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クリニック職員の勤務態度が悪いとき、どう指導すべきか?放置のリスクと法的紛争を防ぐ正しい手順を弁護士が解説

2026.01.20

クリニック経営において、一部のスタッフの「勤務態度が悪い」という問題は、周りのモチベーション低下や患者満足度の悪化に直結する課題です。一方で、感情的に叱責すればパワハラと主張されるリスクがあり、改善が見られないからと安易に解雇を選べば不当解雇として訴えられる危険性もあります。問題のあるスタッフに対して、どのような順序で指導を行い、万が一改善しない場合にどのような法的手段が取れるのでしょうか。弁護士の視点から詳しく解説します。

 

第1章 スタッフの勤務態度不良を放置するリスク

1-1 「不適切な態度」の追認とみなされる法的リスク

スタッフの勤務態度の悪さを目にした際、「今は忙しいから」「注意して波風を起こしたくないから」と静観を選ぶ経営者は少なくありません。しかし、法的な観点からみると、放置は事態を深刻化させるリスクをはらみます。なぜなら、不適切な勤務態度を長期間黙認し続けていた場合、後に処分や解雇を実行し、労働審判や訴訟などの紛争になった場合、裁判所等から「これまで事実上容認していたのではないか」と評価され、指導の必要性・相当性の説明が難しくなる可能性があるからです。
将来的に厳しい人事措置を講じる際、その正当性を担保するためには、問題が起きたその時から「その態度は当院では認められない」という意思表示を、客観的な記録として残し続けておく必要があります。

1-2 信頼のおけるスタッフが辞めていく組織の疲弊

また、周囲のスタッフへの影響も生じやすいリスクの一つです。少人数の職場や部門では、一人の行動や姿勢が全体の雰囲気に影響を与えます。問題のある態度や行動が注意されない状態が続くと、職場の緊張感や規律は徐々に損なわれていくでしょう。
その結果、責任感を持って真面目に働いているスタッフほど、やりきれなさや不公平感を抱き、「この職場で働き続けるべきか」を考え始めます。多くの場合、去っていくのは問題のあるスタッフではなく、周囲に配慮しながら黙々と支えているスタッフです。

1-3 接遇悪化による患者離れとクリニックの評判の低下

クリニックの評判において、スタッフの接遇は軽視できるものではありません。受付での冷淡な対応や、看護師同士の私語、患者への配慮に欠ける言動は、患者にとってストレスや違和感として蓄積されていきます。
こうした違和感は、直接クレームとして表に出るとは限らず、むしろ静かに評価を下げていく傾向があるといえます。近年では、SNSや口コミサイトを通じて、スタッフの態度に関する評価が第三者にも容易に共有される時代です。これらの口コミは想像以上に多くの人の目に触れており、一度掲載された評価を後から取り下げたり、完全に消したりすることは簡単ではありません。

 

第2章 指導を始める前に確認すべき労働法・パワハラ指針・就業規則の基礎

2-1 なぜ、感情的な指導は法的に危険なのか

指導の際、積もり積もった不満からつい感情的になり、声を荒らげたり人格を否定したりするような言動を行うことは、法的に不利に評価されるおそれがあります。言い方・場所・頻度・人格否定の有無など態様が過度な場合、たとえ指導内容自体に正当な理由があっても、パワハラ(不法行為や安全配慮義務違反等)と評価されるおそれがあるからです。

2-2 職場におけるパワハラの3要素

いわゆるパワハラ防止指針(厚労省の指針)では、一般に次の3要素を踏まえて判断されます。
1. 優越的な関係を背景とした言動
2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
3. 労働者の就業環境が害されるもの

(※実際の判断は、言動の内容・頻度・立場関係・職場環境など個別事情を総合して行われます。)

代表的なものとしては、身体的な攻撃はもちろん、精神的な攻撃(大勢の前での叱責)、人間関係からの切り離し(無視)などがあげられます。

2-3 「適正な業務指示」と「パワハラ」の境界線はどこにあるか

多くの経営者が悩むのが、どこまでが「指導」で、どこからが「パワハラ」なのかという境界線です。判例上、業務上の必要性があり、かつその手段・方法が社会通念上、相当である場合は、一般にパワハラと評価されにくいとされています。
例えば、「遅刻を繰り返すスタッフに対し、改善されるまで毎朝の報告を義務付ける」ことは、業務上の必要性が認められる適正な指導です。一方で、遅刻の罰として「診療時間外に一人で草むしりをさせる」といった、業務と無関係な苦痛を与える行為はパワハラとみなされます。その他にも、以下のようなケースが境界線の目安となります。

