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建設業で営業停止処分の可能性が発生したら?営業停止の基準と未然に防ぐための対応

2025.05.13

建設業界では、公共性の高さから行政の監督権限が強く、法令違反が判明すると「営業停止処分」という極めて厳しい制裁に直面します。
処分を受ければ公共工事の指名停止、金融機関の融資停止、さらには取引先との契約解除が連鎖しかねません。
この記事では、営業停止の基礎知識から、実際に通知を受けた際の対応、万一処分を受けた後に取り得るべき手段まで、弁護士が総合的に解説します。
「営業停止の不安がある」「行政から聴聞通知が届いた」という方は、ぜひ最後までお読みください。

1. 建設業の営業停止とは何か

1-1. 営業停止処分の法的根拠

営業停止は建設業法28条が定める監督処分の一つです。
同条は「許可を受けた建設業者が法令または許可条件に違反したとき、国土交通大臣または都道府県知事は営業の停止を命ずることができる」と規定しています。
停止期間は最長1年ですが、違反の態様や再犯歴によって30日・60日など短期処分もあり得ます。

1-2. 行政監督処分の種類と営業停止の位置づけ

監督処分は通常、(1)指示(業務改善命令)→(2)営業停止→(3)許可取消の順で重くなります。
指示・命令段階で是正に応じなかった場合、営業停止へ進むケースが多いため、初動で改善計画を提出できるかが分岐点となります。

2. 営業停止処分に至る主な原因

2-1. 無許可請負・名義貸しなど重大な法令違反

無許可で請負契約を締結した、他社に許可を貸し与えた──いわゆる「名義貸し」は営業停止や取消の典型例です。
下請の独立を促す目的で親会社の許可を形式的に使わせる行為も処分対象になり得ます。

2-2. 経営業務管理責任者・専任技術者の要件欠如

経管や技術者が退職したまま長期不在になっていると、要件欠如として監督署から改善命令が出ます。
期限内に新任者を届け出られない場合、営業停止が視野に入ります。

2-3. 社会保険未加入・下請法違反が招く監督処分

国交省は「社会保険未加入企業への監督指導徹底」を毎年公表しており、未加入が判明すると速やかな是正報告を求められます。
虚偽の報告や是正をせずに未加入の状態を続けてしまうと営業停止に直結します。

2-4.再違反と重過失事例

労災隠しや重大事故の再発など、過失が重い場合は指示や業務改善命令の段階を飛ばしていきなり営業停止となることもあります。
行政手続を軽視せず、通知書が届いた段階で弁護士同席のうえ対応方針を固めるべきです。

3. 営業停止処分にいたるまでのプロセス

3-1. 行政からの通知書が到達

営業停止になり得る原因となる状態が疑われる場合、行政より以下のような通知書が送られてきます。

  • 報告徴収命令書・資料提出命令書
  • 立入検査や書類調査の結果、違反疑いがあるときに届く最初の文書です。

  • 弁明書提出依頼書/聴聞通知書(意見陳述の機会付与通知)
  • 行政が営業停止を含む処分案を持ち、事前に「弁明・意見を述べたいか」を確認するために発送する書面です。

 
これらの通知を放置すると、弁明の機会を失い“いきなり営業停止”が確定するリスクが高まりますので、いずれの通知書であっても受領した時点で速やかに対応する必要があります。

3-2. 立入検査・報告徴収から聴聞通知までの流れ

通知書の発送後、担当部局が立入検査や提出された書類を元に調査を行います。
調査結果を踏まえ、営業停止処分案とともに「弁明書提出・意見陳述(聴聞)」の機会が付与されます。
期日は通常2〜3週間後をめどに設定されますので、以下のポイントをもとに法的根拠を踏まえた説明と再発防止策までをセットでまとめることが重要です。

弁明・意見陳述のポイント

(1)違反の故意・重大性の低さ、(2)是正措置の完了、(3)再発防止策の具体性、(4)処分が与える社会的影響を丁寧に説明し、情状酌量の余地があると認めてもらえれば、営業停止日数の短縮や指示処分への格下げが期待できます。
以下のような書類を弁明書と同時に提出し、具体的な再発防止策を取っているということを客観的に証明することが重要となります。

  • 是正完了報告(事実関係と再発防止措置の完了証拠)
  • 第三者監査報告書(外部専門家によるコンプライアンスチェック結果)

3-3. 処分決定・告示と公示情報の扱い

処分が決まると官報や自治体公報、国交省の監督処分検索ページに社名・期間が掲載されます。
公開情報は取引先側でも確認ができるため、事後広報を誤ると取引停止などが連鎖的に発生してしまう恐れがあります。

4. 営業停止が企業経営に与える4つの影響

4-1. 公共工事の指名停止・入札資格停止

営業停止になると、国・自治体・高速道路会社の「指名停止措置要綱」に基づき、最長24か月の入札排除を受けることがあります。
売上の公共依存度が高い企業では死活問題です。

4-2. 民間取引先・金融機関の与信評価低下

取引基本契約には「営業停止を理由に解除できる」条項が置かれるケースが多く、工事途中でも契約打切りの危険があります。
運転資金が途絶える前に金融機関へ説明し、返済条件変更を協議する必要があります。

