お役立ちコラム

ベンチャー企業がストックオプションを活用するメリット|制度設計のポイントと注意点を解説

2025.03.09

ストックオプションは、資金力が限られるベンチャー企業にとって、有能な人材を確保し、モチベーションを高める有効な手段です。
しかし、適切に設計しなければ、税制上の不利益や人材流出リスクにつながる可能性もあります。
本記事では、ストックオプションの基本から導入のメリット・デメリット、制度設計のポイントまで詳しく解説します。
なお、令和6年度改正に伴い、税制適格要件や行使期間、年間行使額の算定方法など一部改正事項がございますので、ご注意ください。

もくじ

1. ストックオプションとは?

ストックオプションの基本的な仕組み

ストックオプションとは、企業が特定の従業員や役員に対し、あらかじめ定められた価格で自社株を取得できる権利を付与する制度です。
付与された従業員は、一定期間後に株式を取得し、その後、株価が上昇すれば売却することで利益を得られます。
この仕組みは、企業と従業員の利益を一致させ、企業の成長とともに従業員も報酬を得るインセンティブとして機能します。

ベンチャー企業が導入する意義

創業初期のベンチャー企業では、十分なキャッシュフローを確保できず、高額な現金報酬の支払いが困難な場合が多いです。
ストックオプションを活用することで、企業の成長に連動した将来的なリターンを従業員に提供でき、人材の確保と定着を促進します。
また、企業価値が上昇すれば、外部投資家からの評価向上にも寄与します。

新株予約権との違い

ストックオプションは「新株予約権」の一種ですが、以下の点で区別されます。

・新株予約権:第三者にも発行可能で、投資家や取引先に対して付与されるケースもあります。

・ストックオプション:主に従業員や役員に付与され、労務提供の対価として与えられるため、一定の税制優遇措置が適用される場合があります(詳細は後述)。

2. ストックオプションのメリット

2-1. 人材確保と定着率向上

優秀な人材の確保は、企業成長にとって不可欠です。
特に創業初期の企業では、給与面での競争力が不足しがちですが、ストックオプションにより企業成長に連動したリターンを提供することで、従業員の定着率やモチベーション向上に寄与します。

2-2. 経営者と従業員の利益を一致させる

ストックオプションは、企業の業績向上と従業員の利益が一致する仕組みです。
従業員がオプションを行使して利益を得ることで、企業の株価上昇や業績改善に対するコミットメントが高まります。

2-3. 現金流出を抑えながら報酬を提供できる

キャッシュフローが限られるベンチャー企業において、ストックオプションは現金支出を伴わずに報酬制度を構築できるため、財務負担を軽減しながらも、魅力的なインセンティブを提供する手段として有効です。

2-4. 企業価値向上と投資家からの評価

効果的なストックオプションの運用は、企業価値の向上に直結します。
従業員の成長意欲と業績向上が連動することで、外部投資家からの評価も高まり、結果として企業全体の成長戦略の一環となります。

3. ストックオプションの種類と特徴

3-1. 税制適格ストックオプションと非適格ストックオプション

【税制適格ストックオプション】

一定の条件を満たすことで、権利行使時の課税が譲渡時まで先送りされ、キャピタルゲイン課税(約20%)が適用されるメリットがあります。

<税制適格ストックオプション要件一覧>

項目 内容
付与対象者の範囲 会社及びその子会社の取締役、執行役及び使用人
一定の要件を満たす社外高度人材(大口株主及び特別関係者を除く)
※令和6年度改正:社外高度人材の範囲を拡充
権利行使期間 付与決議日後2年を経過した日から付与決議日後10年を経過する日まで
※令和5年度改正:設立日以後の期間が5年未満の非上場会社は、15年まで
権利行使価額 契約締結時の株式の価額相当額以上
権利行使限度額 権利行使価額の年間合計額が1,200万円を超えない
※令和6年度改正:
・設立日以後5年未満の場合:権利行使価額÷2
・設立日以後5年以上20年未満かつ、非上場または上場後5年未満の場合:権利行使価額÷3
譲渡制限 譲渡禁止
発行形態 無償であること
株式の交付 会社法238条1項に定める事項に反しないこと
株式の管理 行使により取得する株式について、金融商品取引業者等の振替口座簿への記載又は記録、または保管の委託・管理等信託がされること
※令和6年度改正:譲渡制限株式については、株式会社による管理でも可
令和6年度改正の主な変更点:

