法改正により、一定規模以上の企業には設置が義務付けられるようになった内部通報窓口ですが、制度を形だけ整えても十分な効果は得られません。
本記事では、企業のリスク管理として、内部通報窓口を適切に機能させるにはどのような対応が求められるのか、企業に求められる設置義務の要件や外部委託のメリットについて解説します。
1.内部通報窓口とは?基本的な役割と重要性
企業が健全な経営を維持し、コンプライアンスを強化するために内部通報窓口の設置は不可欠です。
内部通報制度を適切に運用することで、不正行為やコンプライアンス違反を未然に防ぎ、企業の信頼性を高めることができます。
ここでは、内部通報窓口の基本的な概念やその重要性について詳しく解説します。
もくじ
- 1 1-1.内部通報窓口の定義と目的
- 2 1-2.内部通報制度の背景と必要性
- 3 1-3.内部通報の対象となる事案とは?
- 4 2-1.改正のポイント(2022年6月施行)
- 5 2-2.内部通報窓口の設置義務がある企業の範囲
- 6 2-3.設置義務を果たさない場合のリスク
- 7 3-1.内部通報窓口の設置義務がある企業の基準
- 8 3-2.内部通報窓口の設置義務の具体的な内容
- 9 3-3.設置義務のある企業が遵守すべきポイント
- 10 3-4.外部委託を検討すべき企業の特徴
- 11 Q.内部通報窓口の対応履歴はどのように管理すべきですか?
- 12 Q.通報内容が虚偽や誤報だった場合、通報者を処分することは可能ですか?
- 13 Q.内部通報制度を社外にも公開するべきですか?
- 14 Q.内部通報制度を導入しても、通報件数がほとんどない場合、問題はないのでしょうか?
1-1.内部通報窓口の定義と目的
内部通報窓口とは、企業内外の従業員や関係者が、不正行為や法令違反を匿名または実名で報告できる仕組みを指します。
主に社内の透明性を確保し、コンプライアンス体制を強化することを目的とした仕組みです。
【内部通報窓口の目的】
・法令違反・不正行為の早期発見
→企業内で発生する法令違反や不正行為を、外部に発覚する前に早期に察知し、適切な対応を講じることができます。
・従業員の安心感と信頼性の向上
→通報者の保護を徹底し、内部通報を奨励することで、企業文化の健全化を図れます。
・企業の法的リスク回避
→不正行為が放置されることで発生する訴訟リスクや行政処分を未然に防ぐことができます。
1-2.内部通報制度の背景と必要性
近年、企業のコンプライアンス違反やガバナンスの不備が社会問題となり、多くの企業が内部通報制度の整備を進めています。
特に公益通報者保護法の改正(2022年施行)により、一定の企業には内部通報窓口の設置義務が課されることになりました。
内部通報制度が求められる背景には以下の要因があります。
1.法規制の厳格化とコンプライアンスの重要性
近年、公益通報者保護法の改正をはじめとする各種法規制が強化されています。
法令違反が発覚した場合、行政指導や刑事罰の対象となるだけでなく、社会的信用の低下にもつながります。
企業は、単に法律を遵守するだけでなく、組織全体でコンプライアンスを徹底する姿勢が求められています。
2. 企業の社会的責任(CSR)とリスクマネジメント
ESG経営やSDGsの推進に伴い、企業の透明性や倫理的経営の重要性が高まっています。
内部通報制度を適切に運用することは、社会的責任(CSR)を果たすだけでなく、企業のブランド価値向上や取引先・投資家からの評価向上にも寄与します。
また、不正を見逃せば企業イメージの低下に直結するため、内部通報制度は重要なリスクマネジメントの一環とも言えます。
不正行為やコンプライアンス違反が長期間放置されることは企業経営に多大なリスクを及ぼすこととなるため、内部通報制度を適切に機能させたうえで、潜在的なリスクを早期に把握し、被害を最小限に抑えることが大切です。
1-3.内部通報の対象となる事案とは?
