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クリニックの経費として認められる範囲はどこまで?税務調査で否認されないための判断基準を税理士が解説

2026.02.12

クリニック経営において経費を理解することは、健全経営と節税の両面で重要な関心事です。特に、自宅兼診療所の家賃や車両費、通信費、交際費など、私的利用が混ざりやすい支出は特に判断が難しく、税務調査で否認されるリスクも気になるところでしょう。

 

第1章 クリニック経営における「経費」の基本的な考え方

1-1 そもそも経費とは何か|事業との関連性が判断基準になる

クリニックの経営において「経費」として認められるための大原則は、その支出が医業(ビジネス)を継続し、収益を得るために直接必要であるかどうかという点に集約されます。これを「事業関連性」と呼びます。
例えば、診察で使用する医療機器の購入費用や、看護師・事務スタッフに支払う給与は、クリニックを運営する上で欠かせない支出であり、疑いようのない経費です。一方で、家族と楽しむためのプライベートな夕食代や、趣味のゴルフ用品の購入費は、直接的にクリニックの収益を生み出すための支出とは言えません。
税務当局は、その支出が「売上に貢献しているか」、あるいは「クリニックの維持・管理に必要か」という視点でチェックを行います。もし、経費になるか否かで迷った際は、支出の目的を第三者(税務署の調査官など)に対して論理的に説明できるかという視点で考えてみましょう。

1-2 個人事業主と医療法人で異なる経費の考え方

クリニックの形態が「個人事業主」か「医療法人」かによって、経費の認められる範囲や考え方には違いがあります。

個人事業主の場合

院長先生個人と経営主体が同一であるため、「事業用」と「家事用(プライベート)」が混ざりやすいのが特徴です。そのため、支出のうち事業に必要な部分だけを計算する「家事按分(かじあんぶん)」という考え方が重要視されます。

医療法人の場合

法人という「別人格」が経営を行うため、個人の支出を法人の経費にすることは原則としてできません。しかし、法人の場合は「役員報酬」として自身の給与を経費化できるほか、個人事業主では認められない「退職金」の積み立てや、より幅広い「福利厚生費」の計上が可能になるというメリットがあります。

 

第2章 税務調査で指摘されやすい公私混同支出の境界線

車両費や家賃、通信費、交際費といった支出は、クリニック経営に欠かせない一方で、私的利用が混ざりやすく、税務調査で指摘を受けやすい分野でもあります。税務調査の現場で問題になりやすい公私混同支出について、具体的な判断軸と実務上の対策を整理します。

2-1 車両費・ガソリン代:事業用割合の算出と走行記録の重要性

多くの方が悩まれるのが、自動車に関する費用です。往診や学会への参加、医薬品の買い出しなどに車を使用する場合、車両費は事業に使用した部分に限って経費として扱われます。一方で、日常生活での利用など、車を私的な理由で使用するシーンも少なくありません。
この場合、車両の購入代金(減価償却費)、ガソリン代、自動車税、保険料などの総額のうち、「走行距離」や「使用日数」に基づいて事業で使用した割合を算出します。税務調査でよく指摘されるのは、「高級外車を100%経費にしているが、実際には往診の実績がほとんどない」といったケースです。
対策として、「いつ、どこへ、何の目的で」走行したかの運行記録簿をつけておけば、事業関連性を客観的に証明する根拠になり得ます。

車両費として計上する場合の車両名義

事業目的で使用する車両を車両費として計上する場合、個人開業医であれば、個人名義の車両を使用し、業務使用分を合理的に按分して経費計上することが一般的です。
一方、医療法人の場合には、法人名義への変更が検討されるケースもありますが、必ずしも名義変更が必要となるわけではありません。個人名義の車両を法人が使用する場合には、使用実態に即した契約関係の整理や、費用負担の合理性を明確にしておくことが重要になります。

