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MS法人の役員構成はどのように定める?医療法人との役員兼務における注意点とガバナンス設計のポイントを弁護士が解説

2026.04.20

医療法人がMS法人を活用する場面では、誰を役員に入れるべきか、医療法人の理事長や役員との兼務をどこまで認めてよいかで悩む場面があります。形式上は問題がないように見えても、実態次第では医療法人との一体性や利益相反が疑われるリスクもあります。この記事では、MS法人の役員設計で押さえておきたい基本と、医療法人との兼務をするときの注意点を実務目線で整理します。

 

第1章 MS法人の役員構成と兼務が問題になりやすい背景

1-1 医療法人の理事がMS法人の役員を兼ねるケースが多い理由

医療法人がMS法人(メディカル・サービス法人)を設立・運営する際、その役員構成を確認すると、医療法人の理事長や理事がMS法人の取締役を兼ねているケースが多く見受けられます。
主な理由としては、意思決定を円滑に進めやすい点があげられます。医療法人の理念や経営戦略を深く理解している人物がMS法人の采配も振るうことで意思疎通が図りやすく、医療現場が必要とするサービスや物品を迅速に供給できる体制を整えることができます。また、外部から役員を招くことへのコスト的なハードルや、信頼できる親族に経営を任せたいという心情的な側面も兼務体制が選ばれる背景にあります。
しかし、医療法人と同じ顔ぶれで運営する体制は、第三者の視点でみた場合、医療法人とMS法人との間で不適切な利益移転が行われているのではないかと疑念を抱かれる要因になることもあります。

1-2 法人を分けていても実態が同じと見られるリスク

法律上の整理としては、医療法人とMS法人はそれぞれ独立した別人格です。そのため、一方がもう一方の利益を損なうような取引は避ける必要があり、あくまで対等な取引当事者として取り扱う必要があります。
ここで問題となるのが、役員構成が同一であるために、実態として一人の意思決定で両法人が動いているとみなされる状態です。例えば、医療法人の理事が、自身の経営するMS法人に対して相場を大きく外れた高額な業務委託費を支払っている場合、それは適正な取引ではなく、医療法人の利益を不適切に移転しているのではないかと疑われるおそれがあります。
法人格の使い分けが形式的なものに留まり、実態が伴っていないと判断されると、医療法上の非営利性への抵触や、税務上の否認といった、経営の根幹を揺るがす事態に発展しかねません。法人を分けてさえいればよいという認識では、実務上のリスクに対応することはできません。

 

第2章 医療法人とMS法人で役員を兼務する場合の法的・税務上の注意点

2-1 医療法人の非営利性を損なわないために役員構成で注意すべき点

医療法人は、営利を目的としない非営利性が求められています。そのため、MS法人との取引においては、医療法人の利益が外部に移転しているのではないかと評価される点が問題となりやすいのです。
例えば、役員の過半数が共通しているような場合には、取引の必要性や価格の妥当性も含めて不当な利益流出が生じやすい体制ではないかと見られ、所管行政庁から指導の対象となることがあります。特に、医療法人の理事がMS法人の代表を兼ねている場合は、取引の必要性や価格の妥当性について、より厳格な説明責任が求められることになります。

2-2 税務調査で問題になりやすい役員報酬と業務実態の関係

税務面で特に指摘を受けやすいのが、兼務役員に支払われる報酬です。例えば、医療法人から十分な役員報酬を得ている理事長が、MS法人からも代表取締役として多額の報酬を受け取っているケースです。
税務調査では、その役員がMS法人において具体的にどのような業務に従事しているのかが問われます。実務上、医療法人の業務で多忙なはずの理事長について、MS法人でもフルタイムに近い労働実態があるとすることが、実態と整合しないと判断される場合もあります。業務実態が伴わない報酬は、過大役員報酬として損金算入が否認されるだけでなく、事情によっては重加算税の問題に発展する可能性も否定できません。

2-3 取引価格を決める場面で利益相反をどう避けるか

医療法人とMS法人の間で契約を結ぶ際、双方の代表者が同一人物であれば、一人が自分自身と契約を交わす自己取引となります。これは法律上、利益相反取引に該当し得る場面であり、適切な手続きを踏まなければ契約の有効性が問題となったり、役員の責任を問われたりする可能性があります。
具体的には、医療法人の理事会やMS法人の取締役会において、当該取引の承認決議が必要となることがあります。理事が一方の利益を優先させて他方に損害を与えた場合、善管注意義務違反として損害賠償責任を負う可能性があるため、意思決定プロセスにおいて誰が、どのような理由で賛成したかを明確にしておくことが、リスク回避の観点から重要となります。

