近年、GoogleマイビジネスやSNSなどで「口コミの内容」が企業の集客に大きな影響を及ぼすようになり、プレゼントや割引を通じて積極的に口コミを促す手法が広がっています。しかし、こうした方法には、「ステルスマーケティング規制」や「景品表示法違反」といった法的リスクが潜んでいることをご存じでしょうか。
違反となった場合、企業名の公表、行政指導、課徴金などの処分につながるおそれがあり、知らずに続けていたキャンペーンが法令違反と判断されるケースも少なくありません。
本記事では、企業・店舗・マーケティング担当者に向けて、口コミを集める施策を実施する際に、どこに法的な注意点があるのかを、わかりやすく解説します。
もくじ
1. なぜ今「口コミ施策」に法的な注意が必要なのか?
1-1. ネット上の口コミが持つ影響力の変化
かつては広告やテレビCMが企業の集客・販売の主役でしたが、今や消費者は、まずGoogleマップ、食べログ、Instagram、X(旧Twitter)などの「口コミ」やレビューを参考にしてから商品や店舗を選ぶ時代になりました。中でも、Googleマイビジネス(現在のGoogleビジネスプロフィール)のクチコミ欄は、来店型ビジネスにおいて極めて強力な集客ツールとして認識されています。
このように、“消費者が自発的に発信する情報”が他の消費者の購買行動を左右する時代において、「口コミを集める」「良い評価を増やす」といったマーケティング活動が企業の経営戦略の一部として定着しつつあります。
1-2. プレゼントや割引を用いたキャンペーンの拡大
このような背景から、「レビュー投稿で○○プレゼント!」「口コミを書いた方に次回割引!」といったインセンティブ付きの口コミ募集キャンペーンを導入する企業が急増しました。実際、顧客満足度が高い商品やサービスであれば、レビューを“後押し”するだけでも効果的に口コミが集まり、SEOやSNS評価の向上にもつながります。
一方で、こうした施策の中には、一見すると問題がなさそうでも「法的にはアウト」と判断されるケースも存在します。
特に、口コミを促す方法や表現が「消費者を誤認させる」「広告表示義務を怠っている」と判断されれば、行政指導や課徴金の対象となりかねません。
1-3. 規制強化の背景──ステマが“許されない行為”に
2023年10月からは、いわゆる「ステルスマーケティング(ステマ)」が景品表示法における“不当表示”の一種として正式に規制対象となり、違反があった場合には企業名の公表や課徴金の支払いなど、明確な処分対象となりました。
この規制強化により、これまで“グレーゾーン”とされていたような口コミの募集方法や報酬の提供が、実質的に「広告」とみなされることとなったため、「この方法なら大丈夫だろう」「他社もやっているし問題ないはず」といった感覚でこれまで通りのキャンペーンを実施していると規制対象となる可能性がありますので、法的に支障がない形での施策の見直しが必要となります。
2. ステルスマーケティング規制とは?法律の全体像を解説
2-1. ステマ規制はどの法律に基づいているのか?
いわゆる「ステルスマーケティング(ステマ)」は、かつては法令上の明確な定義がありませんでしたが、2023年10月に消費者庁が告示した改正により、景品表示法に基づく不当表示として正式に取り締まり対象となりました。
この法改正では、広告主から金銭・物品・役務などの提供を受けた者が、それを開示せずに第三者を装って投稿・紹介を行う行為が、「表示がなされていない広告=不当表示」に該当すると明確に位置づけられています。
つまり、「報酬をもらっているのに、それを隠して良い口コミを書く」行為は、実際の優良性よりも“著しく良く見せかける”ものとして景品表示法違反に該当するということになります。
2-2. 表示義務のある「広告」とは何か
ステマ規制において重要なのは、「これは広告である」と明確に表示されているかどうか、という点です。
たとえ口コミ形式であっても、金銭やプレゼントなどの報酬を提供して書かせた投稿であれば、「広告」であることを消費者がはっきり認識できるよう、明示しなければなりません。
この「明示」には、
- 「#広告」「PR」「提供:○○社」などのラベル表示
- 広告主と投稿者の関係がすぐに分かる表現
- 表示位置が目立つ、タイムライン等で視認できる場所にあること
といった要件が含まれます。
逆に、スクロールしなければ見えない、文字が薄い、投稿の中で埋もれているような表示では、「明瞭性がない」として違反と判断される可能性があります。
2-3. 「広告ではない」と主張しても通らないケース
企業側が「レビュー投稿はあくまでユーザーの自由意志であり、こちらは一切関与していない」と主張することがありますが、実務上は“実質的な関与”があったかどうかが判断のポイントになります。
