eスポーツ市場が拡大し、個人・法人問わず大会賞金を受け取るケースも年々増えていますが、取得した賞金について税金はかかるのか?という点に疑問を持たれる方も多いでしょう。本コラムでは、eスポーツでの大会賞金の課税面について、個人・法人それぞれで税務上のポイントについて弁護士が解説します。
もくじ
1. eスポーツ賞金に税金はかかる?
結論としては、eスポーツの賞金については課税の対象となりますが、個人で賞金を受け取るか法人で賞金を受け取るかで税金の種類が変わります。
個人プレイヤーの場合、①副業レベルの単発での賞金取得は一時所得、②年間複数回の賞金取得や、配信収益やスポンサー収益など一定規模の他の収入が継続的に発生している場合は、税務署が「賞金も含めた一体の経済活動」とみなす傾向にあるため、一時所得ではなく雑所得または事業所得として計上し、所得税の課税対象となります。
法人チームが受け取る賞金は売上または雑収入として計上し、こちらは法人税の課税対象となります。
2. 個人プレイヤーにおける課税区分と申告ポイント
①一時所得の場合
継続的な賞金取得が無いような場合は、一時所得として(総収入金額-必要経費-特別控除50万円)×1/2で課税対象額を計算します。
この特別控除が入ることと、2分の1課税の組み合わせにより、同じ額を雑所得や事業所得として申告した場合よりも確定申告時の課税所得が大幅に圧縮され、結果として税負担が軽くなる仕組みとなっています。
ただし、一時所得の必要経費として認められるのは賞金獲得に直接要した費用(大会参加費、遠征交通費など)に限られ、日常の練習機材や配信コストは原則控除不可です。
なお、一時所得の場合は、上記の計算式で求めた課税対象額が年間20万円以下なら給与所得者の場合は確定申告不要です。年間20万円を超える場合は給与所得者であっても確定申告が必要となります。
②雑所得または事業所得の場合
賞金や関連収入が年間で相応の規模・継続性を持つ場合は、一時所得ではなく雑所得もしくは事業所得で計上をする必要があり、いずれも総収入-必要経費で課税対象額を計算します。
この2つのうちどちらの方が良いのか?という点については、開業届を出して個人事業主として青色申告のメリットを受けるべきかどうかというところがポイントとなります。
雑所得であれば、開業届は不要で簡易帳簿で足りますが、青色申告は提出できないため赤字繰越はできません。
事業所得とする場合は、開業届を出したうえで青色申告を行いますので、赤字繰越のほか控除や償却といった追加メリットが増えます。
以下、実務上それぞれの適用ケースをあげています。
雑所得とみなされるケース
- 年間の賞金総額が100万円前後
- 配信広告料など継続収入が少額
→ 収支をエクセル程度でまとめて確定申告書に雑所得欄を記入すれば足ります。
事業所得とみなされるケース
- 賞金・スポンサー料・配信収益の合計が毎年数百万円規模
- 機材投資や遠征費が多い
→ 開業届+青色承認申請を出して、65万円控除や赤字繰越で税負担が軽減されます。
なお、雑所得や事業所得になると必要経費に計上できる範囲が大幅に拡大します。
大会出場費用や遠征交通費だけに限らず、ゲーミング PC・周辺機器・通信費・光熱費の按分・トレーナー報酬・配信サブスク手数料など、継続的な活動に伴う支出を広く落とせるため、課税所得を圧縮しやすくなります。
活動が事業規模に発展したら雑所得から事業所得に変わるので、青色申告や経費拡大で手取りを最大化するのが税務対策としてはよいでしょう。
どちらで処理をするかは、適宜税理士に相談しながら会計処理を進めることをお勧めします。
3. 法人プレイヤーにおける課税区分と申告ポイント
1. 賞金の計上区分:営業収益か営業外収益か
法人(株式会社・合同会社・一般社団など)が大会入賞で受け取る賞金は、eスポーツ競技活動が主たる事業かどうかで収益の区分が変わります。一般的には、eスポーツの大会出場や配信が定款上の主要目的であれば「営業収益(売上高)」として計上、スポンサー営業やメディア事業など別事業を主な目的としており、賞金収入は副次的なものであれば「営業外収益(雑収入)」として計上します。
なお、賞金そのものは対価性のない給付として不課税取引になりますが、大会側から受け取る出演料やスポンサー広告料など純粋な賞金以外の収益については課税取引となりますので、会計計上時は混在させないように注意が必要です。
会計ソフトの部門コードや科目・補助科目を使用して、賞金とそれ以外の収入について明確に分けて帳簿付けを行っておきましょう。
また、課税取引分については、インボイス制度における適格請求書として登録番号を記載した請求書を発行することとなります。
2. 経費計上と収支状況の管理方法
1. 必要経費として計上できる範囲
法人税法では「その法人の所得を得るため直接必要と認められる支出」であれば、主たる事業目的を問わず損金算入が可能です。したがって、ゲーミングPC・遠征費・コーチ報酬などが、①大会参加やスポンサー契約の履行、②配信視聴数拡大等の収益獲得、③選手パフォーマンス向上による将来収益強化など、法人の所得のために支出することを客観資料(契約書・議事録・見積書等)で説明できれば、法人の必要経費として処理できます。
2. 収支状況の部門別管理(タイトル別管理)の推奨
複数のゲームタイトルに参加すると、タイトルごとに賞金・スポンサー料・機材投資・遠征費等の経費の損益がバラつきます。こういった場合、会計ソフトの「部門コード」や「補助科目」でタイトル別に仕訳を切れば、タイトル別の収益性を内部で即時把握できるほか、投資利益率の根拠資料として提示しやすい、税務調査の際も費用対効果の説明が簡潔に行えるという利点があります。
資金配分や収益施策を検討するうえでも、この辺りの数字は経営上重要となりますので、帳簿上の見やすさだけでなく、意思決定の面でも収支状況が正確に把握できるような管理方法を取っておいたほうが良いでしょう。
なお、経費については一括損金にするか、償却処理をするかという点も税務上の判断が必要になりますので、顧問税理士と相談の上で会計処理を進められてください。
3. 当事務所のサポート範囲
当事務所では、弁護士だけでなく税理士・社労士・司法書士が在籍しておりますので、税務面含めてワンストップでサポートできる体制を整えております。
・月次監査および決算・確定申告業務
顧問税理士として、日常的な記帳代行から決算・確定申告までを行うほか、個人事業主/法人化のタイミング、キャッシュフロー対策や節税対策など、税務面のご提案もさせていただきます。
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会社設立・法人登記をはじめとして、社会保険の手続、税務署への届出など、会社設立に伴う法務・労務・税務すべての面でのサポートを一貫してご提供しております。
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