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病院と薬局の間で一時的に薬を貸し借りする場合の注意点|問題になるケースを弁護士が解説

2026.05.12

病院やクリニック、薬局の現場では、必要な薬の在庫が一時的になくなってしまい、近隣の医療機関や薬局から薬を借りることができないか検討される場面がありますが、医薬品は一般的な備品や消耗品とは異なり、品質管理、流通経路、ロット番号、使用期限、保管状態などを厳格に管理する必要があるほか、薬機法上、無償であっても医薬品を相手方に渡す行為には慎重な判断が必要です。
本記事では、病院と薬局の間で一時的に薬の貸し借りを行う場合に、どのような法的リスクや実務上の注意点があるのかを弁護士が解説します。

 

第1章 病院と薬局の「薬の貸し借り」はどう位置付けられるのか

1-1 現場で「少しだけ借りたい」となったときにも一旦注意が必要

病院やクリニック、薬局では、必要な薬が一時的に不足する場面が想定されます。
例えば、急な患者対応で特定の医薬品が必要になったものの、院内在庫が切れていた場合や、卸業者への発注は済んでいるものの納品が翌日以降になる場合などです。
このような場面において、近隣の薬局や医療機関に在庫があることが分かった場合、「今回足りない分を数錠だけ借りて、後日同じ薬を返せばよいのではないか」と考えることはゼロではないかと思います。
現場感覚としては、金銭のやり取りがなく、後で同じ薬を返すのであれば、単なる一時的な協力関係のようにも見えますが、ここには注意が必要です。

1-2 医薬品=通常の備品や消耗品と同じ扱いではない

医薬品は、コピー用紙や医療材料のような一般的な消耗品とは異なり、患者の身体に直接使用されるものであるため、品質や安全性に問題があれば、健康被害や医療事故につながる可能性があります。
そのため、医薬品については、単に「同じ種類の薬であるか」「同じ数量を返したか」だけでは不十分で、実務上は、少なくとも次のような情報を管理する必要があります。

  • 医薬品名
  • 規格
  • 数量
  • ロット番号
  • 使用期限
  • 保管条件
  • 開封の有無
  • 仕入れ経路
  • 移動中の保管状態
  • 患者に使用した場合の記録との紐付け

1-3 「貸し借り」という名称ではなく実態で判断される

病院と薬局の間で行われる薬の貸し借りについては、実態として医薬品を相手方に引き渡している以上、法的には医薬品の譲渡・授与に近い行為として評価される可能性があります。
薬機法では、医薬品の流通について厳格な規制が置かれています。特に、医薬品を業として販売・授与する場合には、原則として適切な許可が必要です。また、薬局間における医療用医薬品の譲受・譲渡に関するガイドラインでも、「譲渡」とは医薬品を販売・授与すること、「譲受」とは医薬品を購入・受領することと整理されています。
この考え方からすると、薬の貸し借りについても、「売買ではないから問題ない」「後で返すから譲渡ではない」と形式だけで判断するのは危険です。

 

第2章 医薬品を貸し借りすることの法的リスクとは?

2-1 金銭のやり取りがない=法的に問題ないとは限らない

薬の貸し借りでよくある誤解が、「お金をもらっていないので大丈夫ではないか」というものです。
確かに、金銭の授受がある場合と比べると、無償であることは一つの事情にはなります。しかし、医薬品に関する規制は、有償の売買だけを対象にしているわけではありませんし、薬機法上は医薬品の販売だけでなく授与も問題となります。
そのため、薬局や病院が無償で医薬品を相手方に渡す場合であっても、医薬品の移動として適正な理由があるか、対象薬剤に問題がないか、品質や記録が確保されているかを確認しなければなりません。
また、形式上は無償であっても、実態として相互に医薬品を融通し合っている場合や、継続的に在庫不足を補い合っている場合には、単発の緊急対応とは評価されにくくなりますので、無償であることは、適法性を直ちに保証するものではありません。