たとえば以下のようなケースは、「広告であるにもかかわらず明示されていない」と判断されやすいです。
- 割引・プレゼントを条件に投稿を促している
- 投稿の文言や方向性について企業が指示・確認している
- 投稿者が企業から明確な依頼・報酬を受けているにもかかわらず、表示していない
これらは、たとえ「投稿文は自由」とされていても、一定の誘導や報酬提供がある時点で“広告性”が発生していると評価されます。
実際の裁判例や行政処分でも、「事業者の関与があったかどうか」が明示義務の要否の核心とされています。
2-4. 対象となるメディアと企業の“表示責任”
ステマ規制の対象は、InstagramやX(旧Twitter)といったSNSに限らず、Googleマップ、ECサイト、動画配信サービス、ブログ、オウンドメディアなど幅広い媒体に及びます。
また、「表示しなければならない」のは基本的に広告主側(企業側)です。
つまり、インフルエンサーや投稿者個人が気を利かせて表示したとしても、それが不十分であれば、最終的には企業側が“表示責任を果たしていない”と判断されてしまうリスクがあります。
そのため、広告主側は以下のような対応が求められます。
- 事前に表示方針を定めて投稿者に指示する
- 投稿前に表示内容を確認・監修する
- 表示基準が守られているかをモニタリングする
- 契約書や依頼文書の中に明示義務を明記する
ステマ規制は「知らなかった」「投稿者が勝手にやった」では通用しないルールです。
企業の責任として、投稿の“背景”がわかるように表示を管理する体制が必要となります。
3. プレゼントや割引と引き換えに口コミを求める行為は違法?
3-1. 「報酬」を条件とした口コミが広告とされる理由
口コミやレビュー投稿を促すために、プレゼントや割引を提供する行為は一見よくあるマーケティング手法に思えますが、この「報酬」の提供があるかどうかが、“広告”と評価されるか否かの分岐点になります。
たとえば、「口コミを書いてくれた方に500円のクーポンを進呈」といったキャンペーンは、書き込むこと自体に対価が発生しているため、原則として広告に該当し、広告である旨の明示が必要になります。
たとえ口コミの内容に注文をつけていなかったとしても、報酬提供によって投稿が促されている時点で、消費者庁が定義する「広告表示に該当する条件」に該当すると判断されるのです。
3-2. 商品提供・金銭提供・クーポン提供などのグレーゾーン
報酬の種類も問題になります。現金や金券といった直接的な金銭だけでなく、商品サンプル・割引クーポン・ポイント付与なども「経済的利益」として扱われます。
たとえば、
- 商品を無償提供してレビューを依頼
- 抽選でAmazonギフト券を進呈
- 口コミ投稿者に次回20%OFFクーポンを配布
といった施策はいずれも、投稿者に対価性があると評価されるため、原則として「広告表示義務のある口コミ」に該当すると考えられます。
また、報酬の額が少額である、全員ではなく抽選式であるといった場合でも、表示義務が免除されることは基本的にありません。消費者の判断に影響を与える性質を持つ限り、広告性が認定される可能性があるのです。
3-3. 表示をしない“依頼型口コミ”の違法性
企業が消費者やモニター、スタッフなどに対し、「お願いベース」で口コミを依頼し、報酬や便宜を提供しながらも、それを表示しないまま投稿が行われた場合、これはステルスマーケティングと判断される典型的なパターンです。
このような投稿が問題とされる理由は、以下の通りです。
- 消費者が「第三者の中立的な意見」だと誤認する
- 商品やサービスの信頼性が“偽装された人気”によって作られてしまう
- 競合との比較において不当な優位性を得ている可能性がある
ステマ規制においては、「明示されていない広告」が不当表示と評価されるため、“意図的に表示を隠した”こと自体が処分の対象になるのです。
3-4. 「あくまで自由投稿」は免責になるか?
よくある誤解のひとつが、「投稿の内容は指示していないから問題ない」という主張です。
しかし、たとえ企業側が文言や評価内容に一切介入していなくても、「報酬やインセンティブの提供」と「投稿依頼」という事実があれば、それだけで広告表示義務が発生します。
「★5をつけてください」といった評価誘導はもちろんNGですが、仮にそういった誘導がなかったとしても、“自由な投稿であるかのように見えること”が問題視されるのです。
この点について、消費者庁も明確に以下のように示しています。
「投稿内容の自由を担保していても、報酬提供があれば広告に該当し、表示義務がある。」
つまり、「お願いベース」「自由記載」「選択は投稿者に任せている」といった形式では、法的なリスクを回避することはできません。
4. 景品表示法との関係──キャンペーンが抱えるもう一つのリスク
4-1. 景表法上の「懸賞」「景品類」とは何か?
