お役立ちコラム

デューデリジェンスの費用を徹底解説:相場・内訳から費用対効果を高めるポイントまで

2025.03.24

デューデリジェンス(以下、DD)は、M&Aや事業承継を検討するうえで欠かせないプロセスの一つです。
しかし、専門家をはじめとする各種コンサルティング費用や、調査内容の幅広さから、想定以上のコストがかかるケースも多々見受けられます。
本記事では、「デューデリジェンスの費用」をテーマに、費用の相場や内訳、コストを抑えるための工夫、企業経営者の方が把握しておきたい要点をわかりやすく解説します。
ぜひ参考にしていただき、円滑かつ費用対効果の高いデューデリジェンスに役立ててください。

もくじ

1.デューデリジェンス(DD)とは?費用面で抑えておきたい基礎知識

1-1.デューデリジェンスの目的と役割

企業がM&Aや事業承継を検討する際、買収・譲渡対象となる会社の実態を正確に把握するために行うのが「デューデリジェンス(DD)」です。
日本語では「買収監査」「適正評価手続き」などと訳され、財務面や法務面、そして労務・税務など多岐にわたる調査を通じてリスクや企業価値を確認します。

売り手(譲渡側)

売り手企業にとっては、情報開示の準備や不備・リスクの洗い出しが必要です。
事前に自社の課題を把握しておくことで、交渉時のトラブル回避につながります。

買い手(譲受側)

買い手企業にとっては、投資対象となる会社の経営状態を正確に知ることが必須です。
簿外債務の有無、許認可の状況、人事・労務体系などを調べ、不測のリスクを回避します。

このように、DDは単なる“監査”ではなく、買い手・売り手双方にとってのリスクヘッジおよび企業価値評価のプロセスなのです。

1-2.買収監査としてのDDと「事業承継DD」の違い

M&A全般で行われるDDは、買収後に想定外の負債や契約上のトラブルを防ぐ目的が大きいですが、親族内承継など小規模で進められるケースでは調査範囲が限定的になることがあります。
一方、事業承継DDでも後継者が財務や人事の詳細を知らない場合、買収DDに近いレベルの情報確認が必要なケースもあり得ます。
親族内承継であっても「労務管理が適正か」「社会保険手続きに不備がないか」などを確認することは、後々のトラブル防止に大いに役立ちます。

1-3.費用面で知っておくべき基本的な流れ

1.基本合意書の締結後に実施するケースが多い

多くの場合、M&Aや承継交渉で大枠の条件がまとまったあとにDDを行います。
ここで想定外の問題が見つかった場合、価格交渉の修正や契約取り下げに至ることも。

2.専門家チームへの依頼が費用の大半を占める

財務・税務・法務・労務・ITなど、複数領域の専門家が関わる場合、費用は増加しがちです。
規模や調査内容に応じて見積もりを事前に確認することが重要です。

3.調査期間が長引くほどコストも膨らむ

資料提出の遅延や情報不足があるとDD期間が長引き、その分コストも増加します。
売り手・買い手ともに早期の準備や資料整備が費用軽減につながります。

2.デューデリジェンスの種類と費用の内訳

デューデリジェンスは、調査対象の専門領域ごとにいくつかの種類に分かれています。
以下では代表的な領域ごとに、費用構造のポイントを解説します。

2-1.財務DD:財務状況を把握するための調査費用

対象となる主な項目

貸借対照表の資産・負債項目、損益計算書の収益構造、キャッシュフロー計算書の資金繰り、簿外債務の有無などが主な項目としてとして挙げられます。

費用相場

中小企業規模であれば100~300万円程度から,大企業では数百万円~1000万円超となることもあるため、企業規模によって大きく変動します。

注意点

財務指標の分析だけでなく、内部統制システムの評価も実施される場合があります。
監査法人や公認会計士への依頼が通常で、調査規模によって大きく費用が変動します。

2-2.税務DD:納税状況・簿外債務チェックにかかる費用

対象となる主な項目

法人税・消費税・地方税の申告適正性、過去の更正リスク、税効果会計の処理、グループ法人税制の適用状況などが挙げられます。

費用相場

一般的には100~300万円程度が中心です。
ただし海外子会社や複雑な組織再編が絡むと上振れする傾向にあります。

注意点

税理士法人への依頼が基本です。
弁護士法人と税理士法人が連携しているような事務所であれば、法務DDと財務DDとの同時進行で重複作業を減らせる場合もあるので費用対効果が上がります。

