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企業が知っておきたい悪質口コミと名誉毀損の実情とは?―判例・対処法を徹底解説

2025.04.08

企業の評判は売上や信用力にも大きく影響します。
しかし、インターネットの普及に伴って、SNSや口コミサイトへ“悪質な書き込み”をされ、名誉を傷つけられてしまうケースが増えています。
なかには実害が出るほどの深刻な名誉毀損に発展する事例もあり、早急に適切な法的対処が求められる場合もあります。

1. 【基礎】名誉毀損に該当する条件とポイント

名誉毀損とは、「事実を摘示または虚偽の情報を流布することで、被害者の社会的評価を低下させる行為」をいいます。
刑法上の名誉毀損罪として処罰対象になるケースと、民事上の不法行為責任として損害賠償や謝罪広告などが認められるケースとがあります。
名誉毀損が成立する一般的要件

  1. 特定の被害者が存在
  2. 発言や書き込みによって具体的に誰の評判が傷つけられたか明確であること。

  3. 社会的評価を低下させる内容
  4. 「●●社は詐欺をしている」「●●社の商品は不良品ばかり」など、事実か虚偽かを問わず、その評判を低下させるメッセージが含まれていること。

  5. 公然性
  6. 不特定多数または多数人が認識できる状況でその情報が伝播すること。
    SNSや口コミサイトへの書き込みは公然性を満たしやすいと言われます。

POINT:
名誉毀損は「事実の有無」を問わず、被害者の社会的評価を低下させる表現であれば成立の余地があります。
また、公共性や真実性などで違法性が阻却される場合もあり、実際の判断は個別事例に則して行われます。

2. インターネット上の口コミと名誉毀損の問題:特徴とリスク

近年では、Googleマップの口コミ欄やSNS、匿名掲示板、さらに業界特化型の評価サイトなど、企業や商品・サービスに対してユーザーが自由に書き込めるプラットフォームが増えました。
そこに書かれた情報が真実かどうかにかかわらず、「悪評」として一度拡散されると、企業活動に大きなダメージを与えることがあります。

  • 書き込みが匿名・偽名である
  • 投稿者の素性が不明であるため、反論や謝罪要求がしづらいのが特徴です。

  • 拡散スピードが早い
  • 一度バズると短時間で多くのユーザーへ拡散され、企業側の評判低下リスクが急速に高まります。

  • 投稿サイト運営会社の対応次第
  • 運営会社が削除要請を受け付けない場合、法的手続きに進む必要が出てきます。

名誉毀損的な投稿を放置しておくと、想定以上に企業のブランドイメージが毀損され、信用低下による取引先や顧客離れを引き起こすリスクが高まります。

3. 実務に役立つ名誉毀損関連の判例紹介

ここでは、企業に関連する名誉毀損事例として、実際の裁判例のポイントを簡単にまとめます。

3-1. 最高裁判所 平成9年9月5日判決(平成7年(オ)第1421号)

  • 事案概要:
  • ある企業の不正を暴露するという名目で、雑誌記事にて当該企業に対する批判記事が掲載された事件です。

  • 判決の要点:
  • 公共の利害に係る事項であっても、真実相当性が認められない場合、名誉毀損が成立すると判断されました。

  • 実務への示唆:
  • 公的関心事だとしても、裏付けのない「疑惑」だけでは、名誉毀損の違法性が阻却されない点が確認できます。

3-2. 東京地裁 平成26年9月18日判決(平成25年(ワ)第22409号)

  • 事案概要:
  • インターネット上の口コミ掲示板で「○○社は詐欺行為をしている」などと書き込みが行われ、当該企業の売上が落ち込んだとして損害賠償が争われました。

  • 判決の要点:
  • 書き込み内容に具体的根拠がなく、取引先などにも不安を与えたとして名誉毀損が認められ、損害賠償額が一定程度認容されました。

  • 実務への示唆:
  • 証拠によって「書き込みが原因で売上が下がった」ことの因果関係が示されれば、損害額の算定も可能であると示唆されます。

3-3. 大阪地裁 平成29年4月13日判決(平成28年(ワ)第7537号)