・行使期間の変更
従来は付与決議日後2年経過から10年以内の行使が必要でしたが、改正により、企業の設立期間等に応じた柔軟な設定が可能となりました。

・年間行使額の算定方法の見直し
従来は年間1,200万円以下の基準でしたが、改正後は以下のように計算されます。

条件 算定方法
付与決議日で設立後5年未満の場合 権利行使価額を2で除して計算
付与決議日で設立後5年以上20年未満、かつ非上場会社または上場会社で上場後5年未満の場合 権利行使価額を3で除して計算

・記録・管理の強化
譲渡制限株式として、金融商品取引業者等の振替口座簿への記載、もしくは株式会社による管理が求められるようになりました(※令和6年度改正)。

【非適格ストックオプション】

柔軟な設計が可能で、付与対象の幅も広いですが、権利行使時に給与所得として課税されるため、税負担が大きくなるリスクがあります。

3-2. 有償ストックオプションと無償ストックオプション

【有償ストックオプション】

従業員が取得時に対価を支払う形態で、発行時の株式価額が明確になるため、企業価値の向上に寄与します。
ただし、従業員側の金銭的負担が増加する可能性があります。

【無償ストックオプション】

対価不要で付与されるため、従業員の負担がなく、創業期のベンチャー企業に適していますが、企業側の直接的な資金調達手段とはなりません。

3-3. ストックオプションと新株予約権の違い

ストックオプションは、主に従業員や役員の報酬制度として設計されるのに対し、新株予約権は資金調達や経営権調整を目的としたツールとして発行されるケースが多いです。
各制度の目的、対象、税務上の扱いを十分に理解し、企業の状況に応じた選択が求められます。

4. ストックオプションを活用する際の注意点

4-1. 発行に関する法的リスク

ストックオプション発行には、会社法や金融商品取引法等の法的規制の遵守が不可欠です。

  • 株主総会の承認:発行には原則として株主総会の特別決議が必要です。
  • 付与対象者の制限:税制適格の場合、付与対象は取締役、執行役および使用人、さらに一定の要件を満たす社外高度人材に限定されます(※令和6年度改正:社外高度人材の範囲を拡充)。
  • 行使価格の設定:契約締結時の株式の価額相当以上に設定する必要があり、不適正な評価は税務調査等のリスクを招きます。
  • 4-2. 税務上の注意点とリスク

    税務処理の誤りは、企業および従業員に予期せぬ税負担をもたらす可能性があります。

  • 権利行使時の課税リスク:税制適格オプションの場合、原則として権利行使時の課税は回避され、譲渡時に譲渡所得として課税されます。
  • ただし、改正に伴い行使期間や年間行使額の計算方法が変更されているため、各条件の正確な把握が必要です。

  • 企業側の会計処理:費用計上のタイミングや損金算入の可否について、最新の税制改正を反映した適正な処理が求められます。
  • 4-3. 企業価値と株主構成への影響

    新株発行に伴う株主の持ち分希薄化や、投資家との調整が必要となります。

  • 株主間調整:既存株主の持分低下リスクを回避するため、適切な契約設計が求められます。
  • IPO準備企業の留意点:発行割合が上場審査や投資家評価に影響するため、慎重な設計が必要です。
  • 5. ストックオプションを活用するための実務フロー

    5-1. 導入の事前準備

    ストックオプション導入前に、制度の目的やスキームを明確化し、法的・税務的な問題がないか十分に検討します。

  • 目的の明確化:人材確保、インセンティブ制度の強化、資金調達など、各企業の目的に応じた設計を行います。
  • 適用対象者の選定:付与対象は、会社およびその子会社の取締役、執行役、使用人、さらに一定要件を満たす社外高度人材(大口株主および特別関係者を除く)とします。
  • ※令和6年度改正により、社外高度人材の範囲が拡充されました。

