採用活動を外部に業務委託したい場合、単なる採用代行のつもりでも、進め方によっては人材紹介業務や委託募集に該当し、職業安定法上の許認可が問題になることがあります。本記事では、事業会社が人材紹介や採用支援を外部に業務委託する際に確認すべき業務範囲、派遣との違い、契約書のポイントを弁護士が解説します。
もくじ
第1章 人材紹介業務を外部委託する際に確認すべき職業安定法上のリスク
1-1 採用業務の外部委託では、業務内容によって職業安定法上の規制が問題になる
企業の採用難が続く中、採用活動を外部の採用代行会社などに委託する事業会社は少なくありません。経営層や人事担当者にとって、外部リソースを活用することは合理的な選択の一つといえます。
もっとも、外部に任せる業務の内容によっては、職業安定法上の許可や届出を確認しなければならない場合があります。特に注意が必要なのは、委託先の業務内容が、単なる採用事務の補助を超えて、実質的に候補者の紹介や応募勧奨に踏み込んでいる場合です。
このような場合には、職業安定法上の職業紹介や、自社求人への応募の呼びかけを外部に行わせる委託募集に近いものとして、許可や届出などの要否を確認する必要があります。
1-2 有料職業紹介事業にあたる場合は、委託先の許可の有無を確認する必要がある
職業安定法では、求人者と求職者の間に立ち、雇用関係の成立をあっせんする職業紹介について規制が設けられています。特に、報酬を得て職業紹介を事業として行う場合には、原則として厚生労働大臣の許可が必要です。
この許可制度は、求人企業と求職者との間で、適正な雇用関係が形成されるようにするためのものであり、許可を取得するには、事業所の体制や個人情報の管理体制など、一定の要件を満たす必要があります。
委託先が法人か個人かによって、基本的な考え方が変わるわけではありません。たとえ、個人であっても、求人・求職の申込みを受け、雇用関係の成立をあっせんする実態があり、その対価として報酬を受け取るような業務を行う場合には、有料職業紹介事業の許可が必要です。
1-3 委託先が無許可である場合、事業会社側にも問題が波及する可能性がある
自社が採用業務を委託した代行業者が、必要な許可を持たないまま実質的な人材紹介を行っていた場合、まず問題となるのは、無許可で業務を行った委託先です。
しかし、業務を依頼した事業会社側も、無関係でいられるとは限りません。
たとえば、委託先が有料職業紹介事業の許可を持っていないことを知りながら、あるいは確認を怠って、求職者の紹介をしてもらうだけでなく、会社との間を取り持ってもらい、雇用契約の成立を条件として報酬を支払っていたような場合には、事業会社側も違法な採用スキームを前提に採用活動を進めていたとして、労働局などからの確認対応などを求められる可能性があります。
そのため、自社の採用活動を外部に委託する場合は、委託先の許認可状況を確認するだけでなく、依頼する業務が採用事務の補助にとどまるのか、候補者紹介に近い業務なのかを事前に整理しておくことが大切です。
第2章 職業紹介と採用事務を分ける判断ポイント
2-1 成果報酬型で候補者の紹介や引き合わせを依頼するケース
採用業務を外部に委託する際、まず確認したいのが報酬体系です。
「採用が1人決定するごとに〇〇万円を支払う」といった成果報酬型の契約は、採用支援や人材紹介に近い場面で用いられることがあります。
成果報酬型であること自体が直ちに問題となるわけではありません。しかし、委託先が自ら候補者を探し、企業に引き合わせ、採用決定に応じて報酬を受け取るような場合には、有料職業紹介事業に該当すると評価される可能性があります。
2-2 委託先が自らの判断で候補者を選別して面接へつなげるケース
契約書上は事務代行や採用支援と記載されていても、実際の業務内容がどのように行われていたかが重要です。
特に確認すべきなのは、候補者を選ぶ判断を誰が行っているのかという点です。
たとえば、応募者の履歴書を確認し、委託先の判断で「この人は面接に進める」「この人は対象外とする」と振り分けたうえで、候補者を面接へつなげるような場合には、単なる事務補助とは整理しにくくなります。
一方で、企業があらかじめ定めた基準に沿って応募書類を整理したり、面接日程を調整したりする業務であれば、採用事務の委託として整理しやすい場合があります。
重要なのは、委託先が候補者を選別・推薦する立場にあるのか、それとも事業会社の判断に従って事務処理を行っているにすぎないのかを、契約書と運用の両方で明確にしておくことです。
2-3 業務委託契約書の内容と実際の運用がずれているケース
実務上注意したいのが、契約書では採用事務の委託にとどめているものの、現場の運用では委託先により広い業務を任せているケースです。
たとえば、契約書では業務範囲を限定していても、事業会社側の現場担当者がその法的リスクを十分に理解しないまま、チャットやメールで「候補者を見極めてほしい」「良い人がいたら面接につないでほしい」などと依頼しているような場合です。現場としては採用を円滑に進めるための対応であっても、このような対応は職業紹介に近い関与と見られる可能性があります。
そのため、委託先に任せてよい業務と任せてはいけない業務を、社内の現場担当者にも共有しておくことが重要です。
第3章 採用業務委託では労働者派遣法との関係にも注意が必要
3-1 業務委託と労働者派遣は、指揮命令を誰が行うかで整理が分かれる
採用代行やRPO(採用プロセスの外部委託)の一環として、採用事務を外部に委託する場合は、職業安定法だけでなく、労働者派遣法との関係にも注意が必要です。
