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医療法人の税務で失敗しないための重要ポイントを解説|税務調査の傾向と専門家による対策

2026.01.27

医療法人における税務は、一般企業以上に複雑で専門的な知識が求められる領域です。非営利性の原則や独自の会計基準、さらには理事長個人の所得とのバランスなど、医療法人ならではの検討事項は少なくありません。特に、近年は税務調査が厳しくなってきており、慎重に検討しておくべきポイントといえます。

 

第1章 医療法人の税務が一般企業と異なる理由

1-1 非営利性の徹底を求める「配当禁止」の原則

医療法人は、医療法によって「非営利性」が義務付けられており、一般の株式会社とは根本的に異なる性質を持っています。
一般企業における利益は、株主への配当という形で分配することが可能ですが、医療法人の場合は「配当禁止の原則」により、利益を社員や出資者に分配することは認められていません。税務上の観点からは、この原則を遵守しているかどうかが、まずチェックされます。
たとえば、実質的な利益配当とみなされるような不透明な支出や、特定の個人への過度な利益供与は、医療法人において税務上の重大な懸念事項となります。その税務判断の基礎には、「利益はあくまで医療設備の拡充や救急医療の維持など、次なる医療提供のための原資として蓄積・活用されるべきもの」という考え方があります。

1-2 透明性の確保を目的とした「医療法人会計基準」の存在

医療法人は、その公共性の高さから、財務状況の透明性を確保するために「医療法人会計基準」(厚生労働省令)に従った適切な会計処理が求められます。たとえば、社会保険診療報酬にかかる発生主義に基づく計上時期の管理や、未収金の明確な把握などがあげられます。
税務署は、これらの基準が正しく運用されているかを通じて、法人の収益が適正に申告されているかを確認します。

1-3 医業の公共性に鑑みた独自の「税制優遇と制限」

医療法人が提供する医療サービスは、社会インフラとしての公共性が高いため、税制面でも優遇と制限が複雑に組み合わさっています。たとえば、社会保険診療報酬にかかる所得の計算において、一定の要件を満たす場合には租税特別措置法上の特例(概算経費の計算)が適用されることで、税負担が軽減されるケースがあります。
その一方で、医療保健業以外の収益事業や附帯業務を行う場合には、それぞれの収益・費用を明確に区分して経理処理を行わなければなりません(区分経理といいます)。
このように、一つの法人の中で異なる税務ルールが共存している点も、医療法人の税務を複雑化させている理由の一つといえます。

 

第2章 医療法人特有の資産と経費における税務上の留意点

2-1 医薬品・診療材料の在庫管理と棚卸資産

医療機関において、期末における棚卸資産の評価は税務上のポイントになりやすい項目です。医薬品や診療材料は、購入時に全額を経費にするのではなく、期末に残っている在庫については資産として計上し、翌期以降の経費とする必要があります。
多忙な診療現場においては、この棚卸が負担になることもありますが、在庫のカウント漏れや計上の誤りは、利益の過少申告につながってしまいます。特に高額な特殊材料や、使用期限のある薬品の管理体制が不透明であると、税務調査時に利益調整を疑われる要因にもなりかねません。在庫確認のフローをしっかりと構築しておくことが、税務リスクの軽減につながるといえます。

2-2 窓口収入の計上漏れを防ぐ管理体制

医療機関の売上の基本は、窓口での一部負担金とレセプト請求による診療報酬です。税務当局が注視するのは、特に現金でやり取りされる窓口収入の正確性です。
具体的には、日々の現金残高と日計表(レセプトコンピュータからデータ出力ができる場合もあります)が完全に一致しているか、自由診療(自費診療)の収入が漏れなく計上されているかなどが問われます。自由診療の収入は、保険診療に比べて管理が煩雑になりやすい傾向がありますので、こちらも正確に管理を行いましょう。これらの収入を管理する帳簿と、実際の預金通帳への入金記録、カルテの記載内容が整合していることが、税務上の信頼性を担保する根拠となります。

