eスポーツの市場規模は国内でも右肩上がりとなっており、これから大会運営を検討している企業も増えてきていますが、大会の賞金設計を誤ると賭博行為にあたる法的リスクが一気に顕在化します。本コラムでは、日本の法律における「賭博罪」とeスポーツ賞金の関係性と、賭博性リスクをどのように回避できるかという点について弁護士が解説します。
もくじ
1. eスポーツ大会の賞金支給は賭博行為にあたるのか?
大会賞金そのものを支給する行為が直ちに賭博罪(刑法185条・186条)にあたるわけではありません。ポイントは 「財物を賭ける主体が誰か」「偶然性がどこにあるか」 の2点です。
1-1. 賭博罪が成立する3つの法的要件
要件① 偶然性(刑法185条の「勝負の帰趨が偶然に左右されること」)
サイコロ・ルーレットのように結果が運任せで決まる場合はもちろん、eスポーツでもラグや乱数が勝敗を左右する度合いが大きいと偶然性を充足しやすくなります。逆に、対戦結果がプレイヤーの実力にほぼ依存する設計であることをルールや大会概要に明示すれば、この要件が弱まります。
要件② 財物の賭け合い(「財物を賭けて利益を得喪すること」)
参加者自身が金銭・仮想通貨・アイテムなど経済的価値を持つものを拠出し、それを勝敗によって取得・喪失する構造が該当します。スポンサーや運営企業が用意した賞金を受け取るだけで、参加者が自己資金を賭けていない場合はこの要件が欠けるため、賭博には当たりません。
要件③ 当事者間の得喪関係(勝者が敗者の賭け金を取得すること)
「優勝者総取り」「上位〇名が分配」のように、参加者同士で賭けた財物を取り合う仕組みがあると賭博と評価されやすいです。スポンサー拠出モデルでは参加者間で金銭が移転しないため、この要件も外れます。
- 参加者が金銭を賭けない → 要件②・③が欠ける。
- 勝敗をスキル重視で決する → 要件①(偶然性)が弱くなる。
この二重の設計を行えば、eスポーツ大会の賞金支給は賭博罪に該当しないと評価されるのが実務上の一般的な考え方です。
2. 賭博性リスクが生じる賞金スキーム
以下のような設計は、先に説明をした賭博行為の要件にあたる「偶然性・財物賭け合い・参加者間得喪」を満たしやすく、賭博罪の疑いを招くリスクがあります。
2-1 参加料プール型(勝者総取り・上位分配)
参加者から徴収した参加料をそのまま賞金原資に回す方式は、参加者自身が「財物を賭け」(要件②)、しかも優勝者がそれを取得するため「参加者間得喪」(要件③)が成立します。スポンサー拠出に切り替え、参加料は収支報告書で運営経費と対応付けることが不可欠です。
2-2 ブースター課金・“Pay to Win”要素
追加課金で強力アイテムやステータスを購入でき、その効果が勝敗を左右する場合、実質的に「賭け金を上積みして勝率を上げる」構造となり偶然性+賭け金性の評価が強まります。課金要素を大会仕様から排除し、全参加者が同一条件で競技する設計が安全です。
2-3 参加料と賞金原資の口座混在
参加料・スポンサー協賛金・賞金支払いが同一口座で管理されると、資金の流れが不透明になり「参加者同士が金銭を賭け合っている」と誤認されやすくなります。参加料と賞金の管理口座は完全分離させたうえで、収支計算書を作成し透明性を担保してください。
2-4 クラウドファンディング型賞金増額
視聴者の投げ銭やクラウドファンディング収入を賞金プールへ直接上乗せすると、参加者・視聴者双方の「賭け金」を原資にする形となり賭博性が高まります。投げ銭は運営費やチャリティへ回し、賞金は当初額を固定する方式が無難です。
2-5 暗号資産・ポイント等での賞金支給
トークンやポイントが外部市場で現金換算できる場合も「財物」に当たり得ます。交換レートの変動で偶然性評価が強まるため、現金または換金性のない賞品に置き換えるか、暗号資産の換金禁止条項を追加する必要があります。
賭博性のリスクを排除するには、(1) 賞金はスポンサーや運営企業の固有資金のみ、(2) 参加料は会場・配信コスト相当額に限定し収支報告で透明化、(3) ランダム要素を最小化し全参加者が同じ条件で競技するような大会ルール設計にするという3点を徹底することが重要となります。
3. 賞金と参加料の安全な切り離しスキーム
「参加者が金銭を賭けていないこと」を証明するため、賞金や参加費を管理する際は、会計・契約・資金フローを明瞭に分離しておくことが重要となります。
3-1. スポンサーからの協賛金は参加費と別管理
スポンサー企業から賞金・運営費を拠出してもらう場合、参加者からの参加料とは別口座で管理することが望ましいです。スポンサー契約書には「広告宣伝目的」「協賛金は賞金・運営費に充当」「参加料とは別会計」を明記し、資金の流れを透明化しておくことが賭博罪にあたるリスクを抑えられます。
3-2. 参加料設定時は「運営経費相当」額に
参加料設定時は会場費、機材レンタル、通信費、人件費などを積算し、参加料は運営実費+適正利潤になる範囲で設定することで、「運営者が参加者の“賭け金”で儲けている」という営利性批判を回避します。
3-3. テストプレイ・ストリーマー報酬は賞金とは別扱いに
テストプレイやストリーマー招致の報酬は「業務委託料」として契約書に明記し、賞金とは別枠で業務委託費として支給する形にすることで、対価性が明確になり賭博性が薄くなります。
4. 賞金以外で参加賞・景品を配布するときも賭博性リスクはあるのか?