2-3.法務DD:契約・許認可関係の調査費用

対象となる主な項目

各種契約書(取引先・仕入先・不動産契約・ライセンス契約など)の有効性、瑕疵がある契約のリスク、許認可の有効性、訴訟リスクの有無などが挙げられます。

費用相場

法律事務所に依頼するケースが多く、50~300万円ほどが一般的なレンジで、案件規模が大きいとさらに増加することもあります。

注意点

特殊業種の許認可(医療、建設業など)が絡む場合は調査項目が増え、費用がかさむ傾向にあります。
また、契約書のコンプライアンス状況も詳細にチェックする必要があります。

2-4.ビジネスDD:市場分析・事業性評価にかかる費用

対象となる主な項目

対象企業のビジネスモデル、顧客構成、競合優位性、市場シェアや将来の成長可能性、シナジー効果などを評価します。

費用相場

コンサルティングファームに依頼すると100~500万円程度が目安となります。
業界調査や競合分析まで含めるとさらに増加する可能性もございます。

注意点

将来予測をどの程度詳細に行うかが費用に直結します。
また大手コンサルに依頼するか個人コンサルに頼むかでも大きく変動します。

2-5.人事・労務DD:人事制度や労働リスク調査の費用

対象となる主な項目

就業規則や給与体系、社保・労働保険の適正加入状況、退職金制度、残業代計算などの労使トラブルリスクなどが挙げられます。

費用相場

社労士法人や労務コンサルが担当し、50~200万円程度が一般的です。
ただし深刻な労務管理不備が疑われる場合は範囲拡大によりコストも上がる傾向にあります。

注意点

労働紛争リスクはM&A後に深刻化しやすいので、早期に専門家の意見を取り入れることが重要です。

2-6.IT・システムDD:デジタル環境・セキュリティ調査の費用

対象となる主な項目

基幹システムの運用状況、セキュリティ対策、ソフトウェアライセンス契約、ハードウェア老朽化リスクなどが挙げられます。

費用相場

専門のITコンサルやSIerが担当し、100~300万円程度が相場です。
クラウドサービスや独自開発システムを多用している場合は注意が必要です。

注意点

セキュリティ不備やサイバーリスクは近年重要性が高まっているため、簡易な調査で済ませると後々のトラブルが大きくなりかねません。

3.デューデリジェンスの相場観:費用はどこまでかけるべきか

3-1.一般的なDD費用の相場:規模別の目安

小規模(数千万円~1億円程度のM&A)

合計で200~500万円前後が目安となります。
単一の調査領域に特化するケースが多く、基本的な財務・税務・法務を中心に実施します。

中規模(数億円~数十億円規模のM&A)

500万円~1000万円以上かかることもございます。
ITやビジネスDDなども含め多角的に調査する傾向が強いという特徴があります。

大規模(数百億円規模)

数千万円~1億円を超える大掛かりなDDになる場合があります。
大手監査法人や複数のコンサル企業を組み合わせて実施するケースもあります。

3-2.調査範囲が変動するケースと費用

  • 事業領域が多岐にわたる場合
  • 製造業で複数の事業部を抱えるなど、調査対象が多いとその分費用は増大。

  • 海外子会社を保有している場合
  • 国際税務や海外法務、現地の労務制度まで確認が必要になり、現地専門家への依頼費も追加で発生。

  • 緊急性の高さで短期間に終わらせる場合
  • 大人数の専門家を一気に投入するため、時間は短縮できてもコストは上がりやすい。

3-3.DD費用を高騰させやすい要因とは

資料の不備

売り手企業の資料整備が甘い場合、再提出や追加確認が頻発し、時間とコストがかさんでしまいます。

専門家の多重配置

大手法律事務所・監査法人など、複数の専門家が同時に動けば動くほど報酬が累積します。

内部コミュニケーション不足

社内関係者の連携がうまく取れず、同じ項目を何度も調査することになり費用が膨張する例もあります。

4.DD費用は誰が負担する?負担構造・支払い方法の実情

4-1.買い手主導の場合:費用負担の基本ルール

一般的に、DDは買い手側がリスク判定のために実施するものであるため、買い手が費用を負担するのが慣例です。
ただし契約交渉の中で、特定分野の調査費用を売り手が一定割合負担するケースも見られます。