  • 事案概要:
  • Twitter(現:X)上での誹謗中傷により企業の名誉を毀損されたとして、投稿者の特定および損害賠償請求が行われたケース。

  • 判決の要点:
  • Twitterの運営会社に情報開示請求を行い、投稿者を特定した上で、違法性が認められた事例です。

  • 実務への示唆:
  • SNSにおける匿名投稿であっても、法的手続きにより発信者情報開示請求が認められれば損害賠償が認容される可能性があると再確認できる事例です。

4. 企業が取りうる法的手段:民事・刑事・仮処分など

企業が名誉毀損的な口コミ被害を受けた場合に取りうる法的手段として、以下のようなものがあります。

  1. 発信者情報開示請求(プロバイダ責任制限法)
  2. 誹謗中傷を行った投稿者を特定し、損害賠償等を求めるために利用されます。

  3. 民事訴訟による損害賠償請求
  4. 実際の被害額が立証できれば、賠償請求が認められることがあります。

  5. 刑事告訴(名誉毀損罪・侮辱罪)
  6. わざと企業の社会的評価を下げようと悪意をもって行った場合など、刑事事件として告訴が可能。

  7. 仮処分による投稿削除請求
  8. インターネット上の投稿が継続して企業の名誉を害している場合、裁判所に対し緊急性の高い措置(仮処分)を求めることで、速やかな削除を図ることができます。

民事・刑事いずれでも、書き込み者の素性や違法性の度合い・損害の程度など、具体的状況によって結果が大きく変わります。
特に刑事告訴に進むにはハードルがあるため、専門家の助力が必要となるケースが多いでしょう。

5. 口コミ投稿サイトの削除請求手続き:具体的な流れと注意点

悪質な書き込みが続いている場合、まずはサイトの運営元に対して「削除要請」を行います。削除要請の手順は一般的には以下の通りです。

  1. 投稿URLやスクリーンショットなどの証拠確保
  2. 後日の立証に備えて、日時・投稿内容が明確にわかるよう保存します。

  3. サイト運営会社への削除請求
  4. ホームページ上に削除申請フォームや問い合わせ先が載っている場合があるため、そちらから連絡。

  5. 削除対応の可否
  6. 運営会社によっては削除に応じてくれる場合もあるが、名誉毀損の違法性が明確でないと判断されると対応が遅れたり拒否されたりする可能性あり。

  7. 仮処分申立て
  8. 運営元が応じない場合は、裁判所へ仮処分を申し立て、削除を強制する方法を検討します。

削除請求は運営会社のガイドラインに従って行うのが最初のステップですが、審査が厳しく削除が却下される例もあります。
その際は早めに弁護士に相談し、仮処分の手続き等に進むかどうか検討しましょう。

6. Q&A:口コミトラブルと名誉毀損の対応に関するよくある質問

Q1. 書き込みが事実であっても名誉毀損になるのでしょうか?
A. 名誉毀損は、必ずしも“虚偽”だけではなく「真実でも公表されることで社会的評価が低下する」場合に成立する可能性があります。
ただし、真実性の有無や公共性・公益性の程度など、違法性が阻却されるかどうかが問題となり、個別に判断されます。
Q2. 削除請求や発信者情報開示請求にどのくらい時間がかかりますか?
A. 一般的に、削除請求は数週間~1か月程度かかることがあります。
もし運営会社が応じない場合、仮処分手続きに移行すると数か月程度かかるケースもあります。
発信者情報開示請求も同様に、プロバイダやSNS事業者とのやりとりに時間を要するでしょう。
Q3. 企業ではなく個人名で口コミされた場合も名誉毀損として対処できますか?
A. 可能です。
企業代表者個人に対する悪質な投稿であれば、個人の名誉毀損と認定されうるため、対処法は企業のケースとほぼ同様に進められます。

