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クリニック開業時に活用できる資金調達方法とは?|専門家が審査要件まで分かりやすく解説

2025.12.05

クリニックの開業には、医療体制を整えるための費用として多額の資金が必要です。
特に近年では医療機器の高額化や医療体制のクラウド化、人件費上昇などの影響で、開業資金はさらに増加傾向にあります。
本記事では、クリニック開業支援に精通した専門家の視点から、開業時の資金調達手段について各制度の特徴・要件や、審査で重視されるポイントを丁寧に説明します。

 

1. クリニック開業に必要な資金の全体像

1-1. 初期費用の内訳の目安とは?(内装・医療機器・求人・広告・運転資金)

クリニック開業に必要な資金は、診療科や立地により大きく異なりますが、一般的には3,000万円〜8,000万円程度が必要になるケースが多いです。

費目 内容 目安金額
内装工事費 診療室・処置室・待合・トイレなど 1,000万〜3,000万円
医療機器 レントゲン、エコー、心電図、内視鏡など 500万〜2,000万円以上
システム 電子カルテ、レセコン、オンライン予約など 100万〜300万円
人材採用費 看護師・事務・受付などの採用広告費用 30万〜100万円
広告・Web ホームページ制作・広告運用 50万〜200万円
家賃・保証金 敷金・礼金など 家賃の6〜12か月分
運転資金 開業後3〜6か月を支える資金 数百万円〜

開業時に必要な資金を考えるにあたって重要なのは、各費目が投資性・消費性のどちらの要素が強いかという点で、開業時に何にどこまでお金をかけられるかを決めておくことです。
性能の良い医療機器や電子カルテ・予約システムなどは設備を充実させることで提供価値や診療効率が上がり結果的に利益につながる可能性がある一方で、広告費などは使い方によっては効果が見込めず単なる経費として利益に直接的につながらないというような側面もあるため、そのバランスを見極めながら初期費用としてどの程度の資金が必要かを考える必要があります。

1-2. 診療科ごとの経営特性(内科・整形外科・皮膚科・眼科など)

診療科によって収益構造が異なるため、開業時に必要となる資金も大きく変わります。

内科

比較的低〜中額で開業は可能。継続安定患者を獲得できれば強いが、一方で競合も多く立地選定の精度が経営を左右する可能性も高い。

整形外科

X線装置、リハビリ設備など、設備による初期投資が大きい。高齢者が多い地域では需要が強く、回転率次第で高収益も見込めるが、設備含めてある程度の診療スペースが必要となるため賃料負担には注意。

皮膚科

レーザー等の美容機器を入れると設備投資額が膨らむ。保険診療だけでは収益が安定しづらく、自費診療ライン設計が重要となりやすい。

眼科

こちらも高額機器が多いため、初期の設備投資額が大きくなる。高齢化により需要は堅いほか、近視治療・白内障術後管理など専門性で差別化可能。

小児科

投薬・処置機器は多くないものの、診療単価が他と比べて低めなことや患者数の季節変動も大きいことから開業時の運転資金は多めに余剰があると安心。
診療科別の費用感を事前に知ることで、適切な調達手段を選択しやすくなります。

1-3. 2025年時点の金融環境・融資動向

2025年現在、金利は緩やかに上昇傾向です。
医療機関向け融資は依然として積極姿勢にはあるものの、事業計画の精度がこれまで以上に重視されているという点がポイントです。
特に、診療圏調査・患者数予測・回転率分析など、金融機関としても開業後の収益性は主に確認をする点となっています。

 

