eスポーツ市場は2025年に世界で20億ドル、日本国内でも300億円規模に達すると予測されています。なかでもスポンサー収入は大会賞金や放映権料を大きく上回る主要マネタイズ手段として定着し、参入企業はIT・飲料・金融・自動車・日用品など多岐にわたります。一方で「本当に投資効果はあるのか」「未成年選手を抱えるチームと契約して法的リスクはないか」「炎上時の賠償責任は?」といった不安も根強いでしょう。本コラムでは、スポンサー契約を検討する企業がまずは押さえておきたいポイントを弁護士が解説します。外部スポンサー未経験の企業様はもちろん、すでに協賛中でリスク見直しを図りたい企業様も、ぜひご覧ください。
1. スポンサーシップの基本構造を理解する
1-1. スポンサーの類型と契約当事者
eスポーツのスポンサーの種類としては、大きく①チーム・選手ユニフォームロゴ、②大会協賛・ネーミングライツ、③ストリーマー個人タイアップ、④インフラ・機材協賛──の四類型に分かれます。それぞれの種類によって、スポンサー契約の当事者が違ってきます。
スポンサー類型 | 企業が契約を結ぶ主な相手(契約当事者) | ① チーム・選手ユニフォームロゴ | チーム運営会社、選手のマネジメント会社、場合によっては選手個人(肖像権ライセンス) | ② 大会協賛・ネーミングライツ | 大会主催者(リーグ運営会社・イベント会社)、共同主催のメディア企業 | ③ ストリーマー個人タイアップ | ストリーマー本人(個人事業主)または所属エージェンシー、 動画配信プラットフォーム運営会社(権利処理が必要な場合) |
④ インフラ・機材協賛 | ハードウェアメーカー、通信事業者、 ゲームパブリッシャー(ゲーム内アイテム協賛などで権利許諾が必要な場合) |
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※表は左右にスクロールして確認することができます。
1-2. 協賛金の相場感と業界慣行
国内Tier1チーム(国際大会常連)との年間メインスポンサー料は1,000万〜3,000万円が相場、中堅チームは300万〜800万円。大会協賛は地方自治体後援イベントで50万〜200万円、メジャー国際大会ネーミングライツは数億円規模です。契約期間は1〜3年が一般的ですが、戦績などの達成度で翌年以降の増減条項を設けるのが最近の潮流です。
2. 法的リスクを見落とさない契約条項設計
2-1. 知的財産権条項:著作権・肖像権
スポンサー契約を行う際に、スポンサー企業が得る主な権利はロゴ掲出権・広告物使用権・選手肖像使用権・イベント出展権などですが、これらの権利帰属がどこにあるのかを誤認したまま二次利用してしまうと、スポンサー企業と当該権利者との間で著作権侵害・肖像権侵害トラブルに発展するおそれがあります。
契約の際は「再利用の範囲・追加対価の有無・ガイドライン違反時の責任分担」を契約書内に明記し、そこに抵触しないように注意が必要です。また、BGMやハイライト映像を広告に転用する場合はJASRAC等の音楽著作権管理事業者許諾も要確認です。
関連:著作権侵害が問題になり得る具体的な例
スポンサー企業 ◎ vs. チーム運営会社・大会主催者・選手
- 大会公式配信の画像や選手写真を企業が CM や店頭 POP に転用したが、肖像権や写真著作権の再使用許諾を得ていなかったケース。
スポンサー企業 ◎ vs. ゲームパブリッシャー
- ゲームプレイ映像(著作権はパブリッシャー)を企業 PR 動画に挿入し、パブリッシャー側の商用利用ガイドラインを超えた利用になってしまうケース。
スポンサー企業 ◎ vs. 映像制作会社・カメラマン
- ハイライト映像や選手写真の著作権が制作会社や個別クリエイターに帰属しており、二次利用条項を入れていなかったため、後日追加ライセンス料を請求されるケース。
2-2. 表示規制:景表法・薬機法・金商法
エナジードリンクやサプリメント企業が自社の製品によるパフォーマンス向上をうたう表現を直接的に行うと、薬機法・景表法違反となるリスクがあります。また、近年は金融・暗号資産業界もスポンサーに参入しており、これらの広告は金融商品取引法・暗号資産交換業等規則に基づくリスク開示義務と誇大広告禁止の対象になります。
