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クリニックが立退き・更新拒絶を迫られたら?退去しなければならないケースと対応方法を弁護士が解説

2026.08.12

クリニックが入居するテナント物件の貸主や管理会社から突然、立退きや賃貸借契約の更新を拒否されると不安になるものです。しかし、普通借家契約の場合、貸主が契約の更新を拒絶するには正当事由が必要であり、通知を受けただけで直ちに退去しなければならないとは限りません。
本記事では、クリニックがテナントを退去する必要があるケースと、立退きを求められたときの対応方法について弁護士が解説します。

 

第1章 クリニックの退去義務は賃貸借契約の種類によって異なる

1-1 まずは契約の種類を確認する

最初に確認したいのは、テナントの賃貸借契約書に記載された契約の種類です。
一般的な「普通借家契約」なのか、契約期間の満了によって終了する「定期借家契約」なのかによって、結論は大きく異なります。

1-2 定期借家契約の場合、原則として契約が終了する

定期借家契約には更新がないため、再契約をしない限り、原則として期間満了時に退去しなければなりません。ただし、定期借家契約として有効に成立しているか、契約期間が1年以上の場合には期間満了の通知が適切に行われているかを確認する必要があります。

1-3 普通借家契約は契約期間の満了だけで当然には終了しない

契約が普通借家契約である場合、契約書に定められた期間が満了したからといって、クリニックが直ちに退去しなければならないわけではありません。
たとえば、契約期間が3年間と定められていても、3年が経過しただけでクリニックに明渡義務が生じるわけではありません。これは借地借家法により借主が保護されているためです。貸主が更新を拒絶するには、立退きを求めるのが妥当と判断されるような正当事由が必要となります。

そのため、普通借家契約の立退きでは、貸主側が退去を求める事情と、クリニックが現在の場所で診療を続ける必要性を踏まえ、更新拒絶を認めるだけの正当事由があるかが問題になります。

 

第2章 普通借家契約で立退き・更新拒絶を求められる主なケース

2-1 建物の老朽化や耐震性による建替えを理由とするケース

築年数の古いビルでは、老朽化や耐震性、大規模修繕の必要性を理由として、貸主が建替えを計画し、テナントへ退去を求めることがあります。
建物の安全性に具体的な問題があり、修繕によって維持することが難しい場合には、貸主側の事情として重く考慮される可能性があります。ただし、「建物が古い」という説明だけで結論は出ません。耐震診断や建物調査が行われているか、修繕では対応できないのか、建替計画がどこまで具体化しているかなどを確認する必要があります。
貸主が将来的な建替えを考えているにすぎない場合と、既に解体や建築の計画が進んでいる場合とでは、正当事由の評価も異なります。

2-2 再開発・用途変更・貸主による自己使用を予定しているケース

周辺の再開発に伴って建物を取り壊す、オフィスビルをマンションやホテルへ変更する、複数の区画を一体化して貸主自身の事業に使用するといった理由で、更新拒絶を求められることもあります。
この場合も、貸主の計画がどの程度具体的であるかが重要です。
単に将来使う可能性があるという説明だけなのか、設計や許認可、工事日程まで進んでいるのかを確認します。
そのうえで、正当事由の有無は、貸主側が建物を使用する必要性と、クリニックが現在地で診療を継続する必要性を中心に、これまでの契約経緯、建物の利用状況や現況、立退料の申出などを総合して判断されます。

2-3 建物の売却やテナント構成の見直しを理由とするケース

貸主が建物を売却するために空室にしたい、医療モールや商業施設のテナント構成を見直したい、より高い賃料を支払う事業者へ貸したいといった事情から、更新拒絶を求められることもあります。
しかし、建物を売却する予定があることや、現在の賃料が低いことだけで、普通借家契約が当然に終了するわけではありません。
通常、クリニックが建物の引渡しを受けて使用している場合、建物が売却されても、賃貸借関係は新しい所有者へ引き継がれます。売却後の買主が建物を取り壊して土地を利用するなどの事情がある場合には、その計画の具体性も含めて正当事由を検討する必要があります。
賃料の増額交渉と更新拒絶が結びつけられている場合も注意が必要です。
貸主から「増額に応じなければ更新しない」と言われても、賃料が適正かという問題と、退去させられるかという問題は分けて検討しなければなりません。

