運送業界における「営業停止処分」は、車両の稼働が止まることによる直接的な減収以上に、荷主との契約維持、金融機関等からの信頼にも関わる重要な局面といえます。特に行政監査の通知が届いた、あるいは是正勧告を受けた状態は、今後の経営体制を左右する分岐点です。本記事では、運送業特有の行政処分基準や点数制度の仕組みを整理し、どのような違反が営業停止に直結するのかを弁護士がわかりやすく解説します。
もくじ
第1章 運送会社の「営業停止処分」とは?行政処分の位置付けと今後のリスク管理
1-1 営業停止処分の法的性質と経営に与える実務的な影響
一般的に「営業停止」と呼ばれる処分は、貨物自動車運送事業法に基づき、国土交通大臣または地方運輸局長が、法令違反を犯した運送事業者に対して命じる「事業の全部または一部の停止」を指します。これは、一定の期間において運送業務を行うことを禁じる行政処分です。
実務上の影響も深刻です。まず、物理的に車両を稼働させることができなくなるため、その期間の運賃収入が断たれます。一方で、人件費や車両のリース代、駐車場の賃料などの固定費は発生し続けるため、キャッシュフローが悪化します。さらに、営業が止まれば受注元である荷主は、代替の運送会社を探さざるを得ません。こうなった場合、処分の期間が明けたとしても、離れてしまった荷主が戻ってくるとは限らず、実質的な経営基盤が揺らぐ事態となるおそれがあります。
1-2 行政処分を受けることで懸念される対外的な信頼関係への影響
行政処分が下されると、その内容は国土交通省や地方運輸局の公表情報(いわゆるネガティブ情報)として、一定期間公開されるのが一般的です。これにより、社会的な信用が低下するだけでなく、取引先への影響も懸念されます。
コンプライアンスを重視する大手荷主企業との間では、契約書に「行政処分を受けた場合の契約解除条項」が盛り込まれていることが多く、即座に取引停止となる可能性があります。また、金融機関やリース会社にとっても行政処分は重大な懸念事項といえます。格付けの引き下げや、新規融資の拒否、場合によっては既存債務の一括返済(期限の利益の喪失)を迫られる可能性も否定できません。
1-3 営業停止よりもさらに深刻な「営業禁止(許可取消)」
本記事で解説している「営業停止処分」は、あくまで一定期間の業務を止めるものであり、処分期間が明ければ事業を再開することができます。しかし、運送法規には営業停止よりもさらに重い、いわば営業禁止に相当する「事業許可の取消し」という処分が存在します。これは、事業者としての資格そのものを剥奪されるものであり、事実上の廃業を意味するともいえます。名義貸しなどの極めて悪質な行為が発覚した場合や、重大事故が発生した場合に会社の安全管理体制や指導監督義務違反が重く評価された場合などには、事業許可の取消しが検討されることがあります。
行政から厳しい指摘を受けている局面では、営業停止処分のみならず、自社の違反がこの「許可取消し」の基準にまで及んでいないかを冷静に判断することも重要です。
第2章 なぜ営業停止になるのか?行政監査から行政処分にいたる流れ
2-1 段階1:きっかけの発生
通常、営業停止処分は行政監査を経た上で行われます。その行政監査が実施されるきっかけとして、たとえば、以下のようなものが挙げられます。
行政監査が実施されるきっかけの例
重大事故の発生
死傷事故や転覆・火災などの事故が発生した場合、運輸支局による監査が入る確率は非常に高くなるといえます。
巡回指導の判定
適正化実施機関による巡回指導の結果も重要です。巡回指導で「E判定」を受けるなど、改善が見られない場合には、運輸支局へ情報が提供され、本格的な監査へと発展する可能性があります。
労働基準監督署などの通報や内部通報
第三に、労働基準監督署からの通報や、従業員・退職者からの内部通報もあります。未払い残業代や過労運転に関する苦情が行政に寄せられると、それをきっかけに法規遵守状況の調査が始まります。他社から過労運転の常態化を告発されるケースもあります。
行政側がこうした情報を得て、法令遵守体制に問題がある可能性があると判断すると、次の段階である監査が実施されます。
2-2 段階2:行政監査の実施による事実関係の調査
