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患者さんの未収金は回収できる?クリニックの赤字を防ぐために検討すべき法的対応策を弁護士が徹底解説

2025.12.17

未収金は、法律上は回収できる債権であり、適切なステップを踏めば回収の可能性を高めることができます。ただし、やり方を誤るとトラブルに発展したり、逆に回収が困難になったりすることもあるため、クリニックとしての適切な対応が必要です。

 

第1章 医療費の未収金は法律的に回収できるものである

1-1 医療費の支払い義務(診療契約の成立時点)

医療費の未収金を理解するうえで、まず押さえるべきなのは、“患者は診療を受けた時点で医療費の支払い義務を負う”という基本原理です。

医療行為は、一般的な商取引とは違う部分がある一方で、診療を提供する側(医師)と、診療を受ける側(患者)とのあいだに、一定の法的関係が成立しているという点は共通です。
そのため、

  • 患者が医療サービスを受ける意思を示し、
  • 医師が診療を提供することに同意した

時点で診療契約が成立します。
そして診療が実際に行われた場合、患者はその対価として診療報酬(=医療費)を支払う義務を負います。

なお、診療報酬については病名が確定したか、検査結果が出たかに関わらず、診療行為が提供された事実そのもので義務が成立します。
したがって、「診療結果に満足していないから払わない」といった主張は、法的には認められません。

1-2 未収金がある患者を次回診療で断ることはできるのか? (保険診療と自由診療で結論が異なる)

多くの院長・事務長が共通して悩むのが、未収金がある患者を、今後診療拒否できるのか?という問題です。
この点は、保険診療と自由診療で結論が異なります。

診療拒否ができるのかという点については、未収が生じた診療と、次回以降の診療は別々の診療契約であるという法律構造を理解すると、判断がしやすくなります。

未収が発生している診療契約

→ 過去の診療については診療提供済みなので、医療費を請求できる。

次回来院時の診療

→ その時点で新しい診療契約を結ぶかどうかの問題。

この前提で、保険診療と自由診療でそれぞれ対応可否が分かれます。

① 保険診療:未収金を理由に診療拒否はできない

医師法19条の応召義務により、医療機関は正当な理由なく医療提供を拒否できないとされています。
そして、未収金そのものは診療拒否が正当化される理由には該当しません。
したがって、

  • 「前回払っていないから診ない」
  • 「支払いをしない患者だから拒否する」

といった対応は、原則として認められません。

※例外的に診療拒否が可能なケース
  • 暴言・暴力・威嚇行為
  • 医師やスタッフへのハラスメント
  • 業務妨害・診療継続に支障がある危険行為

など、未収金の存在とは別に“安全確保上の正当理由”が明確な場合は診療拒否が認められる。

自由診療

支払いが条件なので診療拒否可能
一方、自由診療(美容医療・健診など)は応召義務の対象外であり、契約自由の原則が適用されます。
そのため、

  • 料金の支払いがされていない
  • 信用できないと判断される

場合には、自由診療の提供を拒否しても法的に問題ありません。

 

2章 未収金の回収には時効があるのか?(いつまでに動くべきか)

医療費は、法律上「診療報酬債権」に分類されます。
これは、医療というサービスを提供した対価として生じる金銭債権です。
そして、診療報酬債権には時効がありますので、時効が完成すると、法的に回収できなくなります。

医療費の時効

3年

時効の起算点(いつからカウントが始まるのか?)

診療が提供された日の翌日から

10月1日診療

→ 10月2日から時効のカウント開始

なお、請求書を送っただけでは時効を中断する効果を持ちません。
患者が支払うことを約束した、支払い方法(期日や分割など)について合意ができた場合は、一度支払い義務を認めたと扱われるため、その時点から時効のカウントが改めてゼロから始まります。
そのため、督促の連絡をする際は支払期日・支払い方法について明確にいつまでという合意を取ることが必要です。

督促を放置して3年以上経過すると、患者側が「時効なので支払わない」と主張できるため、未収金対応はできるだけ早く動くことが必須となります。

 

第3章 任意での回収を試みる際のステップと注意点

3-1 クリニック側での督促対応

未収金が発生した際は、まずはクリニック側で督促・回収対応を取ることが一般的でしょう。
この段階で解決する場合も一定数はあるため、未収金が発生した場合はできるだけ速やかに対象者に対して連絡を取ったうえで、支払いを依頼しましょう。

その際、何月何日までに支払うという期限を明確に約束することが重要です。
次回診療時に~というような決め方だと、その後の督促が難しくなるため、必ず日時で設定し、そこまでに入金が無かった場合は再度連絡を入れるというようにしてください。
なお、督促を行う場合は、以下のような過度な圧力やプライバシー侵害につながるような対応は避けましょう。