 

第3章 実務で問題を起こさないためのMS法人役員の設計ポイント

3-1 医療法人との関係で独立性をどう確保するか

法的・税務的なリスクを軽減するためには、MS法人の役員構成に独立性を持たせることが有効です。すべての役員を医療法人の役員で占めるのではなく、少なくとも一部の役員には医療法人の経営に関与していない人物を配置することを検討します。
例えば、事務長や外部の専門家をMS法人の専任役員として登用し、実務の執行権限を委譲することで、MS法人が独自の判断で事業を行っている体制を整えることができます。これにより、医療法人との取引価格の交渉においても、対等な立場での協議が行われたことを客観的に説明しやすくなります。

3-2 親族を役員に入れる場合に実際に担わせるべき役割とは

節税や所得分散の観点から親族をMS法人の役員にするケースは多いですが、実態が伴わなければ否認のリスクが生じる可能性があります。これを避けるためには、その親族に具体的な職務を割り当てることが重要です。
例えば、総務・経理の統括責任者や仕入れ先の選定・交渉担当といった明確な役割を与え、実際にその業務に従事してもらいます。役員報酬の額も、その職務内容や責任の重さ、勤務形態に照らして、第三者を雇った場合の水準も参考にしながら設定することが、不自然な利益移転を疑われないための基本的な考え方となります。

3-3 意思決定の過程を後から説明できるようにするための体制整備

ガバナンスを整える上では、結果だけでなく過程を記録に残すことが重要です。役員報酬の決定、重要な契約の締結、多額の資産購入などについては、必ず取締役会等の会議を開催し、その議論の内容を議事録として作成・保存しておきます。
理事長が決めたからという理由だけでは税務署や監督官庁を納得させることはできません。議事録には、その判断に至った合理的理由や、相見積もりの結果などの根拠資料を添付しておくことが望ましいといえます。こうした事務の積み重ねが、法人の独立性を説明するうえで有効な対策となります。

 

第4章 将来の展開を見据えた役員体制の見直しポイント

4-1 上場審査でどのように独立性が見られるのか

MS法人の上場を目指す場合、あるいは外部からの出資を検討する場合、役員構成のあり方は通常の事業会社以上に慎重に評価されます。
審査の場では、医療法人への依存度や、役員の兼務による利益相反の有無が重要な検討対象となります。その際、親族中心の役員構成や、医療法人の理事が大半を兼務している体制は、上場企業に求められる自律的な経営を確保しにくい体制であると評価される可能性があります。
そのため、将来的に上場を見据えるのであれば、早い段階で外部の目を意識した体制への移行を検討しておくことが重要です。

MS法人の上場に関する詳細については、以下の記事で詳しく確認いただけます。

MS法人は上場できるのか?IPO・プロマーケットを見据えて検討すべき3つの論点を弁護士が解説

4-2 事業承継を見据えた役員交代をどのタイミングで進めるべきか

経営者の交代時期は、MS法人の役員構成を見直す重要なタイミングとなります。次世代の経営者に医療法人とMS法人の両方を引き継がせる際には、一気にすべての役職を承継させるのではなく、段階的に役割を移していくことで、経営の安定を図ることができます。
また、事業承継に関する税制上の特例制度を活用する場合は、役員就任期間などが問題となることもあるため、相続が発生してから役員を変更すると間に合わないことがあります。承継の5〜10年前から、次世代リーダーをMS法人の実務責任者に据えるなど、長期的な計画に基づいた役員配置が求められます。

 

第5章 持続可能な医療経営のために専門家と整える役員体制とガバナンス

MS法人の役員構成は、医療経営全体の安定と透明性を左右する重要な要素です。医療法人の理事長や役員がMS法人の役員を兼務することは、利便性がある一方で、医療法上の非営利性に反する取引と評価されたり、税務上、費用や報酬が否認されたりするリスクを伴います。
そのため、形式的に役員を配置するだけに留まらず、業務実態の確保や意思決定プロセスの可視化といった、実態を伴うガバナンス体制の構築が重要となります。ただし、こうした対応を経営者が一人で判断し、進めることには限界があり、時として予期せぬ法的・税務的な不利益を招くこともあります。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループでは、弁護士、税理士、社会保険労務士、司法書士などの各専門家が連携し、医療経営の実態に即した最適なガバナンス設計をワンストップで支援しています。役員の兼務体制に不安がある方や、将来を見据えた組織再編を検討されている方は、ぜひ私たちNexill&Partnersグループへご相談ください。専門的な見地から、貴院の持続可能な経営体制づくりを全力でサポートいたします。