2-2 自宅兼クリニックの家賃・光熱費:面積按分と必要性の立証

自宅の一部を診療所や事務作業スペースとして使用している場合、その家賃や水道光熱費も経費に含めることができます。ただし、実際の使用実態に基づき、合理的な基準で按分(あんぶん)されていることが前提となります。
一般的には「床面積の比率」で按分します。例えば、家全体の面積が100平米で、そのうち診療やカルテ整理に使用しているスペースが30平米であれば、家賃の30%を経費として計上するのが合理的です。
一方で、リビングなどの共有スペースを「仕事でも使うから」と安易に含めると、調査で否認されるリスクが高まります。専用の作業部屋を設けるなど、実態に即した区分けが必要です。

2-3 通信費・スマートフォン代:プライベート利用との切り分け

スマートフォンの通信料や自宅のインターネット回線費用も、按分の対象です。患者さんやスタッフ、取引先との連絡に個人のスマホを使っている場合、その使用実態(通話履歴や使用時間など)に基づいた割合を経費にします。
なお、前述した通り按分の対象にはなりますが、通信費やスマートフォンについては、可能であれば、事業専用の端末を契約することをおすすめします(手間が省けるだけでなく、経費としての正当性が高くなります)。

2-4 交際費・接待費:認められるケース、問題になりやすいケース

「交際費」は、税務調査で最も厳しくチェックされる項目の一つです。

認められるケース

他院の先生との連携を深めるための懇親会、医療機器・薬品の導入に関する商談を兼ねた会食、近隣住民への開院挨拶に伴う費用など。

問題になりやすいケース

家族や親戚との食事代、医療従事者ではない友人との飲み会、高額すぎる贈答品など。

「誰と、どのような目的で」会ったのかを領収書の裏にメモしておく習慣をつけましょう。特に高額な支出については、その後の紹介患者数の推移や取引条件の改善など、事業上のメリットがあったことを説明できるようにしておくことが理想的です。

 

第3章 クリニックの経費として認められる具体的な支出項目一覧

3-1 医療行為に直結する支出

これらはクリニック運営に不可欠な基本的な経費です。

  • 医薬品、医療用材料(ガーゼ、注射器など)の購入費
  • 医療機器の購入費(10万円以上のものは減価償却が必要)
  • 電子カルテや予約システムの導入・保守費用
  • 白衣や医療用シューズのクリーニング代

ただし、医薬品や医療材料は、原則として「使った分」が経費になります。購入時はいったん在庫として管理し、使用した分を経費に計上する点に注意が必要です。

3-2 スタッフの採用・教育・福利厚生に関する支出

良質な医療を提供し続けるためには、人材の確保と定着が欠かせません。これらに伴う支出も経費として幅広く認められます。

  • 求人広告費、人材紹介会社への手数料
  • スタッフの給与、賞与、残業代(適正な勤怠管理に基づいたもの)
  • スタッフ向けの研修費、セミナー参加費
  • 定期健康診断の費用、インフルエンザ予防接種代
  • 忘年会や歓送迎会の費用(全従業員を対象とするなど、一般的な範囲内であること)

3-3 集患・増患のための広報宣伝費とウェブサイト運用費

クリニックの存在を地域の方々に知ってもらい、信頼を高めるための支出は、医業収益を得るために必要な広告宣伝費として認められます。

  • クリニックの公式ウェブサイト制作、管理費用
  • 看板(野立て看板、駅広告など)の掲載料
  • 診察券、パンフレット、チラシの制作・印刷費
  • Google広告などのリスティング広告費

近年では、インターネット上の地図情報や検索結果を適正に保つための管理費用(いわゆるMEO対策など)を支出するケースも増えています。これらのデジタル関連の支出であっても、それが集患という事業目的のために行われ、実際に運用されている実態があれば、正当な経費として計上することが可能です。

3-4 医師会費や学会参加費、自己研鑽のための書籍代

専門知識を最新の状態に保つための費用は、医業の質を維持・向上させるために必要な支出です。

  • 日本医師会や各専門医会の会費
  • 学会への参加費、旅費交通費(宿泊が必要な場合は、その妥当性が問われます)
  • 医学書、専門雑誌の購読料
  • 経営の勉強のためのセミナー受講料

これらの費用は、業務との関連性が明確であれば必要経費として認められやすいです。ただし、私的な支出と区別できないと判断されるケースもあるため、内容や参加目的を整理し、業務との関係性を説明できる形で管理することが重要です。

 