業務委託と労働者派遣を分ける重要な判断要素の一つは、業務に従事するスタッフに対して、誰が具体的な指揮命令を行うかです。
業務委託の場合、委託先スタッフに対する具体的な業務指示や労務管理は、原則として委託先が行います。事業会社側は、依頼する業務内容や成果物、納期などを指定することはできますが、委託先の個々のスタッフに対して、日々の作業方法や優先順位を直接細かく指示することは避けなければなりません。
3-2 委託先スタッフへの直接指示は偽装請負と評価される可能性がある
実務の現場で注意したいのが、契約書上は業務委託としているにもかかわらず、日々の運用では委託先のスタッフに直接指示を出しているケースです。
たとえば、事業会社側の担当者が、委託先の実務担当者に対して「今日の午前中までに、この5人にスカウトメールを送ってください」「明日の面接の準備は〇〇さんが担当してください」といった具体的な作業指示を日常的に出している場合、業務委託ではなく労働者派遣に近い実態と見られる可能性があります。
このように、実態として事業会社が委託先スタッフに指揮命令している場合には、偽装請負が問題になることがあります。
3-3 偽装請負と判断された場合、事業会社側にも影響が及ぶことがある
現場の運用が偽装請負にあたると判断された場合、委託先だけでなく、事業会社側にも影響が及ぶことがあります。
事業会社が委託先に直接指示を出していた場合、委託先が労働者派遣事業の許可を持っていないにもかかわらず、実態としては派遣に近い形でスタッフを受け入れていたとみなされ、労働局からの確認や是正指導の対象になる可能性があります。
また、一定の違法派遣については、労働契約申込みみなし制度の対象になることがあります。
これは、一定の要件のもとで、派遣先である事業会社が派遣労働者に対して、労働契約の申込みをしたものとみなされる制度です。
この制度が適用された場合、委託先のスタッフが所定の期間内に、この労働契約の申込みを承諾すると、事業会社との間で直接雇用関係が成立します。
すべてのケースで直ちに直接雇用義務が生じるわけではありませんが、事業会社にとっては意図しない直接雇用の義務を負う可能性があるため、軽視できないリスクといえます。
第4章 採用業務にかかる適正な業務委託契約書を作成するためのポイント
4-1 業務の範囲と権限の所在を明確にする
採用業務に関して外部のパートナーと業務委託契約書を作成する際に、まず確認したいのが、委託する業務の範囲です。
「採用業務一式」といった抽象的な表現だけで定めてしまうと、現場の運用のなかで業務範囲が曖昧になり、意図せず職業紹介に近い対応が行われてしまう可能性があります。
そのため、契約書では、「求人原稿の作成補助」「求人媒体への掲載作業」「応募者への面接日程の連絡事務」など、委託先が行う業務をできる限り具体的に記載しておくことが大切です。
また、最終的な合否判断や面接に進めるかどうかの判断、労働条件の提示などは、事業会社側が行うことを明確にしておく必要があります。
委託先が自らの判断で候補者を選別する権限を持たないことを契約書上で整理しておくことで、採用事務の委託であることを説明しやすくなります。
4-2 報酬体系は紹介手数料と誤解されにくい形で整理する
第2章で触れたとおり、報酬の定め方は、職業紹介に近い業務かどうかを判断する際の一つの要素になります。
特に、委託先が候補者を探して企業へ引き合わせ、採用決定に応じて報酬を受け取るような形になると、有料職業紹介事業に近いものとして整理されるリスクが高まります。
そのため、採用事務の代行として業務委託を行う場合は、「採用決定に連動して報酬が発生する」といった表現ではなく、実際に委託する事務作業への対価であることが分かるように整理しておくことが望ましいです。
たとえば、月額固定であれば「本業務の遂行に対する対価として月額〇〇万円を支払う」といった定めや、従量課金であれば「スカウト文面の送信補助〇件あたり〇〇円」のように、作業内容や業務量を基準に報酬を定める方法が考えられます。
4-3 委託先の許認可状況は契約書上でも確認できるようにしておく
委託先が有料職業紹介事業の許可を持っていることを前提に、候補者の紹介や成果報酬型の契約を行う場合には、その許認可状況を契約書上でも確認できるようにしておくことが重要です。
具体的には、委託先が有料職業紹介事業の許可を有していること、契約期間中も必要な許可を維持すること、許可の取消しや停止などがあった場合には速やかに通知することなどを定めておく方法が考えられます。
また、必要に応じて、許可番号や許可の有効期間を契約書や別紙に記載しておくと、契約時点でどの許可を前提に取引していたのかを確認しやすくなります。
このような条項を設けておくことで、後から委託先の許認可に問題が判明した場合でも、契約解除や損害への対応について協議しやすくなります。
第5章 まとめ
採用業務の外部委託は、採用担当者の負担軽減や専門的なノウハウの活用という点で、有効な選択肢の一つです。
もっとも、本記事で確認したように、業務委託という形式をとっていても、実際の業務内容や現場での運用によっては、思わぬ法的リスクにつながることがあります。大切なのは、どの業務を外部に任せるのか、誰が候補者対応や採用判断を行うのか、委託先との日々のやり取りをどのように管理するのかを、契約書と実務の両面から整理しておくことです。
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