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クリニックは試用期間中のスタッフを解雇できる?採用後のトラブルを防ぐ判断基準を弁護士が解説

2026.07.15

試用期間中だから当然に辞めてもらえると考えていたものの、後から解雇無効を主張され、労務トラブルに発展してしまうケースがあります。実は、試用期間中であっても解雇には法律上の制限があり、客観的に合理的な理由がないまま、使用者が自由に解雇できるわけではありません。
本記事では、クリニックで試用期間中のスタッフを解雇する際の判断基準や注意点、トラブルを防ぐための実務上のポイントについて弁護士が解説します。

 

第1章 試用期間中でも自由に解雇できるわけではない

試用期間は、採用したスタッフの適性や能力を確認するために設けられる期間です。しかし、「試用期間だから自由に解雇できる」という認識は誤りです。
まずは、試用期間の基本的な考え方と、解雇との関係について整理しておきましょう。

1-1 試用期間とは「適性を見極める期間」

試用期間とは、採用したスタッフがクリニックの業務に適応できるか、勤務態度や能力、協調性などを確認するために設けられる期間です。
一般的には3か月から6か月程度に設定されることが多く、就業規則や雇用契約書で期間を定めるケースが一般的です。
もっとも、試用期間中であっても労働契約は既に成立しています。単なるお試し期間ではなく、すでに労働契約関係にあることを理解しておく必要があります。
そのため、試用期間は「クリニック側の裁量で自由に辞めてもらえる期間」ではなく、「本採用するかどうかを適切に判断するための期間」と考えることが重要です。

1-2 試用期間中の解雇と本採用拒否の違い

試用期間中の解雇と本採用拒否は、混同されやすいものの、場面としては区別して整理されます。
試用期間中の解雇とは、試用期間が終了する前に労働契約を終了させることです。
一方、本採用拒否とは、試用期間満了時に本採用へ移行せず、雇用を終了させることをいいます。
もっとも、本採用拒否は、単に「正式採用しない」というだけの自由な判断ではありません。試用期間中であっても、すでに労働契約は成立しているため、本採用拒否は、試用期間中に留保された解約権を行使するものとして、解雇に近い問題として判断されます。
そのため、試用期間中の解雇であっても、本採用拒否であっても、使用者の判断だけで自由に行えるわけではありません。いずれの場合でも、予め就業規則に本採用拒否事由や解雇事由が明確に定められており、実態としても当該事由に該当し、スタッフの勤務状況、能力、勤務態度、これまでの指導経過などを踏まえ、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当といえるかを慎重に検討する必要があります。

1-3 試用期間中の解雇にも法律上の制限がある

試用期間中であっても、解雇には法律上の制限があります。
労働契約法では、解雇は客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められなければ無効となるとされています。
例えば、「クリニックの雰囲気に合わない」「なんとなく相性が悪い」といった主観的な理由だけでは、解雇の正当性が認められない可能性があります。クリニックは一般企業と比べて少人数で運営されることが多く、スタッフ一人ひとりの影響が大きい職場ではありますが、その事情だけを理由に解雇の判断が緩やかになるわけではありません。
勤務状況や指導経過などを踏まえ、客観的な根拠に基づいて判断することが求められます。

 

第2章 試用期間中の解雇が認められるか判断するポイント

試用期間中のスタッフについて、「期待していた働きができていない」と感じることは珍しくありません。しかし、能力不足や勤務態度の問題があるからといって、直ちに解雇できるわけではありません。
重要なのは、どのような問題があり、それがクリニックの運営にどの程度影響しているのかを客観的に判断することです。
ここでは、解雇を検討する際に確認しておきたい主な判断ポイントを解説します。

2-1 勤務態度・勤怠に問題がある場合

無断欠勤や遅刻・早退を繰り返すスタッフは、診療体制に大きな影響を与える可能性があります。特にクリニックでは、限られた人数で診療を行うため、一人の欠勤が予約変更や他のスタッフの負担増につながることも少なくありません。
もっとも、一度の遅刻や欠勤だけで解雇が認められるわけではありません。
勤務状況を継続的に確認し、注意や指導を行ったにもかかわらず改善が見られない場合には、解雇を検討する判断材料の一つとなる可能性があります。

2-2 業務遂行能力が不足している場合

業務に必要な知識や技能が著しく不足し、十分な指導を行っても改善が見られない場合も、解雇を検討する際の判断材料となることがあります。
例えば、次のような状況です。

  • 基本的な受付業務を継続して遂行できない
  • 医療安全に関わるミスを繰り返す
  • 指導内容を理解・実践できない

ただし、こうした状況があったとしても、教育体制が十分でなかった場合には、能力不足を直ちに本人の責任と判断することはできません。教育や指導の内容も含めて、総合的に検討する必要があります。

2-3 患者対応や院内の人間関係に支障がある場合

クリニックでは、患者との信頼関係やスタッフ同士の連携が診療の質に影響します。
そのため、患者への不適切な対応による重大なクレームや、ハラスメント、協調性の欠如によって診療体制に支障が生じている場合には、慎重に対応を検討する必要があります。
もっとも、人間関係のトラブルは主観的な評価になりやすいため、「相性が悪い」「雰囲気が合わない」といった理由だけで判断することは適切ではありません。
患者や他のスタッフへの具体的な影響、これまでの指導経過などを客観的に整理したうえで、判断することが求められます。

 