賭博行為が成立するには「偶然性のある勝敗で財物の得喪が生じる」ことが要件となるため、参加賞を全員に一律で配布する場合、勝敗も偶然抽選も関係しないため〈財物の賭け合い〉も〈得喪〉も発生せず、刑法上の賭博要件を満たしません。ランダム抽選で配布する場合でも、参加者が追加の金銭を賭けず、当落が大会結果に影響しないなら賭博行為とは評価されません。
ただし、参加賞や景品を配布する際は、別の法律として「景品表示法」にも注意が必要となります。
来場者への参加賞は「総付景品」に当たるので、参加費が1000円未満の場合は200円、1000円以上の場合は参加費の20%が上限になります。抽選プレゼントは、「一般懸賞」に当たるので、取引価額の20倍または10万円(いずれか低いほう)が上限になります。
たとえば、参加料を1,000 円に設定した大会で1人あたり5万円相当の周辺機器を配れば、景品表示法の上限を超える(=違法懸賞)ので配布する景品については注意が必要です。
ソフトドリンクやステッカー程度の低額品、または協賛企業のノベルティで換金価値がほぼ無い物を景品とする場合は規制にも抵触しにくいのでそこまで問題になることはないでしょう。
5. オンラインベッティング・トトとの線引き―賞金大会と「賭けサイト」を混同させない設計
近年は海外のeスポーツ賭けサイトが日本語で広告を出し、大会公式SNSにトラッキングURLを貼る例も散見されます。しかし日本法では結果に賭金を拠出して払戻しを受ける行為は刑法上の賭博罪の対象であり、広告・勧誘行為も同法186条2項(賭博場開張ほう助等)に触れる恐れがあります。大会運営者が守るべき実務ポイントは①公式サイト・配信画面・パンフレットにベッティングURLやオッズ情報を掲載しない、②MCや実況に賭けサイト名を口頭で紹介させない、③スポンサー契約で「賭博・ベッティング事業者」を除外条項に明記する、④観戦客が私的に賭けサイトへアクセスしても運営は一切関与しない旨を規約に盛り込む、の四点です。さらに海外ブックメーカーから「公式パートナー提携」の打診があった場合は、広告表現を日本対象外に限定し、アフィリエイト報酬を受け取らない形で契約するなど慎重な線引きが必要です。
6. 海外在住選手への賞金送金時の注意点
日本開催の国際大会で海外在住選手が入賞すると、賞金送金は賭博性よりも外為・税務・マネロン規制の問題がメインになります。
まず外為法上、3,000 万円超を銀行経由で送る場合は、金融機関側から取引目的を明らかにする資料として賞金支払契約書・大会結果証明・選手の身分証(パスポート)などの提出を求められます。また、送金先がOFACリスト(米国財務省外国資産管理局のSDNリスト。テロ組織や制裁対象国・個人・法人が掲載。)、FATFリスト(マネーロンダリング対策を怠る国・地域を列挙するハイリスク国リスト)に該当している場合は送金停止・関係当局への報告が行われます。
制裁対象に故意に送金すると、主催者・金融機関ともに外為法違反を問われる可能性がありますので、高額賞金の支払いを行う際は、送金先選手・チームの氏名・住所・取引銀行の事前チェックを欠かさないようにしましょう。
また、暗号資産や電子マネーでの賞金支給は資金決済法・マネロン対策のリスクが跳ね上がるため、原則は電信送金(SWIFT)+二重署名方式を推奨します。金融機関の送金証憑は賞金支払い契約書などの証憑とあわせて保管をしておきましょう。
7. 本コラムのまとめ ─日本で安全にeスポーツの賞金大会を開催するためには
eスポーツ大会で賞金を設定する際は、賭博性を排除するスキームの構築が不可欠です。当事務所では、弁護士だけでなく税理士も在籍する総合法律事務所として、賭博性のリスクを排除した賞金モデルの設計から、大会運営に関連する契約書・規約などの作成、リスク回避のための税務面でのサポートまで一貫して対応を行っております。eスポーツ大会の運営に関するご相談がございましたら、ぜひ初回無料相談をご活用ください。