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事業承継における借入金対策とは?弁護士・税理士・司法書士が在籍するワンストップ事務所が解説

2025.06.26

事業承継において課題となるものの1つに借入金の存在があります。多額の借入金や経営者個人保証が残ったままでは、どれほど魅力ある事業でも後継者が二の足を踏む、買い手が価格を大幅にディスカウントするなどの影響がでてきます。本コラムでは、借入金が事業承継に及ぼす影響を整理し、事業承継時の負債の取り扱いのポイントや実際の対応策について弁護士が解説します。

1. 借入金は事業承継時にどのような影響・課題を与えるのか?

1-1 事業価値の“圧縮要因”になる

会社の株価は一般に「時価純資産+営業権(のれん)」で算定されます。多額の借入金が残っていると純資産が目減りし、のれんを上乗せしても株価は伸びません。親族承継でも第三者M&Aでも買値(=後継者の取得コスト)が下がるため、経営者は「借入金=自社の取引価格を押し下げる負債」と認識しておく必要があります。

1-2 キャッシュフローと資金調達余力を奪う

事業承継後、後継者は運転資金・設備更新資金を調達しながら事業を拡大させたいはずです。ところが返済負担が重いと月次キャッシュフローが圧迫され、計画通りの投資ができず業績が伸び悩むというような負の連鎖が起こる懸念があります。

1-3 個人保証・担保が“後継者の心理障壁”になる

中小企業の借入金は、経営者個人の連帯保証や自宅不動産担保とセットになっているケースが大半ですが、ここの保証や担保は後継候補者にとってはリスクであるため、承継時の条件交渉が長期化・最悪の場合は破談にもなりかねません。
※ここでいう個人保証は、銀行が「後継者に新たに保証を求める」場合のみならず、先代経営者が行った保証が解除されず残存する状況も含みます。保証解除に失敗すれば、“保証だけが残る”事態が発生し得るため大きなリスク要因となっているのです。

1-4 相続の場合は“保証債務”も引き継ぐ点に注意

経営者が急逝し、相続により親族が株式と経営を承継するケースでは、連帯保証債務は相続財産の一部として当然に相続人である後継者へ移転しますので、状況によっては多額の債務を抱えてしまう可能性があります。
加えて、

  1. 後継者が先代と並んで連帯保証人に就任していた
  2. 事業承継に備えて生前に保証人を後継者へ切り替えていた

というようなケースでは、後継者自身にも保証債務が発生している状態になりますので、万が一多額の債務を理由に後継者が相続放棄を選択した場合でも自分名義の保証債務は残ってしまいます。親族であっても保証人を設定する際は慎重な取扱いが必要です。

借入金が事業承継を困難にする主な原因としては、負債そのものより保証・担保の観点が大きくなってきます。親族・従業員・第三者いずれの承継形態でも、

  1. 借入金残高と返済スケジュールの可視化
  2. 保証解除(経営者保証ガイドライン活用)または保証人変更の交渉
  3. 不要資産の売却・DESなどでバランスシートを軽くする

を承継前に実行し、負債と保証を“見える化&縮減”しておくことが円滑な事業承継の出発点となります。

2. 借入金ごとに整理・検討すべきポイント

会社が抱える負債は一括りではなく、金融機関ごと・契約ごとに交渉余地が異なります。以下、代表的な負債について承継前に確認しておきたいポイントを簡単に整理します。

2-1 銀行融資(プロパー・保証協会付き)

プロパーローンは銀行独自審査での融資となり、保証協会付き融資より金利や返済方法の交渉の柔軟性は高い反面、返済条件を変更してもらうには銀行が納得できる事業計画書(試算表、売上予測・CF 予測など)により数値根拠を示すことが重要です。
金融機関ごとに返済計画表を確認し、融資条件と保証範囲・担保を整理しておくほか、事業承継に伴い保証人変更含めて融資条件変更を希望する場合は早めに金融機関へ条件交渉の連絡を入れておくことが望ましいでしょう。

2-2 社長借入金・同族間貸付

  1. 社長借入金(オーナー→会社の貸付金)
  2. 先代社長個人が会社へ資金を供給している形態です。承継前に DES(デット・エクイティ・スワップ) で株式に振り替えれば、負債が自己資本へ移り純資産が改善し、株価を引き下げつつ財務体質を安定させる効果があります。DES を選択する際は「債務免除益課税」と「株価評価額」の2点を税理士と試算し、実施タイミングを決定します。

  3. 同族間貸付(親族・資産管理会社→事業会社の貸付金)

たとえば社長の配偶者が個人資産を運転資金として貸し付けている、あるいはグループ内の資産管理会社が貸付を行っているというように、親族や一族の資産管理会社が、事業会社に長期・低利で資金を貸し付けているケースです。
同族間貸付は「一族内だから問題ない」と見過ごされがちですが、負債には変わりはないため、承継時には企業価値低下を招くリスクは残ります。
負債の性質を可視化し、金利・返済条件を市場並みに改定し資本的支援から正常貸し付けに戻す、DES や債務免除を用いて負債を資本化するといった選択肢を早期に検討し、後継者がクリーンな財務状態でスタートできるよう整えておくことが理想です。

