急速に市場規模を拡大しているeスポーツ業界。
プロプレイヤーによる大会やイベント、一般ユーザー向けのトーナメント、スポンサーとのタイアップなど、事業者の活動は多様化していますが、そうした事業展開の中で意外と見落とされがちなのが「風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)」との関係です。
本記事では、eスポーツに関係する事業者が風営法に違反してしまわないよう、大会開催や施設運営にあたって注意すべき点を、弁護士が解説します。
もくじ
1. eスポーツと風営法の関係性はなぜ問題になるのか?
1-1. 風営法の目的と規制対象とは
風営法(正式名称:風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)は、「善良の風俗の保持」「清浄な風俗環境の確保」「少年の健全育成」を目的とし、特定の業態や施設の営業に対して厳しい規制をかけています。
この法律が規制対象とするのは、いわゆる「風俗営業」(パチンコ店・ゲームセンター・キャバクラ等)や「特定遊興飲食店営業」などで、夜間営業・照度・音量・構造要件などについても細かな制限があります。
風営法は本来「風俗産業」向けの法規制と誤解されがちですが、実はeスポーツ業界が無関係とは言い切れない点が複数存在します。
1-2. eスポーツ事業が風営法の対象となりうる理由
eスポーツ大会の開催やeスポーツカフェの営業は、以下のような理由で風営法の「遊技場営業」や「特定遊興飲食店営業」に該当する可能性があります。
- ゲーム機器(PC・コンシューマ機)を設置し、施設内で自由に使用させている
- 来場者が参加費を支払って大会にエントリーし、賞品や賞金を得る可能性がある
- 会場の照度・構造・営業時間・出入口の管理など、風営法上の基準に抵触するおそれがある
つまり、「ゲームをプレイさせる」こと自体が“遊技設備の提供”とみなされる可能性があり、その場合には営業にあたって風営法上の許可や届出が必要になる場合があるのです。
本来、eスポーツは「スポーツ競技の一種」であり、「健全な娯楽」として位置づけられるべきものです。
しかし、イベント設計や施設構造が風営法の定義する“遊技場”に類似してしまうと、意図せず法律違反になるおそれがあるという点は、運営企業として見落としてはならないリスクです。
2. 実は風営法違反かも?ありがちなリスクケース
2-1. ゲーム設備を自由に使わせている
「来場者が自由にゲームをプレイできる」「スタッフは常駐せず、参加者管理は自己申告」──こうした運用が“第5号営業(ゲームセンター営業)”とみなされることがあります。
特に以下のような場合、風営法許可が必要となる可能性があります。
- 参加費やプレイ料金が発生している
- 設置されたPCやコンシューマ機器が常時稼働している
- 照明・営業時間・出入口管理が不十分(風営法上の構造基準に抵触)
2-2. イベント後に商品を渡す
「スポンサーが提供してくれた景品を、成績上位者にその場で手渡した」というようなケースは一見ありがちな光景ですが、提供の仕方や表示の方法によっては、風営法だけでなく景品表示法の規制対象となることがあります。
たとえば、市場価格が高額な景品を成績基準で渡すというような場合、「景品類の過大提供」に該当するおそれがあり、これは景表法の規制範囲になります。そして、これが「ゲームの得点結果に基づいて」提供される場合は、遊技の結果に景品を与える=風営法的にも問題視される可能性があります。
3. イベント・施設運営における風営法上のリスク
3-1. 無許可営業として摘発されるリスク
最も深刻なリスクの一つは、eスポーツ大会や常設イベント会場の運営が、風営法上の「遊技場営業」「特定遊興飲食店営業」に該当すると判断され、無許可営業として摘発されることです。
違反と判断された場合、以下のような行政処分・刑事罰を受ける可能性があります。
- 警察による営業停止命令
- 担当者への事情聴取・任意同行
- 悪質と判断されれば刑事告発の可能性も(懲役または罰金刑)
「知らなかった」「悪意はなかった」という弁明は原則として考慮されず、“営業の実態”が風営法の構成要件に該当すれば摘発対象になり得るというのが行政実務の原則です。
3-2. スポンサー・出資者への説明責任と信用毀損
大会や施設が風営法を含む法令に抵触していた場合、スポンサー企業や出資者に対する「説明責任」も重大な論点となります。
法令違反が発生してしまった場合に想定される影響としては、以下のようなものが上げられます。
- スポンサーが撤退、損害賠償を求めてくる
- 株主や投資家からの信頼失墜 → 資金調達への悪影響
