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病院の未収金はどう督促すべき?回収不能と判断する基準・貸倒れ処理の注意点を弁護士・税理士が解説

2026.06.08

病院やクリニックの未収金は、放置すれば回収可能性が下がる一方、督促の方法を誤ると患者トラブルや個人情報の問題につながることがあります。また、回収を断念する場合も、必ずしも貸倒損失として認められるとは限りません。本記事では、病院の未収金を督促する際に知っておくべき法的注意点、回収不能と判断する目安、貸倒処理に必要な実務対応を弁護士・税理士が解説します。

 

第1章 医療機関の未収金は早期対応が鉄則

1-1 後回しにするほど回収率が下がりやすい

未収金は、発生から時間が経つほど回収が難しくなります。
診療直後であれば、患者本人も未払いであることを認識していることが多く、電話や書面での案内に応じてもらえる可能性があります。しかし、数か月以上経過すると、患者側の支払意識が薄れたり、住所変更や電話番号変更などにより連絡が取りにくくなったりします。

さらに、医療費の未収金にも消滅時効の問題があります。
令和2年4月1日以降の診療により発生した医療費債権については、民法改正後の原則により、債権者が権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年で消滅時効が完成します。
医療機関の場合、通常は診療後、請求できることを認識していると考えられるため、長期間放置すると、時効により法的回収が困難になる可能性があります。

なお、令和2年3月31日以前に発生した債権については、旧法の短期消滅時効の適用が問題となるため、古い未収金を督促する際には個別確認が必要です。

1-2 放置するほど実態が分からなくなる

未収金を放置すると、帳簿上は債権として残っているものの、実際に回収できるものか分からない状態になりやすくなります。
特に、未収金管理が十分でない場合、いつ、どのような方法で督促を行ったのか、患者側からどのような反応があったのか、回収の見込みがあるのかが分からなくなります。その結果、追加で督促すべきなのか、法的手段に移るべきなのか、あるいは回収断念を検討すべきなのかも判断しにくくなり、ますます対応が取りにくい事態になります。

 

第2章 未収金督促の基本ステップと注意事項

2-1 【ステップ①】まずは未収金管理台帳を作成して運用を定着させる

まずは院内で未収金管理台帳を作成し、運用を定着させることが重要です。未収金の内容や対応履歴が整理されていなければ、その未収金がどのような状況なのかを把握できず、追加で督促すべきか、法的手続に進むべきか、回収不能として処理できるのかも判断できません。
未収金管理台帳には、たとえば以下のような項目を記録しておくとよいでしょう。

記録する項目 記録しておく目的・ポイント
患者名 誰に対する未収金なのかを特定するために記録します。同姓同名や家族受診がある場合には、患者IDなども併記すると管理しやすくなります。
診療日 どの診療に関する未収金なのかを確認するために必要です。時効の確認にも関係します。
請求金額 未収金額を明確にするために記録します。一部入金があった場合は、残額も分かるようにしておきます。
未収金の内容 保険診療の一部負担金なのか、自由診療の代金なのか、物販代やキャンセル料なのかを区別します。未収金の性質によって督促方針が変わり得るためです。
連絡先 電話番号、メールアドレス、住所など、督促に使用できる連絡先を記録します。連絡不能になった場合の確認にも役立ちます。
督促日 いつ督促を行ったのかを記録します。督促の経過や、長期間放置していないことを説明する資料になります。
督促方法 電話、メール、SMS、普通郵便、内容証明郵便など、どの方法で督促したのかを記録します。
担当者 誰が対応したのかを明確にします。後から経緯を確認する際に重要です。
患者側の反応 支払予定、分割払いの希望、支払拒否、連絡不能など、相手方の反応を記録します。法的手続をとるか、あるいは回収を断念するか、といった方針を判断する際の重要な材料になります。
消滅時効に関する確認 未収金の発生時期や支払期限から長期間経過している場合、消滅時効の問題が生じる可能性があります。古い未収金については、督促や法的手続に進む前に、時効期間が経過する日を確認することが必要です。

2-2 【ステップ②】院内でできる督促はメール・電話・書面の順に段階的に進める

未収金管理台帳で内容を整理したら、院内で督促を進めます。
一般的には、まずメールやSMS、電話など、患者との連絡が取りやすく、医療機関側も記録を残しやすい方法で連絡します。