4-2.売り手主導の場合:セルサイドDDの費用負担

売り手企業が主体的に自社の財務・税務・労務などを監査する「セルサイドDD」を行う場合は、当然ながら売り手がその費用を支払います。
セルサイドDDを行うことで、事前にリスクを把握でき、相手企業との交渉を有利に進められるメリットもあります。

4-3.交渉時に注意すべき費用負担の取り決めポイント

基本合意書やLOI(Letter of Intent)に明文化

費用負担が交渉トラブルの種となるケースは少なくありません。
初期段階で文書化しておくと安心です。

中止時の費用負担

途中で破談となった際の費用精算ルールも取り決めておくと、後々の紛争を防げます。

労務DDの負担

労働トラブルが潜んでいる場合など、企業価値への影響が大きい可能性があるため、誰がどう負担するか明確にしておくと良いでしょう。

5.DD費用の会計処理・税務処理のポイント

5-1.会計上の取り扱い:資産計上 vs. 経費処理

M&Aの際にかかるDD費用を、買い手側がどのように会計処理するかは一律ではありません。

  • 資産計上(のれんに含める):
  • M&Aのために発生した費用として、のれんに含める考え方。
    ただし厳密には、監査法人や税理士法人の見解が分かれることがあります。

  • 経費処理:
  • DDを情報収集コストとして捉え、当期費用として処理する。

5-2.税務上の注意点:損金算入の可否と国税庁Q&Aの概要

国税庁の質疑応答事例等を見ると、「合併に伴うDD費用は損金算入できるかどうか」が議論になるケースがあります。
判例や裁決事例では「事業運営のために必要な費用」と認められる場合が多いですが、ケースバイケースであり、慎重な判断が必要です。

5-3.費用計上に関する実務対応策

  • 事前に税理士へ相談
  • 顧問税理士がいる場合は、まずは相談しましょう。

  • 領収書・見積書の内容を明確に
  • どの調査領域にいくらかかったかを細かく分けておくことで、後の監査や税務当局とのやり取りがスムーズになります。

  • 中止時の費用
  • M&Aが中止になった場合の費用処理も、基本的には当期費用として計上するのが通例です。

6.スケジュールと優先度:効率的にDDを進めるための費用対効果

6-1.短期間で完了させるためのプロセス設計

デューデリジェンスは、最終契約締結までの短い期間に集中して行われることが多いです。

  • リーダーを決める:
  • 各専門家の窓口を一本化する。

  • 資料整理を前倒し:
  • 売り手企業は早めに資料をデータ化し、共有フォルダなどで提供できるよう準備。

  • 質問事項管理:
  • Q&Aリストを作成し、やり取りをスピーディに。

6-2.優先順位をつけた調査範囲の決め方

すべての項目を全力で調べようとすると、費用・時間ともに膨れあがります。

  • 財務・税務・労務など優先度が高い分野を先に深く調べる
  • ビジネスDDやITDDは対象企業の業態によっては簡易調査で済む場合も
  • 許認可が核心となる業種(医療・建設など)は法務DDが重要になる

6-3.事前準備が費用を左右する:資料整備・協力体制

  • 売り手企業の整備状況
  • 就業規則や労務関係の書類が散逸していると、労務DDに余計な時間とコストがかかる。

  • 関係部門の連携
  • 経理・総務・人事・法務などが協力し合い、一括で情報を提供できれば効率的です。

  • オンラインツールの活用
  • バーチャルデータルーム(VDR)などを利用すると、アクセス権限の管理やセキュリティ確保が容易になり、やり取りのスピードアップに貢献します。

7.外部専門家の選び方:費用以上に注目したいポイント

7-1.包括的なサポート体制がある

包括的に専門知識をカバーできる専門家を選ぶことは、単に費用を比較するだけでは得られない以下のようなメリットがあります。

スムーズな調査

法務、労務など異なる専門領域を統合的にカバーできる外部専門家であれば、重複作業が生じにくく、情報伝達ロスや手戻りも起こりにくくなります。

リスクや課題の見落とし軽減

例えば、DD中に発覚した財務リスクが、実は労務や法務のリスクとも密接に関連しているケースは少なくありません。
ワンストップで専門家が連携しているチームであれば、こうした横断的なリスクを相互に検証し、見落としを最小限に抑えることが可能です。

