スタートアップ企業がアイデアや技術を形にし、ビジネスとして大きく成長していくためには、ある程度のスピード感と資金が必要になりますが、創業間もない時期は自己資金や売上だけでは、開発・人材・マーケティングにかかるコストをまかないきれないという現実があります。
本記事では、スタートアップが検討すべき代表的な資金調達方法を10種類以上ご紹介するとともに、それぞれのメリット・デメリットや、法務・税務面での注意点を、弁護士・税理士の専門的な視点から実務的にわかりやすく解説します。
もくじ
1. スタートアップにとって資金調達が重要な理由
1-1. 自己資金だけでは限界があるスタートアップの現実
創業初期のスタートアップにとって、自己資金だけで会社を回すには限界があります。 特に以下のような場面では、多額の資金が必要になってきます。
- MVP(Minimum Viable Product)やβ版の開発
- エンジニアやマーケター等の初期人材採用
- LP制作や広告出稿などの初期マーケティング施策
- 商標登録、顧問契約、インフラ導入などの初期法務・管理コスト
自己資金や創業メンバーの貯金だけでこれらすべてをまかなうことは、現実的ではありません。
そのため、外部からの資金調達を「どの手段で、いつ、どの規模で行うか」をあらかじめ計画的に設計することが重要といえます。
1-2. 調達のタイミングと企業成長ステージの関係
スタートアップの成長段階は、一般的に以下のようなステージに分類されます。
| ステージ | 概要 | 主な調達手段 |
|---|---|---|
| シード期 | 創業直後、事業アイデア検証段階 | 自己資金、FFF、補助金、エンジェル投資家 |
| アーリー期 | MVP開発、初期ユーザー獲得期 | VC出資、クラファン、日本政策金融公庫 |
| ミドル期 | 顧客・売上の拡大期 | VC、第三者割当増資、銀行融資 |
| レイター期 | 事業モデル確立・スケール期 | 銀行融資、IPO準備、M&A活用 |
このように、成長段階ごとに適した資金調達手段が異なるため、「今の会社がどの段階にあるか」を正しく把握したうえで資金調達の方針を立てる必要があります。
1-3. 調達手段によって「経営の自由度」はどう変わるか
資金調達の手段を選ぶ際には、資金を得る代わりに企業としてどのような責任や条件を受け入れることになるのかを正しく理解しておくことが重要です。以下、手段によってどのような違いが出るのか、代表的なものを記載しています。
出資型(株式・投資)
返済義務はありませんが、持株比率が変動し、経営権や議決権に影響を与える可能性があります。
融資型(借入)
原則として返済義務があり、利息や財務制限条項(コベナンツ)に従う必要がありますが、株式の希薄化は起こりません。
補助金・助成金
返済不要ですが、申請・報告義務が重く、資金使途も限定されるケースが多いです。
クラウドファンディング
プロモーション効果がある反面、成果未達時の批判や納期遅延の対応など、対外的リスク管理も必要です。
このように、調達方法ごとに受ける影響が異なるため、資金調達の手段を「自社の事業モデルや成長フェーズに合っているか」という視点から選ぶことが非常に重要です。
仮に自社に適していない資金調達手段を選んでしまうと、後になって経営上の制約が大きくなったり、意図せず経営権に影響を及ぼしたりすることもあります。単に資金を集められたらよいという観点ではなく、今後の経営戦略も加味したうえで全体像を見据えた選択が求められます。
2. 資金調達の方法10選|成長段階別の選択肢を整理
2-1. 創業期に活用しやすい資金調達手段
自己資金/家族・知人からの借入(FFF資金)
最も初歩的な資金源は、創業者自身の自己資金と、家族・友人・知人からの借入です。英語圏では、FFF(Family, Friends, and Fools)とも呼ばれ、信頼関係に基づいた資金供与を意味します。 メリットは迅速な資金調達が可能なこと、デメリットは返済条件が曖昧になりがちで後のトラブルの原因となりやすい点です。借用書や契約書の取り交わしを怠らないようにしましょう。
日本政策金融公庫/自治体の制度融資
無担保・無保証での融資が受けられる数少ない公的制度です。創業計画書や面談審査が求められますが、金融機関よりも柔軟な審査が行われるため、創業期に活用されることが多いです。 一方で、信用保証協会の保証付き融資には経営者保証を求められることもあり、経営者保証により「会社の失敗=経営者の自己破産」という最悪の事態も現実的に起こり得るため、将来の資金繰りや事業計画を十分に見据えたうえで契約内容を慎重に確認する必要があります。
補助金・助成金(創業補助金・IT導入補助金など)
