企業のコンプライアンス体制を強化するうえで欠かせない「内部通報窓口」。
しかし、社内だけで対応するにはリスクや負担が大きく、情報漏洩や調査の中立性などの問題が指摘されることも少なくありません。
そこで注目されているのが、内部通報窓口の「外部委託」という選択肢です。
本記事では、内部通報窓口を外部委託するメリットと留意点、実務上のポイントを詳しく解説します。
もくじ
1. 内部通報窓口とはなにか?
内部通報窓口とは、企業内で行われる不正や法令違反、ハラスメント行為、就業規則への抵触などの疑義について、従業員(または関係者)が通報・相談できる機能のことを指します。
従業員が安心して声を上げられる環境があるか否かは、コンプライアンスの健全化および労務トラブルの早期発見に大きく影響します。
企業の規模が大きくなると、個々の部署や担当者では把握しきれない問題が潜在化しやすくなります。
一定の企業規模以上では内部通報窓口の設置は義務化されていますし、企業規模が小さい場合でも内部通報窓口を構築しておくことが、企業としてのリスク管理上非常に重要です。
2. 内部通報窓口を外部委託する背景とニーズ
従来は、社内に「コンプライアンス室」や「経営企画室」などの一部門を置き、そこが内部通報窓口を兼務しているケースが多く見られました。
しかし近年、以下のような理由から、外部の専門家や専門機関への委託が広がっています。
- 社内担当者の中立性への懸念
- 情報漏洩リスク
- 事案調査の専門性不足
利害関係のある部署に通報すると、通報者が不利益を被るのではないかという懸念が生じやすい。
社内組織のみで取り扱うと、誰が見ても通報内容が守られない恐れを感じることがある。
法律や労務分野での専門知識を必要とする複雑な案件に対し、社内リソースでは対応が困難なことがある。
また、公益通報者保護法が強化されるなど、法令面の整備・改正も進み、企業の内部通報に関する実務対応はより慎重さが求められています。
そこで外部委託のニーズが高まっているわけです。
3. 内部通報窓口を外部委託するメリット
3-1. 通報者の安心感向上
社内ではなく外部の第三者に直接情報が届くことで、通報者は「経営層や上司に情報が筒抜けになってしまうのでは?」という不安を軽減できます。
結果として通報が促進され、早期に違反行為や不正を発見しやすくなるメリットが見込まれます。
3-2. 公正・中立な調査の実現
外部委託の場合、企業の社内人間関係に左右されることなく調査が進められるため、中立公正な判断を行いやすい点が強みです。
利害関係がある部署が調査を担うと、どうしても調査結果の公平性が損なわれかねません。
一方で外部専門家が関与すれば、企業にとっても信頼度の高い結果を得られます。
3-3. コストと人的リソースの最適化
社内に専任の担当部署を設け、人材を雇用することはコストがかかるうえ、即座に必要なスキルを確保できるとは限りません。
外部委託により、必要なときだけ専門的なリソースを活用し、予算と人員を効率よく配分できます。
4. 内部通報窓口を外部委託する際の主要検討事項
4-1. 外部委託先が担う主な業務内容
外部委託先が担う業務範囲は多岐にわたります。一般的には以下のような業務が含まれます。
- 通報受付:
- 初期対応:
- 調査補助:
- 報告書作成:
メールや電話など、複数の受付手段の用意
通報内容の把握と担当部門への報告
証拠や関係者ヒアリングの実施サポート
調査結果を文書にまとめ、経営層へフィードバック
外部委託先と企業間で、どこまで対応を委託するかをすり合わせのうえで、契約書等で明確に定めておく必要があります。
4-2. コンプライアンスと労務分野における専門性の重要性
内部通報には、ハラスメント問題、労働条件に関するトラブル、経理上の不正、さらに法令違反行為など、多種多様なリスクが含まれます。
そのため、法律や労働問題の専門知識を兼ね備えた外部委託先が望ましいといえます。
特に労務分野においては、社労士法人とも連携できる体制があると、一層スムーズな対応が期待できます。
5. 内部通報制度を外部委託するうえでの法的留意点
5-1. 個人情報保護との関係
通報者の個人情報や、通報内容に含まれる第三者の個人情報は、外部委託するにあたって厳格に取り扱う必要があります。
個人情報保護法のガイドラインや各種法令に従って、情報漏洩を防ぐ仕組みを整えるとともに、契約で取り扱いを明確化しておくことが大切です。
5-2. 公益通報者保護法との連動
内部通報窓口は公益通報者保護法とも密接に関連しています。
外部委託先が正しく運用できるよう、同法の要件を踏まえた対応ルールを整備し、通報者の保護および企業側の適切な調査手順を両立することがポイントです。
5-3. 通報情報の管理と機密保持
外部の委託先と企業との間で、機密情報保護や情報管理方法等をどう規定するかを双方で共通認識を作っておく必要があります。