- 報道等で企業名が報じられることでブランド価値が毀損
とくに上場を目指すスタートアップや、各省庁・自治体などと連携している企業では、“信頼性”そのものが事業の基盤であるため、法令順守体制の欠如は致命的になりかねません。
3-3. 施設構造・運営体制の不備による違反
風営法では、単に「営業形態」だけでなく、物理的な施設構造や管理体制の要件にも細かい規定が設けられています。
eスポーツ大会やイベントでよく見落とされるのが、こうした構造基準違反”や“運営管理義務違反”とされる形式的な法令違反です。
- 会場の照度(照明の明るさ)が風営法で定める基準以下
- 出入口が一箇所に固定されていない/開放されたままになっている
- 管理者(責任者)を配置せず、来場者が無人で設備を利用可能な状態になっている
- 防音措置や近隣への配慮が不十分なまま音響設備を使用している
こうした項目は、営業の本質とは関係がなくても法令違反となり、是正勧告や営業停止の原因になることがあります。
また、許可が必要な営業類型(第5号営業・特定遊興飲食店営業など)に該当しているにもかかわらず、「イベントだから一日だけ」「大会だから一時的」という理由で無届のまま実施することも、行政の指導対象となります。
eスポーツイベントは「場」としての要素が強いため、会場の物理的条件・運営体制にも風営法の基準を当てはめてチェックする必要があります。
大会本体の設計と並行して、会場・施設面の遵法性確保も適切に行うことが重要です。
4. eスポーツ事業者が取るべき予防策
4-1. 開催場所・施設の営業形態の確認
eスポーツイベントや大会を開催する際、最初に確認すべきなのは「会場が風営法の許可を要する営業形態かどうか」です。
以下のような点については必ず最新の状況を見たうえで、法的要件を満たしていることを確認しておきましょう。
- 常設施設か/一時使用か(常設であれば風営法の適用可能性が上がる)
- 機材(ゲーミングPC・筐体・コンソール等)の設置状況
- 管理者の有無(無人運営=風営法違反リスクが高まる)
- 音響・照明・出入口などの構造が基準を満たしているか
会場となる施設側としては、その場所を「イベントスペース」として提供していたとしても、当日実施される内容(例:ゲーム設備の設置、プレイ環境の開放、賞品付きの遊技等)によっては、風営法上“遊技場営業”とみなされる可能性があります。
この場合、会場を提供する施設側ではなく、実際にイベントを企画・運営する主催者側が「実質的な営業主体」と判断されるリスクもあるため、施設提供者との契約関係だけで安心するのではなく、主催者自身が事前に施設運営者と協議し、法的観点から適法性を確認することが重要です。
4-2. 風営法に該当しないスキーム設計
風営法に抵触しないように設計するためには、「遊技の結果に基づく賞品提供」「不特定多数が自由に利用できる環境」を避けることが基本です。
以下のようなスキーム構成が、違法リスクを下げる工夫になります。
- プレイ参加者を事前登録制・招待制に限定
- 景品提供を順位ではなく抽選・アンケートなど非競技的要素に紐づける
- プレイ自体を無料または象徴的な参加費に設定し、プレイの対価として金銭的利益が得られないようにする
また、競技性を強調し、健全なスポーツイベントとしての位置づけを資料・案内に明記することも、警察・行政からの誤認を避けるために有効です。
4-3. 条件付きイベント開催の法務チェックポイント
どうしても「賞品ありの競技形式で行いたい」「eスポーツの魅力として報酬制度を組み込みたい」という場合には、以下のような視点から事前に法務的チェックを受けることが不可欠です。
項目 | 対応ポイント |
---|---|
イベントの開催頻度 | 単発/定期開催/常設イベントのいずれかでリスクが変動 |
景品の内容 | 換金性・価格・提供者の明確化(景表法/風営法両視点) |
会場の構造要件 | 照度・出入口・音響等が風営法基準を満たしているか |
参加条件 | 招待制/事前審査/年齢制限の有無を整理 |
広告・募集方法 | 広告表示がステマ規制・不当表示規制に抵触していないか |
弁護士はイベントスキーム全体の合法性チェックやリスク判断を行い、行政書士は実際の風営法許可申請や警察対応をサポートします。
一時的なイベントであっても、「営業性がある」と判断されれば許可が必要になるケースもあるため、都道府県の公安委員会や警察署への事前相談と、行政書士による申請支援を組み合わせるのが安全策です。
5. 風営法以外での大会設計・規約整備のポイント
5-1. 参加規約の整備と禁止行為の明示