2-4 賃料滞納や契約違反を指摘されているケース

賃料滞納、無断転貸、貸主の承諾を得ていない大規模な内装工事、契約上認められた用途以外での使用などを理由に、退去を求められることがあります。
患者の駐車や共用部分の使用をめぐるトラブルが続き、契約違反として問題にされるケースも考えられます。
この場合は、期間満了時の更新拒絶だけではなく、契約違反を理由とする解除が問題になります。
賃貸借契約では、違反があっただけで常に解除できるわけではありません。違反の内容や程度、これまでの経緯、改善の有無などから、貸主と借主の信頼関係が壊れたといえるかが重要です。もっとも、滞納や違反を放置すると、クリニック側に不利な事情が積み重なります。事実と異なる指摘には反論が必要であり、実際に是正すべき点がある場合は、更新拒絶への対応とは分けて早めに改善する必要があります。

 

第3章 クリニックが立退き・更新拒絶を求められたときの対応方法

クリニックの移転には、物件探しだけでなく、内装工事や医療機器の移設、患者への周知など多くの準備が必要です。貸主から通知を受けたら、退去の可否だけでなく、診療を継続するために必要な時間と条件も見据えて対応しましょう。

3-1 すぐに退去に同意せず、賃料の支払いは続ける

貸主や管理会社から面談で退去を求められても、その場で退去日を約束したり、合意書へ署名したりすることは避けた方がよいでしょう。
普通借家契約で貸主の更新拒絶が認められるかとは別に、借主が退去に合意すれば、合意によって賃貸借契約を終了させることになる可能性があるためです。
一方で、立退き交渉中であることを理由に賃料を支払わないのは適切ではありません。新たな契約違反を生じさせないよう、契約に従った支払いと建物の使用を続けながら、貸主の主張を確認します。

3-2 契約書と通知書から退去を求める法的な理由を整理する

当初の賃貸借契約書だけでなく、更新契約書や覚書、貸主から届いた通知書、これまでのメールや打合せ記録を確認します。内装工事や看板設置について貸主の承諾を受けている場合には、その資料も必要です。
そのうえで、貸主の主張が普通借家契約の更新拒絶なのか、契約違反による解除なのか、退去条件についての交渉の申入れにすぎないのかを整理します。
通知書の表現が強くても、法的にどのような根拠があるかは別に検討する必要があります。

3-3 現在地で診療を続ける必要性と移転に必要な費用を整理する

退去を拒む場合も、移転条件を交渉する場合も、クリニック側の事情を具体的に整理する必要があります。
1日当たりの平均患者数や通院圏、近隣機関との連携状況、移転を検討する場合には候補となる物件の有無、移転までに必要な期間などを確認します。

移転に伴う負担としては、新たな物件の確保に加え、医療機器の移設や内装工事、看板やホームページなどの変更、患者への案内などが考えられます。休診が必要になる場合には、診療を再開するまでの影響も見込まなければなりません。
現在の内装や設備について未回収の投資がある場合には、その内容が分かる契約書や請求書も準備します。

診療の継続にどのような影響があり、移転する場合にはどの程度の期間や費用が必要なのかを、具体的に説明できるようにすることが大切です。

3-4 退去を受け入れる場合は立退料以外の条件も交渉する

移転を受け入れる場合、立退料の金額だけで判断するのは十分ではありません。クリニックにとっては、移転先を確保し、診療をできる限り途切れさせないための期間を確保できるかも重要です。
そのため、退去期限や立退料の支払時期、原状回復の範囲、敷金や保証金の返還、退去までの賃料、医療機器や造作の取扱いなどを一体として協議します。
たとえば、立退料の支払いが退去後とされていると、移転費用を先に自己負担することになるため、明渡しと支払いの順序を含め、実行可能な条件になっているかを十分確認しましょう。