きっかけが生じると、運輸支局の調査官が営業所に直接立ち入る「行政監査」が実施されます。これは、会社が法律を守っているかどうかを詳しく調べる調査のようなものです。営業停止処分を招くおそれがある具体的な違反事項は、後ほど第4章で確認します。
重要なのは、監査はあくまで「事実を確認する場」であるということです。調査官は、書類の不備や運用の実態を一つひとつ確認し、最終的に「どのような法令違反が何件存在したか」を確定させます。この監査で作成される「質問書」や「確認書」の内容が、のちの処分を決定付けるものとなります。
2-3 段階3:違反点数に基づく行政処分の決定と告知
監査によって法令違反の事実が確定すると、最終段階である「行政処分」の判断に移ります。ここで用いられるのが、次の章で解説する「行政処分基準点数」です。
行政は、確定した違反項目ごとに定められた点数を当てはめていきます。比較的軽微な違反や、初めての指摘であれば「車両停止(車番停止)」、違反が深刻、あるいは累積点数が高い場合は「営業停止(事業停止)」、さらに、名義貸しや虚偽報告など、組織的で悪質と判断された場合は「事業許可の取消し(営業禁止)」と、段階的に処分の内容は異なり、監査の結果が点数化され、その合計が一定のラインを超えたときに「営業停止」などの処分が下されることとなります。
第3章 処分の根拠となる「行政処分基準点数」のルール
3-1 行政処分基準点数の数え方と、営業停止ラインの境界線
運送業の行政処分は、各違反項目に対して定められた「点数」が累積していく仕組みになっています。これは運転免許の点数制度に似ていますが、事業者としての累積点数はより複雑です。
点数は、各営業所単位で計算される「営業所点数」と、事業者全体で計算される「事業者合計点数」の2軸で管理されています。
営業所点数と事業者点数の違い
日々の監査等で違反が発覚すると、その営業所に対して点数が付与されます(営業所点数)。この点数が一定の基準(具体的な点数は違反内容や再発状況により異なる)に達すると、その営業所に対して営業停止処分が下されます。原則として、同じ企業の他の営業所には直接の影響は及びませんが、会社全体で合算した「事業者合計点数」は比例して増えていく点に注意が必要です。事業者合計点数が高くなれば、他の拠点も監査のターゲットになるリスクをはらむからです。
具体的な計算のルールは、主に以下の3つの原則に基づいています。
違反項目ごとの「初発点数」
違反の重要度に応じて、最初につく点数が決まっています。例えば、点呼の未実施などは「10日車(車両停止換算)」といった基準があります。
再発による「加算(ペナルティ)」
同じ違反を短期間(原則3年以内)に繰り返すと、2回目、3回目と回数を追うごとに、付与される点数が2倍、3倍と重くなっていきます。
「3年間」の累積期間
点数は原則として、直近3年間の合計で計算されます。違反がなければ3年経過後に累積点数から除外されますが、その間に新たな違反があれば累積管理は継続されます。
今自社に何点溜まっているのか、そして次の違反がどれほどの重みを持つのかを正確に把握しておくことが、営業停止を防ぐ具体的な対策の一つといえます。
3-2 車両停止(車番停止)から営業停止へ至る段階的なプロセス
多くの場合、いきなりの事業停止(営業停止)ではなく、まずは「車両停止処分(通称:車番停止)」を下されるケースが一般的です。車両停止処分とは、特定の車両について、一定期間その使用を禁じられる処分です。車両停止は「10日車(じゅうにっしゃ)」という単位で表現されます。例えば「30日車」の処分を受けた場合、1台の車両を30日間止めるか、3台の車両を10日間止めるかを選択することになります。
ただし、違反が重大な場合は、車両停止処分の段階を経ず、いきなり営業停止処分が下される場合もあります。
第4章 営業停止を招きやすい、重大な違反事項の例
4-1 点呼をしていない、記録に不備があるケース
行政監査において、厳しくチェックされ、かつ点数が積み重なりやすいのが「点呼」の実施状況です。点呼は、ドライバーの健康状態や酒気帯びの有無を確認する重要な安全管理業務であり、その未実施には高い点数が設定されています。特に以下のような実態は危険な状況といえます。
点呼や記録の不備とみなされるケースの例