第3章 解雇を判断する際にクリニックが注意すべきこと

試用期間中のスタッフに問題があると感じた場合でも、十分な検討を行わずに解雇を決定すると、後に解雇無効を主張されるリスクがあります。クリニック側としては一日でも早く問題を解決したいと考えがちです。しかし、そのような状況であっても、法律上は適切な手続きや客観的な判断が求められます。

3-1 十分な教育・指導を行ったか

スタッフの能力不足や業務上のミスが見られた場合でも、十分な教育や指導を行っていなければ、その責任を直ちに本人に負わせることは難しい場合があります。
特に入職直後は、クリニックごとの業務の進め方や電子カルテの操作、患者対応など、覚えることが少なくありません。経験者であっても、新しい職場に慣れるまで一定の期間を要することがあります。
そのため、OJTやマニュアルによる指導、先輩スタッフによるフォローなど、必要な教育を実施したうえで評価することが重要です。
十分な教育体制を整えていたことは、後に解雇の妥当性が争われた場合にも重要な判断材料となります。

3-2 改善の機会を設けたか

問題点を指摘することなく、突然解雇を伝えることは避けるべきです。
実務上は、勤務態度や業務上の課題について具体的に説明し、改善の機会を設けた経過があるかどうかが重要になります。
例えば、

  • 面談で改善点を伝える
  • 本人の言い分や事情を聴取する
  • 一定期間様子を見る
  • 改善状況を再度確認する

といった対応を行うことで、本人に弁明の機会を付与し、一方的に解雇したという印象を避けやすくなります。
また、面談の実施日や指導内容、本人の反応などを記録として残しておくことで、後にトラブルとなった場合にも経過を客観的に説明しやすくなります。

3-3 解雇理由を裏付ける客観的な記録が残っているか

解雇を検討する際には、判断の根拠となる客観的な記録を残しておくことが重要です。
例えば、勤怠記録、指導内容・改善状況の記録、面談日時や本人とのやり取り、患者対応や業務上の問題が発生した経緯などは、判断の客観性を示す資料になります。
日頃から事実に基づいた記録を残し、客観的な根拠をもって判断することが重要です。

3-4 解雇予告や解雇予告手当が必要になる場合がある

試用期間中であっても、雇入れ後14日を超えて使用しているスタッフを解雇する場合には、原則として30日以上前の解雇予告を行うか、30日分以上の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払う必要があります。
そのため、解雇を検討する際には、解雇理由の有無だけでなく、雇入れから何日経過しているかも確認しておく必要があります。
なお、雇入れ後14日以内で解雇予告が不要となる場合でも、解雇自体が自由に認められるわけではありません。解雇理由の合理性や判断の相当性は別途問題となるため、勤務状況や指導経過を踏まえて判断することが重要です。

 

第4章 クリニックが試用期間中のトラブルを防ぐために取り組むべきこと

試用期間中の解雇をめぐるトラブルは、解雇の判断そのものだけでなく、採用時からの運用方法によって防げるケースも少なくありません。
評価基準や指導方法が曖昧なまま試用期間を運用すると、スタッフとの認識にずれが生じやすくなります。ここでは、トラブルを未然に防ぐためにクリニックが取り組んでおきたいポイントを紹介します。

4-1 採用時に試用期間や評価基準を明確にする

試用期間を設ける場合は、期間だけでなく、どのような点を評価するのかについても事前に明確にしておくことが重要です。
例えば、評価項目をできるだけ具体的に示しておくことで、スタッフも求められる役割を理解しやすくなります。

評価項目の例
  • 勤務態度・勤怠状況
  • 基本的な業務遂行能力
  • 患者への対応
  • スタッフとの協調性

また、試用期間の長さや本採用の判断方法については、雇用契約書や就業規則にも明記しておくことが望ましいでしょう。

4-2 試用期間中の指導内容や面談記録を残す

試用期間中は、業務を任せるだけでなく、定期的に面談やフィードバックを実施することが重要です。
面談では、現在の課題や改善してほしい点、今後期待することなどを具体的に伝え、双方の認識を共有する機会を設けましょう。
その際は、面談日、伝えた内容、本人の反応、今後の改善目標などを簡単なメモでもよいので記録に残しておくことが重要です。

4-3 本採用・試用期間の延長・解雇の判断基準をあらかじめ定めておく

試用期間終了時の判断を担当者ごとの感覚に委ねてしまうと、判断基準にばらつきが生じる可能性があります。
そのため、本採用とする場合・試用期間を延長する場合・解雇を検討する場合のそれぞれについて、あらかじめ一定の判断基準を設けておくことが望ましいでしょう。なお、試用期間を延長する場合には、雇用契約書や就業規則上の根拠があるか、延長の必要性や期間が合理的かについても確認しておく必要があります。
基準が明確であれば、院長や管理者の判断にも一貫性が生まれ、スタッフに対しても説明しやすくなります。

 

まとめ

クリニックでは、少人数で診療を行うからこそ、一人のスタッフの勤務状況が診療体制に大きく影響することがあります。しかし、そのような事情があっても、解雇には客観的に合理的な理由と適切な手続きが求められます。
試用期間中の解雇を検討する際は、教育や指導を十分に行ったか、改善の機会を設けたか、客観的な記録が残っているかなどを総合的に確認したうえで判断することが重要です。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループは、弁護士法人を母体に、社労士や税理士などの専門家が連携するワンストップ体制を整えています。試用期間中のスタッフへの対応や解雇の判断、また、就業規則の整備などについて少しでも不安がある場合は、お気軽にご相談ください。

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