また、普通借家契約の立退き交渉で貸主から提示された退去期限は、そのまま受け入れなければならないとは限りません。立退きの必要性を確認したうえで、移転先の選定や内装工事に必要な現実的な期間を示し、診療への影響を抑えられる条件を検討します。
退去に関する合意書へ署名した後では条件の変更が難しくなるため、退去期限や金銭の額だけでなく、支払時期や敷金返還などについても漏れがないかを確認してから合意することが重要です。

 

第4章 【FAQ】クリニックの立退き・更新拒絶でよくある疑問

Q1. 立退き交渉中に、貸主から建物調査への協力を求められたら断れますか?

A1. 必要性を確認し、診療に支障のない方法を調整します。

建物の安全確認や修繕に必要な調査であり、建物の保存に必要な行為の一環といえる場合には、一律に拒否するのは適切ではありません。民法上も、賃貸人が建物の保存に必要な行為をするときは、借主はこれを拒めないとされています。
ただし、貸主の希望する日時や方法をすべて受け入れる必要があるとは限りません。クリニックでは、診療への影響だけでなく、患者のプライバシーやカルテなどの医療情報にも配慮が必要です。調査の目的や立入りの範囲、撮影の有無などを確認し、職員が立ち会う、診察室や保管庫への立入りを制限するなど、実施条件を協議しましょう。

Q2. 立退料を受け取ると税金はかかりますか?

A2. 課税される可能性があり、内訳によって扱いが異なります。

個人で開設しているクリニックが立退料を受け取った場合、税務上の扱いは、その金銭が何を補償するものかによって異なります。賃借権の消滅に対する補償は譲渡所得、休診による減収や移転に伴う必要経費を補填する部分は事業所得、これらに当たらない部分は一時所得として扱われることがあります。
医療法人が受け取る場合も、法人税上の処理を確認しなければなりません。
合意書に補償の内訳をどのように記載するかによって税務処理が変わる可能性があるため、合意前に税理士へ確認し、税引後の手取り額で移転費用を賄えるかも含めて、立退料を検討することが大切です。

Q3. 退去に合意した後、クリニックの移転手続はいつ始めればよいですか?

A3. 現在地で診療中でも、移転前から準備を進めます。

クリニックの所在地を移す場合、単なる住所変更ではなく、現在の診療所を廃止し、新しい所在地で改めて開設する手続が必要になるのが一般的です。特に医療法人では、定款変更の認可や新しい所在地での開設許可など、移転前に必要となる手続があります。
そのため、現在の場所で診療を続けている間から、移転先を管轄する保健所へ事前相談を行い、旧クリニックの廃止日と新クリニックの開設日を調整します。保険診療を続けるには、地方厚生局に対する保険医療機関の指定申請なども必要であり、診療開始より前に申請期限が設定されている手続もあります。

 

第5章 まとめ

貸主や管理会社から正式な書面で更新拒絶や立退きを通知されると、退去するしかないと考えるかもしれません。しかし、普通借家契約では、貸主が建替えや老朽化などの理由を示しただけで、直ちに退去義務が生じるとは限りません。
一方で、建物の状況や貸主の計画によっては、移転を前提とした交渉が現実的な場合もあります。その場合も、貸主から提示された立退料や退去期限をそのまま受け入れるのではなく、移転費用や休診による影響、敷金の返還などを含めて条件を検討する必要があります。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループでは、弁護士が契約内容の確認や貸主との交渉を行い、必要に応じて税理士、司法書士、行政書士が連携して、クリニックの移転をワンストップで支援します。
貸主から更新拒絶や立退きを求められた場合は、退去に同意したり合意書へ署名したりする前に、まずは一度ご相談ください。

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