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飲食店の「お取り寄せ」進出は営業許可のままで可能か?既存メニューを通販・外販する際の法的整理と許可申請の分岐点

2026.03.26

店舗で提供している料理をパック詰めして販売しようとする際、飲食店営業許可の範囲でどこまで対応できるのか、判断に迷うケースは少なくありません。法的には「その場で提供する調理」と「流通を前提とした製造」は区別されており、取り扱う商品や包装形態によっては、別の製造業許可が必要になる場合があります。本記事では、焼き菓子、惣菜、冷凍食品など、商品ごとに異なる追加許可の要否や、保健所が求める施設基準の考え方について弁護士が分かりやすく解説します。

もくじ

第1章 「飲食店営業」と「食品製造」を分ける法的な境界線

1-1 客席で出す料理と、レジ横・ネットで売る商品の決定的な違い

飲食店が、店舗で提供している料理をそのまま容器に入れて販売する場合、それが「調理」にあたるのか「製造」にあたるのかが法的な分岐点となります。
一般的に、飲食店営業許可の範囲内で認められるのは、注文を受けてから調理し、その場(店内またはテイクアウト)で消費者に提供する行為です。
これに対し、あらかじめ販売することを目的として袋詰めやパック詰めを行い、一定期間の保存を前提とした状態で棚に並べたり、インターネットを通じて配送したりする行為は、食品衛生法上の「製造」とみなされる可能性が高くなります。製造とみなされる場合には飲食店営業許可とは別に、菓子製造業やそうざい製造業など品目に応じた営業許可が求められることになります。

1-2 飲食店営業許可の範囲内で認められる直接販売の限界

飲食店営業許可のみで販売が認められるケースは、原則として、その場で調理したものを、そのまま容器に詰めて、来店客に直接手渡す形態として整理されることが一般的です。例えば、ランチタイムに余った惣菜をその場でパック詰めし、当日中に売り切るような対面販売であれば、飲食店営業の付帯作業として扱われることが多いです。
しかし、保存性を高めるために特殊な包装を行ったり、翌日以降の販売を目的として作り置きをしたり、あるいは自社サイト等を使って注文を取り全国へ発送したりする場合には、調理の域を超えて製造業の範疇と判断される一つの目安となります。この境界線は自治体(保健所)によって解釈が分かれることもあるため、事前の確認が不可欠です。

1-3 知らないでは済まされない、無許可製造に科される罰則とリスク

必要な製造業許可を得ずに食品を製造・販売した場合、食品衛生法違反として行政指導の対象となります。改善命令に従わない場合や悪質な場合には、営業停止処分や許可の取り消しといった厳しい行政処分が下されることもあります。
また、法的な罰則以外に留意すべきは、民事上の責任です。万が一、無許可で製造した商品によって食中毒などの健康被害が発生した場合、飲食店として加入している損害賠償保険も、約款の内容によっては支払対象外となる可能性があります。法令遵守(コンプライアンス)の欠如は、顧客からの信頼を損なうだけでなく、経営基盤そのものを揺るがしかねない事項として認識しておく必要があります。

第2章 【商品別】通販展開で必要となる追加許可の判断実務

2-1 焼き菓子等を個包装で売るなら確認すべき「菓子製造業」許可

店内でデザートとして提供しているケーキや焼き菓子を、個包装してレジ横で販売したり、通販で発送したりする場合には「菓子製造業」の許可が必要となる場合があります。
飲食店営業許可があれば、店内でデザートとして出す分には問題ありませんが、保存を前提としたパッケージ商品として流通させる場合には、菓子製造専用の設備基準を満たさなければなりません。パンやマフィン、クッキーなどを製造し、卸売りやネット販売を行う場合は、この許可が必要となるケースが多くなります。

2-2 惣菜をパック詰めで全国発送するなら「そうざい製造業」を確認

専門店の味を自宅で楽しむニーズの高まりを受け、煮物やハンバーグなどの惣菜をパック詰めして通販を行う飲食店も増えています。店頭でのテイクアウトやデリバリーの際、汁漏れ防止のために容器をシーラーで密封することは一般的ですが、これを通販で行う場合は注意が必要です。
先述の通り、飲食店営業許可は原則として「調理してすぐの提供」を想定しています。一方、ネット販売のように、あらかじめ密封パックにして在庫を持ち、配送に時間を要する形態は、保健所から「そうざい製造業」の許可を求められるケースが多いのが実務上の傾向です。
自店以外のショップに置いてもらう卸売りを検討している場合も、この許可が必要となる場合があります。