7. 名誉毀損が成立するための要件と反論の論点

名誉毀損が成立するためには前述のとおり、

  1. 被害者特定、
  2. 社会的評価の低下、
  3. 公然性

などが基本条件となります。
しかしながら、下記のように「公共の利害に関する事実」であり、真実と信じるに足る十分な理由があったという場合は、違法性が阻却されることがあります。
これを裏付けるのが、先述の最高裁判例(平成9年9月5日判決)で示された「公共性・公益性・真実性相当」の枠組みです。

  • 公共性 … 社会全般に利害のある事項
  • 公益目的 … 不正を正す公益目的で情報を伝える
  • 真実相当性 … 真実であると確信するだけの調査を尽くしている

こうした論点を満たす可能性がある場合、投稿者側から「名誉毀損ではない」「正当な批判である」と反論がなされることがあります。
一方で、この条件を満たせない書き込みは名誉毀損となる余地が高く、企業側は損害賠償請求や削除請求を通して被害回復を目指すことになるでしょう。

8. 名誉毀損における損害賠償請求:賠償額の目安と請求手順

名誉毀損によって企業が受けた被害について、裁判所により損害賠償が認められる可能性があります。
具体的な賠償額は、以下のような要素を総合的に考慮して判断されます。

  • 書き込みの内容と悪質性
  • 書き込みが行われた期間や拡散の程度
  • 企業の規模や損害の深刻度(売上減少の有無など)
  • 書き込み者の故意・過失の程度

損害賠償請求の手順

  1. 証拠収集 … 被害の因果関係を示す資料、スクリーンショット、売上減少を示すデータなど
  2. 内容証明郵便などで交渉 … 示談または謝罪要求
  3. 提訴(民事訴訟) … 調停・和解を経ても解決しない場合は訴訟へ

注意: 実際の賠償額は数十万~数百万円程度が多く、企業の信用失墜による損害全てが認容されるとは限りません。
ただし、特に悪質なケースでは高額化の可能性もあります。

9. 刑事告訴を検討する場合の流れ:告訴状作成から捜査開始まで

企業が被害者として刑事告訴を行うケースもあります。
名誉毀損罪・侮辱罪・威力業務妨害罪など、書き込みの態様によっては刑事事件として立件されることがあるためです。
刑事告訴をする場合の大まかな流れは下記の通りです。

  1. 告訴状の作成 … 事実関係を整理し、被疑者が誰なのかを特定または特定可能性を示す。
  2. 警察または検察庁への提出 … 犯罪の事実を主張し、捜査を依頼。
  3. 捜査の開始 … 警察が立件に足ると判断すれば捜査が行われる。
  4. 書類送検→起訴・不起訴判断 … 検察が最終判断を下す。

刑事事件として取り扱うには、ただ名誉が毀損されたというだけでなく、社会的影響や犯意の悪質性などを説得力ある形で示す必要がありますので、早い段階で弁護士に相談の上で進めることをお勧めします。

10. 悪質口コミを放置するリスク:評判低下・信用不安・売上減少

企業にとって、評判は取引先や顧客との信頼関係を維持する上で非常に重要です。
悪質な口コミを放置すれば、例えば以下のような悪影響が想定されます。

  • 既存顧客の離反 … 口コミを目にした顧客が不安になり、継続利用をやめる。
  • 新規顧客獲得の阻害 … ネット検索時に悪評が上位表示され、問い合わせ数や契約率が大きく減少。
  • 取引先への不信感 … 協力会社や金融機関など外部ステークホルダーが取引リスクを懸念して距離を置く。
  • 社内風評・従業員士気への悪影響 … 社外だけでなく、社員が口コミを見て動揺したり、離職を検討したりするケースもある。