- 早朝や深夜の点呼をドライバーに任せきりにし、運行管理者が立ち会っていない。
- 電話点呼をすべき場面で実施していない、あるいは記録が残っていない。
- 点呼記録簿に後からまとめて書いたような不自然な筆跡や内容がある。
記録の改ざんや虚偽記載が発覚した場合、単なる過失よりも重い処分(即、営業停止など)が下される可能性があります。
4-2 過労運転の放置が組織的な法令軽視とみなされるケース
運送業においては、長時間労働を抑制することが安全確保の一つとみなされています。そのため、労働時間に関する違反は、単なる労基法違反に留まらず、運送事業法上の重大違反として扱われる傾向にあります。具体的には以下のようなポイントが精査されます。
- 「改善基準告示」を遵守しているか(休息期間の確保、連続運転時間の制限など)。
- 36協定で定めた延長時間を超えて働かせていないか。
- デジタコ(デジタルタコグラフ)データと出勤簿に乖離がないか。
長時間労働の常態化は、組織的な放置とみなされ、累積点数が一気に跳ね上がる可能性があります。
4-3 指導監督の怠慢が重大事故の予備軍と判断されるケース
ドライバーへの指導監督も重要です。法律では、特定のドライバー(新任、高齢、事故惹起者)に対して、特別な教育や適性診断の受診を義務付けています。
新しく採用したドライバーに初任教育を行わず単独乗務させていたり、事故を起こしたドライバーに必要な再教育やカウンセリングを受けさせていなかったりした状態で事故が発生すると、教育体制の不備が事故の主因と判断され、厳しい行政処分を招くことになりかねません。
第5章 行政監査から処分決定までの過程で経営者が取るべき対応
5-1 監査当日の臨場対応:調査官の指摘に対する証跡の提示
行政監査では、調査官は帳票類と実態が一致しているかを詳細に確認します。調査官の質問に対する回答は、口頭での説明だけでは不十分といえます。
たとえば点呼の実施について、「この日は点呼担当者が急病で不在だったが、代わりに補助者が実施した」と回答するのであれば、その補助者の選任届や、当日の点呼記録という「証跡(エビデンス)」を提示する必要があります。
また、調査官の指摘事項については、その場でメモを取り、間違いがないかを確認しましょう。もし、事実と異なる指摘を受けた場合は、その場で丁寧に説明し、納得してもらうことが不当に重い処分を回避する対策となります。
5-2 是正勧告への回答:改善の意思を明確に伝える報告書の作成
監査終了後、後日「是正勧告書」や「警告書」が送られてくることがあります。ここでの回答内容が、最終的な処分の重さを左右することもあります。
報告書作成のポイントは、「何を、いつまでに、どのように改善するか」を具体的に示すことです。「以後気をつけます」といった抽象的な回答ではなく、「点呼システムを導入し、運行管理者がリアルタイムで確認できる体制を〇月〇日までに構築する」といった、客観的に評価可能な改善策の提示が有効といえます。
5-3 聴聞手続きでの意見陳述:事実関係に基づく論理的な主張
処分の内容が重い場合、処分を決定する前に、事業者の意見を聞く「聴聞(ちょうもん)」という手続きが行われます。これは、いわば行政に対する最後のアピールの場です。
ここでは感情的に訴えるのではなく、論理的な主張を準備することが重要です。たとえば、指摘された違反事実の中に誤認や解釈の相違はないか、違反が起きた背景に自然災害時の特例的な対応など、不可抗力に近い事情はなかったかなど、事業者の落ち度がないといえる事情を、客観的な証拠とともに主張しなければなりません。
特に、監査から聴聞までの間に改善措置を講じた場合は、それを証明する資料を提出しましょう。処分の軽減を求める上で有効に働く場合もあります。
第6章 処分を回避するための適切な改善と組織体制の立て直し
6-1 さらなる重い処分を避けるために優先すべき緊急是正措置
営業停止が予見される危機的状況にある場合、まずは最悪の事態になることを止めるための緊急処置が必要です。優先すべきは、以下のような安全運行に関連する項目です。
アルコールチェックの徹底
記録漏れをゼロにするための二重チェック体制。
拘束時間の管理
改善基準告示に違反する運行スケジュールを即座に見直す。
未受診診断の解消
新任者や高齢者の適性診断を予約し受診させる。
