クリニックの集患・採用・ブランド形成において、口コミや評価サイトの影響力は年々高まっています。
悪い口コミを目にすると、「すぐ削除したい」「クリニック名が傷つく」と焦ってしまいがちですが、削除できる口コミと、削除が難しい口コミでは対応方針が全く異なります。本記事では、医療機関に特化した法務支援とクリニック経営支援を行う弁護士の視点から、クリニックの悪い口コミへの対応方法について解説します。
1. 悪い口コミ・投稿が見つかったときにまず行うべき状況整理のポイント
分類①:誤認(誤解・行き違い)による口コミの場合
これは「患者側が状況を誤って理解している」「説明が十分伝わらなかった」ことが原因の投稿です。
例
「受付で案内がなかった」
実際は案内が伝わっていなかった
「呼ばれなかった」
呼び出しタイミングが合わなかった
「検査の説明がなかった」
説明したが理解されていなかった可能性
→ こうした誤認ベースの口コミは、明確な権利侵害に当たらない限りは削除請求が難しいため、事実誤解があったことを丁寧に返信する形での対応がメインとなります。
分類②:虚偽(事実と異なる事柄)が書かれている口コミの場合
「事実と明確に異なる内容」「クリニックの名誉を毀損する内容」が書かれているケースです。
例
- 「診察をしてもらっていないのに請求された」
- 「医師が暴言を吐いた」
- 「治療で大けがをさせられた」
- 実際には存在しない出来事が書かれている
事実の誤解ではなく、明らかな虚偽であるような場合は、クリニックの名誉・信用を害するリスクが大きい領域です。
→ この場合は、削除依頼・法的手続き(名誉毀損・信用毀損)を検討すべき対象になります。
分類③:運営改善につながるフィードバックが書かれている口コミの場合
事実誤認でも虚偽でもなく、実際の運営に対する建設的な指摘であるようなケースです。
例
- 「受付での言葉づかいが気になった」
- 「待ち時間に関する説明がもう少し欲しかった」
- 「案内表示が少し分かりにくかった」
このタイプは、院内オペレーション改善のヒントとなる“貴重なフィードバック”と捉えるのが適切です。
→ こちらも法的な削除請求という手段ではなく、いただいた意見について丁寧に返信の上で、適切なスタッフ教育・導線改善・説明フロー改善に活かせるとよいでしょう。
2. 削除できる口コミ・削除が難しい口コミの違い
2-1 法律的に「削除できる」と判断される口コミの例
口コミが削除されるかどうかは、投稿内容が法律上の権利侵害(名誉毀損・信用毀損・プライバシー侵害など)に当たるかどうかが基準になります。
口コミが削除されるかどうかは、“投稿内容が法律上の権利侵害に当たるかどうか”が基準です。
具体的には、以下のような投稿は、削除対象となる可能性が高いです。
① 明確な虚偽の事実を書いている場合(事実無根・完全に存在しない出来事)
例
- 「診察もしていないのに請求された」
- 「カルテを勝手に他人に見せられた」
- 「手術を失敗されて後遺症が残った(実施した事実はない)」
→ 名誉毀損や信用毀損に当たり得るため、削除・法的対応を検討できる領域です。
② 侮辱・誹謗中傷(人格攻撃・感情的な罵倒)
「最低」「最悪」といった短い評価語だけでは、多くの場合“個人的な意見・感想”とみなされ、削除は難しいです。
しかし、次のように具体的な人格攻撃や差別的表現を含む場合は、削除対象となり得ます。
例
- 「〇〇医師は頭がおかしい、医師失格だ」
- 「このクリニックは詐欺同然の商売をしている」※事実根拠なし
- 特定の医師やスタッフに対する過度な罵倒・侮辱的表現
→ 内容全体として社会的評価を著しく低下させるレベルに達していると判断できる場合は、削除対象となり得ます。
③ 個人情報・プライバシーの侵害
- 他の患者の氏名や病状、来院日時を特定できる形で書き込む
- スタッフのフルネームや住所、家族関係に触れる投稿
→ プライバシー侵害として、Google等の運営側も比較的削除に応じやすい領域です。
④ 医療安全上問題のある虚偽情報の拡散
- 根拠なく「このクリニックで〇〇の感染症が広がっている」などと断定
- 誤った医療情報を事実のように書き込み、他の患者に不利益を与え得る内容
→ こちらも、削除・法的対応を検討できる領域となります。
2-2 削除が難しい口コミ(主観的評価・不満・個人の感想)
逆に、法律上の権利侵害には当たらないような口コミについては、法的措置・法的な削除請求というのは現実的に困難です。
① 待ち時間・接遇などの“個人的な感想”
例
- 「受付の対応が冷たく感じた」
- 「待ち時間が長すぎてイライラした」
- 「説明が淡白で不親切に感じた」
→ いずれも患者側の主観的な体験に基づくものとなり、法的な削除請求というのが難しい領域です。
② 医療判断への不満・治療結果に対する評価
例
- 「薬が全く効かなかった」
- 「診断に納得できなかった」
- 「問診が雑だった気がする」
→ 医療行為は結果に個人差があるため、記載事実が誤りであると証明するのが難しく、法的な削除依頼も通りにくい内容といえます。
③ 強い言い回しだが“個人の価値判断”に留まる表現
例
- 「最低のクリニック」
- 「最悪の対応」
- 「二度と行かない」
→ 表現としては悪意のある書き方だと感じられますが、法的には個人の意見・感想・評価として扱われることが多く、削除請求が難しい内容となります。
2-3 口コミサイト運営会社が削除に応じる基準とは?