  • 税制適格・非適格の選択:最新の改正内容を踏まえ、最適なスキームを選定します。
  • 必要書類の準備:株主総会決議、取締役会決議、契約書の整備など、法令および改正内容に則った書類を準備します。
  • 5-2. 発行手続き

    発行手続きは、会社法上の規定に基づき、以下の流れで進めます。

  • 株主総会の決議:改正内容を十分に説明した上で、株主総会の特別決議を取得します。
  • 募集事項の決定:発行数、行使価格、付与対象者、行使期間(改正後は柔軟な期間設定が認められています)などを決定します。
  • 付与契約の締結:改正後の税制要件を反映した契約書を作成し、従業員との間で締結します。
  • 登記手続き:必要に応じ、法務局での手続きを実施します。
  • 5-3. 行使と管理

    発行後は、権利行使の管理体制および会計・税務処理を、改正内容に即して整備します。

  • 行使条件の管理:従業員ごとの行使条件を明確にし、改正基準に基づいた管理を行います。
  • 株式発行・資金決済:行使時の新株発行や自己株式交付など、各手続きを適正に運用します。
  • 税務・会計処理:権利行使に伴う費用計上や税務申告を、最新のルールに沿って正確に処理します。
  • 6. ストックオプション導入を弁護士・税理士に相談するメリット

    6-1. 設計の適法性確保

    ストックオプション発行には、会社法、金融商品取引法、労働法など複数の法令が関与します。

  • 適正な行使条件の設定:改正後の条件を反映し、法的に有効な条件設定が不可欠です。
  • 株主権の希薄化リスク管理:新株発行に伴う株主間の調整を適切に行います。
  • 法的トラブル予防:複雑化した改正要件に対応するため、専門家のアドバイスが重要となります。
  • 6-2. 税務・会計処理の適正化

    令和6年度改正後の新たな要件に基づき、税務処理や会計対応を正確に行う必要があります。

  • 税制適格オプションの適用判断:改正された行使期間および年間行使額の算定方法に基づき、従業員の税負担を軽減します。
  • 企業の財務・会計対応:費用計上や損金算入のタイミングについて、最新改正を反映した適正な処理が求められます。
  • 6-3. 実務運用の支援

    発行後の管理や各種トラブル防止のため、弁護士・税理士の支援が有効です。

  • 契約書や就業規則の整備:改正内容を反映した文書作成により、運用リスクを低減します。
  • 株主総会・取締役会の支援:適正な手続きと意思決定をサポートします。
  • 既存オプションの見直し:改正に合わせた再評価で、税務リスクや運用条件の最適化を図ります。

7.本記事におけるまとめと当事務所でサポートできること

ストックオプションは、創業間もない企業が優秀な人材を確保し、企業成長を促進する有力な手段です。
しかし、令和6年度改正により、税制や行使期間、年間行使額の算定方法など一部ルールが変更されています。
改正内容を正確に理解し、法的・税務的リスクを回避するためには、専門家との連携が極めて重要です。
当事務所では、弁護士・税理士・司法書士が在籍し、ストックオプションの設計から発行、運用までワンストップでサポートいたします。

当事務所のストックオプションサポート内容

ストックオプション発行スキームの設計

企業の成長段階や目的に合わせ、改正内容を反映した最適なスキームを構築します。

法務・税務リスクのチェック

改正後の各種法令・ガイドラインに基づいた契約書および規程の作成・見直しを実施します。

株主総会・取締役会の手続き支援

適正な発行手続きの確立と、必要な意思決定のサポートを行います。

税制適格ストックオプションの適用サポート

改正された税制要件に合わせた制度設計により、企業および従業員双方の税負担を軽減します。

既存オプションの見直し・最適化

発行済みオプションの改正適合性を再評価し、運用リスクの低減を図ります。

ストックオプション導入でお悩みの企業経営者様へ

「初めてのストックオプション導入で不安がある」「既存のオプション内容を見直したい」「投資家や従業員との関係を考慮した最適な設計を希望する」などのお悩みをお持ちの企業様は、ぜひ当事務所にご相談ください。
初回のご相談は無料です。最新の令和6年度改正に対応した最適な制度設計を、専門家が丁寧にサポートいたします。

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