2-3 自家製商品を冷凍して長期保存・流通させるなら「冷凍食品製造業」を確認

調理した食品を急速冷凍し、冷凍食品としてラベルを貼って販売・配送する場合には「冷凍食品製造業」の許可が必要となる場合があります。
冷凍食品には、細菌数や保存温度など食品衛生法で定められた規格基準があり、これをクリアするための設備と製造工程の管理が求められます。
また、商品ラベルにも「冷凍食品」としての特定の表示ルールが適用されるため、配送中の品質劣化を防ぐための温度管理体制を含め、事前の設備投資や運用設計を慎重に行うことが重要です。

第3章 今の厨房で製造許可は取れる?施設基準と厨房の区画をクリアする条件

3-1 今の厨房を製造場として兼用する物理的なハードル

多くの飲食店経営者が直面するのが、現在の厨房設備で製造業の許可が取得できるかという点です。食品衛生法上、原則として「飲食店としての調理場」と「製造業としての製造場」は明確に区分されるべきという考え方があります。
同じ場所で両方の作業を行う場合、時間帯を完全に分ける(時間的分離)、あるいは場所を分ける(空間的分離)といった対策が求められます。
特に通販用の製造を恒常的に行う場合は、保健所から専用の製造スペースを確保するよう求められるケースが多く、現在のレイアウトで対応可能かどうかの精査が必要になる可能性があります。

3-2 なぜ、手洗い場の増設や仕切りを求められるのか

製造業許可を申請する際、具体的な設備改修として多いのが、手洗い設備の増設や従事者専用の更衣室の設置、そして作業区域の仕切りです。これらの目的は、店内の接客スペースや調理場からの交差汚染を防ぐことにあります。
例えば、菓子製造業を取るためには、他の調理エリアと明確に壁やパーテーションで仕切られた専用の作業台や、原材料の保管場所が必要になる場合があります。
保健所によって基準の運用が異なるため、手戻りを防ぐためにも、図面を作成した段階で事前に窓口へ相談に行くことが望ましいでしょう。

3-3 HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理計画の見直し

現在はすべての食品事業者に、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理が求められています。飲食店として既に計画を作成している場合でも、通販や外販を開始する際にはその内容を再検討しなければなりません。
通販商品は、店内で提供する料理と異なり、消費者の手元に届くまでに配送時間を要します。そのため、加熱後の冷却時間管理や、包装時の異物混入確認、配送時の温度管理など、店舗運営とは別の視点での管理項目を設定し、適切に記録を残していく体制を整える必要があります。

第4章 「食品表示法」の遵守とアレルギー情報の管理義務

4-1 店内のメニュー書きとはルールが異なる「一括表示ラベル」の必須項目

通販で販売するパッケージ食品には、食品表示法に基づいたラベル(一括表示)の貼付が義務付けられています。
店内のメニュー表であれば、口頭での補足や簡略化した記載が許容される場合もありますが、手元を離れて流通する商品には、名称、原材料、添加物、内容量、消費期限、保存方法、製造者の氏名および住所などを、定められた形式で正確に記載しなければなりません。
文字の大きさや記載順序にも一定のルールがあり、これらに不備があると表示違反として回収(リコール)の対象となる可能性があります。

4-2 正確な根拠が求められる「栄養成分表示」の算出方法

通販されるパッケージ食品には熱量(エネルギー)、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量の栄養成分表示が求められるのが原則です。
これらの数値は、検査機関での分析や、原材料の配合に基づいた計算によって算出します。
消費者が健康管理や食事制限の判断材料として参照する情報であるため、客観的な根拠のある数値を記載しなければなりません。小規模事業者に対する免除規定もありますが、ECサイトやモールでの販売、卸売りを行う場合には、販売先や取引条件によっては表示対応を求められるケースが多いといえます。

4-3 アレルギー物質の記載漏れに伴う実務上のリスク

表示義務のある項目の中でも慎重な対応を要するものの一つが、アレルギー表示(特定原材料)です。
卵、乳、小麦などの特定原材料の記載に漏れがあった場合、消費者の健康に直結するおそれがあるため、食品衛生法や食品表示法に基づき、行政から商品回収(リコール)を指導される、あるいは回収命令の対象となる可能性があります。
単にメインの原材料に含まれていないと判断するのではなく、調味料などの二次原料(例えば醤油に含まれる小麦や大豆)まで詳細に確認しなければなりません。仕入れ先から提供される仕様書を正確に確認し、表示ラベルに反映させる管理体制を構築することが、リスク回避において重要となります。

