医療モールでは、診療科のすみ分けや他科との連携を期待して入居を決めることがあります。そんな中、入居後に同一・類似診療科のクリニックが誘致されると、患者の流れや経営への影響が心配されるのではないでしょうか。競合クリニックの入居を止められるかは、契約書や入居時の説明によって決まります。
本記事では、確認すべき契約内容と運営会社への対応手順を弁護士が解説します。
第1章 競合クリニックの入居が直ちに契約違反になるとは限らない
医療モールの診療科のすみ分けと契約上の義務は別に考える
医療モールでは、異なる診療科を集めたテナント構成を採る場合もありますが、医療モールであるという理由だけで、運営会社や賃貸人に競合クリニックを入居させない義務が生じるわけではありません。
そのため、同一・類似診療科の入居が判明した場合には、競合を避けることが、法的に履行を求められる契約上の約束になっているかが重要です。
第2章 契約書上、競合クリニックの入居をどこまで制限できるか
2-1 賃貸借契約書だけでなく、出店契約書や覚書も確認する
まずは賃貸借契約書を確認します。
ただし、医療モールでは建物所有者・賃貸人・企画会社・運営会社がそれぞれ異なる場合もあり、賃貸借契約書とは別に出店契約書や運営管理契約書、覚書などが締結されることもあります。
確認したいのは、競合クリニックを誘致しない義務を誰が負っているかです。
運営会社から「同じ診療科は入れません」と説明されていても、契約書の相手方が建物所有者であり、説明を行った運営会社とは契約を締結していないこともあります。反対に、建物所有者は場所を貸すだけで、テナント構成の決定権については運営会社が持っていることもあります。
各当事者の役割を確認し、誘致権限を誰が持っているのか、競合排除条項がどの契約に置かれているかを整理しましょう。
※本コラムでは、運営会社が誘致権限を持ち、自院が運営会社と運営管理契約を締結している前提で解説します。
2-2 競合禁止条項の文言と同一・類似診療科の範囲を確認する
契約書に競合禁止条項があっても、その文言によって運営会社の義務は変わります。
「同一診療科を入居させない」と明記されている場合と、「診療科が重複しないよう配慮する」「原則として同一診療科を誘致しない」と記載されている場合とでは、約束の強さが同じとは限りません。
また、同一診療科や類似診療科の意味も確認が必要です。
たとえば、内科と消化器内科では名称が異なっても、一般内科診療では患者層が重なる可能性があります。反対に、同じ内科でも、一方が特定の専門外来中心であれば、競合は限定的になることも考えられます。
契約上の競合性は、診療科名だけでなく、主な診療内容や専門性、対象患者などを踏まえて判断します。
2-3 競合禁止の例外、期間、事前協議の定めも確認する
競合禁止条項には、例外や条件が設けられていることがあります。たとえば、既存クリニックが承諾した場合や、特定の専門外来に限定する場合、運営会社がモール運営上必要と判断した場合には入居を認める、といった定めです。
契約締結時のテナント構成だけを前提としており、契約期間中の追加募集までは制限していないこともあります。
また、「新規テナントを決める前に既存クリニックへ通知する」「診療内容が重なる場合は事前に協議する」という手続だけが定められているケースもあります。
このような場合、入居そのものを当然に拒否できるとは限りませんが、運営会社が通知や協議をせずに計画を進めた場合、それが契約違反になる可能性はあります。
競合を禁止する条項なのか、情報共有と調整を求める条項なのかを分けて読むことが大切です。
第3章 契約書に明記がない場合、入居時の説明を根拠にできるか
3-1 募集資料、メール、打合せ記録に説明が残っていないか確認する
賃貸借契約書に競合禁止条項が見当たらない場合は、その他の資料を確認します。たとえば、医療モールへの入居を決めるまでに提示された募集パンフレットや企画書、テナント構成表、メールやチャットのやり取り、打合せ議事録、仲介会社の説明資料などです。
実務では、契約書には書かれていなくても、担当者から「診療科は重ならないようにします」「同じ患者層を対象とするクリニックは誘致しません」と説明され、それを前提に入居を決めることもあるため、このような説明が書面に残っていれば、契約内容を解釈する資料や、運営会社との交渉材料になる可能性があります。
3-2 入居時の説明が契約上の約束といえるかは個別に判断する
ただし、担当者が競合について説明していたとしても、そのすべてが契約上の義務になるわけではありません。単に「現時点では同じ診療科を募集していない」と状況を説明しただけなのか、契約期間中も競合を入れないと約束したのかでは意味が異なります。
