「億単位の賞金」「限定スキン全員プレゼント」──華やかなコピーで注目を集める e スポーツ大会ですが、過大な謳い文句や景品額を誤れば、景品表示法違反で措置命令や課徴金、スポンサー離脱に直結します。本稿では、大会運営・告知・配信で問題になりやすい表示・景品設定を具体例で整理し、景表法を踏まえた安全なプロモーション設計のコツをわかりやすく解説します。
もくじ
1.景品表示法とは?──目的としくみをコンパクトに解説
景品表示法は、「消費者が商品やサービスを選ぶ際に、誤解を与える表示や過大な景品で惑わされないようにする」ことを目的とする法律です。
大きく分けると、以下の2つの観点で規制がされています。
①表示規制(優良誤認表示・有利誤認表示)
②景品類規制(懸賞・総付景品などの金額・総額上限)
優良誤認表示とは、実際より著しく品質が優れているように見せる表現、有利誤認表示とは、価格・数量などが実際より著しくお得に見える表現を指します。一方、景品類規制は「買った人・参加した人に与える賞金や景品」の最高額・総額を抑え、過大景品で購買意欲を過度に煽ることを防止する仕組みです。
2.法律上「景品類」に該当するのはどのようなケースか?景品類の要件
景品表示法では、以下の3つの要件を満たすものを景品類として定めています。
①事業者が自己の取引を誘引する手段として
②取引に付随して提供する
③物品・金銭その他の経済上の利益
上記をすべて満たす場合は、景品類とみなされるため、景品表示法上の規制の対象となります。
景品類に該当する具体例としては、商品購入者に当たる現金キャッシュバック、来店客が抽選で当たる電化製品、アプリ課金ユーザー限定のゲーム内アイテム付与、などです。
3.eスポーツにおいて景品類にあたるもの
eスポーツでは、大会賞金だけでなく、ゲーミングデバイス、ゲーム内限定スキンなど多様なインセンティブが用意される場合があります。
これらが①参加者勧誘や視聴者誘引の手段となり、②参加料支払いやエントリー登録と結び付き、③経済的価値がある——と評価されれば景品類に該当します。
たとえば参加無料オンライン大会で「優勝者に限定アイテム+仮想通貨10万円分」を与える、あるいはオフライン会場で「先着100名に5000円相当のキーボードをプレゼント」というケースはいずれも景表法の景品類規制の枠内に入る可能性が高いといえます。
なお、景品類として規制の対象となる場合は、消費者庁が定める上限の範囲内での景品準備が必要となります。
① 有料参加型(参加料を払って応募・出場する大会)
この場合は、「一般懸賞」のルールが適用され、景品類の限度額は以下の金額までという制限があります。
- 大会の参加料が5,000円未満:取引価額(参加料)の20倍まで
- 大会の参加料が5,000円以上:10万円まで
いずれも、景品類の総額は売上予定総額の2%までとなっています。
例)参加料3,000円の大会 → 景品1個あたりの最高額は3,000円×20=6万円。
参加料8,000円の大会 → 景品1個あたりの最高額は10万円。
景品を複数準備する場合は、景品の総額が参加料合計額の2%までにおさまるようにする。
② 無料参加型(参加料ゼロで誰でも応募できる大会)
この場合は、「オープン懸賞」のルールが適用されるため、景品類の限度額が無くなり、上限もありません。(従来は上限1000万円までという規制がありましたが、現在は規制が無くなり、提供できる金品の金額にも制限はありません。)
③参加者・来場者に対して景品配布
ゲームの勝敗ではなく、大会参加者や来場者に一律で景品を配布する場合は、「総付景品」にあたり、上限は以下の金額までとなります。
- 取引価額が1,000円未満(無料も含む):200円
- 取引価額が1,0000円以上:取引価額の10分の2
来場無料のイベントで来場者に配布する場合は200円まで、参加料5000円の大会の参加賞として参加者に配布する場合は1,000円までが景品額の上限ですので、この範囲内での景品準備を行いましょう。
なお、申込順や先着順で配布するような場合も総付景品にあたりますので、前述の金額上限が適用されます。
4.eスポーツの賞金は景品類にあたるのかどうか?