クリニック側が削除依頼を出しても、サイトの運営会社(Google、Caloo、EPARK 等)が削除を行うかどうかは、各社が定めるガイドラインに合致するかで判断されます。
以下、一例をご紹介します。
Google(Googleマップ・ビジネスプロフィール)
削除に応じる基準として明示されているのは以下です。
Googleの削除基準
- 虚偽の記載(事実無根の情報)
- プライバシー侵害
- 違法・不適切な内容
- 利用体験と無関係の投稿(嫌がらせ・営業妨害)
→ 逆に、“主観的不満”は削除対象外と明記されています。
医療系口コミサイト(Caloo、EPARK、ホスピタ、QLife等)
医療系サイトは比較的削除に応じやすいですが、基準は明確です。
医療系口コミサイトの削除基準
- 虚偽の事実
- 医療安全上の誤情報
- 名誉毀損
- 個人情報
- サイトの利用規約違反
削除できるのは“虚偽・誹謗中傷・プライバシー侵害”など、法的に明確な違反がある場合だけというのが基本です。
それ以外は法的削除が難しくなるため、丁寧な返信・内部改善・運営戦略で対処していく必要があります。
3. クリニックが取れる削除依頼の流れ
口コミを削除できる可能性があると判断した場合、クリニックは「任意削除申請」→「運営会社の審査」→「結果通知」という流れで進めます。
3-1 Googleマップ(Googleビジネスプロフィール)の削除申請フロー
Google上の悪い口コミは、多くのクリニックが最も悩むポイントです。Googleは削除基準が厳しめで、主観的な不満ではほぼ削除されません。
ただし、虚偽・プライバシー侵害・無関係投稿などは削除が認められます。
以下はGoogleでの削除申請の基本手順です。
Googleの削除申請フロー
1. Googleビジネスプロフィールにログイン
2. 「口コミ」一覧から問題の投稿を選択
3. 「不適切な口コミとして報告」をクリック
4. Googleガイドラインのどこに違反しているのか、適切な理由を選択
5. 審査(1~3週間)
ポイント
- 該当の口コミがどのような法的権利侵害に値するのかというのを論理的に説明する必要がある
- 申立の根拠となる資料提出も重要となる
3-2 美容系口コミサイト/医療系口コミサイトの削除依頼の方法
医療系口コミサイト(Caloo、QLife、EPARKなど)についても、削除の可否は“権利侵害・該当事実の有無”が基準です。
削除が認められやすい投稿
- 虚偽の事実(例:受診していないのに診療を受けたと書いている)
- 医療安全に関する明確な誤情報
- 医師やスタッフの個人情報・氏名が含まれる投稿
- 他患者の情報が含まれる投稿(プライバシー侵害)
- 暴力的・差別的表現
医療系口コミサイトの削除依頼の基本フロー
各サイトによって細かい部分は多少異なりますが、おおよその流れは下記のとおりです。
1. サイト内の削除依頼フォームまたは問い合わせ窓口から申請
2. 投稿内容のどこが問題なのかを権利侵害・ガイドライン違反などと紐づけながら明確に説明
3. サイト運営会社による審査
4. 必要に応じて、クリニック側に追加資料の提出が求められる
5. 審査の結果、削除または非削除の通知
なお、Googleとは異なり、多くの医療系口コミサイトは、審査の際に投稿者本人へ事実確認(照会)を行う場合があります。
例:
Caloo
削除依頼時に投稿者へ問い合わせる場合あり
QLife
投稿者の主張も踏まえて最終判断
EPARK
クリニック側の主張だけでの削除は不可と明記
ホスピタ
必要に応じて投稿者照会+クリニックへの証拠提出
そのため、投稿者が「これは自分の体験でした」と回答すると、虚偽であることを示す客観的証拠がなければ削除されないこともあるので留意が必要です。
3-3 削除依頼を実施するときの申請内容の書き方のポイント
削除依頼を申し立てる場合は、抽象的な表現・主張ではなく、事実ベースで法的権利・ガイドラインのどこに抵触しているかを論理的に主張する必要があります。
削除申立書に盛り込むべき項目
- 具体的にどの部分が事実と異なるか
- 虚偽であることが分かる根拠(診療記録・業務記録等)
- どのガイドラインに抵触しているか
- 当該投稿によりクリニックが受けた影響(信用毀損等)
- 申立内容を証明するための関連証拠を添付
申立書の内容が削除可否に強く影響しますので、もし不安な点がある場合は削除請求を行う前に一度弁護士に相談の上で対応を進めるのもよいでしょう。
4. 削除が難しい場合の実務的な対応方法
4-1 事実誤認の可能性がある場合の“丁寧な返信”の考え方
法的には削除が難しい口コミでも、投稿内容に誤解が含まれている場合は、返信を通して誤解を解消するアプローチが有効です。