第4章 間違いやすい「交際費」と「会議費」の取り扱い

4-1 他院の先生や取引先との飲食:目的と相手方の記録

取引先との飲食代を「交際費」にするか、より制限の少ない「会議費」にするかは、実務上のポイントです。
一般的に、カフェでの打ち合わせや、食事をしながらの軽微な協議で、一人あたりの金額が概ね5,000円以下の場合は「会議費」として処理することが多いです。もっとも、金額のみで一律に判断されるわけではなく、内容や目的、実態を踏まえて総合的に判断されます。一方で、夜の会食や酒席を伴うものは「交際費」となります。いずれにせよ、「意見交換」「紹介のお礼」といった具体的な目的を記録に残すことが不可欠です。

4-2 スタッフとの食事・打ち上げ:福利厚生費として認められる条件

スタッフ全員を対象とした食事会などは「福利厚生費」として処理されるのが一般的です。ただし、頻度や金額が社会通念上相当な範囲に収まっていることが前提です。特定のスタッフだけを連れて行く場合や、回数が極端に多い場合は、そのスタッフへの給与(賞与)とみなされ、源泉所得税の対象となる可能性があります。

4-3 お中元・お歳暮・慶弔見舞金の妥当な金額相場

取引先への季節の挨拶や、スタッフの結婚・出産、近隣の方への弔慰金などは、事業に関連し、社会通念上相当な範囲であれば経費として扱われます。
お中元・お歳暮であれば3,000円〜10,000円程度、慶弔金であれば社内規程に定めておくことが望ましいです。規程がない状態で多額の現金を渡すと、税務調査で否認されるだけでなく、他の従業員との公平性の観点からも問題が生じやすくなります。

 

第5章 税務調査を見据えたクリニック経費管理の実務ポイント

5-1 領収書・契約書の残し方で結果が変わる

税務調査において、経費の妥当性を裏付ける最大の材料は「書面による証拠」です。事業に必要な支出であっても、領収書や契約書が適切に保存されていなければ、その経費性を十分に説明できず、否認されるリスクがあります。
特に注意したいのが、インターネットを通じた取引や高額な契約です。ECサイトでの購入履歴や、メールで受け取る請求書・領収書などについては、法令に沿った形での保存が求められます。特に、メールで受領した請求書PDFやEC購入の領収データなど、電子取引に該当する場合には、データのまま所定の方法で保存することが求められるため、運用に不安があれば税理士などに確認しておくと安心です。
また、高額な医療機器の導入やコンサルティング契約では、領収書だけでなく、業務内容や対価の根拠が分かる契約書の存在が重要になります。

5-2 「税理士任せ」にしすぎないためのチェック視点

税理士に丸投げの状態では、経費の妥当性を問われた際に具体的な背景を回答できず、本来認められるはずの支出が否認されるリスクを招きかねません。
主体性をもって実施すべきポイントは以下の通りです。

毎月の試算表を確認する

経費の推移に異常がないか、自ら目を通す癖をつけましょう。

グレーゾーンを相談する

税理士に対して「これは経費になりますか?」と聞くだけでなく、「こういう理由で事業に必要だと思うのだが、どうすれば証拠として認められるか?」と前向きな相談をすることが大切です。

セカンドオピニオンを活用する

現在の顧問税理士のアドバイスに疑問を感じたり、より踏み込んだ経営コンサルティングを求めたりする場合は、セカンドオピニオンを受けることも有効な手段です。

 

第6章 まとめ:クリニックの経費判断に迷ったら

クリニックや医療法人の経営は、医療という高度な専門業務を行いながら、税務、労務、法務といった複雑な管理業務をこなさなければなりません。経費一つの判断ミスが、将来的な税務調査での多額の追徴課税や、スタッフとの労務トラブルに発展するリスクにつながる可能性も否めません。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループは、弁護士・税理士・社会保険労務士などが連携し、医療機関の経営をワンストップでサポートしています。
「この支出は経費として適切か?」「節税とリスク管理のバランスをどう取るべきか?」といったお悩みから、医療法人化のシミュレーション、さらには将来の事業承継やM&Aまで、あらゆる経営課題に対応いたします。少しでも不安や疑問を感じられるときには、ぜひお気軽にご相談ください。