内部通報窓口では、あらゆる不正行為や違法行為の報告を受け付けますが、特に以下のような事案が対象となります。
・法令違反(労働基準法違反、個人情報保護法違反、公正取引法違反など)
・ハラスメント問題(パワハラ、セクハラ、マタハラなど)
・会計不正・粉飾決算(架空取引、売上水増しなど)
・企業秘密の漏洩(機密情報の外部流出、競合企業への情報提供など)
・安全管理の不備(労働災害の隠蔽、危険作業の放置など)
内部通報窓口の設置は、企業の透明性を向上させ、不正行為の抑止につながる重要な制度です。
近年の法改正により、一定規模以上の企業には設置義務が課されており、今後ますますその重要性が高まると考えられます。
2.内部通報窓口の設置義務がある企業とは?
2022年に改正された公益通報者保護法により、一定の企業には内部通報窓口の設置が義務化されました。
公益通報者保護法(改正法)とは、企業の不正行為を内部から適切に報告しやすくするための法律であり、特に従業員からの通報を適切に処理する体制の整備を義務づけています。
2-1.改正のポイント(2022年6月施行)
・常時使用する労働者が300人を超える企業は、内部通報窓口の設置が義務化
・通報者の保護措置を適切に講じることが企業に求められる
・通報対応の責任者(公益通報対応業務従事者)を設置し、適切な対応を行う必要がある
・通報者の情報を漏洩しない義務を徹底する必要がある
なぜ内部通報窓口の設置が義務化されたのか?
これまでも内部通報制度を導入している企業はありましたが、十分に機能していないケースが多く、通報者への報復や情報漏洩といった問題が発生していたことから、一定規模以上の企業には、適切な通報対応体制の整備を義務付けることで、企業のコンプライアンス強化を図る狙いがあります。
2-2.内部通報窓口の設置義務がある企業の範囲
内部通報窓口の設置が義務付けられる企業の基準は以下のとおりです。
✅常時使用する労働者が300人を超える企業
→労働者のカウントには、正社員だけでなく契約社員やパートタイム従業員も含まれる点に注意が必要です。
✅親会社が300人を超える場合、子会社も対応が求められる場合がある
→子会社の内部通報窓口が未整備の場合、親会社が一括して対応するケースもあります。
✅内部通報対応の業務を他社に委託することも可能
→自社で適切に対応できない場合は、外部の専門機関(弁護士事務所など)へ委託することで義務を履行することができます。
2-3.設置義務を果たさない場合のリスク
内部通報窓口の設置を怠った場合、企業は法的・社会的・経営上のリスクを負う可能性があります。
ここでは、それぞれのリスクについて詳しく解説します。
1.法的リスク
(1)公益通報者保護法に基づく行政指導や罰則のリスク
内部通報窓口の未設置や不適切な運用が発覚した場合、消費者庁から是正指導や勧告を受ける可能性があります。
これは、企業が適切な通報対応体制を整備していないと判断された場合に行われるものです。
また、公益通報者に対して不利益な扱いをした場合(解雇・降格・異動など)、労働基準監督署や裁判所での判断によっては行政指導や企業への制裁措置が課されることもあります。
(2)通報者からの損害賠償請求
企業が通報者の個人情報を漏洩したり、通報を理由に不当な扱いをした場合、通報者から損害賠償請求(慰謝料請求等)を受ける可能性があります。
特に、不利益な処遇が社会的に問題視されるようなケースでは、企業の対応が厳しく追及されることになるでしょう。
2.社会的リスク
(1)企業の信頼低下
内部通報窓口が整備されていないと、従業員による不正の報告が機能せず、結果として社内の不正行為が外部にリークされるリスクが高まります。
不正が公になった場合、企業のコンプライアンス意識の低さが疑われ、取引先や顧客からの信用を失う可能性があります。
(2)レピュテーションリスクの拡大
通報者が企業の対応に不満を持ち、SNSやメディアを通じて告発した場合、企業の評判が一気に低下する可能性があります。
特に、パワハラ・セクハラの隠蔽などの問題が絡む場合、炎上リスクも考慮する必要があります。
3.経営リスク
(1)労務トラブルの深刻化と従業員のモチベーション低下
内部通報制度が機能していない企業では、不正行為が社内でまん延しやすくなります。
適切な対応が行われないことで、従業員のモチベーションが低下し、離職率の上昇につながることも少なくありません。
(2)投資家・株主への影響