判断にあたっては、説明がどの程度具体的だったか、院長が診療科のすみ分けを入居の重要条件として伝えていたか、説明した担当者に契約条件を決める権限があったかなどを確認します。
たとえば、契約書に「契約書に記載のない口頭説明などは契約内容を構成しない」旨の条項がある場合、入居時の説明だけを根拠に、競合を避けることが契約上の約束だったと主張することは難しくなります。
一方、その説明自体を契約上の義務とまでは評価できない場合でも、入居するかどうかの判断に重大な影響を与える事実について、運営会社が誤った説明をしていたときは、契約締結過程の説明義務違反として、不法行為に基づく損害賠償責任が問題となる余地があります。
ただし、結論は説明内容や証拠によって変わります。
第4章 競合クリニックの入居が判明した場合の対応手順
4-1 新規クリニックの診療内容と開業準備の進行状況を確認する
競合する可能性のあるクリニックの入居を知った場合、診療科名だけを見て直ちに抗議するのではなく、まずは事実関係を確認しましょう。
標榜予定の診療科、主な診療内容、専門外来などに加え、すでに賃貸借契約が締結されているのかも確認します。
運営会社に対して、新規クリニックとの契約内容や事業計画について全面的な開示を受けられるとは限らないので、まずは自院との競合性や契約違反の有無を判断するために必要な範囲で情報提供を求めるのが現実的です。
まだ契約交渉の段階であれば、運営会社が入居計画を見直せる余地があります。
一方、契約を締結している場合には、運営会社が新規クリニックに対しても契約上の義務を負っているため、入居そのものを取りやめることは難しくなります。
競合クリニックの入居計画を知った時点で、早めに確認を始めることが重要です。
4-2 契約内容と入居時の説明を時系列で整理する
次に、自院が医療モールへの入居を検討した時点から、競合クリニックの入居を知るまでの経緯を時系列で整理します。
具体的には、競合排除について説明を受けた時期、説明した担当者、説明内容、院長が診療科のすみ分けを入居条件として伝えていたか、その際に運営会社がどのように回答したかなどをまとめます。
今後、運営会社から面談や電話などで口頭説明を受けた場合にも、終了後に日時や担当者、説明内容を記載した確認メールを送ることで、やり取りを記録として残せます。
将来的に損害賠償を検討する可能性がある場合には、競合クリニックが開業する前から、自院の月別の患者数、そのうちの新患数、診療内容ごとの売上、紹介患者数などを保存しておくことも大切です。競合クリニックの開業後に売上が下がったとしても、開業前の客観的な資料がなければ、その影響を説明することが難しくなるためです。
4-3 まず運営会社に事実確認を行い、必要に応じて正式な回答を求める
資料を整理したら、運営会社に対して、新規クリニックと自院との競合性をどのように検討したのかを確認します。
この段階では、直ちに弁護士名の通知書を送るのではなく、面談やメールによって事実関係と運営会社の見解を確認する方法が考えられます。最初から強い態度で入居中止だけを求めると、運営会社が防御的になり、その後の診療内容や契約条件の調整が難しくなることがあるためです。
一方、運営会社の回答が曖昧だったり、契約内容と明らかに矛盾する説明がされたり、開業準備が急速に進んでいたりする場合には、契約条項や入居時の資料を示したうえで、書面による正式な回答を求めた方がよいこともあります。
運営会社と賃貸人が異なる場合には、通知すべき相手についても確認が必要です。テナント構成を決める権限のない担当者とだけ協議を続けても、最終的な解決につながらないことがあるためです。
4-4 入居中止だけでなく、診療内容や契約条件の調整も検討する
新規クリニックとの契約前で、競合禁止条項が明確な場合には、まず入居計画の見直しを求めることが考えられます。
一方、すでに契約が締結され、内装工事も進んでいる場合、入居中止だけに要求を限定すると交渉が行き詰まることがあります。その場合には、運営会社が契約上調整できる範囲で、新規クリニックの同意も得ながら、標榜する診療科や専門外来など、競合する診療領域の範囲を調整できないか協議する方法が考えられます。
診療内容のすみ分けでは解決が難しい場合には、賃料や共益費などの条件変更、中途解約、原状回復費用や移転費用の負担について協議することも選択肢になります。
もっとも、競合クリニックが入居したという理由だけで、当然に賃料が減額されるわけではありません。賃料の見直しを求める場合も、契約違反の内容や経営への影響を示し、合意による条件変更を目指すことになります。
4-5 損害賠償や契約解除はそれぞれの要件を確認して検討する
運営会社が競合クリニックを入居させない義務を負っていたにもかかわらず、その義務に違反した場合には、損害賠償を請求できる可能性があります。