返済不要で活用できる資金として非常に有効ですが、実績報告書や証憑類の提出、定められたスケジュールに沿った進行管理など、一定の事務作業・管理体制が求められる点にも留意が必要です。また、補助金は採択率が低いことに加え、実際に事業を実施・支出した後に交付される事後精算型が一般的であることから、事前の資金繰りに注意が必要です。
2-2. 初期プロダクト開発や事業化フェーズの手段
ベンチャーキャピタル(VC)からの出資
スタートアップにとって、ベンチャーキャピタル(VC)からの出資は、成長資金を一気に調達する手段のひとつです。 VCは、将来のIPO(新規上場)やM&Aによるリターンを見据えて、成長可能性の高い企業に対して数百万円〜数億円単位で出資を行います。
メリット
・高額な資金調達が可能
・VCの持つネットワークや経営支援を受けられる
・信頼性が高まり、次のラウンド調達や採用にも好影響
デメリット/注意点
・株式の一部を渡す必要がある(持株比率の希薄化)
・経営への干渉(経営資料の共有・定期報告・投資契約上の義務など)
・投資契約の内容(拒否権・優先株・ドラッグアロングなど)を慎重に精査すべき
投資契約は法的にも複雑かつ交渉色の強い文書になるため、必ず弁護士に相談のうえで締結すべきです。
エンジェル投資家からの出資
エンジェル投資家とは、個人でスタートアップに投資を行う富裕層・経営者などを指します。 VCと異なり、柔軟でスピーディな対応が多く、創業直後の「シードラウンド」で出資を受けるケースが増加しています。
メリット
・金額は小さめでもスピーディな資金調達が可能
・出資者が同業界出身であればメンタリングや事業支援も受けられる
デメリット/注意点
・投資契約書が形式的であいまいなことがある(口約束に注意)
・投資家との距離感が近すぎると、意思決定に悪影響を及ぼすケースも
・税制優遇(エンジェル税制)の適用には手続きが必要
出資内容は少額であっても、株主としての立場を持つ点はVCと同様のため、資本政策や議決権の設計には注意しましょう。
クラウドファンディング(購入型・投資型)
近年注目されているのが、クラウドファンディングを活用した資金調達です。プロダクト開発前の段階で、将来提供する商品・サービスをリターンとして提示し、不特定多数の支援者から資金を募る方法です。
購入型
Makuake、CAMPFIREなど
投資型
FUNDINNO、イークラウドなど
メリット
・商品の需要を事前にテストできる(マーケティング兼調達)
・資金だけでなくファンや共感者の獲得につながる
・購入型の場合は基本的に出資ではないため、経営権への影響がない
デメリット/注意点
・プロジェクト内容や動画などの準備負担が大きい
・リターンの遅延やキャンセル対応など、プロジェクト運営責任は重い
・投資型の場合は金融商品取引法上の規制があるため、弁護士等のサポートが望ましい
2-3. スケールアップ・シリーズA以降に検討する手段
金融機関からのプロパー融資・信用保証付き融資
売上や収益モデルがある程度固まってくると、民間の金融機関からの融資(プロパー融資)が可能になります。 信用保証協会の保証付き融資であれば、借入のハードルも下がります。
メリット
・経営権に影響を与えず資金調達ができる(非希薄化)
・融資実績ができることで、次回以降の資金調達がしやすくなる
注意点
・経営者個人の連帯保証を求められるケースがある(→個人資産への影響)
・金融機関ごとに審査基準や支店対応に差がある
・資金使途・財務状況について試算表の提出を含め継続的な説明責任が生じる
資本性ローン(劣後ローン)
資本性ローンとは、融資でありながら、一定の条件を満たせば「自己資本」として評価される特別な借入形態です。 日本政策金融公庫や一部の地方銀行で取り扱いがあります。
メリット
・財務上は資本として評価されるため、次の融資審査が有利に
・無担保・無保証でも調達できる場合がある
デメリット/注意点
・金利が高めに設定される傾向がある
・元金は一括返済となるため場合によっては将来的な資金繰りリスクがある
種類株式/新株予約権による資金調達
スタートアップでは、議決権・配当・残余財産分配などの条件を変更できる「種類株式」や、将来の株式取得権を付与する「新株予約権(ストックオプション)」を使って柔軟な資金調達を行うことが増えています。
メリット
・経営者の議決権比率の希薄化を抑えやすい
・新株予約権の場合は予約権の段階では発行済株式総数が増えないため持株比率を維持できる
・出資者のニーズ(優先配当・参加権など)に合わせた設計が可能
デメリット/注意点
・資本政策が複雑化し、次回以降の資金調達やM&Aの障害になる可能性がある