2. クリニック開業時の資金調達方法の種類と特徴

2-1. 融資/出資/自己資金の違い

クリニック開業における資金調達方法は、大きく以下の3つに分類できます。

① 融資

金融機関から借入を行い、返済する仕組みです。
開業時の中心となるのは、

  • 日本政策金融公庫
  • 銀行(地銀・信金・メガバンク)
  • 信用保証協会付き融資

の3種類です。
公庫は長期固定金利、銀行は融通性の高さが強みといえます。
返済期間は5〜10年で設定されることが一般的です。

② 出資

医療法人の設立時などに、親族や第三者から出資を受ける方法ですが、一般的なクリニック開業では以下の理由からあまり選ばれません。

  • 出資者が議決権を持つため、運営に影響が及ぶ
  • 医療法人の場合は持分の扱いや贈与に関する規制が複雑
  • 開業医で第三者出資を求めるケースが限られる

出資は特殊ケース(承継開業・複数医師体制)の場合に検討することがほとんどです。

③ 自己資金

勤務医時代の貯蓄などをもとに、開業資金の一部を自己負担します。
自己資金が多いほど融資審査は有利になります。
一般に、自己資金=総投資額の1〜2割程度が目安とされることが多いです。

2-2. 複数の調達方法を組み合わせる考え方(融資+自己資金+リース)

クリニックの資金調達は、単一手段ではなく複合的に組み合わせるのが一般的です。
医療機器についてはリースも活用し、調達した資金の急激な目減りを防げるような形で資金計画を組んでいくのが理想です。

例:整形外科の開業
医療機器(X線)

リース

内装費

銀行融資

運転資金

公庫の新規開業資金

自己資金

1000万円程度

例:皮膚科(美容併設)
美容機器

リース or 割賦

内装・広告費

銀行融資

運転資金

公庫

自己資金

500〜800万円

組み合わせのポイント
  • 借入比率を下げすぎると開業後の現金不足リスク
  • 借入比率を上げすぎると返済負担が重くなる
  • リースは「初期費用を抑える」メリットがある反面、総支払額は高くなる

資金調達は、クリニックの収益構造(単価・回転率・季節変動)に合わせて組み合わせを最適化する必要があります。
クリニック開業は初期投資が大きい一方で、開業初期は収入が安定しづらいという特徴があります。そのため、単独の調達方法で頑張るよりも、負担を分散し、キャッシュフローを滑らかにする構造をつくることが最も重要です。

 

3. 開業時に使える融資制度①|日本政策金融公庫(新規開業資金)

日本政策金融公庫(以下、公庫)は、クリニックを新規開業する医師が最初に検討すべき融資先です。“創業支援”を目的とした金融機関であるため、開業初期の不安定な収益状況を想定した融資姿勢をとっています。

3-1. 制度概要(2025年時点の要件・金利・返済期間)

日本政策金融公庫による新規開業資金は、自己資金が少なくても利用でき、長期固定金利で返済負担を抑えられる点が特徴です。

融資限度額

7,200万円(別枠含む)

金利

1.5〜3.0%前後(固定金利。時期により変動)

返済期間

運転資金10年以内(うち据置期間5年以内)、設備資金20年以内(うち据置期間5年以内)

保証人・担保

不要の場合もあり(要審査)

なお、医師としての勤務経験は開業後の事業計画の実現性を判断するためのポイントの一つです。
※研修医直後の開業など、経験が極端に浅い場合は注意が必要です。

3-2. 審査時の必要書類

公庫にて融資を申し込む際の主な必要書類は以下です。

  • 創業計画書(事業計画書)
  • 見積書(内装・医療機器)
  • 資金繰り表
  • 医師経歴書
  • 履歴事項証明書(法人の場合) など

創業計画書の精度が必要とされるほか、数字の整合性と、医師自身が事業計画を語れるかどうかが評価の基準になります。

 

4. 開業時に使える融資制度②|銀行融資(メガバンク・地銀・信用金庫)

4-1 銀行融資の特徴(民間金融機関ならではの強み)

銀行融資は、公庫と並びクリニック開業の中心となる資金調達手段です。
強みとしては、貸付枠の柔軟さ、追加融資も申し込みがしやすいという点にあります。
ただし、銀行の性質によって適性が異なります。