2-2 「後で同じ薬を返す」ケースであっても注意が必要

薬の貸し借りでは、「借りた薬は患者に使用するが、後日同じ種類・同じ数量の薬を返す」という運用が想定されることがありますが、これも注意が必要です。
例えば、病院が薬局から使用期限の長い未開封の薬を借り、後日、使用期限が短い薬を返した場合、相手方の在庫管理に影響を与える可能性があります。また、返却した薬の仕入れ経路や保管状態を相手方が十分に確認できない場合、結果として医薬品の品質管理に不安が残ります。

2-3 反復すると恒常的な在庫融通と見られる恐れも

さらに、一度限りの緊急対応と、何度も繰り返される薬の貸し借りでは、法的な評価が異なります。
例えば、ある薬について毎月のように在庫不足が起き、そのたびに近隣薬局や病院から借りている場合、それは「やむを得ない一時的対応」ではなく、通常の在庫管理の不備を外部からの融通で補っている状態と見られる可能性があります。
また、病院と薬局の間で、互いに不足した薬を貸し借りすることが日常化している場合には、正規の流通ルートを経由しない医薬品の移動が常態化していると評価されるおそれがあります。

 

第3章 薬局から病院へ渡す場合と病院から薬局へ渡す場合の違い

3-1 薬局から病院へ渡す場合も無制限に認められるわけではない

薬局から病院・クリニックへ医薬品を渡す場合、相手方が医療機関であるため、一般の患者に対する販売とは異なる面があります。実際、医師、歯科医師、薬剤師、病院・診療所の開設者などが業務の用に供する目的で医薬品を購入・譲受けする場面は、一般消費者に対する販売とは区別して整理されます。
しかし、薬局から病院へ渡す場合であっても、常に自由に認められるわけではありません。
特に、薬局側から見れば、医薬品を他者に渡す行為である以上、対象薬剤、相手方、緊急性、記録、品質管理の確認が必要になります。薬局間の医療用医薬品の譲受・譲渡に関するガイドラインでも、薬局開設許可証の確認、受取者の本人確認、医薬品・容器等の状態確認、必要事項の記録などが求められています。
病院側も、受け取った医薬品を患者に使用する以上、入手経路や品質を説明できる状態にしておく必要があります。

3-2 病院から薬局へ渡す場合はより慎重に考えるべき

一方で、病院から薬局へ薬を貸す場合は、より慎重な判断が必要です。
病院やクリニックは、患者に対する診療や投薬のために医薬品を保有しています。しかし、薬局に対して医薬品を融通する主体として当然に位置付けられているわけではありません。
病院が薬局に対して反復継続して薬を渡すようになると、医薬品の販売・授与に近い行為として評価されるリスクがあります。また、病院内の医薬品安全管理の観点からも、院内で使用するために保有している医薬品が外部に移動することについて、どのような理由で、誰が承認し、どのように記録したのかを説明できなければなりません。
特に、病院側の在庫から薬局へ薬を渡し、その薬局が患者への調剤に使用するような場合には、医薬品の流通経路や管理責任が不明確になりやすくなります。
病院から薬局へ薬を貸す運用は、原則として避ける方向で検討すべきです。

3-3 同一法人・グループ内での貸し借りも当然に自由とはいえない

同じ法人グループ内の病院と薬局、または関係の深い医療機関と薬局の間であっても、薬の貸し借りが当然に自由になるわけではありません。
医薬品の管理は、施設ごと、薬局ごとに行われます。病院には病院としての医薬品安全管理体制があり、薬局には薬局としての管理薬剤師や業務手順があります。同じグループ内であっても、どの施設の在庫として管理されている医薬品なのか、どの責任者が移動を承認したのか、患者に使用された場合にどの記録に紐付くのかを明確にする必要があります。
特に、同一法人内であれば内部移動のように見える場合でも、薬局と医療機関では許可や管理体制が異なりますので、グループ内だから大丈夫だろう、普段から連携しているから問題ないといった感覚だけで運用することは避けるべきです。