これらを実施し、まずは「法令違反が今この瞬間も続いている」という状態を脱却することが、行政への弁明になり得ます。
6-2 監査指摘事項を契機とした、実効性のある改善計画の策定
場当たり的な修正ではなく、二度と監査で指摘を受けないための仕組みを作る必要があります。
たとえば、点呼記録の漏れが問題なら、手書きを廃止してデジタル点呼システムを導入するのも一つの方法です。また、配車担当者が無理な行程を組まないよう、運行管理者が配車計画に対して拒否権を持つようなルール作りも有効といえます。
これらの改善策を「改善計画書」として文書化し、社内に周知徹底させるとともに、実施状況を定期的にチェックする内部監査体制を構築しましょう。
6-3 弁護士・社労士と連携した、適正な労務管理体制へのアップデート
運送業のコンプライアンスは、法務と労務で成り立っています。社内に法務や労務の専任担当がいない場合、社外の専門家をアドバイザーとする方法もあります。たとえば、弁護士は行政処分への対応や、取引先・金融機関との法的トラブルへのアドバイスなどを行い、社労士は複雑な給与計算や労働時間管理、36協定の適正化などをサポートします。
外部の専門家を入れるメリットは、自社の基準ではなく「客観的な法律の基準」で体制を診断できる点にもあります。また、万が一監査が入った際も、日頃から士業と連携している事実は、「法令遵守を重視している企業である」という後ろ盾になるはずです。
第7章 【FAQ】運送会社経営者のための行政監査・営業停止
7-1 Q:監査で書類の不備が見つかった際、どのように対応すればいい?
A:まずは正直に事実を述べることが基本です。
隠蔽やその場しのぎの虚偽説明をした場合、発覚した際には処分に大幅な加重がなされるため、非常にリスクが大きいといえます。不備が見つかった場合は、なぜその不備が起きたのか(教育不足、管理体制のミスなど)を分析し、「直ちに改善に着手します」という姿勢を明確に示すことが大切です。そして、実際に監査が続いている間も、できる限りの修正や是正措置を行うことが望ましいです。
7-2 Q:営業停止処分を受けた場合、他支店の車両や外注(傭車)の利用も制限される?
A:いいえ、処分は原則として営業所単位です。
営業停止処分は原則として、営業所単位で下されるため、A営業所が営業停止になった場合でも、処分の対象外であるB営業所の車両を使用することは、形式上は可能です。ただし、実態として処分対象営業所の業務を代替させるような運用は、「処分逃れ」と評価され、追加的な処分など、さらに厳しい行政対応を受けるおそれがあります。
7-3 Q:Gマークの認定や、金融機関への状況報告はどうなる?
A:安全性優良事業所(Gマーク)の認定は取り消されます。
営業停止処分が下されると、Gマークの認定が取り消される、または更新が認められなくなるのが一般的です。再取得までには、一定期間(通常2〜3年以上)の経過が必要となります。
金融機関については、融資契約(金銭消費貸借契約)の中に「行政処分を受けた際の報告義務」が含まれている場合が多いです。黙秘して後から発覚するよりも、弁護士などの専門家と相談した上で、改善計画とともに自ら報告に行く方が、信頼関係の維持に繋がる可能性が高いといえます。
第8章 持続可能な運送経営を実現するために
今回は、運送業における営業停止処分の仕組みから、重大な違反ケース、監査への対応策までを解説しました。
行政監査の兆候を感じていたり、点数の累積に頭を悩ませていたりする経営者の方にお伝えしたいのは、「事態が深刻化する前に、先手で組織を立て直すことの重要性」です。是正勧告を受ける前の段階で、自社の課題を客観的に把握し、実効性のある管理体制を構築することが、事業を長く継続するうえで非常に大切といえます。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループは、弁護士、社会保険労務士、税理士などが一体となったワンストップの支援体制を整えております。運送業の経営を止めることなく、より堅実な組織へと進化させるために、ぜひ私たちにご相談ください。専門的な知見をもって、貴社の持続可能な経営を全力でサポートいたします。まずは現状のお困りごとをお気軽にお聞かせください。