・複数の株主や投資家に異なる株式種類や権利を持たせると、株主間の利害調整が難しくなる
第三者割当増資
信頼できる出資者(VC・事業会社・個人投資家など)を対象に新株を発行し、資本を増やす方法です。会社法に基づく正規の株式発行手続きとして、出資の実行と同時に株主が確定し、資金も一括で払い込まれるため、早期の資本強化や戦略的提携を図るうえで非常に効果的な方法です。
メリット
・(無償型)新株予約権と異なり即時の資金調達が可能
・自己資本比率が向上することで、銀行融資などでも活かせる
デメリット/注意点
・持株比率の変動により、経営権が分散するおそれ
3. 出資型の資金調達における法的ポイント
3-1. 出資契約における投資家との交渉の注意点
出資型の資金調達では、企業と出資者の間で契約内容を明確にしておくことが不可欠です。契約時には以下のような条項を双方ですり合わせの上で締結をすることが一般的です。
- 株主間契約(株式譲渡制限、拒否権、優先交渉権など)
- 表明保証(創業者による情報の正確性の保証)
- ドラッグアロング/タグアロング(売却に関する権利)
- 希薄化防止条項(価格調整など)
契約条項の設計の仕方によっては将来的な経営権に大きな影響を及ぼす場合がありますので、弁護士によるリーガルチェックと必要に応じた交渉支援を受けながら進めることが望ましいでしょう。
3-2. 株式発行・新株予約権発行時の登記と法的手続き
出資型の資金調達を実行する際には、株式や新株予約権の発行手続きと、それに伴う法的手続き・登記対応が必須となります。例として、第三者割当増資を行う場合は、以下のような株式発行・登記手続が必要です。
- 株主総会(または取締役会)による新株発行決議
- 募集事項の決定(発行価格、払込期日、割当先、株式の種類など)
- 株式申込書の受領、払込手続きの完了
- 増資に関する登記申請(資本金の額、株式の発行数等)
- 株主名簿や株主総会議事録の整備
新株予約権(ストックオプション含む)を発行する場合も、同様に株主総会決議、取締役会決議、割当、登記の手順が必要です。
3-3. 出資に伴う議決権・拒否権などの株主条件設定
スタートアップが出資を受け入れる際、資金を得ることと同時に、出資者の「経営関与の度合い」についても調整する必要があります。 これは、株式の種類や契約上の条件(株主間契約・投資契約など)を通じて整理されます。
よく設けられる主な出資条件の例は以下のとおりです。
| 条項 | 概要 |
|---|---|
| 拒否権(Veto Rights) | 一定の重要事項(M&A、増資、役員交代等)に対する出資者の承諾権 |
| 優先配当・残余財産分配権 | 普通株よりも優先して配当や清算時の分配を受ける権利 |
| 取得条項・転換条項 | ある条件で株式を買い戻す、または他の種類株式へ自動的に転換される仕組み |
| 希薄化防止条項 | 将来の増資等によって出資者の持分割合が下がるのを防ぐ条項(価格調整など) |
| ドラッグアロング・タグアロング | 売却時の株主売却義務・同伴売却権(Exit戦略に備える) |
実務的な設計判断で重要なポイント
経営者がどこまで出資者の関与を許容するか
→ 特に拒否権を認める場合は、対象となる議案を最小限に限定(例:M&A、事業譲渡など)
IPOやM&Aなど将来的な“出口”に影響を与えるか
→ 転換条項や取得条項の発動条件を明確に定めておく
→ Drag Along(強制売却)/Tag Along(同伴売却)との整合性に注意
誰が議決権をどの程度持ち、誰が意思決定を支配するか
→ 普通株と優先株の配分、議決権比率と持株比率の乖離に注意
→ 株主総会だけでなく、取締役会構成の設計も併せて検討
条件設計時によくある懸念点と対処法
「少額の出資なのに拒否権を要求される」
→ 金額と権限が見合っていない場合は明確に交渉をした方がよいでしょう。「株式上の権限は制限されているが、契約上では強い権限を持っている」という構造は、実務上よく見られるものの、経営判断の柔軟性を損なうリスクがあるため、注意が必要です。
「Exit時に少数株主が売却に応じないことで100%買収が妨げられる」
→創業者や投資家が合意していても、株主全員の合意が取れないことにより、株式譲渡が進められず、IPOやM&Aの妨げになるリスクがあります。実務ではこれを防ぐために、一定数以上の株主が売却に同意すれば、他の株主にも売却を義務づけられる“ドラッグアロング条項(Drag Along)”を、あらかじめ投資契約や株主間契約に盛り込むのが一般的です。
「契約書に定義されていない“暗黙の期待”が残ってしまいトラブルに」