ただし、患者数や売上が減少したという事実だけで、減少分のすべてを請求できるわけではありません。損害賠償を求める場合には、競合クリニックの入居前後の患者数や売上を比較し、競合入居がなければ得られたはずの利益がどの程度減少したのかを具体的に示す必要があります。売上の減少額が、そのまま損害額になるわけではありません。
契約解除については、競合禁止義務が定められた契約について、違反が軽微といえないか、催告による是正が可能かなど、それぞれの解除要件を確認する必要があります。競合禁止義務が運営管理契約に定められている場合は、その違反だけで賃貸借契約まで当然に解除できるわけではありません。
4-6 自己判断で賃料の支払いを止めない
運営会社の対応に納得できなくても、自己判断で賃料や共益費の全部または一部を支払わない対応は避けるべきです。競合クリニックの入居によって自院の区画を使用できなくなるわけではないため、競合入居を理由として当然に賃料が減額されるとは限りません。
根拠が不十分なまま賃料を止めると、今度は自院の債務不履行として、遅延損害金や契約解除を主張されるおそれがあります。賃料の見直しを求める場合も、支払停止を先行させず、運営会社や賃貸人と書面による合意を目指すことが安全です。
第5章 【FAQ】医療モールの競合問題でよくある疑問
Q1. 入居時には競合していなかったクリニックが、後から診療科や専門外来を追加した場合も競合禁止条項の対象になりますか?
A1. 診療内容の変更まで制限する契約かによって決まります。
競合禁止条項が「同一診療科のクリニックを新たに入居させない」とだけ定めている場合、すでに入居しているクリニックによる診療科の追加まで禁止しているかは明確ではありません。一方、「競合する診療を行わせない」「入居後に診療内容を変更するときは運営会社の承諾を得る」といった定めがあれば、追加された診療科や専門外来も対象になる可能性があります。
Q2. 同じ建物ではなく、医療モールの別棟や隣接する建物に競合クリニックが開業する場合も、出店を止められますか?
A2. 競合禁止条項が対象とする場所の範囲によって決まります。
契約書に「本建物内」「本医療モール内」と記載されている場合、別棟や隣接地まで競合禁止の対象に含まれるとは限りません。一方、「同一敷地内」「運営会社が管理・運営する施設内」などと広く定められていれば、別棟への入居も対象になる余地があります。
隣接する建物については、所有者や運営主体が異なり現在の運営会社にテナント誘致を決定する権限がない場合には、契約上の約束があっても、その運営会社に出店中止を実現させることは難しいといえます。
Q3. 新規クリニックの入居を知らされていたのに、すぐに異議を述べなかった場合、後から契約違反を主張できますか?
A3. 直ちに権利を失うとは限りませんが、早めの異議申出が重要です。
入居計画を知らされた際に反対しなかったというだけで、当然に新規入居を承諾したことになるとは限りません。ただし、契約書に「通知後一定期間内に異議がなければ承諾したものとみなす」と定められている場合には注意が必要です。
そのような条項がなくても、長期間何も伝えないまま契約締結や内装工事が進んだ場合、運営会社から「既存クリニックも了承していると考えて計画を進めた」と主張され、後の交渉が難しくなる可能性はあります。詳細を確認できていない段階でも、「現時点では承諾していない」「契約との関係を確認したい」と書面やメールで伝えておくことが重要です。
Q4. 競合クリニックの入居を禁止する契約条項が、独占禁止法上問題になることはありますか?
A4. 通常は直ちに違法ではなく、制限の範囲から判断します。
競合クリニックを入居させない条項があるだけで、直ちに独占禁止法に違反するわけではありません。医療モール内の診療科を適切に構成し、患者の利便性や各テナントの安定した運営を図るため、対象を一つの施設や一定の診療科に限定する内容であれば、通常は問題になりにくいと考えられます。
もっとも、対象となる地域や期間、診療内容を必要以上に広く設定し、運営会社や自院の市場における地位、代替施設の有無などを踏まえて、競合クリニックの出店機会を不当に制限する内容であれば、独占禁止法上の検討が必要になる場合があります。
まとめ|医療モールの競合問題は早い段階で契約関係を整理することが重要
医療モールの競合問題は、同じ診療科が入るという事実だけで結論が決まるものではありませんが、開業準備が進んでからでは入居計画の見直しを求めることが難しくなります。そのため、競合する可能性のあるクリニックの入居を知った段階で、まずは契約書やこれまでのやり取りを整理し、運営会社への伝え方や求める対応を検討しておくことが大切です。
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