指導とパワハラの違いの例
  • 患者への不適切な対応を注意する際、個室で具体的に改善点を指摘し、復習を促す行為は適正な指導の範囲内です。しかし、他のスタッフや患者の面前で、人格を否定するような言葉を使って怒鳴りつける行為は、業務上の必要性を超えたパワハラに該当する可能性が高まります。
  • 業務上のミスが続くスタッフに対し、正確性を期すためにダブルチェックの徹底を命じたり、一時的に補助的な業務へ変更して基礎を再確認させたりすることは正当な業務指示です。対して、ミスを理由として、これまで担当していた専門業務をすべて取り上げ、誰にでもできる単純な事務作業のみを延々と行わせるといった「過小な要求」は、正当な指導を逸脱したハラスメントと判断されるリスクがあります。

2-4 就業規則の重要性|勤務態度に関する規定は整備されているか

指導や処分を行う際の法的根拠となるのは「就業規則」です。常時10人以上の労働者がいる場合は作成・届出義務がありますが、それ未満のクリニックであっても作成しておくことを推奨します。なぜなら、就業規則に服務規律や懲戒規定が具体的に記載されていない場合、勤務態度が悪いことを理由に懲戒処分を下すことが法的に難しいケースが少なくないからです。
自院の就業規則に「正当な理由のない遅刻・欠勤の禁止」「職場の秩序を乱す行為の禁止」などが明記されているかを確認しましょう。もし現在、就業規則自体がない場合は、クリニックの秩序を守り、いざという時にクリニックや経営者自身を守るためにも早急に作成することをおすすめします。

2-5 クリニック独自のルール(マニュアル)の法的効力

就業規則を補完するものとして、接遇マニュアルや清掃手順書などの「クリニック独自のルール(マニュアル)」を整備しておくことは、勤務態度の指導や是正を行ううえで有効といえます。これらのマニュアルは、就業規則に定められた服務規律や懲戒事由を具体化・補完するものとして位置づけられます。
例えば、「患者対応は丁寧に行う」といった抽象的な規定だけでなく、「患者様には必ず立って挨拶をする」「受付対応時は私語を控える」といった具体的な行動基準を明文化しておくことで、経営者が行う業務指示の内容が明確になります。マニュアルが存在するだけで、直ちに懲戒処分が正当化されるわけではありませんが、内容に合理性があり、かつ業務上必要な範囲での指示であれば、それに従わない行為は業務命令違反として評価される可能性があります。

 

第3章 【実務編】勤務態度が悪いスタッフへの注意・指導の手順

3-1 Step1:まずは口頭注意から|記録の残し方が成否を分ける

指導の初期段階では、口頭での注意を行います。この際、重要なのは「いつ、誰が、どのような内容で注意し、本人はどう反応したか」を必ず記録に残すことです。
後に懲戒処分などを行い、それを不服として紛争になった場合、クリニック側は「再三注意したにもかかわらず改善されなかった」ことを証明しなければなりません。ノートやデジタルツールなどに、先にあげた「いつ、だれが、どのように」の内容をメモを残しておくだけでも証拠になり得ます。

3-2 Step2:書面による改善勧告の実施時期と記載内容

口頭注意を数回重ねても改善が見られない場合は、書面による指導に移行します。
「改善勧告書」や「指導票」といった名称で、問題となる事実を具体的に特定し、いつまでに改善を求めるかを明記します。書面化することで、スタッフ本人に事態の深刻さを認識させるとともに、それはクリニック側が改善の機会を与えたという事実の客観的な証明にもなり得ます。この際、書面の中で、改善が見られない場合に就業規則に基づく措置(注意・懲戒等)を検討しうることについても触れておくと、後日の紛争予防に資することがあります。