守秘義務の違反や漏洩が起きた場合の責任範囲や補償内容もここで事前に合意を取っておきましょう。
6. 外部の専門家選定のチェックポイント
6-1. 法的アドバイスが可能な弁護士事務所・法律事務所
外部委託先を選ぶ際、法律に関するアドバイス体制が整っているかが非常に重要です。
通報内容によっては、法的なリスクの判断や処分方針の決定が必要になるため、弁護士の専門性が不可欠です。
6-2. 社労士法人との連携体制があるか
ハラスメントなどの労務に関する通報が多い実情を踏まえると、労務に強い弁護士がいる、社労士法人との連携体制がある委託先は大きな強みになります。
労務の側面を専門的に検証・調整できるため、企業として適切な対応を取りやすくなります。
6-3. 実務経験・調査実績・守秘義務の徹底
外部委託先を選ぶ際は、過去の実務経験や調査実績を確認するとともに、守秘義務をどの程度徹底できるかをチェックすることが欠かせません。
具体的には守秘義務の契約書条項や情報管理体制の有無などが判断材料となります。
7. 外部委託後の運用フローとモニタリング
7-1. 通報受付から初動対応まで
外部委託先が通報を受け付けたら、まず企業側の担当窓口(管理部門など)に通報の概要が共有されます。
この段階で緊急性のある問題かどうかを判定し、調査の深度を決定します。
7-2. 調査・報告と経営判断
外部委託先は、通報者や関係者へのヒアリング、関連書類の収集・精査などを行い、企業へ調査結果を報告します。
企業側は報告を受け、懲戒処分や是正措置など必要なアクションを決定します。
7-3. 運用レビューと改善
定期的に運用状況をレビューし、通報件数や対応の質を評価して改善点を洗い出します。
例えば、通報件数が極端に少ない場合は、通報手段や周知方法の見直しが必要となるかもしれません。
8. 内部通報窓口を外部委託する場合の費用相場とコスト管理
8-1. 費用構成の内訳と相場観
外部委託費用は、以下のような項目で構成されるケースが多いです。
- 月額基本料:
- 調査費:
- 追加サービス料:
通報受付システム・電話対応などの固定費
案件ごとの調査実施にかかる費用
専門家による労務・法務アドバイスを受ける際の料金
相場としては、小規模な企業なら月数万円程度~、従業員数が多い大企業なら月数十万円ほどになることがあります。
調査費や追加サービスの有無により変動するため、事前の見積りを取って自社に合った委託先を検討しましょう。
8-2. コストとリスクのバランスをどう考えるか
自社で内製化しようと思えばできるため、外部委託コストが高いと感じるかもしれませんが、内部通報制度の不備によって発生しうるリスク(法的責任・風評被害・社内トラブルなど)を考えると、安易に削減できない部分でもあります。
健全な企業運営のため、一定の投資として捉えるのが賢明といえるでしょう。
Q1:外部委託先と契約する前に確認すべきポイントは?
A1:守秘義務の厳守体制や実務経験、過去の実績、専門家(弁護士や社労士など)との連携状況を確認しましょう。
また、費用構造・契約期間・契約解除条項なども事前に十分に精査が必要です。
Q2:内部通報窓口を外部に委託する場合、社内に窓口をまったく設けなくてもよい?
A2:法令的には社内窓口を併設することは必須ではありません。
ただし、社員が気軽に相談できる仕組みとして、社内窓口も並行して用意しておくほうがよい場合もあります。
Q3:労務関連の通報が非常に多いのですが、法律事務所だけに委託すれば十分?
A3:可能であれば、労働基準法などに精通した弁護士や、社労士法人と連携している弁護士事務所を外部委託先にできることが望ましいです。
労務トラブルの実務対応には労務問題の経験値やスキルが必要になるケースが多いため、法務と労務の双方をカバーできる体制がベストです。
9. 本コラムのまとめ:外部委託で社内リスクを効率よく低減し、健全な企業運営を
内部通報窓口を外部委託することは、単に通報受付を外部に任せるだけではなく、企業内に潜むリスクに早期に気づき、適切に解決へ導くための有力な手段です。
弁護士や社労士法人といった専門家の知見を活用し、公正性と信頼性を確保しながらコンプライアンスを推進できます。
社内リソースが限られる中小企業だけでなく、大企業でも「外部の目」を積極的に取り入れる動きが広がっています。
不正やハラスメントなどが企業の信用を一瞬で失墜させるリスクがある現代において、外部委託は費用対効果の観点でも十分検討に値する選択肢です。
当事務所では、労務問題の専門性を有する弁護士・社労士が在籍し、委託元企業の事情や規模に合わせた内部通報制度の整備・運用をサポートしています。
外部委託に関するご相談や、社内での内部通報に関連するトラブルや課題など、まずはお気軽にお問い合わせください。