eスポーツの賞金については、場合によって景品表示法の景品類に該当することがありますので注意が必要です。
賞金が景品類と判断されるのは、「事業者が自己の取引を誘引する手段として」「取引に付随して提供する」賞金であるケースです。
たとえば、参加者が主催者の販売する商品を購入しなければ大会に参加できない、大会に出場するには参加料の支払いが必要になるというような場合は、取引に付随して他の経済上の利益(賞金)を提供する場合に該当し、支払う賞金については景品表示法上の景品類として景品額上限の適用を受けるのが原則となります。
一方、プロチームの招待リーグなど、スポンサー契約に基づき支払われる出演料や賞金等は主催者が参加選手に対して提供する報酬として「労務・役務の対価」となり、この場合は取引誘因とは無関係と評価されるため、景品表示法の景品類とはみなされず、金額の上限規制対象とはなりません。
5.その他、eスポーツと景品表示法が交わる場面
5-1 大会告知・スポンサー広告
eスポーツ大会自体や関連するスポンサー商品を宣伝するバナー・LP・プレスリリース・屋外広告などは、すべて景表法の「表示」に該当します。とくに次の 4 類型は優良誤認・有利誤認のおそれが高く、消費者庁が重点監視リストに挙げています。
①性能誇張型:「世界最速の入力遅延」など試験環境が限定的なのに普遍的事実かのように表現。根拠データ(試験機関名・測定条件)を注記しなければアウトです。
②確実性暗示型:「参加すれば必ずプロ契約」など成功を保証する断定的表現。裏付けできる統計がない限り控えるべきです。
③二重価格型:「通常参加費 5,000 円 → いまだけ 0 円」という表示で、過去に 5,000 円で販売した実績がないケース。実績期間(過去 8 週間)を示せない値引きは有利誤認とみなされます。
④比較広告型:「当社大会の賞金は A 社の 2 倍」など他社大会を引き合いに出す場合、同じ年度・参加規模・賞金総額で統一し、表記の根拠資料を揃える必要があります。
告知や広告が景品表示法に違反しないような対策としては、以下のようなものが上げられます。
- キャッチコピーは「最速級」「最大 2 倍」など限定的表現へ修正し、脚注に試験条件を明記する。
- 「先着 100 名にプレゼント」という限定的な出し方をする場合は残枠がゼロになった瞬間に確実に終了させるような運用をとる。
- 告知・広告提出前に表記内容について弁護士のリーガルチェックを実施し、法令抵触の部分が無いかを確認する。
- 告知後に表示を変更する場合は、誤認を防ぐために訂正内容をSNS・公式サイト等へも同時掲出し、キャッシュ削除を実施する。
5-2 インフルエンサー・ストリーマーの PR 投稿(ステマ規制)
大会の告知や集客のためにインフルエンサーやストリーマーに対して依頼をするケースも増えてきていますが、2023 年 10 月のステルスマーケティング規制開始により、「広告性のあるSNS・配信投稿であること」を明示しない投稿は有利誤認表示として景表法違反となるため、「大会運営に招待してもらいました」など謝礼性を示す記載が必要です。違反主体は投稿者だけでなく広告主(大会主催者・スポンサー)にも及ぶため、契約・運用面で次のような対策が不可欠です。
①契約書面:報酬の有無にかかわらず「#PR/広告」ハッシュタグ、または「【提供】」「【協賛】」の文言をタイトル・概要欄に入れる義務を契約書内に明記しておきます。同時に、違反時の投稿削除・損害賠償条項もセットで規定しておきましょう。
また、表現ガイドラインを共有し「個人の感想」「性能は使用環境により異なる」といった限定条項を入れるよう契約書で定めておくと安心です。
可能であれば、投稿前に広告主側が内容を確認できるプロセスを踏めるとベストです。
②体験レビューの裏付け:「このマウスで勝率 30%アップ」などの体感性能、「このドリンクを飲むと反射神経が上がる」といった暗示的表現を示す場合、客観的根拠資料が必須です。テスト環境・統計データ等で内容が適切か確認し、根拠資料は万が一の調査時に備えて必ず保管しておきましょう。
③アフィリエイトリンクの開示:ストリーマーが視聴者を大会公式ショップに誘導し報酬を得る場合、リンク先に報酬型であることを明示しなければいけません。「※当リンク経由の購入で運営に収益が入ります」など収益が発生する旨の一文を必ず掲載するようにします。
まとめ──eスポーツと景品表示法、3つの鍵を押さえて安全運営を
拡大を続ける eスポーツ市場では、①賞金・景品が景表法上の「景品類」に当たるかを判定し、上限を超えない額で設計する、②告知バナー・LP・配信タイトルの文言をリーガルチェックして優良 / 有利誤認を避ける、③ストリーマー投稿には報酬・依頼の有無を問わず #PR 等を明示するといった「ステマ対策」を徹底する——この三点が大会運営を行う上で重要となるコンプライアンス部分となります。
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