費用管理面

それぞれ別個に発注するよりも、重複する工数を削減し、コストを抑えやすくなります。

7-2.実績・専門分野・相性など専門家選定時のチェック項目

  1. 過去のM&A・事業承継案件の実績
  2. 自社と似た業種・規模の実績があるかを確認すると良いでしょう。

  3. 担当者のコミュニケーション力
  4. DDは短期間かつ大量の情報をやり取りするため、説明力や報告書のわかりやすさが大切です。

  5. 費用体系
  6. 固定報酬か時間制か、成功報酬部分があるのかを含めて、見積もりを取り比較検討しましょう。

7-3.複数のアドバイザーを比較検討する際の注意点

  • 見積もり時の調査範囲の定義
  • どこまでチェックしてもらえるのか明確でないと、追加料金が発生しやすいです。

  • プロジェクト管理能力
  • 大手だから安心とは限らず、担当者レベルのスキルが結果を左右します。

  • 秘密保持契約
  • 企業にとっては極めて重要な情報を開示するので、セキュリティやコンプライアンス体制も確認必須です。

8.費用を抑えるためにできること:調査項目や交渉術の工夫

8-1.早期の基本合意と情報開示

  • すり合わせを早めに
  • 価格帯や譲渡条件の大枠を初期に合意しておけば、調査範囲を絞るなど費用を抑える策が取りやすくなります。

  • 秘密保持契約(NDA)の締結
  • 安心して資料を開示できるようになり、やり取りがスピーディに進むため結果的にコストを抑えられます。

8-2.必要最小限のDDとリスクカバーのバランス

  • 「すべてを完璧に」より「要点を押さえる」
  • 企業の実態や規模によっては、フルスケールのDDが必ずしも必要ない場合があります。

  • 表明保証条項の活用
  • 売り手が一定の保証をする代わりに調査を省略する方法もあり。ただし後から訴訟リスクが生じる可能性もあるため、専門家の助言を得ましょう。

9.トラブル事例から学ぶ:DD費用が想定以上に膨らんだケース

9-1.対象企業の情報提供不足が招いたコスト超過

事例

ある中小企業のM&Aにおいて、売り手側が適切に財務資料をまとめておらず、幾度も追加提出を行った結果、調査専門家のスケジュール再調整が繰り返され、想定費用の1.5倍を超えてしまった。

対応策

売り手企業は、決算書や労務関係書類などを事前に整理しておくことで、再調査の手間を省き費用増を防げる。

9-2.会計・税務処理の不備により追加調査が必要となった事例

事例

税務申告の誤りが次々に判明し、税理士法人チームが深掘り調査を余儀なくされた。
調査対象年度が延長され、その分報酬が積み上がった。

対応策

普段から専門家のサポートを受け、会計・税務処理を適正化しておくことが、M&A時のコストを抑えることにつながる。

9-3.弁護士・公認会計士とのやり取りで生じるコミュニケーションロス

事例

大手監査法人と大手法律事務所を別々に契約していたが、双方の調査領域が重複。
一方で連絡ルートが統一されておらず、同じ質問を企業側が二度受けるなど混乱が生じた。
結果、無駄な時間と費用が増大。

対応策

ワンストップ体制やプロジェクト管理も重視のうえで外部業者を選定し、重複作業を最小限に抑えることが大切。

10.まとめ:納得感のある費用で効果的なデューデリジェンスを

DDの費用は、調査範囲や企業規模だけでなく、売り手・買い手双方の事前準備の質によっても左右されます。
資料が整っていれば効率的な調査が可能となり、費用削減につながるでしょう。
DD費用は高額になりがちですが、万が一の簿外債務や労務トラブル、法務リスクを防ぐことで、その後の損失を大幅に回避できます。
「かけるべき費用」と「削るべき項目」を見極め、バランスをとることが成功の鍵です。

当事務所では、法務だけでなく税務面、労務面も含めた総合的なDD支援をワンストップで提供しております。
中小企業の事業承継や親族内承継、第三者へのM&Aに至るまで、DDの必要がある場合はぜひ一度ご相談ください。
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