4-3. 下請業者・職人・社員への波及と離職リスク

元請が営業停止になると、下請も連鎖的に仕事を失います。
職人確保が難しくなるため、停止期間中の代替現場の紹介や一時金支給など、社外関係者への対応と対策を講じておくことで一定程度の損失を抑えることは可能です。

4-4. 許可取消処分へ連鎖することも

営業停止期間中に無許可営業を行った、再度違反したとなれば、最終処分である営業許可取消の処分を受ける可能性が高くなります。
許可取消になってしまった場合、取消後5年間は新規許可が取れないため、企業再生のハードルが格段に上がります。

5. 営業停止処分を受けた後の対応

5-1. 是正完了報告書の作成

国土交通省の監督処分基準は、違反の軽重・是正措置の完了状況・再発防止体制を総合考慮して営業停止期間を減軽できるとしていますので、速やかに是正措置を講じて行政へ提出・報告することが重要です。
(1)違反事実の詳細調査、(2)原因分析(人・物・金・情報)、(3)再発防止策の具体化、(4)実施スケジュールを網羅した報告書の作成を行いましょう。

5-2. 取引先・金融機関への説明と信用維持策

取引先や株主など、社外のステークホルダーへの説明は迅速が鉄則で、上場企業においては24 時間以内での対応が目安とされています。
建設業でも営業停止が確定したら1日以内に主要取引先への説明を行うことが望ましい対応です。
また、金融機関からの融資を受けている場合は事業計画を提示の上でリスケなど含めた資金繰りについて協議を進めましょう。
いずれも、顧問弁護士、顧問税理士などに相談の上で事業に与える影響が最小限になるような対応を取ることが必要とされます。

5-3. 復権の試み(期間短縮・一部解除など)

営業停止が確定した後(処分発令後)についても、条文上は「酌量すべき情状が生じた場合は、営業停止の期間について必要な減軽を行うことができる」との裁量規定があります。
実務においては、営業停止期間の半ばを目安に是正完了報告書および第三者監査報告書を提出し、残余期間の免除や特定工種のみの営業停止解除を求めるような形が最短での復権ルートとして一般的です。

ただし、処分確定後の変更は「例外的措置」と位置づけられ、行政庁の裁量幅も小さくなるため、

  • 違反内容が軽微で再発防止が完了している
  • 利害関係者への影響が甚大

といった条件が揃わないと認められにくいのが実情です。

いずれの場合も、行政との交渉戦略と書証の作り込みが不可欠なため、弁護士に早期相談の上で最短での復権を目指すことが推奨されます。

6. 営業停止後の再起と許可再取得

6-1. 停止期間中の事業継続スキームのリスク

停止期間中に請負として労務提供をする際のリスク

国土交通省は「契約が請負形式でも、実態が相手方の指揮監督下で労務を提供している場合は建設業法の ‘請負’ に該当せず、無許可営業とみなされ得る」としており、停止期間中にグループ会社へ工事を付替え、対象会社が “労務のみ提供” する場合は、請負契約と労働契約の線引きを厳格に行い、指揮命令系統が混在しないよう契約書で明確化しなければ実質的な無許可営業であると判断されるおそれが高いです。

別会社・新設法人の「実質同一性」審査

こちらも国土交通省により、「許可取消処分を受けた法人と ‘実質的に同一’ と認められる新法人は、欠格要件により許可申請を拒否し得る」という
許可取消後に別会社・新設法人で新しく許可申請を行い事業再開をする場合でも、旧会社との人・資本・事業の継続性が濃厚であると、許可取消処分を受けた法人と ‘実質的に同一である’として欠格扱いになり得るため、役員構成や財務・資産の切り分けを事前に設計しなければ許可申請が拒否される可能性があります。

いずれにしても、法的留意点が多数存在しますので、弁護士が事前にスキームをレビューしたうえで、リスクを可視化してから進めるべきでしょう。

6-2. 再許可申請に必要な財務・技術要件

通常の建設業許可申請と同じく、直前3期の財務指標や技術者常勤要件を満たさないと再許可は下りません。
これらの要件は営業停止満了後でも例外なく適用されるため、財務面での基準をクリアできていない場合や技術者確保が不十分な状態で申請をしても許可は下りない点に注意が必要です。

7. 本コラムのまとめ

営業停止は一度受けると売上・信用・人材のすべてに深刻なダメージを与えます。
しかし、処分が確定する前の段階で、原因分析と再発防止策を早期に打ち、適切な初動対応を実施することで処分の格下げや期間短縮、復権の道は残されています。
すでに通知書が届いてしまっている場合はまずは速やかに弁護士へ相談をしてください。
そして、自社の体制に少しでも不安を感じられている場合も、できるだけ早めに一度ご相談いただき、実際に調査が入る前に是正対策を取っていくことが望ましいです。

当事務所では、弁護士だけでなく社労士・行政書士による総合的なサポートを行っており、実際の書類作成・行政対応から、社保加入、再度の許可申請の手続まで一貫して対応が可能です。
まずは一度ご相談ください。

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