プレゼント付きの口コミ募集施策では、「ステマ規制」だけでなく、景品表示法(景表法)の規制にも注意が必要です。
景表法では、企業が顧客に対して商品や金品を提供する際、「不当な景品類の提供」に該当するかどうかが問題となります。
特に問題となるのが、「懸賞型キャンペーン」と「総付け型キャンペーン」の2つです。
懸賞型
抽選・くじ等で一部の人に提供(例:口コミ投稿者の中から10名にプレゼント)
総付け型
参加者全員に一律で提供(例:口コミを書いた全員に500円クーポン進呈)
これらはどちらも景品表示法の適用対象となり、それぞれ提供金額・提供人数などに法的上限が設けられています。
4-2. プレゼントキャンペーンが違法となる具体例
以下のような口コミ募集キャンペーンは、ステマ規制に加えて景表法違反にも該当するリスクがあります。
- 投稿者全員に1,000円分のクーポンを配布したが、取引額に対して過大と判断される
- 投稿者の中から抽選で高額商品(例:最新スマートフォン)を提供したが、懸賞限度額を超過していた
- 提供金額は少額でも、明確な「広告表示」がなされていなかったため、誤認表示として指導を受けた
このようなケースでは、金額の大きさそのものよりも、「提供の目的・背景・表示方法」に法的整合性があるかが重視されます。
口コミ施策はマーケティングの一環として実施される以上、広告・景品の両方の側面を併せ持つという前提でリスク管理を行う必要があります。
4-3. 提供する金額・人数・表示文言による制限
景表法の規制では、「提供できる景品の価額」に上限が設定されています。
特に、「取引金額に対して過度な景品を出してはいけない」というルールは、多くの企業が見落としがちです。
- 懸賞型キャンペーンでは、景品の最高額・総額・提供割合に明確な上限がある(例:1万円未満の取引では最高額2,000円まで)
- 総付け型キャンペーンでも、取引価額の20%を超える景品の提供は原則NG
- 景品であることが明確に伝わらない表現(例:「実質無料」「レビューでお得」)は、誤認表示とみなされるリスク
これらの制限を踏まえたうえで、キャンペーンの構成、提供方法、文言表記を慎重に検討することが不可欠です。
4-4. ステマと景表法、どちらにも違反するケースも
口コミ投稿を促すキャンペーンは、一つの施策で「ステマ規制」と「景表法」両方に抵触するリスクがあるという点にも注意が必要です。
たとえば、
- 抽選で景品を提供しているが、投稿に「広告」である旨の表示がなく、ステマに該当
- 高額景品を提供しており、景品提供の上限額を超過していて景表法違反
- 「口コミを書く=プレゼント」の形式を曖昧に伝えており、表示義務違反と誤認表示の両方に該当
このような事例では、違反の態様が複合的となり、行政処分・企業名公表・課徴金対象になる可能性が高くなります。
したがって、口コミ施策を実施する際は、法的観点を総合的に見渡して構成する必要があり、弁護士による事前の確認が極めて有効なのです。
5. 「口コミを集めたい企業」が注意すべき4つのチェックポイント
5-1. 報酬提供がある場合は「広告表示」が必須
最も基本的なチェックポイントは、報酬やインセンティブを条件として口コミを促す場合には、「広告であることの明示」が必須であるという点です。
投稿者にとっては自然な感想であっても、企業から金銭・クーポン・商品提供などがなされている以上、それは“広告”と評価されます。
そのため、InstagramやGoogleマップ、ブログ、ECサイトのレビュー欄などにおいて、「#PR」「提供:○○社」などの広告表示を分かりやすく記載する義務が生じます。
この表示が不明瞭、または抜け落ちている場合には、ステマ規制に違反する可能性があるため、口コミ施策を行う企業としては必ず表示ルールを定め、投稿者に明示する必要があります。
5-2. ユーザー投稿の自由を侵害する文言に注意
口コミを集めたいがあまり、「高評価をお願いします」「★5をつけてください」といった依頼をしてしまう企業もありますが、これは表現の自由を侵害し、表示義務違反と同時に不当表示にも該当する可能性があります。
ステマ規制の本質は、「消費者の判断に影響を与えるような情報が正しく表示されているかどうか」です。
したがって、企業が評価内容を誘導するような表現を使って投稿を促せば、その投稿は消費者を誤認させる広告と見なされ、違法となる可能性があります。