→ 「定期的な事業報告をしてもらえると思っていた」「取締役会には当然参加できると思っていた」といった出資者側の期待と、経営側の理解が食い違っていたという事例は少なくありません。こうした齟齬を避けるためには、事業報告の頻度・内容、取締役の指名権・参加権、特定の業務への関与範囲などを、事前に株主間契約や投資契約に明記しておくことが望ましいでしょう。
3-4. コンバーティブルエクイティやSAFE型の設計注意点
近年、日本でもSAFE(Simple Agreement for Future Equity)やコンバーティブルエクイティといった、「将来の資本化を前提とした柔軟な出資手法」が注目されています。 これらは「出資はするが、今は株式を取得しない。将来、一定の条件で株式に転換する」という形をとるものです。
主な特徴
- 将来の資金調達時(または期限到来時)に、一定の条件で株式へ転換される
- 出資額に応じた転換条件・評価額のディスカウント条項等が設計可能
注意すべきポイント
- 契約書が法的に未整備なケースもあり、会社法・税法との整合性が不十分だと後にトラブルになる可能性がある
- 「現時点で株主でない」ために、出資者の期待と企業側の認識にズレが生じやすい
- 将来の転換条件(例:評価額上限・優先株転換条件)をあいまいにすると、次回ラウンドでの資本政策が崩れるリスク
SAFEはシンプルでスピーディな出資を可能にする半面、慎重な契約設計と税務・法務の多面的な検討が必須です。
特に日本国内ではまだ法的な慣例が完全には整っていない部分もあるため、専門家の関与がないまま導入することは避けるべきといえます。
4. 補助金・助成金を活用する際のポイント
4-1. 代表的な創業系補助金・支援制度の概要
創業初期のスタートアップにおいて活用しやすい補助金には、以下のようなものがあります。
小規模事業者持続化補助金
販路開拓や広報費用等に活用可
事業再構築補助金
ビジネスモデル転換・DX推進時の設備投資支援
IT導入補助金
クラウドサービス・ソフトウェア導入等への補助
創業促進補助金(自治体独自)
開業資金や設備購入費などに対する補助
制度によっては、補助率(2/3など)や上限額、申請枠が異なるため、事前に最新情報を確認し、採択されやすい事業計画の作成が鍵となります。
4-2. 採択率を高めるための事業計画の作り方
補助金の申請においては、単に条件を満たしているだけでなく、審査側が「支援する意義がある」と感じる内容になっているかどうかが採択を大きく左右します。
採択率に影響するポイント
- 課題→解決策→事業効果のストーリーが一貫しているか
- 定量的なKPI(売上増加率・顧客数など)が具体的に記載されているか
- 補助対象経費が事業の中核に直結していることを証明できるか
- 他社との差別化・独自性・革新性があるか
- 予算計画が現実的かつ整合性があるか(過剰見積になっていないか)
採択される企業は、単にアイデアが面白いだけではなく、「成果に結びつく再現性の高い投資計画」を明確に描いているケースが多いです。
5. 資金調達と会社形態・株式設計の関係
5-1. 株式会社・合同会社のどちらを選ぶべきか
創業初期の法人形態として、「株式会社」と「合同会社(LLC)」のどちらを選ぶかは、資金調達戦略にも影響を及ぼします。
| 観点 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 出資者の受け入れ | 複数の株主を受け入れやすい(株式による持分分配) | 持分会社であり、出資と経営が原則一致する |
| 資金調達手段 | 株式発行、新株予約権、第三者割当増資など多様 | 持分譲渡・増資が煩雑。VC・投資家受け入れに不向き |
| 社会的信用 | 高い(上場も可能) | やや低いと見られることもある(銀行・取引先) |
| 設立・維持コスト | 登記費用・公告義務あり(やや高め) | 低コスト。維持も簡易(公告義務なし) |
初期は合同会社でスタートし、VCからの出資を受けるタイミングで株式会社へ組織変更するケースもありますが、あらかじめ将来的に外部資本を受け入れる可能性があるのであれば、最初から株式会社で設計する方がスムーズです。
5-2. ストックオプションや従業員持株制度との関係
スタートアップでは、創業期から優秀な人材を確保するためにストックオプション(SO)や従業員持株制度を導入するケースが増えています。
ストックオプション(SO)のメリットと注意点
SOとは、将来あらかじめ定められた価格で自社株式を取得できる権利を従業員に付与する制度です。
メリット
・給与としてのコストを抑えながら、将来的な利益獲得の期待でモチベーションを維持できる