eスポーツ大会を開催するにあたり、参加者との関係を明確にする参加規約(利用規約)の整備は不可欠です。
口頭での案内や当日の説明だけでは法的拘束力に乏しく、トラブル発生時に「そんな条件は聞いていない」と主張されるリスクがあります。
具体的に記載すべき内容は以下の通りです。
大会の主催者・責任者の明記
- 募集要項(開催日時・参加条件・募集期間等)
- 禁止行為(不正ツールの使用、暴言・妨害行為、なりすましなど)
- ルール違反時の措置(警告、失格、賞品剥奪など)
- 主催者の免責事項(接続トラブル、通信障害、機材不良等)
- 写真・動画の撮影および二次利用に関する同意取得
- 主催者の裁量に基づく中止・変更の可能性(不可抗力含む)
とくに「不正プレイ」「スポーツマンシップ違反」などの曖昧な事象については、できるだけ具体的・網羅的に列挙することで、当日の判断や処分がスムーズになります。
5-2. 賞金・賞品の取扱いと税務的配慮
賞金・賞品を用意する場合は、風営法や景表法との関係だけでなく、税務処理にも注意が必要です。
例
賞金を現金で提供する場合
主催者側に源泉徴収義務が生じる場合がある(特に高額賞金)
景品が現物(家電・PCなど)の場合
市場価格相当額の贈与として所得税課税対象になりうる
スポンサー企業が賞品を提供する場合
契約書上で広告扱いなのか、単なる協賛提供か明確に分けておく
加えて、企業が法人主催する場合には会計処理にも影響があるため、事前に税理士にも相談の上で税務処理方法をすり合わせておくと安全です。
6-3. 未成年参加者への配慮と保護者同意
eスポーツは若年層の参加率が高く、未成年プレイヤーが中心となる大会も少なくありません。その場合、保護者同意の取得と、青少年保護条例への配慮が必須です。
運営側の注意点
18歳未満(または都道府県ごとの基準により)への夜間帯の出場制限
大会参加にあたっては保護者の署名付き同意書を取得する
賞金授与に関しては、保護者口座を通じた振込等を検討する
プライバシー(実名・顔出し)の取り扱いについても、未成年者特有の配慮義務が生じる
FAQ:eスポーツにおける風営法に関するよくある質問
Q. 一日限りのeスポーツイベントでも風営法の許可は必要ですか?
原則として「一日限りだから無関係」とは言えません。イベントの構成次第では、たとえ単発開催であっても風営法上の“営業性”が認められ、許可が必要とされる可能性があります。
風営法に抵触するような条件が揃うと、行政から「営業」と判断される可能性が高まるため、事前に警察署や専門家に確認するのが安全です。
Q. オンラインイベントでも風営法は関係ありますか?
基本的に風営法は“物理的施設”の営業を対象としているため、完全オンラインイベント単体では直接の適用対象にならないのが一般的です。
ただし、「配信スタジオ」「常設ブース」「公衆が集まるリアル会場」と組み合わせた形式であれば、その施設の使われ方によっては風営法の議論が生じます。
また、オンラインイベントでも景表法や賭博罪に抵触するスキーム設計(例:高額課金で抽選参加 → 豪華賞品)には注意が必要です。
Q. 警察に事前相談するときは、どのような資料が必要ですか?
以下のような資料を用意しておくと、生活安全課での相談がスムーズになります。
- イベント概要(目的、日程、会場、タイムスケジュール)
- 使用機材のリスト・レイアウト(ゲーミングPC、コンシューマ機など)
- 参加方法、料金設定、賞品の内容と提供方法
- 来場者の入退場管理方法と責任者の配置体制
警察の立場としては「違法性があるか」だけでなく、「周辺トラブルが起きないか」「風俗営業に類似しないか」も判断ポイントです。不安な点は、弁護士や行政書士に事前に相談の上で事前にどういった点が問題になり得そうなのかの確認をしておくとより安心です。
eスポーツは今や世界的に注目される産業ですが、日本国内では風営法をはじめとする法規制への対応が欠かせません。大会やイベントの内容によっては、思わぬ形で風営法の許可対象と判断されることもあります。知らずに開催してトラブルになる前に、構成や運営スキームを慎重に確認することが重要です。
Nexill&Partnersでは、弁護士と行政書士がグループ内で連携し、eスポーツ大会・イベントの構想段階から大会設計・スキーム調整、許認可申請、スポンサー契約書・規約整備に至るまで、ワンストップで支援を行っています。一時的なイベントから常設施設の開業まで、リスクを抑えつつ合法的にeスポーツ事業を展開できる体制づくりを、実務経験に基づいてサポートいたします。
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