1. メールやSMSで未収金が発生していることを伝える

初回の連絡では、支払漏れや行き違いの可能性もあるため、未収金が発生していること、金額、支払方法、支払期限を簡潔に案内します。

2. 電話で未収金内容と支払い方法を説明する

それでも反応がない場合には、電話での連絡を検討します。電話では、本人確認を行ったうえで、未収金の内容と支払方法を説明します。支払が難しい事情がある場合には、分割払いの可否や支払予定日を確認し、その内容を記録します。

3. 書面で督促状を送付する

電話でも支払いにつながらない場合や、連絡が取れない場合には、書面で督促状を送付します。督促状には、請求金額、発生日、支払期限、振込先、問い合わせ先を明記します。高額な未収金や、今後法的手続を検討する可能性がある場合には、督促状の控えや発送記録を保管しておくことが重要です。

2-3 督促する際はプライバシー・個人情報と伝え方に注意する

未収金を督促する際には、患者のプライバシーにも十分配慮する必要があります。医療機関が取り扱う情報には、病歴や診療内容など、個人情報保護法上の要配慮個人情報に該当し得る情報が含まれます。そのため、未収金督促の場面でも、家族、勤務先、同居人など第三者に対して、受診の事実、診療内容、未払いの事実が伝わらないよう注意が必要です。

電話をする場合、本人確認をしないまま、家族や勤務先の人に未収金の内容を伝えることは避けるべきです。医療機関からの連絡自体が、患者にとって他人に知られたくない情報である場合もあります。

メールやSMSを送る場合も、診療内容、病名、施術名など、第三者が見たときに診療情報が推測できる内容は記載しないようにします。督促状を郵送する場合も、封筒の外側に「未収金督促」などと記載すると、同居家族に知られる可能性があるため、未収の状況に応じて一定の配慮が必要です。

2-4 院内対応で解決しない場合は弁護士に相談する

院内で督促を続けても支払いがない場合には、どこかの時点で弁護士に相談するかどうかを検討する必要があります。
弁護士相談を検討しやすいのは、未収金額が大きい場合、複数回督促しても反応がない場合、患者が支払義務を争っている場合、分割払いの約束が守られない場合、時効が近づいている場合などです。
たとえば、一定金額や一定期間を超えた場合といった基準を設け、弁護士相談に進むタイミングを決めておいてもよいでしょう。

なお、督促を行っているからといって、当然に時効期間がリセットされるわけではありません。電話、メール、SMS、普通郵便による督促は、通常は「催告」として、一定期間、時効の完成を猶予する効果にとどまります。

時効完成を確実に防ぐためには、支払督促、訴訟提起、調停申立て、債務承認書・分割払い合意書の取得など、時効の完成猶予又は更新につながる対応を検討する必要があります。時効が近い未収金については、院内督促を続けるだけでなく、早めに法的対応を検討することが重要です。

 

第3章 法的手続への移行と回収不能を判断する目安

3-1 弁護士が介入した場合に検討される通知・交渉・法的手続

院内での督促では解決しない場合、弁護士が代理人として介入し、患者側に支払いを求めることがあります。
弁護士は主に以下のような手順で対応を進めます。

1. 請求根拠の確認

まず行うのは、請求根拠の確認です。診療日、請求金額、契約書や同意書、請求書、督促履歴、患者側の反応などを確認し、法的に請求できる債権として整理できるかを検討します。特に自由診療や高額な自費診療では、患者が治療内容をきちんと理解し、支払内容についても同意の上で契約をしていたという合理的な説明ができることが重要です。

2. 内容証明郵便などによる通知書の送付

そのうえで、弁護士名義で内容証明郵便などにより通知書を送付し、支払期限を定めて任意の支払いを求めます。この通知で、何についての請求を、どのような根拠に基づいて、どの期限までに求めるのかを明確に伝えます。

3. 未払い患者との交渉

通知後に患者側から連絡があれば、支払時期や分割払いの可否について交渉します。分割払いを認める場合には、後から争いにならないよう、支払総額、毎月の支払額、支払期限、支払いが遅れた場合の取扱いを合意書などで明確にしておくことが考えられます。

