状態」です。買主や金融機関は安全な取引ができないと判断し、売却や新たな借入れの障害となるケースが発生します。
また、相続時にも登記簿に抵当権があると、相続人が「完済済みかどうか確認できない」などの理由で手続きが複雑化し、遺産分割や名義変更が滞る可能性もあります。
抵当権者がなくなっているケースも
古い抵当権ほど厄介なのは、「権利者である金融機関がすでに存在しない」ケースです。
たとえば数十年前に借りた住宅ローンを完済したが、当時の銀行が合併・統廃合・廃業しているということもあります。この場合、抹消登記の際に必要となる「弁済証書」などの書類がすぐには手に入らず、現存する承継会社を調べ、書類を取り寄せる必要が生じます。
これを怠ると、売却の際や金融機関の融資審査時に古い抵当権が残っていることが判明し、手続きに障害が出る可能性があります。
書類が見つからない場合はどうする?
抵当権抹消登記には、金融機関から交付される「登記原因証明情報」や「委任状」が必要です。完済から長年経っていると、これらの書類が紛失していることも珍しくありません。
その場合、金融機関に再発行を依頼することになりますが、統合や社名変更が重なっていると、どこに依頼すればよいのか調べるのも一苦労です。
さらに、抵当権者が個人で、その方が亡くなっている場合には、相続人の協力が必要となり、時間も手間もかかります。
このように、抹消登記を後回しにするほど、関係者の書類の取得が難しくなっていくのです。
早めの確認が安心につながる
抵当権抹消登記は、不動産の「身辺整理」のようなものといえます。
完済後すぐに手続きを行っておけば、必要書類も揃っており、手続きは比較的スムーズに進みます。ところが、長年放置してしまうと、いざという時に時間も費用も余分にかかる結果になりかねません。
もし手元の登記簿謄本を確認して、古い抵当権が残っているようであれば、できるだけ早い段階で対応を検討すると良いでしょう。
「昔のことだから」と放置せず、一度ご自身の不動産の登記簿を確認してみることが、将来のトラブルを防ぐ最も確実な方法です。