保険診療を行う医療機関にとって、「療養担当規則」の遵守は避けて通れない重要事項です。医療関係者の方にとっては耳馴染みのある言葉ではあるものの、その全容を正しく理解できている方は案外少ないかもしれません。本記事では、療養担当規則の基礎知識から、なぜこの規則が重要なのか、そして日常の診療現場で特に意識すべきポイントを整理して解説します。
もくじ
第1章 療養担当規則とは?
1-1 療養担当規則が定めているもの
療養担当規則とは、健康保険法に基づき、保険医療機関および保険医が、保険診療を行う際の基本的な考え方や原則を定めた、健康保険法に基づく厚生労働省令です。正式名称を、保険医療機関及び保険医療養担当規則といい、患者への安全で公平な医療の提供と医療費の適正化を目的としています。
療養担当規則が定めている内容は多岐にわたりますが、大きく以下の3つに分類されます。
診療の受け付けから実施までの手順
被保険者証の確認義務など
診療の質と内容に関する基準
過剰診療の禁止、経済性への配慮など
事務手続きと報告義務
診療録の記載、領収書の発行、掲示義務など
医療機関が保険診療の対価として診療報酬を受け取るためには、医学的な正しさはもちろん、この療養担当規則に則った診療手順を経ていることが前提となります。
1-2 どの医療機関・診療に関係するのか
療養担当規則は、厚生労働大臣から保険医療機関の指定を受けているすべての病院・クリニック、および保険医の登録を受けているすべての医師・歯科医師に適用されます。
注意が必要なのは、この規則は「保険診療」に対して適用されるものであるという点です。完全に自由診療(自費診療)のみを行うケースでは、基本的にはこの規則の直接的な拘束は受けません。
しかし、日本の多くのクリニックでは保険診療と自由診療を併用、あるいは保険診療をメインとしているため、日々の診療の大部分においてこの規則が判断の基準になるといえます。
第2章 療養担当規則の全体構造と実務で押さえるべき主要項目
2-1 診療の原則:医学的に妥当適切な診療を行うという考え方
療養担当規則の中心にあるのが、「医学的に妥当かつ適切な診療を行うこと」という診療の原則です。医学的に妥当かつ適切な診療とは、厚生労働大臣が定める診療報酬点数表の範囲内であり、かつ医学的な根拠に基づいた必要最小限度の診療を指します。これを逸脱した検査や投薬は過剰診療として否定される可能性がある点に注意が必要です。
また、健康保険が適用されない自費診療と保険診療を混合して行う「混合診療」も、一部の例外(保険外併用療養費制度)を除き、療養担当規則によって原則として禁止されています。
2-2 掲示と説明の義務:患者への情報提供のルール
医療機関は、患者に対して適切な情報提供を行う義務があります。
例えば、窓口負担金に関する事項や、厚生労働大臣が定める掲示事項を院内の見やすい場所に掲示しなければなりません。また、治療内容や費用について患者にわかりやすく説明し、同意を得ることも療養担当規則における重要な責務の一つです。
2-3 帳簿・書類の整備:診療録(カルテ)等の保存義務
適切な診療を行ったことを証明するためには、正確な記録が不可欠です。療養担当規則では、診療録(カルテ)をその診療が完結した日から5年間保存することや、帳簿類を整備することなどが義務付けられています。これらは後述する個別指導や監査の際に、診療の正当性を立証する証拠となります。
第3章 なぜ療養担当規則の遵守がクリニック経営において重要なのか
3-1 患者からの信頼獲得と良質な医療提供の両立につながる
療養担当規則を遵守することは、結果として医療の質を担保することに繋がります。ルールに基づいた適正な診療と丁寧な説明は、安心感を生み、クリニックへの信頼を深めます。「適切な医療を正当な対価で提供している」という姿勢こそが、長期的な患者定着の礎になるといえます。
3-2 行政による指導や確認が経営対応を左右する
療養担当規則の遵守がクリニック経営において重要とされる理由の一つに、行政による個別指導や監査への対応があります。これらは直ちに処分を目的とするものではありませんが、診療や請求が制度の趣旨に沿っているかが確認され、必要に応じて是正が求められます。対象となれば、資料準備や管理者対応など通常業務とは別の負担が生じます。
さらに、是正が進まない場合や悪質性が高いと判断される場合には、段階的な措置の末に保険医療機関としての指定に影響が及ぶ可能性も否定できません。こうしたリスクを抑える意味でも、日頃から規則に沿った運用を整えることが重要です。
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3-3 スタッフとの共通認識で院内コンプライアンスを強化できる
院長一人だけが規則を理解していても、現場のスタッフが把握していなければ、規則は守られにくくなります。療養担当規則をわかりやすくスタッフに共有し、院内全体のコンプライアンス(法令遵守)意識を高めることは、事務的なミスや不適切な説明を未然に防ぐことにつながります。組織としてルールを守る文化を育むことが、組織の健全な発展に寄与するはずです。
第4章 療養担当規則の理解を深めるチェックポイント
4-1 保険外併用療養費の取り扱いが適正になされているか
よくある間違いの一つが、差額ベッド代(選定療養)や未承認薬の投与(評価療養)など、保険診療と併用できる自費分の扱いです。これらは例外的に認められた仕組みであり、対象となるサービスや費用設定には細かいルールがあります。自院で行っている特別なサービスが、療養担当規則上の不当な費用徴収に当たらないか、再度確認しておきましょう。
4-2 特定の薬局への誘導など、不適切な制限を行っていないか
医療機関は患者に対して、特定の保険薬局で調剤を受けるよう指示したり、誘導したりすることは禁止されています。患者の選択の自由を妨げる行為は、療養担当規則違反の典型例といえます。院内での動線やスタッフの案内が、過度な誘導になっていないか客観的に見直してみましょう。
4-3 診療報酬請求の根拠となる記録が正確に残されているか
診療報酬を請求する以上、その根拠はすべてカルテに記載されていなければなりません。実際に検査を行っていてもカルテの記載が不十分な場合、行政上の判断では、実施の根拠がないとみなされ、診療報酬の返還を求められるなど、結果として不利に評価されることがあります。
第5章 療養担当規則の正しい理解が健全なクリニック運営の基盤となる
療養担当規則は、保険診療の質と公平性を守るための公的なルールです。
- 医学的に妥当適切な診療を行うこと
- 適切な掲示と説明を行うこと
- 正確な診療記録を整備し保存すること
これらは保険医療機関としての義務であり、安定経営のための大前提といえます。
一方で、規則の内容は詳細かつ多岐にわたり、改正も頻繁に行われます。自院の体制に不安を感じる場合は専門家のアドバイスを受ける選択肢もあります。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループは、弁護士・社労士・税理士らが連携し、医療機関の皆様の法務・労務・税務をワンストップでサポートしています。紛争の解決だけでなく、規則を遵守した体制づくりや改善コンサルティングを通じて、安心できる経営環境の構築をお手伝いいたします。療養担当規則への対応や社内体制の整備について不安がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。
