医療業界の経営・法務・労務に精通した総合リーガルファーム

病院 診療所 クリニック 歯科医院 薬局

新着情報

  • HOME>
  • 新着情報>
  • 厚生局による個別指導は何を気を付けるべき・・・

厚生局による個別指導は何を気を付けるべき?知っておきたい対応時のポイントを弁護士が解説

2025.09.04

個別指導は、保険診療の適正化を目的とする制度であり、必ずしも不正を疑われているわけではありません。とはいえ、対応を誤ると、返還指導や監査へと発展することもあるため、対応のポイントを事前に理解しておくことが極めて重要です。

この記事では、厚生局による個別指導がどのような流れで実施され、通知を受けたときにどのような初動を取るべきか、実務的な準備ポイントを中心に弁護士がわかりやすく解説します。

 

1. 個別指導とは?制度の基本と実施の背景

1-1. 個別指導の目的と制度的位置づけ

個別指導とは、厚生局が実施する保険診療の適正化を目的とした行政指導です。これは、医療機関および保険医が診療報酬制度に基づいて適正な請求を行っているか、また診療内容が妥当かを確認するために行われます。

個別指導は「改善の機会を与えるための指導」という位置づけになりますので、指導が入ったからといって、必ずしも不正を疑われているとは限らず、あくまで「適正診療の維持と向上」が主たる目的です。

1-2. 対象となる医療機関の傾向と選定理由

個別指導の対象先は任意に選ばれるわけではなく、以下のような医院が指導対象として決まることが一般的です。

個別指導の対象先となるケース
  • 診療報酬の請求傾向が平均から大きく逸脱している
  • 過去の集団指導で指摘された事項への改善が見られない
  • 患者や第三者からの苦情や通報があった
  • 新規開業後の初期指導対象として

とくに診療報酬の請求内容が統計的に異常値とみなされた場合(例えば特定の加算を高頻度で請求しているなど)、形式的に要確認対象として選定されることがあります。

1-3. 個別指導ではその場で特別なことをするわけではない

厚生局が確認したいのは、日々の診療で実際に行った内容と、保険請求の記録(レセプト・診療録など)が、制度上きちんと整合しているかどうかです。
つまり、「診療の事実」と「請求の内容」にずれがないかを確認する場であり、普段の診療業務そのものが、そのまま問われる手続きだと言えます。 そのため、指導当日に何か特別な対応が求められるというよりも、「普段の診療が適正だったかどうか」を見られる点がポイントです。

「このときだけ完璧に準備すればよい」というとらえ方ではなく、日常的な診療内容をいざというときにきちんと説明できる形に整えておくことが大切です。

 

2. 通知が届いたらどうする?初動対応のポイント

2-1. 通知書の確認事項と提出期限

個別指導の対象となった場合、厚生局から「個別指導実施通知書」が医療機関宛に郵送で届きます。 この通知には、以下のような事項が記載されています。

個別指導の通知書に記載される主な内容
  • 指導実施日・場所・集合時間
  • 持参するべき診療録・レセプトの範囲
  • 回答書の提出期限
  • 担当官・連絡先など

まずは、通知書を確認し、提出期限や持参すべき資料の準備を始めましょう。
提出遅延や内容不備は、それ自体が印象を悪くするリスクがあるため、期限内に適切に提出をするように気をつけてください。

2-2. 提出書類と院内での準備項目

通知書に明記された書類以外にも、指導時に確認されることがあるため、以下のような情報は整理して準備をしておいた方がよいでしょう。

整理しておいた方がよい追加項目・情報
  • 該当月のレセプト控え(電子・紙)
  • 対象患者の診療録(カルテ)
  • 加算算定根拠となる資料・説明メモ
  • 院内掲示物(保険診療の明示義務など)
  • 医療機器の仕様・管理記録(必要に応じて)

これらの資料や情報が、請求の根拠となる診療事実と整合しているかという点について、チェックしながら指導準備を進めることが重要です。

2-3. 関係スタッフへの共有と体制整備

指導対象は原則として管理者(院長)ですが、診療や請求事務に関与しているスタッフにも適切な情報共有を行い、協力体制を整えておく必要があります。

  • 対象期間の診療方針や記録の基準
  • 請求業務担当者が行っていた処理内容
  • 曖昧な記録や判断の背景にある業務ルール

をスタッフ間で確認し、「当日質問されたときに答えられるようにしておく」ことが、全体としての信用度を高めます。

 

3. 指導当日の流れと押さえるべき対応姿勢

3-1. 実施場所・所要時間・担当官とのやり取り

個別指導は、原則として厚生局(または支部)の指定会場において実施されます。
医療機関に調査官が来訪する形式ではなく、通知された日時に院長(または管理者)が自ら会場に出向いて対応するのが通常です。

所要時間は概ね1〜2時間程度で、以下のような流れで進行します。

1. 指導の目的と流れの説明

2. レセプト・診療録の確認

3. 指摘項目に関する質疑応答

4. 指導終了の案内

担当官は2名程度のことが多く、対応は落ち着いた雰囲気で進むことが多いですが、回答に曖昧さが残ると追加質問を受けやすくなります。

3-2. 質問のされ方と回答の注意点

厚生局の質問は「なぜこの加算を取ったのか?」「なぜこの処置を繰り返しているのか?」といった、診療内容と請求の整合性を問う形式が中心です。

回答・対応をするうえでは、以下の3点に注意してください。

  • 感情的・防御的にならず、事実を答える
  • 「誰でもやっている」「そういう傾向だから」といった説明を避ける
  • カルテやレセプトなどの記録に沿って、実際に行ったことを正確に伝える