2-3 福利厚生費と交際費の明確な区分

医療スタッフの確保や定着のために、福利厚生を充実させている法人も多いでしょう。しかし、これらの支出が税務上の福利厚生費として認められるためには、一部の役員や医師だけでなく、職種や勤務形態に応じた合理的な範囲で「広く職員を対象としていること」、かつ「金額が社会通念上、妥当であること」という要件を満たす必要があります。特定の役員のみが恩恵を受けるような支出は、福利厚生費ではなく「交際費」、あるいは実質的な「役員への給与」と判断される傾向があります。後者の場合、法人側で経費として認められないだけでなく、役員個人にも所得税が課されるという二重の税負担が生じるおそれもあります。
また、注意したいのが交際費の取り扱いです。交際費には損金算入(経費として認めること)の限度額が定められており、福利厚生費と混同して誤った申告を続けていると、後の税務調査で否認され、法人税の追加負担が生じる可能性があります。こうした事態を避けるためには、支出の都度、支出の目的や参加者、内容を領収書や帳簿へ明確に記録し、法人の業務に関係のない私的な支出とは切り離して管理する体制を整えておくことが大切です。

 

第3章 税務調査の対象になりやすい医療法人の特徴

3-1 計上数値の不自然さ:売上高や利益率が急激に変動している

税務署は、KSK(国税総合管理)システム等を用いて、全国の医療法人の財務データを分析しています。そのため、過去数年間の数値と比較して、急激に売上が増加したり、逆に利益率が極端に低下したりしている法人は、その原因を確認するために調査対象に選ばれる傾向があります。
もちろん、新診療科の開設や大規模な設備投資など、正当な理由による変動であれば問題ありません。しかし、その理由を客観的な書類で説明できない場合、所得隠しや不当な経費計上の疑いを持たれる可能性があります。

3-2 不明瞭な支出:多額の経費計上や不自然な資産購入が目立つ

特定の科目に多額の経費が集中している場合や、高級車両の購入、高額な内装工事などが短期間に行われた場合も、調査のきっかけとなりやすいといえます。医療法人において、その資産が本当に医業の遂行に必要であるかどうかの判断は、一般企業よりも厳密であるといえます。
たとえば、理事長車として購入した車両が専ら私用に使われていないか、自宅兼診療所の光熱費や賃料の按分が適正かといった点は、調査において頻繁に確認される事項といえます。

3-3 未調査期間の長さ:一定期間調査が行われていない

10年以上、税務調査が来ていないからといって、この先も対象にならないわけではありません。医療法人については、過去の申告内容や業種特性などを踏まえ、一定期間ごとに税務調査の対象となることが一般的ですが、その実施時期や頻度は個別の事情によって異なります。
前回の調査から期間が空いているということは、それだけ多くのデータが蓄積されており、調査が行われた際の修正範囲が広くなるリスクをはらんでいます。

 

第4章 税務調査に向けた事前対策とリスク回避

4-1 客観的証拠の確保:証憑書類の整理・保管の徹底

税務調査において、調査官の指摘を回避するには、個々の取引が正当な医業運営に基づくものであることを証明する客観的な証拠を提示することです。どんなに正当な支出であっても、それを裏付ける証憑(しょうひょう)書類が欠けていれば、税務上は経費として認められないリスクがあります。領収書や請求書だけでなく、高額な契約であればその契約書や、なぜその業者を選定したのかを裏付ける見積書なども客観的証拠に含まれます。
これらの書類が日付順・項目順に整理され、調査官の質問に即座に提示できる状態にあることは、管理体制の健全性の証明につながります。

4-2 自浄作用の構築:定期的なセルフチェックと内部監査の実施

税務調査が来てから慌てて準備するのではなく、日常的に自らの会計処理を振り返る機会を持つことが重要です。レセコンのデータと会計ソフトの数値が一致しているか、私的な支出が混入していないか、従業員による不正経理が起こりかねない仕組みになっていないかなど、客観的な視点でチェックを行う必要があります。
こうした内部監査の体制を整えることは、単なる税務対策にとどまらず、法人のガバナンス(統治)を強化し、健全な経営基盤を築くことにもつながります。

 

第5章 健全な医療経営のために今から始めましょう

今回は、医療法人が直面する税務の特殊性や、税務調査における注意点について確認しました。
医療経営を取り巻く法規制や税制は変化しており、一度構築した体制が永続的に最適であるとは限りません。税務調査への不安を払拭し、より堅実な経営体制を構築するには、法務・税務・労務の各視点から多角的にチェックを行うことが重要といえます。
現在の会計処理に不安を感じている、税務調査への備えを万全にしたい、との考えがあるなら専門家へ相談することをおすすめします。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループでは、弁護士・税理士・社会保険労務士が連携し、医療法人の皆様が抱える経営課題をワンストップでサポートする体制を整えております。専門的な対応が必要な場合は、当グループまでお気軽にご相談ください。