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口コミの開示請求では何ができる?投稿者特定の仕組みと対応の流れを弁護士が徹底解説

2025.12.05

インターネット上に書き込まれた悪質な口コミや、事実と異なる評価は、企業にとって大きなリスクとなり得ます。特に医療機関やサービス業では、たった一つの否定的な口コミが患者や顧客の信頼を大きく揺るがすことがあります。
こうした口コミへの対応として「削除請求」を検討される方も多いですが、削除だけでは根本的な問題解決にならないケースも少なくありません。そのため、投稿者を特定する「開示請求」が重要となる場面があります。
本記事では、口コミの開示請求によって何ができるのか、具体的な手続きの流れ、対応にあたっての注意点を詳しく解説します。

もくじ

1. なぜ口コミの開示請求が必要なのか

1-1. 医療機関や店舗経営における口コミの影響

インターネット上の口コミは、現代において消費者の意思決定に大きな影響を与えています。特に医療機関や飲食店、美容サロンなど「サービスの質」が判断基準となる業種では、口コミの評価が患者や顧客の来店行動を左右することが多いです。
Googleマップの評価が「★2」や「★1」に下がると、新規顧客が大幅に減少した事例もあり、実際に口コミを見て「不安だから別のお店に行こう」と判断する顧客も少なくないため、1件の悪質な口コミが経営全体に影響を与えるリスクがあります。

1-2. 投稿者の匿名性と対応の難しさ

口コミサイトやSNSに投稿される書き込みは、多くの場合「匿名」です。匿名性が保証されていることで、ユーザーは気軽に意見を書き込めますが、その一方で虚偽の情報や誹謗中傷も拡散されやすくなります。
さらに、口コミの運営会社に直接削除を依頼しても、「事実に基づく意見」と判断されれば削除に応じてもらえない場合があります。匿名投稿のため、誰が書いたのか分からないまま対応に苦慮するケースも少なくありません。

1-3. 口コミの削除と開示請求の違い

削除請求は「当該口コミを非表示にする」ことを目的としていますが、開示請求は「投稿者を特定する」ための手続きです。
削除請求だけでは、再び別のアカウントから同じような書き込みをされる可能性があります。一方、開示請求を行い投稿者を特定できれば、損害賠償請求や謝罪要求など、より実効的な対応が可能になります。

2. 開示命令の概要と対象になる口コミ

2-1. 発信者情報開示命令申立てとは

発信者情報開示命令申立てとは、口コミを投稿したユーザーの情報(IPアドレスや氏名、住所など)を特定するために、プロバイダやサイト運営者に対して開示を求める手続きです。 これは法律に基づく正式な請求であり、投稿が違法であることが前提となります。

2-2. 名誉毀損・業務妨害など開示の根拠となる違法性

開示命令が認められるためには、口コミが「権利侵害」にあたる必要があります。典型的なものとして以下が挙げられます。

名誉毀損

事実と異なる内容を記載し、社会的評価を低下させる書き込み

信用毀損・業務妨害

虚偽情報によって営業活動を妨害する投稿

プライバシー侵害

患者や顧客の個人情報を暴露する投稿
これらに該当しない「単なる不満」や「主観的な意見」だけでは、開示が認められない場合も多いため注意が必要です。

2-3. SNS・掲示板・Googleレビューなど媒体別の特徴

口コミが投稿される媒体ごとに、削除や開示請求のハードルには大きな違いがあります。代表的な媒体について整理すると、以下のようになります。

Googleレビュー

 Google社はレビュー削除の審査基準を厳格に設けており、削除依頼をしても「ポリシー違反に該当しない」と判断されれば応じてもらえないケースが少なくありません。そのため、投稿者の情報を知る必要がある場合には、裁判所を通じた開示請求に進むケースが多く見られます。

SNS(XやInstagramなど)

 SNSは拡散性が非常に高く、悪質な口コミや誹謗中傷が瞬時に広がるリスクがあります。SNS運営会社に直接投稿者情報を求めても、基本的には任意で開示されることはなく、送信者情報開示請求などの裁判所を通じた正式な手続きが必要になります。

掲示板(5ちゃんねる、爆サイなど)

 匿名性が強く、誹謗中傷が集中しやすい媒体です。投稿者を特定するには、まずプロバイダに対してIPアドレスの開示を求め、その後契約者情報を開示させるという二段階の裁判手続きが必要になります。実務上のハードルが高いため、できるだけ早い段階で弁護士に依頼することが望ましいといえます。

3. 口コミ投稿者の開示に必要なステップ

3-1. 対象となる書き込みの特定

まずは「どの口コミに関して開示してもらうのか」を明確にします。対象となる投稿を証拠として保存することが非常に重要です。スクリーンショットの取得だけでなく、タイムスタンプやURLを含めて記録しておくことが求められます。

3-2. プロバイダに対する任意開示請求

初期対応として、サイト運営者やプロバイダに任意での開示を求めるケースもあります。ただし、実際には任意で開示に応じることはほとんどなく、多くの場合は裁判所を通じた手続きが必要です。