第5章 事業拡大を支える法務・労務・税務の守備範囲

5-1 製造業者としての責任を明確にする「製造物責任法」への備え

商品を製造して販売する行為には、飲食店としての責任に加え、製造業者としての製造物責任が伴います。
異物混入や表示ミスに起因する事故といった製品の欠陥によって消費者が損害を被った場合、製造物責任法(PL法)に基づき、過失の有無にかかわらず賠償責任を問われる可能性があります。
契約書における免責条項の検討だけでなく、現在加入している賠償責任保険が、店舗外で流通する商品の事故をカバーしているか、改めて確認しておくことがリスク管理につながります。

5-2 オンライン取引における「特定商取引法」と情報管理

自社サイト等で直接販売を行う場合、特定商取引法に基づく表記が義務付けられています。返品の可否や条件、送料、運営責任者の氏名などを消費者が容易に確認できる状態にしなければなりません。
また、全国へ配送を行うことで、SNS等のインターネット上での評価が経営に直接的な影響を及ぼす機会も増えるといえます。万が一、事実に基づかない情報の流布や不当な要求を受けた場合に備えて対応フローを整理しておくなど、IT法務の視点を持った社内ルールの整備も、持続的な事業運営において検討すべき事項といえます。

5-3 製造業務の追加に伴う労務管理の再点検

外販や通販が軌道に乗ると、空き時間での作業だけでは対応できず、早朝や深夜に従業員が製造に従事するケースが出てきます。ここで留意すべきは、調理業務と製造業務が混在することによる労働時間の管理です。作業時間の延長に伴い、36協定の範囲を超過したり、割増賃金の算出に誤りが生じたりするケースは少なくありません。
事業の多角化にあたって、製造実態に合わせた勤怠管理の見直しや、必要に応じた就業規則の改定を検討することが、労務トラブルを未然に防ぐ手段となり得ます。

第6章 自社製造が難しい場合の「OEM委託」という選択肢

6-1 製造委託契約を結ぶ際に確認すべき法的ポイント

設備投資のコストを抑えたい場合や、一定の生産量を確保したい場合には、外部の工場に製造を委託する「OEM」が選択肢となります。
この際、後々のトラブルを防ぐためには、口頭での合意ではなく「製造委託契約」を締結することが求められます。実務上は、品質基準に満たない商品が発生した際の責任の所在や、独自レシピ(知的財産)の保護、さらには原材料価格の変動に伴う価格改定のルールなどを、あらかじめ明確に定めておくことが重要です。

6-2 製造者と販売者の表示責任と連携体制

OEMを活用する場合、商品ラベルの表示方法が変わります。
一般的には委託先が「製造者」、自社が「販売者」として記載されます。ただし、表示上の責任区分に関わらず、消費者からの問い合わせや苦情の一次窓口は、販売元である自社になることが想定されます。
万が一の品質不良や事故が発生した際に、委託先工場とどのように情報共有を行い、迅速に原因究明や回収作業を進めるか、事前の連携体制を構築しておくことが、自社のブランドを維持するうえで欠かせない視点といえます。

第7章 飲食ビジネスの新たな展開と事業継続のために

店舗という枠を超えて自社の味を商品化し、販路を拡大することは、飲食店にとって収益の柱を多角化する有力な選択肢となります。しかし、本コラムで解説してきた通り、テイクアウトやデリバリーといった調理の延長から、通販という「製造・流通」のステップへ踏み出す際には、食品衛生法、食品表示法、PL法、そして労務管理といった多岐にわたる法的な確認事項が新たに生じることになります。
これらの課題を現場の経験則だけで判断してしまうと、意図せぬ法令違反や、将来的な経営リスクを招く可能性も否定できません。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループは、弁護士・税理士・社会保険労務士・行政書士・司法書士が緊密に連携するワンストップ体制を整えています。製造業許可の取得支援から、表示ラベルの妥当性チェック、製造委託契約の作成、さらには事業拡大に伴う労務・税務の体制整備まで、各分野の専門家が実務に即したサポートを提供いたします。通販・外販ビジネスを本格化させたいとお考えの経営者の皆様、少しでも法的な不安がある場合はご相談ください。

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