税務調査の通知は突然来ます。適切に申告しているつもりでも、何か指摘されるのではないかと不安を覚える方も少なくないでしょう。本記事では、税務調査の通知が届いてから当日の立ち合い、さらには調査後の修正・交渉に至るまでの実務的な流れを時系列で解説します。
第1章 【時系列】税務調査の通知から当日までの準備フロー
1-1 調査通知が届いたらまず確認すべき「調査の目的と範囲」
税務調査の多くは、事前に電話で通知が入る「任意調査」です。通知を受けた際、まずは、いつ・誰が(どの税務署のどの部門か)・何を(どの税目と対象期間)調査しに来るのかを正確に把握しましょう。
医療法人の場合、法人税や消費税だけでなく、源泉所得税や印紙税が対象になることもあります。特に、前回の調査から期間が空いている場合や、大きな設備投資を行った直後などは、調査官がどのような意図を持って訪問するのか、通知の段階で予測を立てることが重要です。この時点で顧問税理士と連絡を取り、過去数年分の申告内容を再確認する作業に入ります。
1-2 日程調整と診療業務への影響を低減する工夫
税務調査は通常、数日間にわたって行われます。しかし、全ての時間立ち会う必要はありません。特に診療予約が入っている時間帯については、あらかじめ税務署側に伝え、対応時間を診療の合間や診療後に限定するよう調整を申し出ることが可能です。
調査の場所は原則として法人の事務所(クリニック内)となりますが、患者の目に触れる場所での調査はプライバシーや防犯上の観点から避けた方がよいでしょう。個室の会議室や応接室を確保し、診療業務に支障が出ないような導線をあらかじめ検討しておくことをおすすめします。
1-3 事前準備で差がつく証憑書類とレセコンデータの整理
調査当日、調査官が特に時間をかけて確認するのは帳簿と、その裏付けとなる証憑書類です。
以下の書類がすぐに提示できるよう整理されているか確認しましょう。
- 総勘定元帳、仕訳帳などの会計帳簿
- レセプトコンピュータ(レセコン)の売上データ、日計表
- 領収書、請求書、契約書(原本が望ましい)
- 人件費に関する書類(源泉徴収簿、雇用契約書、出勤簿)
- 理事会議事録、定款などの法人運営書類
特に医療法人の場合、窓口現金と日計表の整合性が確認されます。レセコンの集計数値と実際の入金記録にズレがないか事前に照合しておくことが、調査官に「管理体制がしっかりしている」という信頼感を与えることにつながります。
第2章 税務調査当日の立ち振る舞いと、やってはいけない対応
2-1 調査官の質問に対する「適切な回答」と「曖昧な返答」のリスク
調査官は事案によっては、家族構成、個人の趣味に至るまで幅広く質問します。これらは単なる雑談ではなく、法人の経費と私的な支出が混在していないかを探るための重要なプロセスです。
質問への回答は、「事実をありのままに、簡潔に答える」ことが鉄則です。記憶が曖昧なことに対して「たぶんそうだったと思う」といった不確かな回答をしたり、その場を取り繕うために事実と異なることを答えたりするのは、要らぬ誤解を生む原因になります。
少しでも不安がある場合は「確認してから後ほど回答します」と伝え、税理士や専門家にバトンタッチするのが安全な対応といえます。
2-2 現場での資料提示における注意点とコピーの取り扱い
調査官から「この資料のコピーをください」と求められることが多々あります。これには柔軟に対応して構いませんが、どの資料のコピーを渡したのかをリスト化し、法人側にも控えを残しておきましょう。
注意すべきは、提示を求められていない資料まで不用意に見せてしまうことです。デスクの上に置かれたままのメモ書きや、私的な手帳などがきっかけで新たな疑念を持たれるケースもあります。調査スペースには必要な資料のみを配置し、余計な情報は物理的に整理しておくことは調査をスムーズに終わらせることにもつながります。
2-3 「その場での承諾」が招く法的なデメリット
調査の終盤、調査官から「この経費は認められないので、修正申告してください」と口頭で指摘を受けることがあります。プレッシャーを感じて「分かりました」と即答したくなるかもしれませんが、これには注意が必要です。
一度、指摘を認めて修正申告を行うと、後から異議を唱えることは実務上ハードルが高くなる場合があります。指摘内容については持ち帰り、それが税法の解釈として正しいのか、あるいは事実誤認がないかを税理士などの専門家とともに精査する時間を確保することが望ましいです。
第3章 医療法人の税務調査で、指摘されやすい点
3-1 自由診療(自費診療)の収入計上漏れと窓口現金の管理
医療法人の税務調査で注視されるのが、自由診療(自費診療)の売上管理です。美容皮膚科の施術、人間ドック、歯科のインプラントなど、特に高額な現金が動く分野は「計上漏れ」を疑われやすい項目といえます。
調査官は、カルテの数、予約票、技工所の請求書、薬品の仕入量など、複数のルートから売上の妥当性を検証します。例えば、インプラントの仕入本数に対して売上が少なすぎる場合、隠れた売上があるのではないかと追及されます。日々の窓口現金の管理において、過不足が生じた際の理由まで詳細に記録しておくことが重要といえます。
3-2 家族が従業員の場合の給与や役員報酬の妥当性
家族を役員や従業員(専従者)としている場合、その給与額が「仕事の実態に見合っているか」が問われます。
- 勤務実態(出勤簿や業務報告)があるか
- 他の職員とのバランスは適正か
- 同規模の他のクリニックと比較して突出していないか