口コミが1~2件だけだからと放置すると、いつの間にか“火”が大きくなり、取り返しがつかなくなる可能性があります。
早期発見・早期対処が肝要です。

11. 被害状況を正しく把握するための証拠収集ノウハウ

名誉毀損対応を進める上では、「いつ・どこで・どのように書き込まれたか」を示す証拠の保全が不可欠です。
以下のような方法で証拠を収集・保全します。

  1. スクリーンショット(日時がわかる形で保存)
  2. パソコンの場合はプリントスクリーン、スマホの場合は端末機能を使うなど。

  3. URLのコピー・ウェブ魚拓など
  4. 特定のサイトにおける投稿ページのURLを記録し、魚拓サービスなどでアーカイブを取得。

  5. 売上や契約の減少がわかる数値資料
  6. 書き込み以降に売上が急落している場合、そのグラフや経理資料を活用。

  7. 社内外とのメール・チャットログ
  8. 口コミに関連して顧客や取引先が不安を表明したやりとりなども有力な証拠となる場合があります。

12. 名誉毀損トラブルを防ぐために企業ができる取り組み

法的手続きによる対処も重要ですが、そもそも悪質な口コミや名誉毀損トラブルが生じにくい企業文化を構築することも有効です。
以下のような取り組みを日頃から行っておくと、炎上リスクを低減できます。

  • 顧客満足度の向上と迅速なクレーム対応
  • 企業へのクレームが適切に処理されず不満が蓄積すると、ネット上での悪評につながりやすいです。
    問い合わせ体制の強化やクレーム対応マニュアルの整備は、結果的に口コミ被害を減らすことに貢献します。

  • 社内ガイドラインの策定
  • 社員がSNSを使用する際の行動指針、顧客情報の取り扱いなどを明文化し、不要なトラブルを未然に防止します。

  • 定期的なモニタリング
  • 自社や自社商品のキーワードを定期的に検索し、炎上が起きかけていないかチェックを行う。
    早期発見により、迅速な対応が可能となります。

  • 外部セミナーや専門家との連携
  • ネットリテラシーやリスク管理の専門家を招き、社内研修を行うとともに、万が一問題が起きた際には弁護士やITセキュリティ企業などと連携をとりやすい体制を整えておくとよいでしょう。

企業側の運用体制が脆弱であるほど、悪質口コミに対する迅速かつ適切な対応が難しくなります。
事後対応だけでなく予防的施策も合わせて検討するのが理想です。

13. 弁護士への相談メリット:専門家の知見を活かした最適な対策

最後に、悪質な口コミや名誉毀損トラブルに直面した企業が弁護士に相談する利点を確認しておきましょう。
名誉毀損は法的に複雑な要素を含むため、専門家のサポートはきわめて重要です。

  1. 手続きの代理・交渉を任せられる
  2. 削除要請や発信者情報開示請求、仮処分などの手続きにおいて、弁護士が企業を代理して交渉・申請を行います。
    法律の専門知識に基づいた文書作成や手続き対応はスムーズです。

  3. 損害立証や戦略的な対応方針の立案
  4. 企業が受けた金銭的・信用的損害をどのように立証するかは難易度が高い領域です。
    弁護士が過去の事例や裁判例を踏まえ、適切な方針を提示します。

  5. 外部専門家との連携
  6. 必要に応じてITセキュリティ企業や調査会社、さらには税理士や社労士などとの連携が求められるケースもあります。
    弁護士を介して総合的な協力体制を構築できるため、迅速な問題解決が期待できます。

  7. トラブル防止のアドバイス
  8. 今後の再発防止策やリスク管理の仕組みづくりにも、弁護士がアドバイスを行うことで、企業のコンプライアンス水準を高められます。

14. 本コラムのまとめ:口コミ対策と名誉毀損の正しい理解が企業を守る

名誉毀損は単なる誹謗中傷では終わらず、企業の社会的評価を大きく損なうリスクがあるため、放置せずに早期の法的対処や社内体制整備を行うことが重要です。

  • インターネット時代は拡散スピードが非常に早く、一度悪評が広がると修復に大きな労力が必要。
  • 適切な証拠保全や発信者情報開示請求、損害賠償請求など、法律に基づいた対応が功を奏する場合が多い。
  • 口コミや名誉毀損対応には弁護士やITセキュリティ専門家のサポートが効果的。

もし悪質な口コミを書き込まれている、もしくはその可能性があると感じた場合は、早期に弁護士へ相談し、被害を最小限にとどめる方策を検討してください。

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