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医療過誤の時効は成立するのか?時効の判断基準と起算点、改正民法の影響を弁護士が解説

2026.03.24

医療機関にとって、数年前の診療行為に対して突如として損害賠償請求がなされることは、経営上の不安要素となります。過去の事案について責任を追及された際、まず検討すべき法的論点が「消滅時効」です。本稿では、医療過誤における時効の成立期間や、その判断の起点となる起算点の考え方、さらに2020年の改正民法が実務に与えた影響について、医療法務に精通した弁護士が法的な構造を整理して解説します。

 

第1章 医療過誤の時効を検討する前に整理すべき法的構造

過去の診療行為について損害賠償請求を受けた場合、まずは請求の法的構成を整理する必要があります。医療過誤に関する請求は、法律上、主に次の二つの構成で主張されることが一般的です。

1-1 診療契約に基づく債務不履行責任

患者と医療機関との間には、診療契約(準委任契約と理解されることが多いといえます)が成立すると考えられています。そのため、診療行為において医療機関側に注意義務違反があったと主張される場合、診療契約に基づく義務が果たされなかったという側面から「債務不履行責任」として請求がなされることがあります。
債務不履行責任に基づく損害賠償請求の消滅時効は、改正民法の下では、

  • 権利を行使できることを知った時から5年
  • 権利を行使できる時から10年

と整理されています(民法166条)。
ここで重要なのは、「権利を行使できる時」がいつと評価されるかです。診療行為の日そのものと一致するとは限らず、損害の発生やその認識状況によって評価が分かれる可能性があります。

1-2 不法行為責任という構成と生命・身体侵害の特則

他方で、患者側は、医療機関の過失によって生命・身体が侵害されたとして、「不法行為責任」(民法709条)に基づく請求を併せて主張することが少なくありません。
不法行為に基づく請求については、

  • 損害および加害者を知った時から5年
  • 不法行為の時から20年

という二段階の期間が設けられています(民法724条の2)。
医療過誤事案の多くは、生命または身体の侵害を伴うため、この規定が問題となることが一般的です。
ここでの実務上のポイントは、以下の2点です。
① 債務不履行と不法行為では、時効の起算点や上限期間の考え方が異なり得る
② 患者側は両方の構成で請求してくることが多い
したがって、消滅時効の成立を判断するには、まずは「どの法的構成で請求されているのか」「それぞれの構成における起算点はいつになり得るのか」を分けて検討する必要があります。

1-3 時効は自動で判断できるものではないという前提

医療過誤の時効は、単純な年数計算だけで直ちに結論が出るものではありません。
たとえば、診療行為から相当期間が経過していても、損害の発生時期や症状固定の時期、他院での指摘時期などの事情により、起算点の評価が変わる可能性があります。
そのため、時効の検討に入る前段階として、以下のようなものを時系列で整理することが重要です。
① 診療日
② 症状固定日(後遺障害が問題となる場合)
③ 死亡日(死亡事案の場合)
④ 患者が過失を認識したと考えられる時期
起算点については次章で詳しく解説します。

 

第2章 医療過誤の時効を左右する「起算点」の整理方法

医療過誤の時効を検討する際に問題となりやすいのが、時効はいつから進行するのかという起算点の特定です。診療行為から何年経過したかという単純な計算では足りず、法的には「権利を行使できる状態」がいつ生じたかを検討する必要があります。

2-1 「損害および加害者を知った時」とはどの段階を指すのか

不法行為責任に基づく請求では、「損害および加害者を知った時」から時効が進行すると定められています(民法724条の2)。
ここでいう「知った」とは、単に結果が生じたことを知るだけでなく、

  • 一定の損害が発生したこと
  • その原因となる医療行為の主体が特定できること

を認識した段階を指す、と解されることが一般的です。
もっとも、医療行為に過失があることまで完全に確信していることが常に必要とされるわけではありません。医療行為と損害との関連性を疑うに足りる事情を認識した時点を起算点と評価される場合もあります。
たとえば、診療直後から明らかな症状悪化が生じていた場合と、数年後に他院で初めて過去の処置に問題がある可能性を指摘された場合とでは、起算点の評価が異なる可能性があります。

2-2 症状固定・死亡事案における起算点の考え方

後遺障害が問題となる事案では、損害の範囲が確定する時期が争点になることがあります。
一般に、治療が継続している間は損害の全体像が確定していないと評価される場合があり、症状固定(これ以上の改善が見込めない状態に至った時)をもって損害が具体化すると判断されることがあります。
そのため、診療行為自体は数年前であっても、症状固定の時期が後ろにずれることで、時効の進行開始時期が問題となる場合があります。
また、死亡事案では、死亡時点を基準に損害の発生が確定すると整理されることが多く、死亡日が起算点に影響する可能性があります。
もっとも、いずれの場合も一律の基準があるわけではなく、

  • どの時点で損害が具体化したと評価できるか
  • 患者側が医療行為との関連性をどの程度認識していたか

という事情を総合的に検討する必要があります。

 

第3章 2020年4月施行の改正民法が医療機関の実務に与えた影響

2020年4月1日に施行された改正民法により、消滅時効のルールは一部変更されました。過去の診療行為に対してどの法律が適用されるかについては、経過措置を含めた専門的な確認が不可欠です。

3-1 新法適用か旧法適用かを見分ける基準日

原則として、施行日前に発生した損害賠償請求権には旧法が適用され、施行日以後に発生したものには改正後の規定が適用されると整理されます。そのため、診療行為や損害の発生が施行日前である場合には、旧法が適用される可能性があります。
もっとも、施行日前に発生した損害賠償請求権であっても、施行日時点で時効が完成していない場合の取り扱いについては、経過措置による整理が必要となります。
とりわけ生命・身体の侵害に関する請求については、旧法と新法で期間構造が異なるため、患者側の損害賠償請求権が法的に発生した時点や施行日時点での進行状況を丁寧に確認することが求められます。

3-2 3年から5年への変更点と実務上の留意点

旧民法では、不法行為に基づく損害賠償請求権は、「損害および加害者を知った時から3年」とされていました。改正民法では、生命・身体の侵害に関する請求についてこの期間が5年に延長されています。整理すると、次のとおりです。

区分 旧法 改正法
主観的起算点 知った時から3年 知った時から5年
客観的上限 行為時から20年 行為時から20年

もっとも、改正後の5年ルールが過去の医療行為に直ちに適用されるとは限りません。
施行日前に発生した損害賠償請求権については、附則の規定に基づき、旧法と新法のいずれが適用されるのかを判断することになります。

 

第4章 医療過誤の時効判断は期間よりも構造の整理が重要

過去の医療事故について損害賠償請求を受けた場合、その請求が法的に有効かどうかを早期に検討することは重要です。消滅時効の成否を判断するには、まず患者側がどの法的責任を主張しているのかを整理し、その責任ごとに起算点を確認する必要があります。もっとも、起算点の評価や改正民法の適用関係の整理には専門的な検討を要する場合もあるため、早い段階で専門家へ相談することが望ましいといえます。
私たち Nexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループは、弁護士法人を中心に、税理士法人や社会保険労務士法人が連携し、医療機関を包括的に支援する体制を整えています。時効の成否に関する法的整理をはじめ、賠償が発生した場合の財務的影響や院内体制の整備まで状況に応じた支援が可能です。過去の診療に関する通知が届き対応に迷われている場合など、法的整理が必要な際にはご相談ください。

 

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