製造業

1. 製造業が直面する法的リスクと対応ポイント

製造業は、製品の設計・製造・流通・販売といった幅広い過程を有しており、それぞれの段階で多種多様な法的リスクが存在します。「普通に製造していれば問題ない」と思われがちな部分も、実は法的には細かい規制や注意義務が設定されているため、見落とすと重大なトラブルを招くおそれがあります。以下、製造業にとって特に重要な法的リスクとその対応ポイントについて整理します。

製造物責任法(PL法)への対応と製品リスク管理

製造業にとって最大の法的リスクの一つが、製造物責任法(PL法)に基づく損害賠償請求です。製品に欠陥があり、それにより消費者が生命・身体・財産に損害を被った場合、製造業者は「過失がなくても」賠償責任を負います。製品設計上の欠陥だけでなく、取扱説明書の不備や警告表示の不足も「欠陥」と評価されるため、製造段階だけでなく、使用説明書・ラベリングまで含めたリスク管理が必須です。

労働安全衛生法・労務管理に関する注意点

工場や製造ラインを抱える製造業では、労働安全衛生法による作業環境管理義務が課されています。特に、化学物質管理や重機・クレーン作業における災害防止措置を怠った場合、労災事故が発生し、企業責任を問われるリスクがあります。また、長時間労働の常態化は、労働基準法違反に直結し、労働基準監督署による是正勧告を招きかねません。現場における労務リスクを過小評価せず、定期的な監査・研修を徹底すべきです。

知的財産権(特許・意匠・商標)の保護と侵害リスク

製造業では、独自開発した製品・部品について特許権や意匠権を取得することが重要です。しかし、逆に他社の特許権や商標権を侵害してしまうリスクも存在します。特に、自社製品の設計変更や新規部材導入の際は、必ず事前に知財調査(クリアランス調査)を行う必要があります。意図せず特許侵害をしてしまった場合、高額な損害賠償請求や販売差止命令を受けるリスクがあるため、軽視は禁物です。

下請法遵守と取引先管理(中小製造業が特に注意すべき点)

製造業、とりわけ中小企業では、大手メーカーから部品製造や組立作業を受託するケースが多く見られます。この場合、下請代金支払遅延等防止法(下請法)が適用され、発注元企業には適正な取引条件を提示する義務があります。支払遅延、不当な返品・買い叩きなどがあった場合、違反事業者として公表されるリスクもあるため、自社が発注者となる場合も、受注者となる場合も、契約内容を正確に把握・管理する必要があります。

2. 海外展開・国際取引に伴う製造業の法務リスク

近年、多くの製造業が成長戦略の一環として海外展開を進めていますが、それに伴い国際法務リスクが一気に高まっています。ここでは、製造業特有の海外リスクを整理します。

海外販売契約・輸出管理への対応

日本国内で製造した製品を海外に輸出・販売する場合、外為法(外国為替及び外国貿易法)の規制対象となることがあります。特に、武器用途に転用可能な製品や高性能素材については、事前に経済産業省の輸出許可を得なければならない場合があります。無許可輸出が発覚すると、重大な行政処分や刑事罰を受けるリスクがあるため、輸出管理体制の整備が不可欠です。

国際紛争対応の重要性

海外販売先との契約では、必ず準拠法・裁判管轄条項を明記し、紛争発生時にどの国の法律に従って、どこで争うかを事前に取り決めておくべきです。現地法が想定以上に厳しい場合や、国外での裁判手続きには多大なコストと時間を要するリスクがあります。
場合によっては、国際仲裁を活用する選択肢も検討されます。

海外製造拠点の法的リスク

自社工場を海外に設置する場合、現地労働法規、税制、環境規制を事前に精査しなければなりません。労働争議、環境違反、税務問題などで現地政府とトラブルになった場合、本社の信用にも直結します。海外進出前から弁護士・税理士を交えて、リスク検討を重ねることが望ましいでしょう。

3. トラブルを未然に防ぐためのポイント

契約書作成・チェック時のポイント

新規取引の際には、契約書案に必ず目を通したうえで、リスク項目を確認しましょう。たとえば、納期遅延時の責任分担、品質瑕疵が発生した場合の賠償範囲、知財権の帰属などは、あらかじめ明確に取り決めておくべきです。

取引先管理の厳格化

新規取引開始前に、取引先の財務状況、コンプライアンス体制、知財訴訟歴などを調査する「取引先審査」を導入することが重要です。反社会的勢力などを含めて、不適切な取引先との契約は、予期せぬ連鎖トラブルを引き起こしかねません。契約締結前に必ず確認をするようにしましょう。

内部ルール・社内体制の強化

設計開発部門、製造現場、営業部門それぞれで、製造物責任、知的財産、労務管理に関する社内ルールを整備し、ルール遵守で業務が進むような社内体制づくりを行う必要があります。現場だけに任せておくのではリスク感度が上がりにくいため、経営陣側から積極的に働きかけを行うことが重要です。

弁護士の早期活用

リスクを発見した段階で弁護士に相談し、対応策を練る体制を整えておくことが、トラブルの芽を摘む最大の近道です。問題が大きくなってからでは、対処コストも時間も増大します。

4. 当事務所におけるサポート範囲・強み

当事務所では、弁護士だけでなく社労士・税理士が在籍する総合法律事務所として、製造業特有の法的課題の解決から労務コンプライアンス支援、税務面でのサポートまで幅広く対応しています。単なる法令解釈にとどまらず、製造現場の実態を踏まえた実践的アドバイスをご提供できるのが強みです。
また、継続的なご相談が見込まれる場合は、顧問契約を締結いただくことで、定期的な法改正情報の提供や、トラブルの早期発見・迅速な初動対応が可能になります。ぜひご活用ください。

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