企業のガバナンス体制が不十分だと判断されると、投資家や株主からの信頼が低下し、株価の下落や資金調達の困難化につながる可能性があります。
特に、上場企業においては、コンプライアンス違反が上場維持に影響を及ぼすこともあります。
3.内部通報窓口の設置基準と義務の詳細
企業が内部通報窓口を設置すべきかどうかは、法的要件や業種ごとの特性によって異なります。
3-1.内部通報窓口の設置義務がある企業の基準
(1)従業員301人以上の企業は設置義務あり
2022年6月1日に施行された改正公益通報者保護法により、常時使用する従業員が301人以上の企業には内部通報窓口の設置が義務付けられています。
(2)300人以下の企業は努力義務
従業員が300人以下の企業には、内部通報窓口の設置義務はありません。
ただし、企業のコンプライアンス強化や不正リスクの管理を考慮すると、300人以下の企業でも積極的に設置を検討することが推奨されます。
特に、労務トラブルや情報漏洩リスクが高い業種では、早期に内部通報制度を導入することが望ましいでしょう。
(3)業種による義務の違い
一部の業種では、従業員数に関わらず内部通報窓口の設置が求められるケースがあります。
例えば、金融機関や上場企業では、法律やガイドラインにより内部通報制度の設置が強く推奨されています。
また、公的機関と取引のある企業(官公庁関連の業務を請け負う会社など)は、コンプライアンス体制の一環として、内部通報制度の導入が求められることが多いです。
3-2.内部通報窓口の設置義務の具体的な内容
(1)通報者の保護体制の整備
内部通報窓口を設置する企業は、通報者のプライバシーや権利を保護するための措置を講じることが求められます。
具体的には、以下のような対策を実施する必要があります。
・通報者の個人情報を適切に管理し、外部への漏洩を防ぐ
・通報を理由にした報復措置(降格、解雇、不利益な配置転換など)を禁止する規定を設ける
・匿名通報を受け付ける仕組みを導入し、通報者が安心して報告できる環境を整備する
(2)適切な通報対応のための手順策定
内部通報窓口を設置する企業は、通報を受けた際の対応手順を明確化することも求められます。
具体的には、以下のようなプロセスを規定することが重要です。
・通報受付後の調査フロー(初期対応、ヒアリング、証拠収集など)
・不正が認められた場合の対応方針(懲戒処分、法的措置の検討)
・通報者へのフィードバック方法(調査結果の共有範囲、報告時期)
(3)社内ルールの整備と周知
企業が内部通報制度を適切に運用するためには、就業規則や社内規程に内部通報制度の詳細を明記する必要があります。
また、従業員に対して制度の存在を周知し、適切に活用できるようにすることも重要です。
具体的な対策としては、以下のような取り組みが考えられます。
・社内研修などを通じて、従業員に通報制度の目的と使い方を説明する
・通報窓口の連絡先や通報の流れを明記した社内ポスターを掲示する
・外部の専門機関(弁護士・社労士など)と連携し、適切な運用を確保する
3-3.設置義務のある企業が遵守すべきポイント
(1)社内にて内部通報対応を行う場合のポイント
社内で内部通報窓口の設置と対応を行う場合、通報者が安心して情報提供できる環境を整えるため、以下のような点を踏まえた運用を行う必要があります。
・匿名通報の受付を可能にする
→通報者が社内で不利益を被るリスクを軽減し、より多くの情報提供を促進する。
・通報者保護のための明確なルールを策定する
→内部通報者の身元が不当に暴露されたり、不利益な扱いを受けたりしないよう、報復禁止規定を就業規則に明記する。
・調査プロセスの透明性を確保する
→通報受付から調査、対応完了までの具体的なフローを定め、通報者へ適切なフィードバックを行う。
・通報対応の責任者を独立した立場に置く
→経営陣や管理職が関与する不正の疑いがある場合でも、調査の公正性を確保できるよう、監査部門や社外取締役など独立性のある部署が主導する体制を整備する。
(2)社内窓口の課題と外部窓口の必要性について
可能な限りの対応策を講じていた場合でも、以下のような理由により内部通報に対する調査を社内で行うことには限界があるのが事実です。
・調査の公正性の確保が難しい
→通報対象が経営陣や管理職の場合、社内調査で忖度が働き、公正な判断が下されない可能性があるほか、組織的な隠ぺいにつながる恐れがある。
・通報者への不利益な対応を防ぎにくい
→社内窓口のみでは、通報者が人事評価や異動で不利益を受けるリスクを完全に排除することが難しい。