3-3 Step3:面談の実施と改善計画書(PIP)の活用法

書面での通知と併せて、個別の面談を実施します。ここでは一方的に責めるのではなく、なぜその行動が問題なのかを説明し、本人に改善策を考えさせることが重要です。
「パフォーマンス改善計画」と呼ばれる手法を用いることも有効です。これは、いつまでに何をどう改善するかを合意して進捗確認する仕組みです。
例えば「1ヶ月以内に遅刻をゼロにする」「接遇に関する研修動画を視聴し、レポートを提出する」といった具体的な目標を設定し、その進捗を定期的に確認します。ここまで行っても改善されない場合、クリニック側が改善機会を十分に与えたことを説明しやすくなります。

スタッフ側からの「言い分」を聴取する重要性

指導の過程では、必ず本人の言い分を聞く時間(弁明の機会)を設けましょう。欠勤が続いている理由が自身の深刻な病気や家庭の事情である場合もあります。事情を確認しないまま懲戒処分や解雇に進むと、個別事情を無視したものとして、処分が権利濫用と評価されるおそれがあります。

指導の際に守るべきプライバシーと場所の配慮

指導を行う場所にも注意が必要です。他のスタッフや患者の耳に入るような場所での叱責は、本人の名誉を傷つけ、パワハラと評価される可能性が高まります。必ず別室を用意し、1対1、あるいは記録係を含めた2対1などの体制で、静穏な環境で対話を行いましょう。

 

第4章 指導しても改善しない場合に検討すべき「人事措置」と「懲戒処分」

4-1 配置転換(配置換え)による解決の可能性と留意点

特定の業務や人間関係が原因で態度が悪化している場合、配置転換(職種の変更や担当の変更)が有効な解決策になることがあります。法的には、業務上の必要性があり、不当な動機・目的がなく、労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与えない限り、経営者には広範な人事権が認められています。
解雇を検討する前に、配置転換によって事態が改善する余地はないかを検討することは、解雇の有効性を判断する際の「解雇回避努力」としても評価されます。

4-2 懲戒処分の種類と段階的な適用(譴責・減給・出勤停止)

指導を尽くしても改善されない場合、就業規則に基づき懲戒処分を検討します。多くの場合、いきなり重い処分ではなく、注意→譴責(けんせき:始末書を提出させて戒める)→減給→出勤停止など、事案の重さと改善状況に応じて段階的に検討することが、紛争予防の観点から望ましいといえます。

4-3 懲戒処分を行うために必要な相当性と手続きの妥当性

懲戒処分が有効であるためには、「事案の軽重に対して処分の内容が重すぎないこと(相当性)」と「適正な手続きを経ていること」が必要です。例えば、一度だけ数分の遅刻したことに対して出勤停止処分を下すことは、相当性を欠き無効とされる可能性が高いといえます。また、就業規則に「懲戒委員会を開く」などの定めがある場合は、必ずその手続きを経なければなりません。

4-4 降格や減給を行う際の給与計算・労務上の注意点

懲戒処分としての「減給」には、労働基準法による制限があります。減給として一度に差し引ける金額の上限は平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、総額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えてはならないというルールです。これを超えた減給は違法となり、逆に労働基準監督署からの是正勧告を受けるリスクを招きます。
一方、「降格」に伴う賃金の低下は、役職に見合う給与への変更であれば原則として上記の制限は受けません。ただし、降格には就業規則上の根拠と、業務上の必要性や適性の欠如といった客観的な理由が必要です。これらを欠いた処分は無効とされるだけでなく、未払い賃金を請求されるリスクがあります。
処分決定時は必ず「就業規則のどの条項に該当するか」を明示し、計算ミスを防ぐため、固定残業代や諸手当の連動範囲についても事前に賃金規定で精査しておくことが重要です。

4-5 試用期間中のスタッフに対する指導と本採用拒否のハードル

試用期間中のスタッフに対する本採用拒否は、実務上、解雇に準じて有効性が審査されます。通常の解雇に比べれば広い範囲で認められる傾向がありますが、社会通念上、相当な理由によるものではならないとされており、具体的な指導記録や改善の機会を与えた事実も不可欠です。
試用期間中に勤務態度の悪さが露呈した場合は、期間満了を待たずに早期から書面による指導を行い、本採用が難しい可能性があることを適時に伝えておく必要があります。

 

