「個人クリニックから医療法人へ移行したいが、何から始めればよいのか分からない」
そんな不安を抱える開業医の方も多いのではないでしょうか。
医療法人の設立は、保健所・厚生局・法務局・税務署など複数機関への手続きを伴い、法的・実務的に非常に煩雑です。
本記事では、医療法人設立に必要な具体的手続きの流れ、どの専門家に何を依頼できるのか、費用相場はどの程度かを明確に整理し、初めて検討される方でも全体像を把握できるよう解説します。
1. 医療法人を設立するにはどんな手続きがあるのか?
1-1. 設立に伴う主な法定手続きと関係機関
医療法人の設立に際しては、医療法を根拠とした行政手続きが複数の機関をまたいで発生します。手続きは大別して以下の4領域に分かれます。
- 都道府県(厚生局を含む):医療法人設立認可申請
- 法務局:法人設立登記(商業登記法に基づく)
- 保健所:開設者変更届等、診療所の運営主体変更に関する届出
- 税務署・年金事務所・労働基準監督署:法人設立後の初期税務・労務届出
これらはそれぞれに提出時期・書類内容・審査基準が異なるため、全体スケジュールを逆算しながら進める必要があります。
1-2. 定款・役員体制・事業計画等の内部設計
認可申請においては、医療法および各自治体の指導要領に基づき、以下の内容を整備しなければなりません。
- 定款案:医療法に準拠した目的・事業範囲・機関構成・資産の帰属などを含む
- 役員構成:理事3名以上、監事1名以上(うち理事長は常勤。利益相反回避を要する)
- 設立趣意書・事業計画書:法人設立の背景・社会的意義・今後の診療展開などを記載
- 財産目録・資産状況報告書:開設資金の出所・資金繰り・既存資産の引継方法などを明示
なお、定款については設立後も法改正等が入った場合は適宜修正が必要となるほか、役員構成が変更になった場合は変更登記等を遅滞なく実施することが求められます。
1-3. 登記・開設届出・指定申請までの連動処理
都道府県から設立認可が下りた後は、原則2週間以内に設立登記を完了させなければなりません。その他、税務・労務に関連する以下の手続を並行して進める必要があります。
- 法務局への商業登記申請(登記完了証明の取得)
- 診療所の「開設者変更届」(保健所)
- 保険医療機関指定申請(厚生局)
- 法人設立届出・青色申告承認申請(税務署)
- 健康保険・厚生年金の新規適用(年金事務所)
- 労働保険(雇用保険・労災保険)の新規加入手続(ハローワーク・労基署)
2. 医療法人設立は自力対応できるのか?
2-1. 法律・実務の両視点を持つ必要がある
一見すると、インターネットで定款雛形や必要書類一覧は入手可能に見えますが、医療法人設立に関する実務の複雑性は、“法律上の要件の理解”と“自治体ごとの運用実務”を両立しなければならない点にあります。
「設立時に提出した定款に不備があり差し戻された」
「役員構成が親族のみでガバナンス体制に問題があると指摘された」
「労務や税務の届出を忘れていた」
こうしたトラブルは、設立時によくある例です。手続きが複雑なだけでなく、各分野の専門知識が横断的に求められます。
2-2. 開業医が自分で対応するうえでの負担とは
設立準備には、申請書類の作成・行政機関との折衝・資料収集・記載内容のチェックなど、多くの作業負担が発生します。
この間も通常の診療業務は続いており、日常業務と並行して法人設立業務を行うことは、時間的・精神的にかなりの負担になります。
2-3. 結果的に「やり直し」が発生する場面も多い
特に注意が必要なのは、スケジュールの遅延です。医療法人の設立認可は、年2回しか受付を行っていない都道府県が多く、一度提出を差し戻されると半年〜1年先延ばしになるリスクもあります。
そのため、1回で確実に申請を通すための書類作成と、全体スケジュールの管理が重要です。
3. 医療法人設立を代行できる専門家は誰か?
