お役立ちコラム

eスポーツの大会運営を行ううえで注意すべき法律知識|基礎知識を含めて分かりやすく解説

2025.06.23

「eスポーツ大会を自社で主催したいが、賞金設定や著作権の許可取りは大丈夫か」「プロ選手に出演してもらう契約書はどう作ればいいのか」急成長する eスポーツ市場では、大会運営に関わるプレイヤー数が右肩上がりで増える一方、法令に不慣れなままイベントを開催し、後になって賠償請求や炎上リスクに直面する事例も少なくありません。本コラムでは、大会運営者がまず押さえるべき法律・税務・労務のポイントを弁護士が解説します。

1. eスポーツ大会運営でまず押さえる法的フレーム

1-1. ゲームタイトルの著作権と主催許諾の取り方

ゲーム本体・映像・音楽の著作権はパブリッシャー(開発・販売元)が保有します。「大会開催ガイドライン」を公開しているタイトルもあれば、個別にライセンス契約を結ぶ必要があるタイトルもあります。ガイドラインに大会規模の区分(賞金額・参加者数)が設定されている場合は該当区分を確認し、その区分を超える場合は別途対応を行いましょう。使用範囲は①オフライン会場内、②ストリーミング配信、③アーカイブ動画、④ハイライト編集の4場面に分けて許諾を取得しておくと、後日の二次利用もスムーズです。

1-2. 賞金・参加料設定と賭博罪・景品表示法の上限

日本では刑法における賭博罪を回避するため、参加者が「勝敗によって分配されることを目的とした金銭」を拠出する方式は避けるのが基本です。参加料を徴収する場合は「運営経費相当額」であることを収支内訳で示し、賞金はスポンサー企業や主催者が別財源で拠出するとトラブルになりにくいです。賞品提供時は景品表示法の「一般懸賞」上限額(取引価額の20倍または10万円)にも注意してください。

1-3. 風俗営業適正化法と会場レイアウト・家庭用機器問題

大会会場にアーケード筐体を置き、参加者がコインや参加料を払って自由に遊べる形にすると、風俗営業適正化法(風営法)の「5号営業(ゲームセンター)」の許可が必要になります。

また、家庭用ゲーム機やPCを持ち込む場合でも、主催者がプレイ台数や料金を直接管理する場合は営業形態を問われる可能性があります。

どのような形で大会運営を実施するかを固めたうえで、事前に管轄の警察に相談しておくのが望ましいでしょう。

また、大会会場の使用規約や、消防法・青少年条例・騒音規制などの法令についても別途確認をしておきましょう。

2. 大会規約・エントリー規約の作成ポイント

2-1. 参加資格・年齢制限・親権者同意条項

未成年参加者が賞金を受け取る場合は法定代理人同意が必要ですので、事前に保護者の同意書を取得しておきましょう。

また、以下のような点においては参加者の年齢制限を設けておいた方が良いため、事前の周知と当日の身分証明書での年齢確認を必ず実施するようにしましょう。

1.ゲームタイトルのレーティング

例:CERO Z(18 歳以上のみ)や PEGI 18 指定タイトルの大会は、参加者・観客とも 18 歳未満を入場・視聴不可にするのがメーカーガイドラインの標準です。

2.賞品・景品が酒類・たばこなどの場合

20 歳未満には該当賞品を授与できないため、大会エントリー時に生年月日入力と年齢確認書類の提出を依頼する方がよいでしょう。

3.深夜開催の場合

都道府県ごとに青少年健全育成条例が定められているため、そこに抵触しないような形での運営が必要です。

2-2. 禁止条項と即時失格規定

不正行為やガイドライン違反が発覚した際の規定条項も必ず明記しておきましょう。

大きく分けると、①即時失格規定、②賞金返還規定、③損害賠償規定の3つについては大会規約で定めておく必要があります。

以下のようなトラブルリスクを防止するためにも、必要であれば弁護士に相談の上で適切な規約の作成をしておきましょう。

  • 失格を宣告しても選手が拒否
  • 失格に値する行為の根拠条文が大会規約に無いと、主催者側も強制的に失格にできないほか、仮に失格扱いにした後で選手側から「競技続行の権利侵害」「賞金債権の不当拒絶」として損害賠償請求を受ける余地が生じます。