2-3 リース債務・ファクタリング債務

ファイナンスリースは途中解約で残存料の一括清算が発生する可能性がある、ファクタリングは譲渡制限条項や経営者個人の連帯保証が付随していることが多く、“隠れ負債”となり株価を押し下げるリスクがあります。両契約とも事業承継に付随する変更に事前承諾が必要な条項が多いため、早期に契約書を洗い出し、保証人差替えや条件変更の可否を取引先と交渉することがリスク低減につながります。

3. 借入金対策の具体策

3-1 デット・エクイティ・スワップ(DES)

デット・エクイティ・スワップ(DES)で社長(オーナー)借入金を株式に振り替えると、帳簿上は<負債→資本>へ振替えられるため自己資本比率が高まり、時価純資産が増加(負債圧縮)します。この結果、株価評価では引当負債が消える分だけ算定額が下がり、財務安全性も向上するのが一般的です。
一方、DES の対価として発行する株式の価額が債権額より低い場合、差額は会社にとって債務免除益として益金計上され、繰越欠損金で吸収しきれないと法人税課税が発生します。
株価が高過ぎる状態で DES を行うと、この債務免除益が大きくなり税負担が増えるため、実施前に公認会計士・税理士と株価算定と欠損金残高をシミュレーションの上で実行することが必要です。

3-2 債務超過企業のバランスシート改善

債務超過のままでは株式譲渡や後継者への引継ぎが極めて難しいため、1〜2 年で自己資本をプラスに戻すプランを立てます。
具体的には、

  1. 不採算事業の分割(赤字部門を子会社化し、黒字事業だけを承継会社に残す)
  2. 不動産の売却・賃借化(売却益で有利子負債を返済し、賃借料でコストを平準化)③一時的な役員報酬カット(返済据置期間に合わせて減額)

といった施策を実施し、収益力の改善を目指します。

3-3 キャッシュフロー予測と資金繰り

承継直後は借入金返済だけでなく設備投資等を含めて運転資金が流出しやすい傾向にあり、キャッシュアウトによる黒字倒産リスクが高まります。月次でキャッシュフローシミュレーションを行い、資金流出ピークに備えた追加融資枠を早期段階で金融機関と協議しておきます。

3-4 補助金・制度融資の併用

事業再構築補助金や事業承継・引継ぎ補助金等を活用することで、借入金圧縮と設備投資を同時に進められる場合もあります。補助金採択後の資金需要を織り込んだ長期計画が求められます。

4. 事業承継時の借入金についてよくある質問

Q. 社長借入金を債務免除した場合の税金はどうなる?

A. 債務免除差額は会社側に「債務免除益」として益金計上され法人税課税の対象になります。ただし青色申告法人で繰越欠損金があれば、当期所得の50%(中小企業は100%)まで税金の控除が可能ですので、免除タイミングを欠損金残高と合わせて設計すれば税負担を大幅に圧縮できます。

Q. 会社分割で負債を切り離すと欠損金は承継できますか?

A. 適格分割でも原則として欠損金は分割元に残ります。ただし「みなし共同事業要件」など事業関連性要件を充足し、分割対価を株式交付で行えば承継会社が欠損金を引き継げる余地があります。要件を満たさなければ欠損金が消滅するため、税理士と事前シミュレーションが必須です。

Q. ファクタリング契約の償還請求権は承継にどんな影響がありますか?

A. 償還請求権付き取引は売掛先が倒産すると買戻し義務が発生するため、買い手からは負債として評価減の対象になります。株式譲渡の場合はファクタリング会社へ契約移転の同意を取り、事業譲渡・会社分割なら債務を旧会社に残す設計で“隠れ負債”リスクを遮断する形をとるのがベターです。

Q. 銀行に返済据置や金利引下げを頼むと信用格付けが下がりませんか?

A. 単なるリスケ要請は「要注意先」格下げのリスクがありますが、承継を理由とした条件交渉については、承継後の事業計画やキャッシュフロー計画を提示し、金融機関に納得してもらえれば格付け維持のまま条件変更が認められるケースもあります。過去3期の財務推移と今後3期の財務推移予測・CF予測を比較する形で数値根拠を示せるとよいでしょう。

事業承継を実施する際の借入金の取り扱いについては、スムーズな承継を行う上でネックになりがちな部分ではありますが、事前に専門家と相談の上で適切に対応を実施すれば最小限のリスクで後継者に引き継ぐ方向に持って行くことができます。
借入金が存在している状態での事業承継についてお悩みの方は、まずは一度ご相談ください。

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