メガバンク
  • 大型投資にも強い
  • 審査は非常に厳しく、小規模クリニックは対象外になりがち

→「大規模開業・法人化前提」の医師向け

地方銀行(地銀)
  • 地場の医療機関向けの支援に比較的積極的
  • 開業規模が平均的なクリニックと相性が良い

→「地域密着型の標準的なクリニック開業」に最も向く

信用金庫(信金)
  • 柔軟性が高く、小規模〜中規模の開業で利用しやすい
  • 融資枠はやや小さめ

→初期投資が高額な診療科によっては融資枠が足りない場合もある

いずれも金融機関によって審査基準は異なりますが、共通して収益モデルと運転資金の妥当性を重視の上で融資実行がされます。
事業計画の精度をどこまで上げられるかが重要となります。

4-2. 必要書類

銀行で求められる書類は公庫と似ていますが、根拠・整合性・数値の精度がより厳しくチェックされます。

銀行融資に必要な主な書類の一例
  • 事業計画書(診療圏分析・競合分析・収支予測)
  • 内装・医療機器の見積書一式
  • 資金繰り表(半年〜1年分)
  • 医師経歴書(専門性・勤務実績)
  • 個人の収入証明(源泉徴収票・確定申告書)
  • 法人化する場合:定款案・開業スケジュール

特に収支計画は、銀行によって細かく聞かれるため、エビデンスに基づいた説明が求められます。

 

5. 開業時に使える融資制度③|信用保証協会付き融資(保証協会付き融資)

5-1. 信用保証協会付き融資とは?

信用保証協会付き融資は、銀行融資の一種ですが、「保証協会が銀行に対して“保証人”となる仕組み」で、銀行が貸し倒れリスクを負わない形での融資のことです。

信用保証協会付き融資の仕組み
  • 医師(開業者)が銀行から借入
  • 信用保証協会が“保証人”として銀行に保証
  • 万一返済不能の場合、協会が銀行に立替払い
  • 医師は保証協会へ返済する義務を負う

銀行側は保証協会によってリスクが担保されるため、「創業直後」「実績なし」「設備投資が大きい」クリニックにも融資しやすくなるのがメリットです。

5-2. 信用保証協会付き融資のメリット・デメリット

メリット
  • 銀行が保証協会を前提に提案してくれるため通りやすい
  • 設備資金・運転資金ともに柔軟に対応
デメリット
  • 保証料が発生する(医師本人が負担)
  • 銀行・保証協会の“二段階審査”になるため時間がかかる

特に保証料は忘れがちな項目で、融資金額が多いと費用負担もそれなりになります。

5-3. クリニック開業で信用保証協会付きが活用される理由

医療開業は、内装や医療機器などの高額投資が必要で、さらに開業後しばらくは患者数が安定しづらいことから、公庫や金融機関の単独融資だけでは資金が不足するケースが多いのが実情です。
保証協会付き融資にすることで、金融機関側の融資可否・融資額枠が大きく改善することが見込まれます。
別途保証料は必要にはなりますが、資金確保の手段としては有効ですので必要に応じて検討をされてみてください。

 

6. クリニック開業時における自己資金の考え方とは

6-1. 開業時の自己資金はどれくらい必要?目安の金額

医療機関は、他の業種に比べて融資が通りやすいとはいえ、自己資金ゼロでの開業は極めてリスクが高いというのが専門家の共通認識です。
一つの目安としては、開業時の総額の1~2割ぐらいを確保できていると安心ではありますが、これはあくまで基準値です。
以下のような要素によっては、目安の金額よりも多めに持っていた方がよい場合もあります。

  • 診療科(初期投資が大きい診療科、開業後の収入サイクルに波がある診療科など)
  • 賃料相場が高い立地(固定費が大きい)
  • 開業後の広告宣伝費(高額の広告投資が必要)

つまり、一概にこの金額があれば大丈夫というわけではなく、実際に開院した後にどの程度の自己資金があれば黒字化までの期間を乗り越えられるかが判断基準になります。

6-2. 自己資金ゼロ開業は可能か?