 

第4章 やむを得ず医薬品の貸し借りを検討する前に確認すべきポイント

4-1 まず通常の調達ルートで対応できないかを検討する

薬が不足した場合でも、最初に検討すべきは、近隣の病院や薬局から借りることではありません。まずは、通常の調達ルートで対応できないかを確認する必要があります。
具体的には、次のような対応が考えられます。

  • 卸業者への緊急発注が可能か
  • 納品時間を早められないか
  • 同一成分の別規格や代替薬で対応できないか
  • 処方変更や治療方針の調整が可能か
  • 患者への説明により、通常納品まで待つことができないか
  • 必要に応じて他の医療機関を紹介できないか

薬の貸し借りは、あくまで例外的な対応として考えるべきです。通常の在庫管理や調達体制で対応できるにもかかわらず、安易に近隣から借りる運用にしてしまうと、法的リスクだけでなく、医薬品管理体制の不備としても問題になります。

4-2 対象薬剤が貸し借りに適さない薬でないかを確認する

医薬品の中には、通常の医療用医薬品以上に厳格な管理が必要なものがあります。
例えば、次のような薬剤については、貸し借りという発想自体を避けるべき、または都度個別法令・行政運用を確認すべきです。

  • 麻薬
  • 向精神薬
  • 覚醒剤原料
  • 毒薬・劇薬
  • 冷所保存品
  • 血液製剤
  • ワクチン
  • 抗がん剤
  • 高額薬剤
  • 出荷調整品、供給制限品

特に麻薬については注意が必要です。厚生労働省の薬局における麻薬管理マニュアルでは、薬局、病院、診療所等の間の貸し借りは絶対にしてはならず、譲渡・譲受違反になると明記されています。

4-3 使用期限・ロット・保管状態・未開封性を確認する

仮に一時的な融通を検討する場合でも、受け取る医薬品の状態を確認しないまま使用することは避けなければなりません。
確認すべき事項としては、次のようなものがあります。

  • 医薬品名と規格が必要なものと一致しているか
  • 数量に誤りがないか
  • ロット番号が確認できるか
  • 使用期限が十分に残っているか
  • 容器や包装に破損、汚損、開封跡がないか
  • 冷所保存品の場合、適切な温度管理がされていたか
  • 分包品や小分け品の場合、表示や管理に問題がないか
  • 仕入れ経路や保管状況に疑義がないか

これらの確認ができない場合には、たとえ患者対応上急いでいたとしても、安易に受け入れるべきではありません。

 

第5章 やむを得ず一時的に融通する場合の記録と管理の仕方

5-1 医薬品の授受記録として適切な形で記録を残す

やむを得ず医薬品の一時的な貸し借りを行った場合、後から見たときに、どの薬が、いつ、どこから、どのような理由で移動したのかを明確に説明できるようにしておく必要があります。
そのため、少なくとも次のような事項は記録しておくべきといえます。

  • 医薬品名
  • 規格
  • 数量
  • ロット番号
  • 使用期限
  • 保管条件
  • 譲渡元、譲受先の名称
  • 所在地、連絡先
  • 引渡し担当者、受領者
  • 管理薬剤師または医薬品安全管理責任者の確認
  • 授受の理由
  • 緊急性の内容
  • 通常の調達ルートで対応できなかった理由
  • 患者に使用したかどうか
  • 返却予定の有無
  • 返却する場合の返却方法

薬局間の譲受・譲渡ガイドラインでも、適正な流通及び品質の確保のために、記録及び管理の徹底が求められています。これは薬局間を対象としたガイドラインですが、病院と薬局の間で医薬品の移動を検討する場合にも、記録管理の考え方として参考になります。

