EC事業

1.EC事業者が特に留意したい法律・規制と法務ポイント

近年、EC(電子商取引)市場の拡大に伴い、EC事業者に関係する法律や規制は多様化・厳格化の傾向にあります。売上拡大や新規展開に意欲を持つEC事業者であればこそ、法的な側面を見落とすと大きなリスクを抱えかねません。以下では、特に押さえておきたい主要な法律や規制、およびその法務上のポイントを解説します。

特定商取引法(特商法):表示義務とクーリングオフ規定

特商法は、消費者保護の観点から通信販売や訪問販売などに適用される法律です。EC事業においては、販売ページへの事業者情報(名称、所在地、電話番号、代表者名など)や支払い方法、返品・キャンセルポリシーなどを明記する義務があります(特定商取引に関する法律第11条ほか)。加えて、誇大広告や虚偽表示を行った場合は行政処分や罰則を受ける可能性があります。
また、ECの場合はクーリングオフの適用外とされるケースが多いものの、実際の取引形態や商品の種類によっては消費者側からのクレームが発生しやすいため、返品・交換ポリシーの明確化や問い合わせ対応体制の整備が重要です。

消費者保護法(消費者契約法)との関連

EC取引は消費者契約に該当することが多く、消費者契約法が適用されます(消費者契約法第2条)。たとえば、サイト上で有利な情報ばかり強調し、重要事項を十分に説明しない「不実告知」があった場合、購入契約自体が取り消されるリスクがあります。さらに、いわゆる「免責条項」が過度に事業者に有利な内容となっていると、消費者契約法上無効とされる可能性があります。EC事業者としては、利便性や広告の強調だけでなく、消費者に誤解を与えない説明や規約整備が欠かせません。

商品表示・景品表示法:誇大広告や有利誤認のリスク

商品やサービスを紹介する際には、景品表示法(景表法)の遵守が重要です(景品表示法第5条など)。「通常価格より○○%OFF」などの割引表示を行う場合、実際にどの期間その通常価格で販売していたのかを証明できないと「有利誤認」と判断される可能性があります。また、医療品や化粧品の効能を過度にうたった場合には薬機法(医薬品医療機器等法)とも絡むため、広告表現のチェック体制を強化することが求められます。

著作権・肖像権:画像・動画・デザイン素材の取り扱い

ECサイト上に掲載する商品画像や動画、ロゴ、キャラクターなどには著作権が存在し、他社のコンテンツを無断で利用すると著作権法違反となるおそれがあります(著作権法第119条など)。また、モデルの写真を用いる際には肖像権やパブリシティ権にも注意が必要です。外部デザイナーやカメラマンと契約する場合は、著作権の帰属先や二次利用範囲を明確に定める契約書を作成しましょう。SNSでのキャンペーンに他人の画像・動画を二次利用する際も、権利処理が不十分だとクレームや法的紛争に発展するリスクがあります。

個人情報保護法:顧客データの取り扱いとプライバシーポリシー

EC事業では顧客の氏名、住所、クレジットカード情報などの個人情報を扱うため、個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律)の遵守が不可欠です(個人情報保護法第16条ほか)。クッキー(Cookie)や行動履歴を用いたマーケティングを行う場合は、ユーザーに対して利用目的や第三者提供の有無を正しく告知し、プライバシーポリシーを整備しなければなりません。特に大量データを一括管理するEC事業者には、情報漏えい時の責任が重いため、セキュリティ対策やログ管理の徹底が要求されます。

ステルスマーケティング規制:広告表示の透明性確保

インフルエンサーを起用して商品を紹介したり、レビューサイトに企業が自作自演で投稿したりする場合、ステルスマーケティング(通称“ステマ”)とみなされる恐れがあります。消費者庁は景品表示法のガイドラインなどを通じて、広告表示の透明性を確保するように求めています。PR投稿であることを明示せずにインフルエンサーに紹介させると、消費者を誤認させる表示と判断される可能性があり、行政処分や社会的批判を招くリスクが高いです。EC事業者としては、依頼したインフルエンサーへ「PR表記の義務」や「個人情報保護ルール」などを周知徹底し、法令違反を未然に防止する体制が求められます。

総じて、EC事業では商品の販売・広告・顧客情報管理など多岐にわたる法域が関わるため、事業者側が法律面のアップデートを継続的に行う必要があります。法改正や行政規制の対応が遅れると業務停止命令や課徴金、訴訟リスクにもつながりかねないため、最新の法規制に沿った形での適切な契約・規約作成およびEC運営を行う必要があります。

2.越境EC事業を行う際の注意点

国内ECとは異なり、越境ECでは国外の消費者や企業を相手に取引を行うため、関税や輸出入規制、現地法に基づく販売ルールなど追加の法的リスクが生じます。まず、関税や輸出入規制への対応としては、発送先の国・地域で適用される関税率や輸入禁止品目を正しく把握することが必須です。たとえば、関税法(日本における輸出入手続き)や各国の輸入関連法に基づき、商品の内容に応じて必要な許可や書類を用意する必要があります。
また、海外決済を取り扱う際には、クレジットカード情報の安全管理や外為法(外国為替及び外国貿易法)などに抵触しないことを確認する必要があります。決済代行会社や物流パートナーとの契約においては、国際送金・為替リスクや紛失・破損時の責任範囲などを契約書にも明記しておくことが望ましいです。さらに、海外向けに広告を打つ場合は、現地の消費者保護法や広告規制に従う必要があるほか、言語や文化の違いを留意したうえで法的な誤解やトラブルを引き起こさないような配慮が必要です。
このように、越境ECでは様々な国際ルールが複合的に作用するため、国内ECよりも法的視点での準備が重要になります。円滑な事業展開を目指すうえで、関税や海外決済、国際契約を見据えた事業展開を検討されている場合は、弁護士によるリーガルサポートを早期段階から入れておくことが望ましいでしょう。

3. 当事務所におけるサポート範囲・強み

当事務所では、EC事業の法務を幅広くカバーするため、弁護士をはじめ社労士・税理士が社内連携できる体制を整えています。商品表示や景品表示法違反リスク、海外顧客との契約や決済手続きなど、複雑化する法務課題にもワンストップで対応可能です。また、知的財産権や個人情報保護などEC特有のリスク領域部分のサポートや、万が一にトラブルが発生した場合は、代理人として迅速な対応が可能です。

EC事業は、新たなビジネスチャンスが大きい一方で、商品表示や個人情報保護、海外取引など多岐にわたる法的リスクが存在します。
当事務所では、EC事業に特化した総合的な法務サポートを提供しておりますので、ぜひ専門家をご活用いただき、安心して事業を拡大いただければと思います。

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