    • ・他参加者からの損害賠償請求リスク
    • 不正行為を行った参加者を放置したことで順位や賞金が変動し、他の上位入賞者が「運営の過失で機会を奪われた」として損害賠償を求めてくる可能性があります。

    2-3. 免責条項と損害賠償責任の上限設定

    停電・回線障害・サーバーダウンなど不可抗力で大会を中断した場合の責任は「故意または重過失を除き、参加料相当額を上限とする」とするのが一般的です。海外選手が関わる国際大会では準拠法・裁判管轄を東京地方裁判所などに固定しておくと万が一の紛争時も日本での裁判手続きで解決が図れます。

    3. 配信・映像・音楽の二次利用と著作隣接権

    3-1. ストリーミングの著作権処理とゲームメーカーのガイドライン

    Twitch・YouTubeなどでライブ配信する場合、ゲームメーカーの「配信ポリシー」を順守し、広告・スーパーチャット収益化の可否を確認してください。

    3-2. 会場BGM・実況解説の音楽著作権とJASRAC/NexTone手続き

    会場BGMを流す場合は著作物利用の手続きが必要です。オンライン配信に同じBGMが乗る場合は別途送信可能化権の手続きが追加で必要になる点に注意しておきましょう。

    3-3. 選手・観客の肖像権・パブリシティ権の同意取得

    入場券の裏面やエントリーフォームに「会場内の写真・映像は大会の広報目的で無償利用する場合がある」と記載し、事前告知義務を果たしましょう。グッズ販売で選手写真を使う場合は、選手本人または所属チームとの肖像権許諾契約が必要です。

    4. 賞金・報酬支払いの税務とインボイス対応

    4-1. 国内選手・海外選手の源泉所得税と租税条約

    個人事業主への賞金支払い時は、運営企業側で源泉税の納付が必要となりますので、源泉税を差し引いたうえで賞金支払いを行います。(税率は国内居住者10.21%、国内非居住者は20.42%となります。)賞金の支払先が選手のマネジメント会社や代理店などの国内法人の場合は源泉徴収は必要ありませんが、外国法人の場合は個人事業主と同様に源泉徴収の対象となります。

    なお、国内非居住者の場合でも、租税条約締結国の居住者については、スポーツ選手条項やその他所得条項で税率が0〜10 % に軽減される場合があります。

    支払前に選手の居住区分と条約適用書類を確認されてください。

    4-2. 賞金と協賛金の会計処理方法

    大会運営企業がどのような事業形態になっているかによって、スポンサー協賛金と賞金支出の会計科目は大きく変わります。

    ① 大会運営そのものを主な事業にしている場合

    スポンサー協賛金:大会事業に直結するため「売上高」として計上。

    賞金支払い:大会開催に不可避の原価とみなされるため「売上原価」に振り分ける。

    ② 本業は別にあり、大会運営がサイドプロジェクトの場合

    スポンサー協賛金:副次的な収入の扱いとなるため「雑収入」で処理。

    賞金支払い:営業外活動に伴う支出として「販売費及び一般管理費」に計上するのが一般的。

    関連:②の場合で、運営企業がスポンサー協賛金を受け取らず、自社資金のみで賞金を拠出するケース

    このような場合は、大会の開催目的によって処理する科目が異なります。

    • 大会が自社ブランドのPR目的である場合は「広告宣伝費」
    • 取引先やVIP向けの招待イベント色が強い場合は「交際費」
    • 内容に応じて使用する勘定科目が変わりますが、いずれも販売費・一般管理費(販管費)として処理するのが通常です。