自己資金無し、すべてを融資で調達の上で開業するというのは理論上は可能ではありますが、キャッシュ確保の面でのリスクの方がはるかに大きいというのが実情です。

自己資金ゼロでも開業が成立しやすいケース例
  • 投資規模が比較的小さい診療科(一般内科・皮膚科など)
  • 好立地で初期患者の流入が見込める
  • 家賃・人件費が低めに抑えられる
  • 公庫+銀行融資で十分な運転資金が確保できた場合

このような限られた条件が揃った場合であれば、自己資金が無くとも開業ができるかもしれませんが、一般的には開業直後はキャッシュが減り続けるため自己資金無しでの開業は慎重に検討したほうが良いでしょう。

資金が足りなくなったら追加で融資を受けるという選択肢もありますが、既に一定の枠で融資を受けている状態であれば追加融資が通りにくくなることもあり、資金調達が思うようにできないということも考えられます。
また、実際に開業をしてみて、追加での採用や広告費、修繕等で想定外のキャッシュが必要になるような場合もあります。

最低でも数百万程度(固定費×2~3ヶ月分が支払える額)は融資とは別に運転資金として自己資金で用意ができると安心です。

 

7. 開業にあたり家族から資金援助を受ける場合の注意点

家族から資金援助を受けるケースはよくありますが、“個人事業として開業する場合” と “医療法人として最初から開業する場合” では扱いが大きく異なります。

7-1. 個人開業の場合

開業にあたって、自己資金として家族から資金を受け取る際は、税務上の贈与扱いになる可能性に注意が必要です。

  • 個人開業で家族から資金提供を受ける場合、110万円を超えると贈与税の申告が必要(暦年贈与の場合)
  • 提供された資金の金額を問わず、税務調査に備えて贈与契約書を作っておく
  • “貸付”扱いにしたい場合は返済期限・利息を明記し、必ず契約書を作成する

→ここを曖昧にすると、実質贈与とみなされる場合もある。

開業時の資金提供は高額が動くケースも多いため、税務処理を曖昧にすると贈与税負担や税務調査リスクを抱えることになります。
適宜税理士に相談の上で適切に処理を進められるようにしてください。

7-2. 最初から医療法人として開業する場合

個人開業と違い、医療法人に対して家族が資金を出す場合、そのお金は法人への基金の拠出になります。
現在、医療法人を新設する場合は持分なし医療法人として設立することとなるため、家族が基金に拠出した金額に応じて医療法人解散時に拠出金の返還規定に従う必要がでてきます。
なお、医療法人への出資は、家族が医師本人へ贈与する形にはならず、贈与税のリスクは基本的に生じません。
ただし、次のケースでは贈与税の対象になるため注意が必要です。

  • 家族が開業する医師個人へ資金援助→医師自身が法人へ出資

(医師個人→法人の出資は贈与にならないが、“家族→医師個人”の部分は贈与扱い)

こちらも税理士に相談の上で適切な税務処理を行うようにしてください。

 

クリニック開業時の資金調達に関連するよくある質問(FAQ)

Q1. 開業資金が予定より大きく膨らんでしまいました。融資額の増額は可能ですか?

A. 可能ですが、一旦融資決定が下りたあとの追加融資は資金の使途を明確に説明できることが重要となります。

以下のように

  • 内装工事の追加工事が建築基準法・保健所対応で必須になった
  • 医療機器の仕様変更が診療上の必要から不可避
  • 申込後にテナント条件が変わり、工事範囲が拡大した
  • 融資後の見積差異が正当な理由で発生した

ポイントは“不可避な事情かどうか”を説明できるかという部分です。

なお、追加での資金調達が難しい場合の代替策としては、

  • 医療機器の一部をリース化して初期負担を軽減
  • 開業時の広告費や採用費を一時的に削減

などで調整することも現実的です。

Q2. 開業前の個人信用情報(住宅ローン・カード等)は融資に影響しますか?

A. 影響します。貸倒リスクを判断するため、銀行は個人信用情報を確認します。
  • 住宅ローンの遅延
  • クレジットカードの延滞
  • 多額の個人ローン

などがあると審査が不利になります。
勤務医のうちに信用情報を整えておくことが重要です。

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