・法的専門知識が不足する
→企業の法務部門だけでは通報案件の法的リスクを的確に判断し、適切な対応を講じることが困難となるケースも多い。
このように、企業内での対応が困難な場合に備え、外部の第三者に窓口を委託することを検討するのも一つです。
3-4.外部委託を検討すべき企業の特徴
すべての企業が内部通報窓口を外部委託する必要があるわけではありませんが、以下のような企業は外部委託のメリットが大きいといえます。
・社内のコンプライアンス体制が未整備の企業
→体制の不備により法令違反が発生しやすいだけでなく、違反が発覚しても適切な対応ができず、リスクが拡大する可能性があるため、外部専門家のサポートが不可欠。
・従業員規模が大きく、通報件数が多い企業
→社内の担当部署だけでは通報の処理が追いつかず、対応が遅れる可能性があるため、専門機関の利用による業務負担の軽減が推奨される。
・過去に内部通報対応の不備が問題になった企業
→制度に対する透明性の確保と信頼回復のために、外部窓口の活用が有効。
弁護士・社労士と連携しているような外部窓口であれば、法的アドバイスを受けられる体制を構築することで、法的リスク面もカバーしつつ、通報制度が形式化して機能しなくなることも防ぐことができますので、自社にはどの形がマッチするのかを十分に検討されてみてください。
4.内部通報窓口に関するよくある質問(Q&A)
Q.内部通報窓口の対応履歴はどのように管理すべきですか?
A.内部通報の受付や調査の記録は、一定期間(通常5年間)適切に保管することが推奨されます。
ただし、通報者のプライバシー保護を徹底し、不必要な情報の開示や社内共有を避ける必要があります。
また、外部監査や行政指導に備え、記録の改ざんや廃棄ができないシステムを導入することも重要です。
Q.通報内容が虚偽や誤報だった場合、通報者を処分することは可能ですか?
A.通報が故意に虚偽であった場合、懲戒処分の対象になる可能性があります。
ただし、通報者の意図が悪意のないもの(誤認や勘違い)であれば、慎重な対応が求められます。
企業は、虚偽通報の抑制と、通報者の適正な保護のバランスを取ることが重要です。
Q.内部通報制度を社外にも公開するべきですか?
A.一般的に、内部通報制度は従業員向けの仕組みですが、企業のリスク管理の観点から、取引先や顧客向けにも窓口を開放するケースがあります。
特に上場企業やグローバル企業では、外部関係者が不正やコンプライアンス違反を通報できる仕組みを導入することで、より高度なガバナンスを実現できます。
ただし、社外公開する場合は、誤報や悪意のある通報のリスクを考慮し、受付範囲を明確にすることが重要です。
Q.内部通報制度を導入しても、通報件数がほとんどない場合、問題はないのでしょうか?
A.通報件数が極端に少ない場合、以下のリスクが考えられます。
・制度が十分に周知されておらず、従業員が活用方法を知らない
・通報しても対応されない、報復されるなどの不信感がある
・会社のコンプライアンス意識が低く、従業員の関心が薄い
このような場合、制度の運用状況を定期的に見直し、通報窓口の認知度向上や、従業員の意識改革を進める必要があります。
特に年に1回の制度評価や、定期的な匿名アンケートを実施することで、適切な運用が行われているかを確認することが有効です。
5.まとめ:実効性のある内部通報制度を構築するために
内部通報制度の整備は、企業のコンプライアンス強化に不可欠です。
しかし、単に通報窓口を設置するだけでは、実効性のある制度とは言えません。
適切な調査体制の構築、通報者の保護、企業のリスク管理など、多くの課題をクリアする必要があります。
特に、企業内部だけで運用する場合、不正の隠蔽リスクや通報者の不安が問題となることが少なくありません。
そのため、弁護士が関与する外部窓口の活用が有効な選択肢となります。
当事務所では、弁護士資格と社労士資格の両方を保有する弁護士を中心に、法務・労務両面から企業の内部通報制度をサポートします。
✅通報窓口の運営代行(メール・電話・WEB窓口の設置)
✅通報内容の初期対応と事実確認(企業の方針に応じた適切な初動対応)
✅法的リスクの分析とアドバイス(就業規則・社内規程の適正化)
✅再発防止策の提案とコンプライアンス強化支援
各企業の実情に合わせた制度設計により、不正防止とガバナンス強化を実現できるよう全面的に支援します。
内部通報制度の導入・運用に関するご相談は、当事務所までお気軽にお問い合わせください。