  • 一日に何回も荷電するなど執拗な連絡(二次的なクレームにつながるリスク)
  • 脅迫的、威圧的な言動
  • 職場など本人以外への連絡(個人情報保護法違反になるリスク)

3-2 クリニック側での回収対応の限界ラインの判断(どこまでを院内でやるべきか)

クリニック側での督促回収対応を続けても、相手が応じない場合は次の手段を検討しなければなりません。
特に、次のようなケースに当てはまる場合は、任意回収では限界があるため、場合によっては弁護士名義に切り替えて法的対応へ移行すべきです。

弁護士対応に切り替えた方がよいライン
① 1〜2か月以上連絡が一切取れない

→ クリニックからの任意連絡だけではこれ以上進展しない可能性が大きい。

② 未集金額が高額である(自費・手術・入院費用など)

→ クリニック内部で長期間抱えるほどリスクが高くなる。

③ 患者が明確に支払いを拒否している

→ 弁護士による通知に切り替えて相手の出方を確認。

④ 未収が連続・常習化している

→ 悪質性が高く、法的対応を含めて検討を行うべき。

⑤ スタッフが対応に恐怖・疲弊を覚えている

→ 院内対応はこれ以上続けるべきではありません。

⑥ 時効が迫っている

→ 弁護士に相談の上で迅速に法的回収へ。

ただ、訴訟対応となると弁護士費用含めて一定程度の費用が発生しますので、未収金の金額によっては回収を打ち切るのも経営判断の一つとなります。

 

第4章 内容証明・法的対応を含めた回収手続

4-1 クリニック名で送る内容証明

法的手続に移行する前段階として、クリニック側が検討できる代表的な手段が内容証明郵便です。内容証明郵便とは、「誰が」「いつ」「どのような内容を」相手に送ったかを郵便局が証明してくれる制度であり、未収金の請求を行った事実を客観的に記録として残すことができます。

クリニック名義で内容証明を送る場合、文面の構成としては次のような要素を押さえておくとよいでしょう。

  • 診療が行われた具体的な日付と内容
  • 未収となっている金額と内訳
  • これまでに行った督促の経緯
  • 支払期限の明確化
  • 今後、支払いが行われなかった場合に検討する可能性(法的手続等)

なお、内容証明自体には支払義務を強制する法的効力はないので、内容証明を送ったから強制的に回収ができるというわけではない点には留意が必要です。

4-2 弁護士名で送る内容証明

クリニック名義での内容証明でも相手が動かない場合、弁護士名義での内容証明発送に切り替えます。
弁護士名での内容証明は、患者側からすると「このまま放置すると訴訟に進むかもしれない」という一定の緊張感を与える効果があり、クリニック側からの連絡が一切取れなかった場合や、金額が大きい未収や悪質なケースでも、弁護士からの通知が届いたら連絡がついて回収ができたということも多いです。
また、患者とのやり取りは弁護士側が窓口になるため、スタッフが精神的負担を抱え続ける必要がなくなる点も大きなメリットです。

4-3 それでも支払われない場合に考えるべき手段

弁護士名義での内容証明を送っても支払いに応じない場合は、裁判手続きを含めて次の対応を検討する段階になります。
この段階で取り得る対応方法としては、以下のようなものがあげられます。

① 支払督促

→ 裁判所を通じて相手に請求を届ける手続。相手が異議を申し立てなければそのまま確定し、強制執行に進むことができます。

② 少額訴訟(60万円以下の債権の場合)

→ 原則1回の期日で結論が出る迅速な裁判手続。明確な未収金で争いも少ない場合は、有効な手段となります。

③ 通常訴訟

→ 相手が「支払う義務がない」と主張して争う場合や、金額が大きい場合はこちらが必要になります。

④ 回収費用とのバランスで「打ち切る」判断

→ 強制執行や訴訟には一定の費用が生じます。また、相手に資力がない場合は、判決を取っても現実的に回収できないため、費用対効果を総合的に勘案し、回収をしないことが最も合理的な選択となることもあります。

特に4つ目の回収断念については、クリニック側としてはあまり納得のいく形ではないというのは重々理解できますが、訴訟費用まで費やしたうえで結局回収ができませんでしたとなると、完全に訴訟にかかった費用が無駄になってしまいますので、ここは客観的な判断が必要な場面だといえます。

未収金への対応は、

  • どこまで対応するか
  • どこまで回収するか
  • どこで線を引くか
  • という経営判断が重要になります。

早い段階で専門家に相談することで無駄なコストやストレスを避けることにもつながります。
当事務所では、未収金の法的回収から、未収が発生しにくい院内体制づくりまで、総合的なサポートを行っていますので、未収金対応にお悩みの際は、お気軽にご相談ください。