4. 支払がない場合は法的手続を検討

それでも支払いがない場合には、支払督促、少額訴訟、通常訴訟などの法的手続を検討します。なお、未収金の消滅時効期間の経過間際で、患者側から未収金を支払うといった意向が示されなかった場合は、単に督促をしたのみでは一時的に消滅時効の完成が猶予されるにすぎないため、法的手続をとる必要性が高いといえます。

手続 説明
支払督促 裁判所を通じて支払いを求める簡易な手続です。書面審査を中心に進むため、通常訴訟よりも比較的負担を抑えて進められることがあります。患者側が請求内容を明確に争っておらず、請求金額や請求根拠が整理されている場合に検討しやすい手続です。ただし、滞納をしている患者側が異議を述べれば、通常訴訟に移行します。
少額訴訟 60万円以下の金銭請求について利用できる、簡易裁判所における簡易な訴訟手続です。原則として1回の期日で審理を終えることが想定されており、比較的少額の未収金について、請求書、同意書、督促履歴などの証拠が整理されている場合に選択肢となります。ただし、滞納をしている患者側が異議を述べれば、通常訴訟に移行します。
通常訴訟 一般的な民事訴訟です。請求根拠や証拠を提出し、裁判所で審理を進めます。未収金額が大きい場合や、患者側が支払義務を争っている場合、自由診療で説明内容・契約内容・治療内容への不満が問題になっている場合などに検討されます。

 

院内で督促して反応がなかった場合も、弁護士名義の通知が届くことで、支払いに応じたり、分割払いの相談をしてきたりするケースは少なくありません。また、弁護士が支払交渉や分割払いの調整、合意書の作成などを対応することで、院内スタッフが直接対応を続けなくてよくなる点もメリットといえます。
もっとも、弁護士が介入したからといって、必ずしも回収できるわけではありません。まずは、現在の状況でどのような判断ができるのかを相談してみるのがよいでしょう。

 

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3-2 回収を断念する判断ポイント

患者と連絡が取れない場合や、支払能力が乏しい場合、法的手続を進めても回収額より費用や手間の方が大きくなる場合などには、回収断念を検討せざるを得ないことがあります。

所在不明・連絡不能

患者の住所が分からない、郵便が返戻される、登録されている電話番号が使われていない場合には、追加調査を行っても回収につながるとは限りません。
未収金額が大きければ弁護士による調査や法的手続を検討する余地がありますが、少額の場合は、調査費用や手続費用が回収額を上回ることもあります。回収断念を検討する場合には、郵便が返戻された事実や、電話・メール・SMSで連絡が取れなかった経過を記録しておくことが重要です。

支払能力が乏しい

患者側が生活困窮状態にある、生活保護を受けている、破産手続・債務整理をしているなど、現実的に支払いを受けることが難しい事情がある場合には、回収断念を検討することがあります。
もっとも、これらの事情があるからといって、直ちに税務上の貸倒れが認められるとは限りません。回収不能と判断するには、具体的な支払能力、回収可能性、督促・交渉の経過、破産手続等での取扱いを個別に確認する必要があります。

回収額より対応コストが大きい

未収金額が少額の場合、弁護士費用、裁判所費用、督促にかかる作業実費、院内スタッフの作業時間などを考えると、回収額よりも対応コストの方が大きくなることがあります。
特に、保険診療の一部負担金のように1件あたりの金額が小さい未収金では、すべてを法的手続に進めることが現実的とは限りません。一定の督促を行ったうえで、費用対効果を踏まえて回収断念を検討することもあります。

もっとも、費用対効果の観点から院内で回収を断念することと、税務上、直ちに貸倒損失として損金算入できることは同じではありません。少額債権について貸倒処理を検討する場合も、取立費用との比較、督促の有無、一定期間の経過など、税務上の要件に沿って整理する必要があります。

請求根拠や証拠が不十分な場合

自由診療や美容医療などでは、患者側から「説明を受けていない」「金額に納得していない」「契約内容が違う」と主張されることがあります。
このような場合に、契約書や同意書、説明資料などが十分に残っていないと、法的手続に進んでも裁判所等に請求を認めてもらうことが難しい場合があります。請求根拠や証拠が弱い場合には、無理に法的手続へ進むのではなく、交渉での解決や回収断念を含めて最終的な着地を見極めるのがよいでしょう。