配信者がスポンサー商品を紹介する際、事前に台本・原稿を企業側が確認できる「表示事前確認権」を契約で確保しておかないと、誇大表現や未承認医療表現が配信中に発せられた場合、広告主である企業も行政処分・課徴金の対象になるおそれがあります。
2-3. 未成年選手・視聴者対応
契約時:親権者同意が必須
プロeスポーツでは10代で選手デビューするケースも多く、未成年がスポンサー関連契約の当事者になる場面も少なくありません。民法5条は「未成年者が法律行為を行うには法定代理人の同意が必要」と規定し、同意がなければ取り消し可能です。リーグや大会でも〈親権者同意書〉提出を義務づけている場合もあり、スポンサー契約書にも「親権者が契約内容を承諾していることを証する欄」や「取り消し不可特約」を明記しておく必要があります。
報酬支払い:労基法・民法の両面を確認
未成年選手がチームの“社員”として給与を受け取る場合、労基法の年少者規定が適用されます。一方、業務委託形態で歩合報酬を支払う場合は民法上の請負/委任契約に近い扱いとなり、親権者同意だけでなく金銭管理方法(信託口座など)の取り決めが望ましいとされています。
深夜帯試合と労基法 61 条
労基法 61 条は18歳未満の深夜業(22時〜翌5時)を原則禁止しています。ただし「芸術・演劇・音楽・スポーツの競技等」の分野では監督署許可のもと例外が認められるケースがあります。
- 国際大会が時差の関係で深夜に配信される
- 海外リーグの公式練習が深夜帯に組まれる
といった場合は、“スポーツ競技としての例外”に該当し得るかを大会主催者と所轄労基署に事前照会し、許可書または確認書を取得しておくと安全です。
視聴者向けキャンペーン:年齢制限と個情法
景品表示法上は未成年者を排除する義務はありませんが、18歳未満が参加する場合は
- 酒類・金融商品・暗号資産など年齢制限商材を景品にしない
- 「保護者の同意を得て応募するように」と明示する
ことが推奨されます。
2-4. 炎上・違法行為リスク管理
SNSやライブ配信での差別発言・賭博行為等はスポンサーイメージを一瞬で毀損します。契約書には「ブランド毀損行為」「反社会的行為」の具体例を列挙し、即時解除・損害賠償条項を規定。加えてモラルガイドラインを選手・配信者へ配布し、定期的なコンプライアンス研修を義務付けると抑止効果が高まります。
3. 労務・税務面での留意事項
3-1. 選手雇用時の注意点
①選手を正社員とする場合
労基法32条による通常の労働時間規制(1日8時間・週40時間)が適用され、時間外労働・深夜労働の割増手当や健康管理措置が必要です。
②選手を業務委託で契約する場合
業務委託契約であっても、スポンサー(発注者)から選手(受託者)への直接的・継続的な指揮命令が発生すると、実態は労働者派遣に近いと判断され、「偽装請負」として労働者派遣法違反に問われる可能性がありますので注意が必要です。
3-2. スポンサー料の税務処理
スポンサー料は原則「広告宣伝費」として支出時損金算入となりますが、ネーミングライツは契約期間に応じ均等償却が認められる場合があります。国際大会賞金やストリーマーへの謝礼は源泉所得税10.21%(国内居住者)または20.42%(非居住者)がかかりますので、必要に応じて租税条約による軽減・免税の適用を検討します。
3-3. インボイス対応
2023年10月の適格請求書等保存方式(インボイス制度)開始により、非課税事業者である個人配信者とスポンサー契約を結ぶ場合、仕入税額控除が認められない場合があります。事前に適格請求書発行事業者登録状況を確認し、未登録の場合はスポンサー料の金額調整や代理店契約経由を検討すると実務負担を抑えられます。
まとめ ─ 安全かつ効果的にスポンサーシップをスタートするために
eスポーツスポンサーは、Z 世代への認知拡大・新規顧客獲得・採用ブランディングなど多面的なリターンをもたらす一方、契約条項の不足やコンプライアンス不備があれば瞬時に炎上・損害賠償へ転じるハイリスク領域でもあります。
スポンサー企業となる際に押さえておくべきポイントを踏まえ、専門家と共に進めていくことでリスクを最小化し、投資対効果を最大化することが可能です。当事務所は弁護士・社労士・税理士が社内で連携することにより、スポンサー検討段階から契約後のフォローまで法務・税務・労務すべての面で一貫したサポートをご提供しております。まずは初回無料相談にて、貴社の状況に沿った最適な戦略をご提案します。お気軽にお問い合わせください。