3-1. 行政書士の担当範囲(認可申請・書類作成)
行政書士は、医療法人設立認可申請の書類作成・代理提出が可能です。
特に医療法人設立に精通した行政書士であれば、各都道府県の審査基準や提出フォーマットを踏まえた認可申請が望めます。
3-2. 弁護士が関与する場面(定款・役員選任)
医療法人の定款には、医療法・会社法の複雑な規定が関係してくるため、弁護士によるチェック・設計が望ましい場面があります。
また、理事・監事の選任や、ガバナンス構造に関しては、法的なリスクを踏まえたアドバイスが重要になります。
3-3. 社労士が担う労務体制整備
法人設立後には、社会保険・労働保険の適用届出や、就業規則・賃金規定の整備が必要になります。
これらは社労士の専門領域であり、設立時点から労務設計を視野に入れて準備しておくことが後の労務トラブル防止につながります。
3-4. 税理士が担う会計設計・収支予測
設立にあたっては、資金計画・事業計画・収支予測の作成が求められるほか、法人税・消費税の課税判定などの論点もあります。
税理士は、医療法人の経理実務に即した形で、節税を見据えた設計支援や帳簿体制の整備を行えるほか、設立後の税務上の届出手続も代行可能です。
4. 専門家に依頼した場合の費用相場と注意点
4-1. 依頼内容別の一般的な費用相場
医療法人設立の外注費用は、依頼する範囲や専門家の組み合わせによって大きく異なります。
一般的な目安は以下のとおりです:
依頼内容 | 想定費用(税別) |
---|---|
医療法人設立認可申請(行政書士) | 20〜40万円 |
定款作成・法的助言(弁護士) | 10〜30万円 |
登記申請(司法書士) | 5〜10万円 |
税務・資金計画支援(税理士) | 5〜20万円 |
社会保険・労働保険新規適用(社労士) | 5〜15万円 |
就業規則整備(社労士) | 10〜50万円 |
※上記は一例であり、依頼内容・地域・士業の規模によって変動します。
委託契約時には業務範囲や費用に含まれている内訳を含めて明確に確認をしておきましょう。
5. 医療法人設立代行の実務フローとスケジュール
5-1. スケジュール感と「着手時期」の重要性
医療法人設立認可申請は、年数回の限られた受付期間に申請しなければなりません。(時期と回数は都道府県により異なります)。
このため、以下のように逆算したスケジュール管理が不可欠です。
時期(目安) | 手続き内容 |
---|---|
6ヶ月前〜 | 計画開始・専門家選定・役員構成検討 |
5〜4ヶ月前 | 定款案・事業計画書・資産状況書類の準備 |
3〜2ヶ月前 | 都道府県・厚生局との事前協議 |
2ヶ月前 | 認可申請書類の正式提出 |
1ヶ月前 | 認可決定通知・登記準備 |
登記後 | 社保・税務・開設届の一斉対応 |
5-2. 実務フロー上のチェックポイント
代行依頼時においても、依頼者側で確認・準備しておくべきポイントがあります:
- 理事・監事の履歴書・誓約書等、本人からの入手書類の整備
- 診療所物件に関する登記事項証明書・賃貸借契約書などの確認
- 開業医の個人資産と法人資産の分離スキーム設計
これらを早期に着手しておくことで、書類不備や準備不足によるスケジュール遅延を回避できます。
6. 医療法人設立に関連するよくある質問
Q:診療所の建物が賃貸でも医療法人は設立できますか?
A:はい、できます。ただし、その場合は**医療法人が使用することに対する貸主の承諾(使用承諾書)や、契約書上の条項の修正(転貸・契約期間など)**が求められる場合があります。都道府県によっては、物件の安定使用に関する確認資料の提出を求められることもあります。
Q:医療法人化すると、以前の個人事業とどう違いますか?
A:医療法人になると、開設者が個人ではなく法人(理事会)となり、契約・労務・税務など全て法人名義に移行します。診療報酬請求や保険診療の指定も再取得が必要になるため、法人化にあたっては「経営主体が変わる」ことを前提とした準備が必要です。
Q:医療法人にすると家族を理事に入れることはできますか?
A:可能ですが、**利益相反や職務実態の有無に注意が必要です。**家族を理事に任命することは医療法上禁止されていませんが、実態のない“名義理事”や報酬の過大支給は、税務上・ガバナンス上問題となるため、適切な職務設計と業務分掌が求められます。
7. 自力対応と外注依頼の比較と判断基準
7-1. 自力で対応できるケースとその限界
以下に該当する場合、自力での設立も現実的ではあります:
- 過去に設立支援経験がある職員や顧問がいる
- 書類作成に時間を割ける事務長が常駐している
- 単一拠点・小規模・役員構成が明確で変動が少ない
しかし、多くのケースでは、スケジュール管理を含めて日常業務と並行しての設立手続きは負担が大きいことと、各都道府県ごとの書式や手続フローがあることによる差戻し・申請遅延などのリスクもあるため、内製化する場合は慎重な判断が求められます。
7-2. 外注を前提にすべきケース
以下に該当する場合は、外注を前提に検討する方がリスク回避と効率化につながります。
- 忙しくて設立書類の準備や行政対応に時間を割けない
- 過去に医療法人設立の実績がない
- 定款・登記・労務・税務のすべてを一元管理したい
- 医療法人化に併せて分院展開や事業承継を予定している
外注先が医療法人の設立に強い事務所であれば、実務に即したリスクの洗い出しと、制度に合致した設計支援が得られるため、設立後の運営リスクも低減されます。
医療法人設立は、年に数回しか申請機会がない上に、やり直しがききづらい手続きです。
一度の不備で半年以上遅れるリスクもあるため、「初めての設立」「絶対にスケジュールを遅らせずに設立をしたい」という方は、経験豊富な専門家に依頼することが最も確実な選択といえるでしょう。
8. 弊所グループに依頼する場合の特徴とサポート内容
当事務所グループでは、医療法人設立に関わるすべての士業が社内連携のうえで、ワンストップでご対応可能です。
- 弁護士:定款・契約書・理事構成など法的観点の監修
- 行政書士:認可申請書類の作成・窓口対応
- 社労士:就業規則・人事制度・労働保険対応
- 税理士:事業計画・会計処理・節税設計
法人設立の手続が終わったらそれで完了ではなく、その後の運営が軌道に乗るまでを一括してご支援します。
「法人化すべきかどうか迷っている」「自分の場合どのような手続きが必要か知りたい」などの段階でも問題ありませんので、まずはお気軽にご相談ください。