第5章 最終手段としての「退職勧奨」と「解雇」

5-1 「解雇」を検討する前に、まずは「退職勧奨」を行う

解雇は、労働者の生活基盤を奪う重い措置であるため、法的に有効と認められるハードルが高く、経営者にとってリスクも伴います。具体的には、解雇したスタッフから不当解雇として訴えられた場合、裁判で解雇が無効と判断されると、解雇期間中の給与を遡って支払わなければならない(バックペイ)だけでなく、スタッフを職場に復帰させなければならないという負荷が生じます。
こうした法的・金銭的な紛争を避けるためにも、まずは一方的な通告である解雇ではなく、話し合いを通じて本人に自発的な合意を促す「退職勧奨」を行うのが、一般的です。ただし、退職勧奨はあくまで「お願い」であり、本人が拒否すればそれ以上無理強いはできません。本人の意思に反した強制的な退職勧奨はその後の対応を進めるにあたり不利な要素になるため、実施する際は必要に応じて社労士等に対応をお願いするなど、慎重な実施が必要です。

5-2 円満な解決を目指す「合意退職」の合意書作成ポイント

該当のスタッフが退職勧奨に応じた場合は、必ず「合意書(退職合意書)」を作成しましょう。合意書には、「お互いに一切の債権債務がないことを確認する(清算条項)」、「退職後にクリニックの誹謗中傷を行わない」、「機密情報を漏洩しない」といった条項を盛り込み、将来的な訴訟リスクを回避することが重要です。

5-3 解雇が有効となるための条件は客観的合理性と社会的相当性

解雇を検討する場合は、万が一、法的紛争に発展した場面を想定し、あらかじめ「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2点を満たしておく必要があります。これらは、もしスタッフ側から不当解雇として訴えられた場合に、裁判所がその解雇が有効かどうかを判断する重要な基準となります。例えば、勤務態度の悪さを理由とする場合、「態度が悪い」という主観的な評価ではなく、「○月○日に無断欠勤し、○月○日に改善勧告をしたが無視し、○月○日に減給処分を受けたが再び○月○日に同様の行為をした」といった、具体的な事実の積み重ねが求められます。

5-4 普通解雇と懲戒解雇の違い

解雇には「普通解雇」と「懲戒解雇」があり、どちらも雇用契約を終了させる手続きですが、その性質やクリニックが負うリスクには違いがあります。

普通解雇:ハードルが相対的に低い

普通解雇は、スタッフの能力不足や勤務態度の不良、健康状態の悪化など、労働契約を継続することが困難な事情がある場合に行われるものです。原則として、30日前の解雇予告または30日分以上の解雇予告手当が必要になります。

懲戒解雇:経営上のリスクも高い

懲戒解雇は、職場の秩序を著しく乱す重大な規律違反や犯罪行為などに対する、制裁として行われる処分です。労働者にとって重い処分のため、紛争になった場合の裁判所の判断も普通解雇に比べて厳格といえます。また、懲戒解雇については「退職金を支払わなくてよい」「即時に解雇できる」といったイメージを持たれがちですが、これらが常に認められるわけではありません。退職金の不支給や減額が可能かどうかは就業規則の定めや処分の相当性によって判断されますし、解雇予告や解雇予告手当に関する労働基準法上のルールも原則として適用されます。

 

第6章 スタッフの勤務態度に悩むクリニックが取るべきアクション

スタッフの遅刻や態度の悪さを目にした際、多くの経営者は「今は忙しいから」「注意して辞められたら困る」と、つい静観を選んでしまいます。しかし、その影響は想像以上であり、放置すればクリニックの存続を揺るがしかねない問題であるといえます。
本記事で解説した通り、スタッフの勤務態度が目に余る場合に重要なのは「客観的な事実に基づいた段階的な指導」と「そのプロセスの徹底した記録」です。これらを積み重ねることで、人事措置や退職勧奨、あるいは解雇という選択肢を持つことができます。
現場で問題に直面されている方は、今からでも指導の記録を付け始めましょう。そして、事態が悪化する前に法的視点を取り入れることをおすすめします。私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループは、弁護士・社会保険労務士・税理士・司法書士が連携し、医療機関の経営課題をワンストップで解決する体制を整えています。紛争解決の代理人としてだけでなく、就業規則の整備、適切な指導方法のアドバイス、退職合意書をはじめ契約書面の作成など、紛争を未然に防ぐサポートをご提供いたします。どうぞお気軽にご相談ください。