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相手から提示されている離婚時の慰謝料や財産分与の金額に疑問がある場合|医師特有の離婚問題を弁護士が解説

2026.07.13

医師の離婚では、相手方から高額な慰謝料や財産分与を提示されることがあります。医師は収入構造や資産内容が複雑になりやすく、相手方の算定が必ずしも実態に合っているとは限りません。本記事では、医師の離婚で慰謝料や財産分与が問題になる場合に、医師側が確認すべき考え方を弁護士が解説します。

 

第1章 勤務医・開業医・医療法人理事長の離婚で財産分与の問題になりやすい財産

夫婦の片方が医師の場合の離婚では、財産分与の対象となる財産が複雑化することがあります。相手方から財産分与額を提示された場合には、まず、どの財産を対象に、どのような前提で算定しているのかを確認する必要があります。

1-1 勤務先以外からの副収入や勤務先制度に関する財産

勤務医の場合、毎月の給与から形成された預貯金だけでなく、勤務先や働き方に由来する財産が財産分与で問題になりやすいです。
常勤先の給与のほか、非常勤勤務やスポット勤務、副業による収入を原資として形成された預貯金や投資資産も、婚姻中に夫婦の協力によって形成されたものであれば、財産分与の対象になり得ます。
また、勤務先の退職金、確定給付企業年金、確定拠出年金、持株会などについても、その制度内容や受給可能性に応じて、財産分与における取扱いを検討する必要があります。
もっとも、厚生年金などの公的年金については、通常の財産分与とは別に年金分割制度が設けられています。制度ごとに取扱いが異なるため、勤務先の規程や年金制度の内容を確認する必要があります。

1-2 開業医の個人資産と医院資金の切り分け

開業医の場合、相手方が、医院の事業用口座の残高や売上をもとに、高額な財産分与を主張してくることがあります。
ここについては、事業用口座にあるという理由だけで、当然に財産分与の対象外になるわけではありませんので、婚姻中に夫婦の協力によって形成された事業用資産は、財産分与の対象となる可能性があります。
もっとも、医院の事業用口座には、給与や賃料、診療材料費、税金、リース料、借入金返済などの支払原資が含まれていることがあります。そのため、口座残高だけを取り出して、その全額を医院の純資産又は分与可能な財産と評価することも適切ではありません。
開業医の財産分与では、事業用資金を一律に除外するのではなく、事業用資産と事業債務を整理し、純資産としての価値を評価する必要があります。

1-3 医療法人理事長の財産関係と持分論点への注意

医療法人名義の預金、不動産、医療機器、診療報酬債権、内部留保などは、原則として医療法人に帰属する財産であり、理事長個人の財産ではありません。したがって、法人の預金や内部留保を、そのまま理事長個人の財産として財産分与の対象にすることはできません。
もっとも、医療法人の理事長であることと、その医療法人の出資持分を有していることは別の問題です。持分の定めのある医療法人では、医師本人が有する出資持分が、婚姻中に形成又は取得された財産として財産分与の対象になることがあります。
出資持分の有無や内容を判断するには、医療法人の定款、社員名簿、出資者名簿、設立時の書類、持分放棄又は定款変更の有無などを確認する必要があります。また、持分の評価については、単なる当初の出資額ではなく、定款の内容や法人の純資産、払戻請求権の内容などを踏まえた専門的な検討が必要になる場合があります。
持分の定めのない医療法人であっても、医師個人の法人に対する貸付金、未払役員報酬、退職慰労金、法人との間の不動産賃貸借などが財産分与で問題になることがあります。

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医療法人の持分を離婚時の財産分与で主張された場合|持分の評価基準と財産分与時の考え方について弁護士が解説

 

第2章 相手方が提示する財産分与額の算定内容で確認すべき点

2-1 夫婦共有財産には含まれない財産が入っていないか

財産分与は、基本的には婚姻中に夫婦が協力して形成した財産を清算する制度です。
そのため、相手方の財産分与案については、婚姻中に形成された財産と、婚姻前から保有していた財産、相続・贈与によって取得した財産、医療法人その他の第三者に帰属する財産とが、正しく区別されているかを確認する必要があります。

婚姻前財産・相続財産は夫婦の共有財産ではない

たとえば、夫婦共有財産と混同されやすいものとして、婚姻前に貯めた預貯金や親族からの相続財産があります。婚姻前に貯めた預貯金や投資資産、また、親族から相続・贈与によって得た不動産や資金が算定案に含まれている場合には、特有財産(夫婦で形成した財産とは区別される一方固有の財産)として除外できるかを検討します。
特有財産を主張するには、婚姻前の通帳や証券口座の履歴などで婚姻前から保有していたことを証明すること、贈与や相続で得た財産については、贈与契約書、贈与税申告書、遺産分割協議書などの資料が重要になります。

医院の事業用資金の取り扱いについて

個人開業医の事業用口座も、法的には医師個人に帰属する財産であるため、婚姻中に形成された口座残高は財産分与の対象となり得ます。
ただし、前の章でもお伝えした通り、事業用財産のすべてを財産評価の対象として評価することは実態にそぐわない可能性がありますので、口座残高から事業用資産と事業債務を整理し、基準時における純資産価値を検討する必要があります。
なお、将来発生する一般的な運営費用については、それだけで当然に口座残高から控除できるものではない点にも注意が必要です。
単に「今後の給与支払に必要」「今後の運転資金として必要」と主張するだけで、基準時の預金残高を当然に減額できるわけではありません。