口コミ募集の際には、投稿の自由性を保障する文言(例:「ご意見は率直にご記入ください」など)を明記し、評価を操作しない運用が求められます。
5-3. 抽選式・先着式の景品提供時の表示例
「投稿してくれた方の中から抽選でプレゼント」といった形式のキャンペーンは、比較的多くの企業が採用していますが、これも景品表示法とステマ規制の両面から注意が必要です。
抽選式の場合、次のような点を明記することが重要です。
- 抽選の方法(無作為、評価による選定など)
- 当選人数と景品の内容・金額
- 投稿条件(写真付き、文字数制限など)
- 広告であることの表示(例:「この投稿は広告を含みます」)
また、先着式の場合は、告知時点で予定人数・提供終了の目安を明記していないと、消費者庁から「不当な表示」とされるリスクもあります。
企業はキャンペーン内容に応じて、投稿前から透明性のあるルール設計と、法的観点からの事前チェックを行う必要があるのです。
5-4. 利用規約や投稿同意文の設計にも落とし穴が
口コミキャンペーンを実施する際、「応募規約」や「参加条件」「投稿利用に関する同意書」などを設定するケースもあります。
しかし、その内容が不適切であると、逆にリスクを高めてしまうこともあるため注意が必要です。
たとえば、
- 投稿内容を二次利用するとしながら、報酬も表示も明記していない
- 同意した利用規約内に、表示義務を免除する文言が入っている
- 「内容の良否にかかわらずプレゼント」としつつ、実際には高評価を優先して抽選している
このようなケースは、表示義務違反だけでなく、優良誤認表示や景品表示法違反、さらには契約の公序良俗違反として争点になりかねません。
キャンペーンを設計する際には、利用規約・応募要項・投稿同意文を含めて弁護士のレビューを受けることが、リスク回避の第一歩といえるでしょう。
6. 実務でよくある“グレーゾーン事例”と法的評価
6-1. 割引クーポン配布+レビュー必須型キャンペーン
「レビュー投稿で次回使える10%OFFクーポンを進呈」といった形式は、実務で頻繁に見られます。しかし、この場合も対価(割引)を提供してレビューを促している以上、“広告表示の明示”が求められるケースとなります。
明示がないままレビューが掲載されていれば、ステマ規制違反に該当する可能性が高く、またクーポン額や提供条件によっては、景品表示法の規制も併せて考慮する必要があります。
6-2. 投稿者がフォロワーにプレゼントを配る形式
企業が直接ユーザーに報酬を渡すのではなく、「投稿者がフォロワーにプレゼントを配る」形を取る場合、一見して企業の関与が見えにくくなるため、“グレー”に見えるかもしれません。
しかし、企業が賞品を提供している、または投稿内容を一定の方向に誘導している場合は、「広告性がある投稿」として企業が表示責任を問われる可能性があります。構造が複雑でも、実質的な関与があるなら“ステマ”と評価され得るのです。
6-3. 社内スタッフ・モニター利用者の「レビューなりすまし」
自社の社員やインターン、モニターなどにレビューを書かせたものの、その身分や関係性を明記していないケースも典型的な違反リスクを含みます。
とくに、「あたかも外部の顧客の声であるように見せかけた投稿」は、消費者を欺く不当表示に該当し、企業名の公表や行政指導の対象となる可能性が極めて高いと考えるべきです。
6-4. 口コミ誘導とGoogleマイビジネスのガイドライン違反
Googleビジネスプロフィール(旧マイビジネス)では、「インセンティブと引き換えに口コミを集める行為」自体がガイドライン違反とされています。
これに違反すると、アカウント停止や口コミ削除といった措置を受けるおそれがあり、違法でなくとも「プラットフォーム上のペナルティ」が科される実務上のリスクがある点にも留意が必要です。
まとめ|リスクを見極めて、信頼される口コミ施策を
口コミは“好意の可視化”である一方、手法を誤ると信頼の毀損に直結します。
報酬や投稿誘導の有無によって、ステマ規制・景表法・プラットフォームルールの対象となり、違反すれば企業名の公表・課徴金・アカウント停止といった重大なリスクを招きかねません。
だからこそ、口コミ施策を設計・実行する際には、弁護士の関与によって法令遵守と透明性を確保した“安心して継続できる仕組み”を整えることが、企業にとって最も効果的なブランディング戦略となります。
まずはお気軽にご相談ください。