このように、回収を断念する場合は、上記のような理由を総合的に見て判断します。
なお、回収不能という結論で終わらせる場合は、次の章で説明をする税務処理の観点からも、なぜこれ以上の回収ができないという判断に至ったのかは対応履歴や状況を基に、合理的な説明ができるようにしておくようにしましょう。

 

第4章 回収不能となった未収金の税務処理と貸倒損失計上の注意点

未収金を回収できない場合、法人の医療機関であれば、法人税上の貸倒損失として損金算入できるかが問題になります。個人クリニックであれば、事業所得の計算上、必要経費として処理できるかを検討することになります。税務上、貸倒損失として認められるためには、回収不能といえる事情があるかを確認したうえで、その判断を後から説明できるよう、処理の根拠となる資料を残しておくことが重要です。

4-1 未収金では事実上の貸倒れが問題になりやすい

貸倒損失には、大きく分けて、法律上の貸倒れ、事実上の貸倒れ、形式上の貸倒れがあります。
病院・クリニックの未収金では、患者の所在不明、支払能力の欠如、破産等により全額回収不能と判断する「事実上の貸倒れ」が問題となることがあります。一方で、保険診療の一部負担金のように少額の未収金が多数発生する場合には、取立費用との比較や一定期間の不払いを踏まえた「形式上の貸倒れ」が問題となることもあります。

そのため、未収金の金額、発生原因、督促履歴、患者との取引状況、回収コストを踏まえ、どの類型で貸倒処理を検討するのかを整理する必要があります。

4-2 回収不能を説明するために残すべき証拠・履歴

事実上の貸倒れとして処理するためには、単に長期間支払いがない、督促に応じないというだけでは足りず、患者の資産状況、支払能力、所在不明の状況、破産・生活保護等の事情、督促・調査の経過などを踏まえ、未収金の全額を回収できないことが客観的に明らかといえる必要があります。

そのため、貸倒処理を行う場合には、いつ、どのような事情により全額回収不能と判断したのかを説明できる資料を残すことが重要です。

これは通常の会計処理だけでなく、税務調査が行われた場合にも重要になります。税務調査では、未収金を貸倒損失として処理した場合に、「本当に回収不能だったのか」「なぜその事業年度で損失処理したのか」「回収努力をしていたのか」といった点を確認されることがあるためです。

4-3 医療法人と個人クリニックで税務処理の考え方が異なる

回収不能となった未収金について、事実上の貸倒れが問題になる点や、督促履歴などの資料を残すべき点は、医療法人でも個人クリニックでも基本的に共通します。
一方で、税務処理では、医療法人と個人クリニックで整理の仕方が異なります。

医療法人は貸倒損失として損金処理

医療法人の場合、回収不能となった未収金については、法人税の計算上、貸倒損失として損金にできるかを確認します。損金とは、法人税を計算する際に収益から差し引くことができる費用のようなものです。

個人クリニックは貸倒金として必要経費処理

個人クリニックの場合は、法人税上の損金ではなく、所得税の事業所得の計算上、事業の遂行により生じた未収金の貸倒損失として必要経費にできるかを確認します。

この場合も、単に院長が回収を諦めたというだけでは足りず、回収不能となった年分、回収不能と判断した根拠、督促履歴、患者側の状況などを説明できるようにしておく必要があります。

また、未収金の内容によっても確認事項が変わります。保険診療の一部負担金なのか、自由診療の未収金なのかによって、売上計上や消費税の整理が異なる場合があります。たとえば、保険診療は原則として消費税が非課税となる一方、自由診療等では消費税の課税関係を確認する必要があるケースがあります。
そのため、貸倒れ処理を行う際は、未収金の内容が何か、どの事業年度・年分で回収不能と判断するのかを整理したうえで進めることが重要です。

 

第5章 医療機関の未収金は台帳管理から税務処理まで一体での整理が重要

病院・クリニックの未収金は、発生後の督促だけでなく、法的手続に進むか、回収を断念するか、貸倒れとして税務処理できるかまで、一体で考える必要があります。特に、督促履歴や患者側の反応、回収不能と判断した理由を記録しておかなければ、後の法的判断や税務調査で説明が難しくなることがあります。
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