3-3. 裁判所を通じた手続き

発信者情報開示は「仮処分」と「本案訴訟」の二段階で行うのが一般的でしたが、近年は、「発信者情報開示命令申立て」という非訟手続によるのが主流です。
発信者情報開示命令申立ては、「発信者情報開示命令申立て」と「提供命令申立て」、「消去禁止命令申立て」の3本立てで行います。

発信者情報開示命令申立て

コンテンツプロバイダ(CP)に対してIPアドレスやタイムスタンプを、アクセスプロバイダ(AP)に対して氏名や住所を開示するよう求める手続き

提供命令申立て

コンテンツプロバイダに対して投稿時に経由したアクセスプロバイダの情報を提供するよう求める手続き

消去禁止命令申立て

コンテンツプロバイダ、アクセスプロバイダに対して、投稿に関するログを削除しないよう求める手続き
これらの手続きにより、投稿者の特定が可能となります。

3-4. 投稿者が判明した後にできる対応(削除請求・損害賠償など)

投稿者が特定できた場合、次のような対応が可能です。

  • 当該口コミの削除請求
  • 損害賠償請求(営業上の損害や慰謝料)
  • 再発防止に向けた示談交渉

ここまで進めることで、単なる「削除」ではなく、根本的な解決を図ることができます。

4. 発信者情報開示の流れ

4-1. 仮処分(IPアドレス開示)と本案訴訟(契約者情報開示)の場合

口コミ投稿者を特定するためには、通常 2段階の裁判所手続き が必要でした。

1. 仮処分手続き

 まず、口コミが投稿されたサイトの運営会社(コンテンツプロバイダ)に対し、投稿時のIPアドレスを開示させるために裁判所へ仮処分を申し立てます。これにより、投稿に利用された回線を特定することができます。

2. 本案訴訟(発信者情報開示請求訴訟)

 次に、特定されたIPアドレスを提供しているプロバイダ(アクセスプロバイダ)に対し、契約者の氏名や住所といった個人情報を開示させる訴訟を提起します。これにより、最終的に投稿者本人を特定することが可能となります。
このように「コンテンツプロバイダ→アクセスプロバイダ」と順を追って開示を進めていく必要があるため、時間やコストがかかるという欠点がありました。

4-2. 発信者情報開示命令申立ての場合

近年導入された発信者情報開示命令申立ての手続きでは、2段階の手続きを1つの審理手続きによって終結させることが可能となります。

1. コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示命令申立て+提供命令申立て

 まず、コンテンツプロバイダに対し、投稿時のIPアドレスとタイムスタンプを開示させるための発信者情報開示命令申立てを行います。それと同時に、コンテンツプロバイダに対し、投稿に関するIPアドレスからアクセスプロバイダを特定し、そのアクセスプロバイダの名称を申立人に提供するよう求める提供命令申立てを行います。

2. アクセスプロバイダに対する発信者情報開示命令申立て+消去禁止命令申立て

 次に、特定されたアクセスプロバイダに対し、投稿者の氏名・住所等を開示させるための発信者情報開示命令申立てを行います。それと同時に、アクセスプロバイダに対し、投稿に係るアクセスログを削除しないよう求める消去禁止命令申立てを行います。
アクセスプロバイダに対する申立てをコンテンツプロバイダに対する申立ての審理中に行うことができ、これらが併合審理されることで、1個の手続き内で開示命令の手続きを完結することができます。

4-3. 必要な証拠と準備すべき資料

発信者情報開示では、「その口コミが権利侵害にあたること」を裁判所に示す必要があります。そのため、以下の証拠を揃えておくことが重要です。

  • 該当する口コミの画面キャプチャ(日時・URL入り)
  • 口コミが自社に与えた影響を示す資料(売上の変化、患者数の減少など)
  • 口コミが事実と異なることを示す根拠資料(診療記録、領収書、社内規程など)

これらの証拠が不十分だと開示が認められないケースもあるため、証拠保全は必ず行っておきましょう。

4-4. 手続きにかかる期間と費用感

期間

仮処分+本案訴訟だと、半年~1年程度を要するケースが多い一方、開示命令申立てによる場合、3~4か月程度で開示までたどり着くのが一般的です。

費用

裁判所に納める印紙代・郵券代に加え、弁護士費用が発生します。弁護士に依頼した場合の費用はケースによって差がありますが、一般的な目安としては数十万円〜100万円程度ぐらいです。依頼内容の範囲や交渉を伴うかどうかなどで費用に幅が出ますので、弁護士に依頼をする際に事前に確認をされてください。

5. 弁護士に依頼するメリットとリスク回避のポイント

5-1. 法的要件の判断と主張立証の設計

開示請求が認められるためには、口コミが「明らかに違法」または「権利侵害」と言える状況であることを裁判所に示さなければなりません。この判断は一般の方には難しい部分が多く、弁護士が法的根拠を踏まえて主張を整理することが極めて重要です。
弁護士に依頼することで、

  • 違法性の有無の判断
  • 立証に必要な資料の整理
  • 仮処分・訴訟、開示命令申立てにおける適切な主張立証

といった専門的なサポートを受けることができ、成功可能性を高めることにつながります。

5-2. 逆効果になる対応(拙速な削除依頼やSNS上の炎上)