ポイントとしては“感情的に反論する”のではなく、
- 説明不足だった点
- 伝わりにくかった点
- 実際にはどういう対応を行っていたか
を補足するイメージです。
返信のポイント
- 相手の不快感にまず寄り添う
- 事実を淡々と補足する
- スタッフの努力や改善意識も併せて伝える
- 名指し反論は避ける
丁寧な返信は、投稿者以外のユーザーへ“誠実なクリニック”という印象を与える効果が大きく、放置するよりもプラスに働くケースが多いです。
4-2 あえて返信をしないという選択肢(二次被害・炎上の回避)
とはいえ、すべての口コミに返信しなければならないというわけではありません。
内容によっては、返信対応を誤ることでむしろ状況が悪化してしまうようなケースもあります。
返信せずに別の対応を検討してもよい例
- 揶揄・挑発・罵倒が目的の口コミ
- 明らかに嫌がらせ目的の書き込み
- “返信を待って反応してくる常習投稿者”
- スタッフ個人への攻撃など、返信が二次被害につながる内容
このような投稿を見つけた場合は、
- ログや書き込み内容の保存
- 削除申請
- 必要に応じて法的措置
の方向へ切り替える方が適切です。
返信することで、投稿者を刺激し、同じアカウントまたは別アカウントでの再投稿につながるケースもありますので、個別事情に応じて返信の要否を判断されることをお勧めします。
5. 悪い口コミが繰り返し投稿される場合の対応(荒らし・虚偽投稿・競合対策)
単発の悪い口コミと異なり、短期間に複数のネガティブ投稿が続く場合は、通常とは異なる背景が存在する可能性が高いです。
ここでは「荒らし」「競合」「内部要因」という3つの観点から、再投稿が続く場合にクリニックが取るべき実務的対策を整理します。
5-1 同一人物による執拗な投稿(荒らし)への対応
一定の特徴を持つ文体や内容で、短期間に悪い口コミが複数回投稿される場合、“同一人物による荒らし”の可能性があります。
荒らし投稿の特徴
- 投稿内容がほぼ同じ
- 複数アカウントを使う
- 利用した事実が確認できない
- 論理が一貫せず感情的
- クリニック活動への悪意が強い
対応方針
1. 全投稿のスクリーンショット・URLを保全
→ 後の法的対応・発信者情報開示に必須
2. 削除申請(虚偽・嫌がらせ・利用経験なし等の理由)を行う
3. Google or 口コミサイトの運営へ“嫌がらせ投稿”として報告
4. 必要に応じて弁護士に相談し、発信者情報開示請求の可否を検討
悪質な場合、
- 名誉毀損
- 信用毀損
- 威力業務妨害
などの法的責任を追及できるケースもあります。
5-2 競合が虚偽投稿している可能性があるケース
医療に限らず、競合が悪意で虚偽投稿を行うケースもあります。
競合による虚偽投稿の特徴
- 実際の来院記録がない
- 診療行為の事実が存在しない
- クリニックの業務妨害を目的とした記載
- 誤った医療情報を拡散
- 同じアカウントで“複数のクリニックを同時に批判”している
対応方針
- 診療記録の有無を確認(来院していない場合は明確な虚偽)
- 削除申請を提出(事実無根である証拠を添付)
- 必要に応じて発信者情報開示を検討
- 競合が関与している可能性がある場合は弁護士経由で警告文送付も可能
競合による虚偽投稿は、悪質であれば損害賠償・業務妨害として法的責任を追及できる領域です。
5-3 “内部要因”が原因の場合のクリニック運営改善アプローチ
ネガティブな口コミが連続すると、院内に何らかの改善ポイントが存在するサインである場合もあります。
これは単なる非難ではなく、改善に活かすべき貴重な指摘です。
内部要因になりやすいポイント
- 受付スタッフの対応ムラ
- 待ち時間の説明不足
- 電話対応・予約導線の混乱
- スタッフ間の連携不足
- 医師の説明が患者に伝わりにくい
- 案内表示・動線のわかりにくさ
改善ステップ
1. 口コミ内容から“共通点”を抽出する
2. 当日のスタッフ配置・繁忙度を確認
3. 業務フローのどこがズレたかを分析
4. 改善策を決定し、スタッフ全員に共有
5. 見直し後のオペレーションを数週間試行し再評価
頂いた意見を受けて実際に改善施策を取ることで、ネガティブな口コミの減少や今後の来院満足度に良い影響を与えるというようなメリットもあります。
悪い口コミは完全に避けられるものではありませんが、“連続する場合は院内改善のチャンス”と捉えることで、クリニックの質を大きく向上させることができます。
当事務所では、弁護士を中心にクリニックの口コミに対する削除請求・法的対応を総合的にサポートしています。
悪質な口コミにお悩みの方は、まずは一度ご相談ください。