これらが満たされていない場合、過大報酬として経費(損金)算入を否認されるリスクがあります。特に非常勤役員への報酬はターゲットになりやすいため、職務内容を明確にした契約書や議事録を作成し、実態を証明できる体制を整えておく必要があります。
3-3 福利厚生費か、交際費か、寄付金か?名目と実態の乖離
職員との会食や慰安旅行、医師同士の勉強会後の懇親会など、医療機関では「交際費」や「福利厚生費」が発生しがちです。
税務署が確認するのは、支出が事業運営に必要なものかという点です。例えば、特定の親族役員だけで行った高級レストランの支払いを福利厚生費として処理している場合、それは役員賞与(給与)とみなされ、法人税の否認だけでなく、個人の所得税も課される二重課税を招くリスクがあります。支出のたびに「誰と」「何の目的で」行ったかを領収書にメモし、区分経理を徹底することが重要です。
3-4 医薬品・診療材料の棚卸と計上時期の適正性
期末時点での在庫管理、いわゆる「棚卸資産」の計上も重要な論点です。
税務上、在庫として残っているものは資産として計上し、使用した分だけを経費にする必要があります。そのため、期末に購入した医薬品を、まだ使用していないにもかかわらず全額経費に計上しているような場合は、会計処理の見直しが必要です。
特に高額な医薬品や診療材料を取り扱う場合、期末の棚卸を疎かにすると「利益の過少申告」とみなされる可能性があります。毎期一定のルールに基づいた棚卸作業を行い、その記録を保存しておくことが求められます。
第4章 調査後の指摘事項に対する交渉と法的な対抗手段
4-1 修正申告を勧告された際の判断基準と納得できない場合の対応
調査の結果、申告漏れが指摘されると「修正申告」を勧められます。修正申告に応じた場合、原則としてその内容について不服申立てを行うことはできなくなります。
指摘内容に納得がいき、追徴税額も妥当であれば応じるのが一般的ですが、「税法の解釈が強引である」「事実関係が間違っている」と感じる場合は、安易に応じる必要はありません。修正申告はあくまで納税者の「任意」による手続きだからです。
納得できない場合は、税務署が強制的に税額を決定する更正(こうせい)処分を待つという選択肢もあります。
4-2 更正処分を受けた場合の異議申し立てと審査請求の手続き
税務署から一方的に税額を決められる「更正処分」を受けた場合、納税者はそれに対して再調査の請求や審査請求を行うことができます。
1. 再調査の請求
処分を下した税務署に対して、再度検討を求める手続き
2. 審査請求
国税不服審判所に対して、処分の取り消しを求める手続き
3. 税務訴訟
裁判所において、処分の妥当性を争う手続き
これらの手続きには厳格な期限があり、また専門的な法律知識が必要です。税務署側の主張を崩すための証拠収集や論理構築は、税務と法務の両面に精通した専門家のサポートが不可欠といえます。
4-3 税務判断と法的解釈の食い違いと対抗策
税務調査の現場では、調査官から「この支出は経費として認められない」と判断される場面があります。しかし、その判断が常に最終結論となるわけではありません。注意すべきなのは、私法上の有効性(契約として有効か)と、税務上の損金算入可否は必ずしも一致しないという点です。
例えば、契約に基づいて支払われた違約金や損害賠償金について、調査官から「実質的には寄付金や私的支出ではないか」と指摘されるケースがあります。このような場合であっても、契約書の内容や支払義務が生じた経緯、法人の業務との関連性などを整理し、取引の法的性質や契約上の位置付けを客観的に示すことができれば、税務上の評価について検討できる余地が生じる場合があります。
ただし、私法上有効な契約であるからといって、当然に税務上も損金算入が認められるわけではありません。税務では、事業との関連性、通常性、対価性といった観点から総合的に判断されます。そのため、単に「契約がある」という主張だけでは不十分であり、なぜその支出が医療法人の事業運営上必要であったのかを、事実関係に即して説明することが重要です。
第5章 医療法人が税務調査を乗り越え発展し続けるために
医療法人の税務調査は、法人のガバナンスや経営姿勢が問われる重要なイベントです。万全の体制で臨むためには、以下の3つがポイントといえます。
1. 日々の透明な会計処理
窓口現金とレセコンデータの完全一致を目指し、証拠書類を整理保存する
2. 公私の区別の徹底
家族への給与や交際費について、客観的に説明できる実態を備える
3. 専門家との早期連携
調査の通知が来た段階で、税務だけでなく法務的な視点も持って対応方針を協議する
税務調査への備えは、そのまま法人の経営基盤を固めることにつながります。一方で、どれほど注意を払っていても、調査現場では予期せぬ指摘や厳しい追及を受けることもあり得ます。顧問税理士のアドバイスだけでは不安が残る場合や、法的根拠に基づく反論が必要な局面では、弁護士と税理士が一体となったサポートが大きな力となります。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループは、弁護士法人、税理士法人、社会保険労務士法人などがワンストップで連携する士業グループです。税務調査の立ち合いから、指摘事項に対する法的スキームを用いた交渉、さらには調査を機に見えてきた社内体制の不備改善まで、医療経営のあらゆる課題をトータルで解決いたします。
税務調査の通知が届いてお困りの方はもちろん、将来の調査に備えて現在の体制を点検したいとお考えの先生方も、ぜひお気軽に当グループへご相談ください。