口コミに感情的に反応してしまい、SNS上で反論したり、相手に直接削除を迫ったりすると、かえって炎上を招いて被害が拡大するケースがあります。
また、サイト運営者に削除依頼をしても却下され続けてしまうと、その口コミはずっと表示されたままになり、あたかも『削除されない=事実だから残っている』と周囲に誤解され、風評被害が拡大するリスクがあります。
弁護士に相談のうえで適切な順序と方法で対応することで、こうしたリスクを避けることが可能です。

5-3. 投稿者との示談交渉・損害賠償請求の進め方

投稿者が特定できた場合、最終的には「損害賠償請求」や「謝罪要求」などを行うことができます。しかし、相手との交渉を誤れば感情的な対立が深まり、長期化する恐れがあります。
弁護士が代理人として交渉にあたることで、適正な損害賠償額の算定や将来の再発防止策を盛り込んだ和解案の提示など、実効的な解決が可能になります。

6. 開示請求を検討している方へ:弁護士からのアドバイス

6-1. すべての悪評が開示対象になるわけではない

「口コミが不快だから開示請求をしたい」と考える経営者は多いですが、すべての悪評が開示対象となるわけではありません。 開示請求が認められるのは、名誉毀損や信用毀損など、法律上の「権利侵害」にあたる場合に限られます。
例えば、

「受付の対応が遅かった」

個人の主観的感想であり、開示対象になりにくい

「不正請求をされた」

根拠がなく事実と異なれば、名誉毀損に該当する可能性が高い
この違いを理解しておかないと、手続きを進めても却下され、時間や費用を無駄にするリスクがありますので注意が必要です。

6-2. できるだけ早めの相談が重要です

口コミ問題は、放置することで被害が拡大する傾向があります。また、プロバイダが保有するIPアドレスのログには保存期間があり、一定期間を過ぎると消去されてしまいます。保存期間をすぎてしまうと、開示請求をしても投稿者が特定できなくなることがあります。
口コミ被害に気づいたら「まずは弁護士に相談する」ことが、被害拡大を防ぐ最善策です。

6-3. ご相談時に用意しておくと良い情報

弁護士に相談に行く際は、以下の資料を持参するとスムーズに相談が進められます。

問題となっている口コミの画面キャプチャ

日時・URL入り

口コミが経営に与えた影響を示す資料

売上推移、患者数変化など

内容が虚偽であることを示す資料

領収書、診療記録、社内文書など

これらを揃えることで、弁護士がより具体的に対応方針を提示できますので、準備できる範囲で情報整理の上で相談されるとよいでしょう。(資料の準備に時間がかかりそうな場合は、まずは早い段階で相談に行くことを優先されてください。)

7.開示請求に関連するよくある質問(FAQ)

Q1. 開示請求にかかる費用は必ず加害者に請求できますか?

A. 必ずしも全額を相手に請求できるわけではありません。裁判所が認めた損害額に応じて費用の一部が賠償対象となる場合はありますが、着手金や実費のすべてを回収できる保証はありません。そのため、依頼前に弁護士と費用回収の可能性について確認することが重要です。

Q2. 投稿から時間が経っていても開示請求は可能ですか?

A. 開示請求は時間との勝負です。プロバイダが保有する通信ログには保存期間があり、一般的には3か月〜6か月程度で削除されてしまいます。保存期間を過ぎると投稿者の特定が極めて困難になるため、口コミを発見したらできるだけ早めに行動する必要があります。

Q3. 投稿者が海外から書き込んでいた場合でも特定できますか?

A. 投稿者が海外のプロバイダを利用している場合、国内の裁判所を通じた請求が届かないことがあります。国際的な法的手続きが必要になるケースもあり、実務上は特定が難しいのが実情です。その場合は、逆SEOや広報対策など別の手段を組み合わせることが重要です。

Q4.「正当な口コミ」についても開示請求の対象になりますか?

A. いいえ。実際の体験に基づいた感想や意見は、たとえ経営者にとって不本意な内容であっても「表現の自由」として尊重される範囲にあります。虚偽の事実や誤解を招く記載など、権利侵害に当たる場合にのみ開示請求が認められます。

Q5. 開示請求を行うと、口コミは自動的に削除されますか?

A. 開示請求自体は「投稿者を特定する手続き」であり、口コミを削除するものではありません。削除は別途依頼するか、特定した投稿者に削除を求める流れになります。

8. 悪質な口コミにお悩みの方は早めにご相談ください

今回解説したとおり、口コミへの対応には「削除請求」と「開示請求」 の二つの手段があり、特に投稿者を特定する開示請求は、再発防止や損害賠償請求につなげるために有効な方法です。
当事務所では、口コミ削除や開示請求に関する法的サポートだけでなく、社内体制整備や逆SEOなど広報・労務・税務を含めたワンストップ支援を行っています。
「この口コミは放置して大丈夫なのか」「投稿者を特定したいが何から始めればいいのか」と不安をお持ちの方は、ぜひできるだけ早めにご相談ください。

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