    勘定科目をどれで処理するかという点については、最終的には大会の位置づけ・社内収益区分・協賛契約書の記載内容によって判断が分かれるため、必ず税理士に確認のうえで会計処理を行ってください。

    4-3. 賞金・出演料の消費税課税とインボイス対応

    1.賞金そのものは消費税課税の対象外

    賞金・懸賞金は「対価性のない支払い」とみなされるため、消費税法上は不課税取引です。

    不課税取引にインボイスは不要なので、国内居住者・国外居住者を問わず適格請求書発行事業者である必要はありません。

    2.「出演料・実況解説料」など役務提供対価は国内課税仕入れのみ注意が必要

    国内居住の実況者・解説者への出演料や解説料を支払う場合はインボイス要件がかかるため、登録状況を事前確認のうえ、未登録者の場合は控除できない消費税の差額分を報酬額から差し引く形で調整するか、大会運営企業(支払側)が、その取引に含まれる消費税相当額を自社コストとして負担するかのいずれかの形で対応をすることとなります。

    なお、国外居住者への出演料や解説料についてはリバースチャージ(支払側が消費税の申告・納税を行うこと)もしくは実務上の免税事業者が大半となるため、インボイス対応は不要、適格請求書の発行義務もありません。

    こちらも、不安であれば税理士に確認の上で会計処理を進めてください。

    5. 大会主催者が直面する労務リスクと実務対策

    5-1. イベントスタッフの労働時間管理と36 協定

    大会前および当日の設営・撤去は深夜帯(22:00〜翌5:00)に及ぶことも多く、主催者が直接雇用するアルバイトや社員には労基法上の時間外・休日労働協定(36 協定)を届出済みかどうかの確認が必須です。36協定の届け出がされていない場合は、時間外労働は一切できません。(時間外労働を行わせること自体が労基法違反となります。)

    また、36協定を届け出ている場合でも、時間外労働の上限は「月 45 時間・年 360 時間」で、臨時特別条項を使う場合でも「年 720 時間・月 100 時間未満」を超えてはなりません。なお、派遣社員については派遣元が36協定を届け出ていますが、派遣先(大会主催者)も実働時間を把握し、協定範囲内に収まるよう業務量を調整する義務があります。

    加えて、大会運営にボランティアスタッフを無償で動員する場合でも、指揮命令・拘束時間・報酬の有無次第では労働者性が認定される可能性があります。食事・交通費のみ支給する際も、事前に活動時間・休憩時間を明文化し、保険加入(傷害保険や労災特別加入)が必要か社労士へ確認してください。

    5-2. ゲスト出演者を招く場合の契約形態

    主催者がプロ選手を「ゲスト出演者」のような形で招く場合、多くは成果物(試合出場・サイン会・配信出演)に対する業務委託契約を結びます。しかし以下の条件を満たすと業務委託ではなく、労働者性が認定される恐れがあります。

    • 主催者が練習メニュー・拘束時間・宿泊先を細かく指定
    • 遅刻・欠勤に対し減点方式のペナルティを設定
    • 月額固定報酬で生活の主要部分を賄う

    ゲスト出演者であったとしても、労働者性が認定されれば企業側に雇用されているのと同じになりますので、最低賃金・時間外割増・社会保険加入義務が発生します。

    対策としては、①練習内容や配信スケジュールは選手側の裁量に委ねる、②報酬は出演回数×成果単価で設計する等で固定給化を避ける、③契約書に「委任または請負」である旨を明示し、成果物を特定するという3点を徹底しましょう。

    こちらも、契約書作成の際は労務に強い弁護士もしくは社労士に確認の上で進めることが望ましいでしょう。

    当事務所では、弁護士のほかに税理士・社労士が在籍し、eスポーツ大会運営に関する法務・税務・労務面をワンストップでサポートしております。

    大会の企画段階から開催後の各種フォローまで一貫してご対応いたしますので、eスポーツの大会運営に関してご不安がある企業様は、まずは初回無料相談をご利用ください。

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