上場を検討し始めた企業の経営者や管理部門の方から、よく聞かれる疑問の一つが
「プロマーケットでも有価証券報告書を提出しなければならないのか?」という点です。
一般的に「上場=有価証券報告書の提出」というイメージが強いため、プロマーケットについて調べ始めた段階で、「それなら本則市場と同じくらい負担が重いのではないか」と不安を感じる方も少なくありません。
結論からいえば、プロマーケットでは原則として有価証券報告書の提出は求められません。しかし、それは「開示や説明の負担が軽い」という意味ではありません。
本記事では、プロマーケット上場を検討している企業に向けて、有価証券報告書の提出要否を整理したうえで、上場時に注意すべき実務上のポイントを解説します。
有価証券報告書とは?
有価証券報告書は、金融商品取引法に基づき、上場会社が原則として毎事業年度ごとに提出する開示書類です。
事業内容、財務状況、ガバナンス体制、リスク情報などが網羅的に記載され、一般投資家を含む市場参加者が投資判断を行うための重要な資料として位置づけられています。
東証プライム市場・スタンダード市場・グロース市場といった本則市場では、上場会社に対してこの有価証券報告書の提出が義務付けられています。
そのため、「上場会社=有価証券報告書提出が当然」という理解が広く浸透しています。
プロマーケットでは有価証券報告書の提出は必要?
結論:プロマーケットでは原則不要
結論からいえば、プロマーケット市場では、原則として有価証券報告書の提出義務はありません。
これは、東京証券取引所が運営する東京プロマーケットや、福岡証券取引所が運営する福岡プロマーケットが、特定投資家向け市場として位置づけられているためです。
一般投資家を広く対象とする本則市場では、投資判断の前提として、法令に基づく画一的な開示書類の提出が求められます。
一方で、プロマーケットでは投資家層が限定されていることから、金融商品取引法上の開示義務についても、本則市場とは異なる枠組みが採られています。
プロマーケットのみ制度設計が異なる背景
プロマーケットでは、上場適格性の確認を、証券取引所が一律の基準で直接行うのではなく、上場適格性を判断する役割であるJ-Adviser(ジェイアドバイザー)/F-Adviser(エフアドバイザー)が、個別の企業ごとに担う仕組みが採られています。
この制度の前提にあるのは、画一的な開示書類による判断ではなく、企業の実態や経営内容を踏まえて、総合的に評価するという考え方です。
そのため、金融商品取引法に基づく有価証券報告書のような、形式や記載項目が厳密に定められた定型書類を提出させることは、プロマーケットの制度趣旨とは必ずしも一致しないという背景から、他の本則市場とは異なる制度設計となっています。
有価証券報告書が不要なら開示義務は軽くなる?
プロマーケット特有の開示・説明責任
有価証券報告書の提出が不要であるという点から、「プロマーケットでは開示や説明がほとんど不要」と誤解されることがありますが、これは正確ではありません。
プロマーケットは、特定投資家向け市場であるがゆえに、投資家やJ-Adviserが個別に企業を評価することを前提としています。
そのため、画一的な開示書類によって形式的に情報を示すのではなく、企業の実態や経営判断の背景を、投資家が投資機会を判断し得るレベルで合理的に説明をしなければなりません。
有価証券報告書という定型的な書類の提出がない分、プロマーケットでは、説明の形式面ではなく中身そのものが評価対象になる市場だといえます。
実務上において企業側に求められる情報整理
このような投資家への説明責任を果たすためには、たとえ有価証券報告書を提示しない場合であっても、実務上はその内容に相当する情報を、社内で整理しておく必要があります。
例えば、「なぜこの事業モデルで今後の成長が見込めるのか」
「経営上の重要な判断は、どのような体制・プロセスで行われているのか」
「想定されるリスクに対して、どのような対応方針を持っているのか」といった有価証券報告書で説明されるような事項について、
資料や口頭説明を通じて、第三者に理解してもらえる形で正確に説明できる状態が求められます。
この情報整理が不十分なままでは、上場審査の過程で説明が後追いになり、結果として指摘事項が増えたり、準備期間が長期化したりする原因にもなります。
その意味で、プロマーケット上場においても、開示や説明に耐えうる情報整理は不可欠な準備作業だといえます。
有価証券報告書が不要でも注意すべきポイント
将来の市場変更を見据えた準備
プロマーケット上場後、将来的に本則市場へのステップアップを検討する企業も少なくありません。
本則市場への上場を希望する場合は、いずれは有価証券報告書の提出が必要になりますが、
数値や経営判断の根拠を体系的に整理していなかったり、情報を一元的に管理する体制が整っていなかったりすると、
本則市場を見据えた準備に移行する際、有価証券報告書の作成以前の段階で時間とコストがかかることになります。
プロマーケット上場を「最終ゴール」と考えるか、「次の市場へのステップ」と考えるかによって、求められる準備の水準は異なりますが、将来的な市場変更の可能性が少しでもあるのであれば、プロマーケット上場の準備を進める段階で、有価証券報告書を作成できるだけの情報整理・情報管理体制を整備しておくと後々の手戻りが少なくなるので検討されてみてください。
開示体制・管理体制が未整理なまま進むリスク
プロマーケットでは、有価証券報告書という定型的な書類の提出が求められません。この点は企業にとって負担が軽い側面もありますが、一方で書類を作成しないでよいという面が、以下のような情報整理の観点においてマイナスに働く要素にもなり得ます。
●どの情報を、どの粒度で整理すべきかの判断が企業側に委ねられる
●開示や説明の基準が見えにくく、準備の方向性を誤りやすい
●必要な情報が部署ごとに分散し、後から整理が必要になる
有価証券報告書にて情報開示をする場合には、「この項目を、この水準で整理する」という一つの目安がありますが、プロマーケットでは、その目安がない分、企業自身が情報開示・説明の水準を設計しなければなりません。
その結果、準備の方向性を誤ると、「時間をかけて準備したが、上場審査の観点では十分でなかった」という事態に陥ることもあります。
情報開示の目安や基準に不安がある場合は、有価証券報告書の記載項目を物差しとして、自社の説明水準を確認するというやり方も一つの方法です。
プロマーケット上場に関するご相談はNexill&Partnersへ
プロマーケットでは、原則として有価証券報告書の提出は不要です。
しかし、それは「開示や説明の負担が軽い」という意味ではありません。
有価証券報告書の有無だけに注目するのではなく、投資家に対する情報開示として、有価証券報告書以外で自社がどこまで説明できる状態にあるのかという視点で、上場準備を進めることが重要です。
プロマーケット上場を検討している段階だからこそ、早めに現状を整理し、必要な準備を見極めることが、結果としてスムーズな上場につながります。
具体的な検討に進む前の段階でも構いませんので、できるだけ早めに専門家に相談することをおすすめします。