2-2 退職金見込額がどの範囲で反映されているか

勤務医の場合、退職金が財産分与の対象となることがあります。既に退職金が支給されている場合だけでなく、退職前であっても、基準時に自己都合退職したと仮定した場合の退職金額を算出し、そのうち婚姻中の夫婦の協力に対応する部分を財産分与の対象として評価する方法があります。
一般的には、基準時までの全勤務期間に占める婚姻後の同居期間又は夫婦の協力関係が認められる期間の割合を乗じる方法が用いられます。ただし、退職金規程の内容、雇用形態、勤続期間、退職金請求権の法的性質、支給可能性などにより取扱いが異なる場合があります。

2-3 不動産投資・証券口座・保険商品の評価は妥当か

不動産投資、株式、投資信託、保険商品などの財産は、評価時点によって金額が変わるものです。例えば、株式や投資信託は市場価格によって変動しますし、不動産は査定額やローン残高によって実質的な価値が変わります。
まず、財産分与では、どの財産を対象とするかを決める「基準時」と、その財産をいくらと評価するかという「評価時点」を区別して検討する必要があります。
一般に、離婚前に別居して夫婦の経済的協力関係が終了している場合には、別居時を基準として対象財産を確定することが多いです。他方、不動産や上場株式など時価が変動する財産については、実際の分与時又は裁判の審理時に近い時点の価額が用いられることがあります。預貯金や生命保険の解約返戻金については、別居時などの基準時の金額を用いることが一般的です。
そのため、これらの財産が、相手方が提示した算定案に記載されている場合、その金額の妥当性を確認する必要があります。

 

第3章 医者の離婚で慰謝料額が争われる場合の判断要素

3-1 慰謝料額は具体的な有責行為と婚姻関係への影響を中心に個別判断となる

相手方から、「医師だから慰謝料は高額になる」「高収入なのだから多く支払うべきである」と主張されることがあります。
しかし、慰謝料は、主として不貞行為、暴力、暴言、悪意の遺棄などの有責行為の内容や程度、それによって婚姻関係や相手方に生じた影響を踏まえて判断されます。医師であることや収入が高いことだけを理由に、慰謝料が当然に高額になるわけではありません。
もっとも、当事者の収入、資産、社会的地位、離婚後の生活状況などが、慰謝料額を決める際の諸事情の一つとして考慮される場合はありますので、具体的な有責行為と婚姻関係への影響を中心に、個別の事情を総合的に検討する必要があります。

3-2 不貞慰謝料では事実関係と証拠が重視される

不貞慰謝料で重視されるのは、不貞の有無や証拠の内容、不貞期間、それが婚姻関係に与えた影響などの具体的な事情です。また、不貞行為があった時点で、すでに婚姻関係が破綻していたかどうかも重要な判断要素になります。
そのため、相手方から不貞に対する慰謝料として高額な慰謝料を請求された場合でも、医師であることや収入が高いことだけを理由に、その金額を当然に受け入れる必要はありません。まずは、相手方がどのような事実と証拠をもとに慰謝料額を主張しているのかを確認することが重要です。
なお、配偶者だけでなく不貞相手にも慰謝料を請求している場合には、不貞行為の時点で婚姻関係が既に破綻していたかどうかが、不貞相手の損害賠償責任の成否に大きく影響します。

 

第4章 医師が相手方の提示額に応じる前に弁護士へ相談すべき場面

4-1 相手方の提示額や主張内容に納得できない場合

相手方から提示された慰謝料や財産分与の金額について、妥当性に疑問がある場合には、早めに弁護士へ相談した方がよいです。
たとえば、慰謝料を支払う理由がないと考えているにもかかわらず高額な慰謝料を請求されている場合や、財産分与として自分固有の財産まで分けるよう求められている場合、医院の事業用資金まで財産分与の対象に含めるよう主張されている場合などは、相手方の主張をそのまま前提にするべきではありません。
このような場面では、単に金額を下げる交渉をするだけでなく、そもそも慰謝料の発生原因があるのか、財産分与の対象に含めるべき財産なのか、相手方の算定方法が実態に合っているのかを確認する必要があります。

4-2 開業医・医療法人理事長としての財産が含まれている場合

開業医や医療法人理事長の場合、財産分与の問題は一般的な離婚事件より複雑になりやすいです。
特に、相手方が医療法人の財産、医療法人の持分などを財産分与の対象として主張している場合には、単純に預貯金や不動産を分ける場合とは異なる検討が必要になります。
また、医療法人の持分が問題になる場合には、持分の有無、評価方法などを整理する必要があります。
なお、医療法人の財産そのものは理事長個人の財産ではありませんが、法人の純資産や収益状況が、医師本人の出資持分、法人に対する貸付金、未払役員報酬又は退職慰労金などの評価に影響する場合があるため、注意が必要です。

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4-3 離婚協議書や公正証書の作成前にいったん確認を

医師の離婚では、慰謝料や財産分与の金額が高額になりやすく、一度合意した内容がその後の生活や医院経営に大きく影響することがあります。
離婚条件がまとまりそうな場合でも、離婚協議書や公正証書を作成する前に、一度条件や内容を弁護士に確認してもらう方がよいでしょう。
公証人は、当事者間で合意した内容を公正証書として作成しますが、財産分与額が適正であるか、特有財産が誤って含まれていないか、医院経営にどのような影響が生じるかまで、当事者の代理人として検証してくれるわけではありません。
また、金銭支払について強制執行認諾文言を付した公正証書を作成すると、一定の場合に訴訟を経ずに強制執行が可能になります。そのため、医師側が支払義務を負う内容では、特に事前確認が必要です。
一度合意してしまった後で、条件を見直すことは難しいため、少しでも疑問がある場合はご相談をご検討いただければと思います。

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