厚生局は、診療報酬請求の適正性を確認するにあたり、診療録やカルテなどの記録を根拠資料として重視しています。
そのため、たとえ実際に診療を行っていたとしても、記録に残っていない内容については不十分と評価される可能性がありますので注意が必要です。

3-3. 弁護士の同席可否と同席のメリット

個別指導は行政指導であり、制度上弁護士の同席が禁止されているわけではありません。
厚生労働省の通達にも明示的な禁止条文はなく、実務上も「本人の補佐役としての同席」は認められています。

特に以下のような理由から、弁護士の帯同は有効な手段とされています。

  • 回答に迷ったときの整理補助
  • 厚生局の誤解や過剰な解釈への対応
  • 面談内容を踏まえた後日の対応策検討

ご自身のみでの対応に不安がある場合は、弁護士にサポートをしてもらうのも一つの方法です。

 

4. 指摘されやすい項目と注意点

4-1. 請求内容と診療録の整合性

個別指導では、レセプトに記載された点数と、診療録に記された診療内容との間に明確な整合性があるかどうかを重点的に確認されますので、以下のようなケースは厚生局から指摘が入りやすくなります。

整合性部分で指摘が入りやすいケース
  • 加算や処置料を請求しているが、カルテにその根拠が記録されていない
  • 記録が簡略すぎて、どの処置を行ったのか不明瞭
  • 実施日時や部位の記載が抜けている

これらは、たとえ事実として処置が行われていても、「記録上、確認ができない」という理由で不適切請求とみなされるリスクがあるため、診療録の書き方そのものを見直す必要があります。

4-2. 無診療請求と判断されやすいケース

「無診療請求(架空請求)」とは、患者が実際には来院していないのに請求が行われていると疑われるケースです。これは重大な違反とみなされるため、特に注意が必要です。

無診療として指摘が入りやすいケース
  • 当日の来院履歴がなく、診療録にも記載がない
  • 処置の実施日が実際の来院日と合わない
  • 複数の処置が同日中に繰り返し算定されているが、その理由が記載されていない

来院確認・施術記録・時間軸の整合が取れていることが、無診療請求と誤解されないための予防策です。

4-3. 加算・頻回処置・記録不備への視点

加算(たとえば再診時の処置加算や画像診断加算など)は、制度上明確な要件が定められているため、厚生局はその算定根拠を細かく確認します。

頻回処置(同一の検査・処置を短期間に繰り返す)についても、「本当に必要だったのか?」という観点で質問がされることがあります。

また、記録不備(略語の多用、途中からの記録欠落、読解不能な手書き等)は、制度的説明責任を果たせないものとされ、形式不備として記録の信用性を下げる要因になります。

 

5. 指導後の対応とリスクマネジメント

5-1. 文書指導・再指導・監査移行の違い

個別指導後、厚生局から送付される「指導結果通知書」には、次のいずれかの結果が記載されます:

口頭注意

軽微な指摘事項にとどまる

文書指導

一定の問題があり、改善報告書の提出が求められる

再指導

是正が不十分と判断された場合の再実施

監査へ移行

重大な違反・不正の疑いがある場合に移行(極めてまれ)

監査に移行すると、保険指定取消や過去の報酬返還等の重大な法的処分につながるおそれがあるため、初回の指導段階で適切な対応を行うことが最重要です。

5-2. 改善報告書や再発防止策の作成ポイント

文書指導がなされた場合は、通常「〇〇日以内に報告書を提出してください」と指示されます。 このときに作成する改善報告書では、以下の3点を満たす形で作成します。

改善報告書作成のポイント

1. 何が問題とされたのかを正しく理解して記載すること

2. 現状どのように対応・改善を図ったのかを明示すること

3. 再発防止策を具体的かつ現実的に提示すること

抽象的な表現や、テンプレート的な言い回しが並ぶと「実効性に乏しい」と判断され、再指導の可能性が高まりますので、現実的に実現が可能な施策を報告することが必要です。

5-3. 返還請求が届いた場合の対応フロー

場合によっては、診療報酬の一部返還を求める「返還通知書」や「返還案内」が届くことがあります。 これに対しては、以下の3つの選択肢を検討する必要があります。

納得できる場合

指定期日までに返還手続きを行う

一部争点がある場合

弁護士等の助言を受けたうえで、理由書を添えて減額・再検討を求める

重大な誤解がある場合

異議申し立てを含めた法的対応を検討する

100%納得ができる場合以外であれば、返還請求が届いたら一度弁護士に相談の上でその後の対応を進められた方がよいでしょう。

 

6. まとめ|“不安”ではなく“準備”で乗り越える

6-1. 個別指導は「説明と記録の制度」

個別指導は、医療機関の診療そのものを否定する場ではなく、制度的な枠組みに照らして「診療内容が適正かどうか」を確認する場です。

適切に対応するためには、日頃の記録精度を高め、説明できる体制を整えておくことが重要です。

個別指導の通知が届いた段階で弁護士に相談し、対応方法を含めて助言を得ることで、不必要な誤解やリスクを避けることができます。

個別指導の通知が届いた、事実と異なる理由で返還請求が届いたなど、まずは一度ご相談ください。