・IPOやM&AなどのExit時に、権利行使→売却によるキャピタルゲインを得られる
・発行時点では株主ではないため、経営権や株主構成にすぐ影響を及ぼさない
注意点
・行使時の株式評価額によっては課税(所得税)が発生する
・他の種類株式や投資契約と整合性をとっておかないと、将来的な資本政策に影響が出る
・行使条件(退職後の取扱い等)を明確にしておく必要がある
従業員持株制度の概要と導入時のポイント
一方、従業員持株制度とは、従業員が給与天引きなどで定期的に自社株式を購入し、実際の株主になる制度です。
主に中堅・大企業で導入例が多いものの、スタートアップでも一定のフェーズにおいて採用されることがあります。
特徴
・ストックオプションと異なり、購入時点で株主となり議決権を持つ
・社員のエンゲージメントや当事者意識を強化する効果がある
・割当株数や取得価格を社内ルールで明確化でき、定期的・計画的に導入可能
導入時の留意点
・少数株主が増えることで、株主総会運営やガバナンス設計が複雑になるリスク
・株式評価額の変動により、従業員にとって損失リスクが生じる可能性
・組織変更やExit(M&A)時の株式整理が煩雑になりやすいため、中長期の資本政策との整合性が必須
スタートアップにおいては、創業初期はストックオプションを中心に設計し、一定規模・安定フェーズに入ってから従業員持株制度を検討するという段階的な導入が現実的です。
いずれの制度も、税務・会計・ガバナンス・資本政策に密接に関わるため、設計段階から専門家と連携して進めることが望まれます。
6. 資金調達に関する税務リスクと会計処理のポイント
6-1. 出資と借入の税務処理の違い
スタートアップが外部から資金を調達する際、その資金が「出資(資本)」なのか「借入(負債)」なのかによって、税務上の取扱いは大きく異なります。
| 区分 | 出資(増資) | 借入(融資) |
|---|---|---|
| 資金の性質 | 資本(返済義務なし) | 負債(返済義務あり) |
| 調達時の税務影響 | 原則なし | 受け取っても収益にはならない |
| 利息支払の取扱い | なし | 支払利息は損金算入可能(一定の制限あり) |
| 元本返済の取扱い | 返済なし | 元本返済は税務上の損金とはならない |
特に注意が必要なのは、利息支払が損金算入されることで節税効果が得られる一方、過剰な借入は利子制限税制等の適用対象になる点です。また、出資金を「売上」や「雑収入」として誤って処理してしまうと、課税対象になってしまうので、会計処理と税務申告の整合性が求められます。
なお、出資金を受けた場合、そのうちの半額までを「資本準備金」として区分計上することが可能です。
たとえば、1000万円の出資を受けた場合。
資本金
500万円
資本準備金
500万円
このように処理することで、資本金を抑えつつ、資本準備金として内部留保を蓄積できる設計が可能となります。
ただし、資本金が一定額を超えると、法人住民税の均等割額が上がるなどの影響があるため、こちらも税理士に相談の上で税務と資本政策を両立させた会計処理を進めるようにしてください。
6-2. エンジェル税制の適用と手続き
エンジェル投資家からの出資を受ける際、一定の条件を満たすと投資家側に税制優遇(所得控除や株式譲渡益の非課税)が与えられる制度が「エンジェル税制」です。
この制度の活用は、スタートアップ側にとっても以下のようなメリットがあります。
- 投資家がリスクを取りやすくなり、出資を受けやすくなる
- 条件を満たすことで、“優遇対象スタートアップ”として評価されやすくなる
ただし、適用には以下のような手続きと要件があります。
- 対象会社であることの認定(経済産業局への申請)
- 投資前に「確認書類」の取得が必要(出資後では遅い)
- 使途や期間、雇用創出要件など、制度設計と事業内容の整合性が求められる
導入前に税理士・行政書士との連携が不可欠であり、資金調達計画段階から適用可否を検討しておくことが望まれます
6-3. 税務署からの調査リスクと準備事項
資金調達後の資金使途や会計処理が適正でない場合、税務調査時に「使途不明金」「貸付金処理」「役員報酬の変動」等が指摘されるリスクがあります。
特に留意すべきポイント
- 調達資金が代表者やグループ会社への貸付に流用されていないか
- 出資金や補助金を事業に使わず、個人資産の形成に使っていないか
- 社員に対する高額なストックオプション等が時価評価されているか
資金調達後は、計画的な使途管理・会計処理・議事録整備を怠らないことが、後の調査対応の備えになります。
7. スタートアップ企業の資金調達に関連するよくある質問(FAQ)
Q1. 複数の資金調達方法を併用することは可能ですか?