5-2 返却時にも同様に記録を残す

医薬品の貸し借りが発生した際は、借りた時の記録だけでなく、返却時の記録も重要です。
後日同じ種類・同じ数量の薬を返す場合には、返却した薬についても、医薬品名、規格、数量、ロット番号、使用期限、保管状態、返却日、受領者などを記録する必要があります。
また、当初借りた薬と返却した薬が完全に同一ではない場合には、どのような薬を返却したのか、使用期限やロットが異なることについて相手方が確認したのかを残しておくことが望ましいです。(返却後も相手方の在庫として適切に管理できる状態になっているかが重要となるため。)
後述する監査時のリスクヘッジのためにも、貸した時の記録だけでなく返却時の記録も正確に取っておきましょう。

5-3 監査が入った際にも医薬品移動の全体像を説明できる形にしておく

医薬品の貸し借りについては、後日、行政監査や内部監査で確認される可能性があります。
その際には、単に「近隣薬局から借りました」「後で返しました」という説明だけでは不十分です。少なくとも、次の点を説明できる必要があります。

  • なぜその薬が必要だったのか
  • なぜ通常の調達ルートでは間に合わなかったのか
  • なぜその相手方から受け取ったのか
  • 対象薬剤に特別な規制がないことを確認したか
  • 誰が承認したのか
  • 品質や保管状態をどのように確認したのか
  • 患者に使用した場合、その記録と紐付いているか
  • 返却まで適切に完了しているか

これらを説明できない場合、医薬品の管理体制が不十分であると評価されるおそれがあります。特に、貸し借りが複数回行われている場合には、単発の緊急対応ではなく、在庫管理上の構造的な問題として見られる可能性があるため、合理的な理由に基づく移動であったことを説明できる体制を取っておきましょう。

 

第6章 病院・薬局で事前に整備しておきたい内部ルール

6-1 現場判断だけで医薬品の貸し借りを行わない

薬の貸し借りで最も避けるべきなのは、現場担当者の判断だけで薬を渡したり、受け取ったりすることです。
薬剤師、看護師、事務長、院長など、誰か一人の判断でその場の対応を決めてしまうと、後から見たときに、法的な確認や品質管理、記録整備が不十分になりやすくなります。
特に、患者対応が迫っている場面では、「とにかく今必要だから」という判断が優先されがちです。しかし、医薬品の移動は、患者のためであっても、法令や管理体制を無視してよいものではありません。
病院や薬局では、薬の貸し借りを認めるかどうか、認めるとしてどのような場合に限るのか、誰の承認を必要とするのかをあらかじめ決めておくことが重要です。

6-2 貸し借りを前提にしない在庫管理体制を整える

薬の貸し借りは、あくまで例外的な対応として考えるべきです。そもそも、頻繁に薬の貸し借りが必要になる状態であれば、在庫管理や発注体制に問題がある可能性があります。
病院や薬局では、次のような体制を整えておくことが重要です。

  • 最低在庫数を設定する
  • 発注担当者を明確にする
  • 欠品しやすい薬剤をリスト化する
  • 出荷調整品や供給制限品の情報を共有する
  • 卸業者との緊急連絡体制を整える
  • 棚卸しや使用期限管理を定期的に行う
  • 貸し借りが発生した場合には原因を検証する

特に、同じ薬について何度も在庫不足が起きている場合には、単なる偶発的な問題ではなく、発注ルールや在庫基準を含めて業務フローや管理体制の見直しが必要な可能性もあります。

 

第7章 薬の貸し借りは現場判断で済ませないようなルール作りを

病院と薬局の間で行われる薬の貸し借りは、現場では患者対応のための柔軟な協力のように見えることがあります。実際に、急な在庫不足や緊急対応の場面では、近隣の医療機関や薬局と連携したいという判断が出てくることもあるでしょう。
しかし、医薬品は通常の物品とは異なり、一時的な対応であっても医薬品を相手方に移動させる以上、薬機法上の販売・授与、医薬品安全管理、品質管理、記録保存の問題が生じます。
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