はい、可能です。むしろスタートアップでは、成長ステージに応じて出資・融資・補助金などを組み合わせて活用することが一般的です。 たとえば、初期は補助金+公的融資、アーリー期にはエンジェル投資家からの出資、スケール段階ではVC+銀行融資など、フェーズごとに資金調達戦略を柔軟に変化させることが重要です。
Q2. 出資を受けた場合、役員として投資家を入れるべきですか?
必ずしも役員に入れる必要はありません。出資と取締役就任は法的には別問題です。 ただし、出資者が経営監視や意思決定に関与したいと希望する場合、役員就任の代わりに契約上の情報提供義務やオブザーバー参加条項を設定することで調整することも可能です。 投資額や出資者の信頼度に応じて、どこまで経営に参画させるかのバランスを契約設計で整理することが大切です。
Q3. スタートアップ設立後すぐにVCから出資を受けるのは現実的ですか?
ごく一部の例外(シリアルアントレプレナーや特許・技術を有する場合)を除き、設立直後の無実績段階ではVC投資を受けるのは非常に難しいのが現実です。 通常は、自己資金・補助金・少額の融資で最小限のMVP(最小限の事業検証)を行い、初期実績を積んだうえで、シード〜アーリーラウンドの出資を狙うのが一般的です。
Q4. 資金調達のたびに株主が増えていくと管理が大変ではないですか?
はい、株主の人数が増えるほど、株主総会の招集、決議、登記、意思決定の調整が煩雑になるリスクは高まります。 これを避けるために、以下のような対策が考えられます。
- 種類株式を使って、出資者の議決権を制限
- 株主間契約で意思決定ルールを事前に整理
- 役員による持株会や投資事業組合(ファンド)経由での受け入れ
法務的な管理体制を整えておけば、株主が増えても意思決定のスピードを維持することは可能です。
Q5. 株式の評価額(バリュエーション)は誰がどうやって決めるのですか?
非上場企業の株式には市場価格がないため、バリュエーションは出資者との交渉によって合意形成されるのが通常です。 その際、売上・利益・成長性・経営者の実績・競合比較・市場動向などを総合的に考慮したうえで、プレマネー(出資前の時価評価)を算出し、そこに出資金額を加えたポストマネーから出資比率が計算されます。
なお、税務やストックオプション発行時には別の評価基準(DCF法、類似業種比準法等)を用いる必要があるため、目的ごとに評価方法を使い分ける必要があります。
8. 当事務所のサポート内容:弁護士・税理士が支援するスタートアップ向け調達支援
当事務所グループは、弁護士法人・税理士法人・社労士法人・行政書士法人と複数の士業法人で構成されており、資金調達にまつわる「法務」「税務」「人事労務」「行政手続」までを総合的にサポートしております。
スタートアップの調達フェーズや将来のビジョンに応じて、資金調達スキームの設計から契約交渉、DD、IPOを含めた資金調達後の中長期的な支援まで包括的にご対応可能です。
主な支援内容
- 株式発行・新株予約権発行・SAFE契約の比較と設計
- 出資契約・融資契約・株主間契約のリーガルレビュー
- ストックオプション制度や種類株式の導入設計
- Exit(M&A/IPO)を見据えたガバナンス構築支援
- 助成金等での資金調達支援
- IPO/M&Aに向けた法務・税務デューデリジェンス体制構築
- 株式発行にかかる登記申請 など
これから起業を予定されている方、資金調達をご検討中の方は、まずは一度ご相談ください。
