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クリニックの分院展開を成功させるために知っておくべき手続き・メリット・注意点とは?

2025.07.23

近年、患者ニーズの多様化や地域医療の強化を背景に、「分院展開」を検討するクリニックが増えています。特にある程度の集患・収益基盤を確立したクリニックにとって、分院展開はさらなる事業拡大や経営安定化につながる重要な選択肢です。
しかし、実際に分院を開設する際には、医療法に基づく手続きや法人運営に関する規制、人材確保や収支バランスの見通しなど、さまざまな準備が必要となります。本記事では、「分院展開を考え始めた医師」の方に向けて、分院展開のメリット・注意点から、開設に必要な具体的な手続き、スケジュール感、分院展開をする際に気を付けておきたいポイントまでをわかりやすく解説します。

1. そもそも「分院展開」とは?

1-1. 本院と分院の関係性と法的定義

分院とは、既存の本院と同一の法人が運営する別拠点の診療所を指します。医療法に基づき、同一法人内での分院設置が認められていますが、個人診療所の場合は分院開設ができません。そのため、分院展開を検討する際には、まず医療法人化していることが前提となります。

1-2. 医療法における「一体運営」の考え方

分院は本院と一体的に運営される必要があります。具体的には、診療方針や経営方針が統一されており、管理者や事務管理体制が明確に設定されていることが求められます。これは形式的な分院設置ではなく、実質的に一つの組織としての運営が求められるという点を意味します。

2. クリニックが分院展開をするメリット

2-1. 経営基盤の安定化とスケールメリット

複数拠点による運営は、患者数の増加や地域ごとの需要への対応を可能にし、売上の増加につながります。また、スケールメリットとして、医療機器や備品、人材の共有が可能になるため、コストパフォーマンスが向上する傾向があります。

2-2. 医師・スタッフのキャリアパス形成

分院を展開することで、管理職ポジションを含めて新しい役割(例:分院長、副院長、事務責任者など)が新たに生まれるため、勤務医やスタッフに対して「診療だけでなく、マネジメントや経営にも関わるキャリア」「新たな拠点を任される成長機会」といった選択肢の幅広いキャリアパスを提示することが可能になります。こうした成長機会は、特に中堅層のモチベーション維持や、長期的な定着促進にもつながります。

2-3. 地域医療における存在感の向上

複数拠点を有することで、地域におけるブランド力が高まり、患者からの信頼や認知も強化されます。特に地域密着型のクリニックでは、分院展開は医療貢献の幅を広げる手段となります。

2-4. 医療法人ならではの節税・資産形成効果

医療法人としての分院展開は、個人所得と法人所得を分けた経営が可能になり、節税効果が期待できます。また、法人で資産形成を行うことで、経営の持続可能性も向上します。

3. 分院展開に伴うリスク・注意点

3-1. 医療法・広告規制など法的な制限

分院開設には医療法に基づく届出が必要です。また、広告規制も強化されているため、過度な宣伝には注意が必要です。違反すると指導・行政処分を受ける可能性があります。

3-2. 人材確保・定着の難しさ

分院の成功には人材の確保が不可欠です。しかし、勤務地が複数になることでスタッフの配置や教育体制に課題が生じやすくなります。

3-3. 経営負担・財務リスクの増大

新たな設備投資や家賃、給与負担などで初期費用が大きくなりがちです。開設前にしっかりとした事業計画と資金繰り計画を立てることが求められます。

3-4. 「本院との一体運営」が求められる点への対応

分院は単なる別施設ではなく、本院と一体的に運営される必要があるため、管理体制の強化や統一的な業務マニュアルの整備が必要です。

4. 分院展開に必要な手続きとスケジュール感

4-1. 開設形態の検討(医療法人か個人か)

分院を持つには医療法人である必要があるため、まだ個人経営のクリニックであれば、医療法人化の手続きが必要です。法人化には厚生局や都道府県への申請が必要となり、通常2〜3か月程度の準備期間がかかります。

4-2. 都道府県への届出・許認可の流れ

新たな分院を開設するには、保健所や都道府県知事への届出が必要です。具体的には以下のような手続きが必要です:

  • 開設許可申請
  • 開設前の立ち入り検査
  • 開設届の提出
  • 保険医療機関指定申請

4-3. 管理者・診療科・診療体制の整備

分院にも専任の管理者(医師)の配置が必要です。また、診療科目や診療体制についても、届出時点で明確化しておく必要があります。

4-4. 診療報酬請求・保険医療機関指定の準備

開設後すぐに診療報酬請求を行うには、保険医療機関としての指定が必要です。指定には手続きから約1〜2か月を要するため、余裕をもった準備が求められます。

5. 分院展開を検討するための事前ステップ

分院展開を成功させるためには、開設手続きに入る前の「事前準備」が非常に重要です。以下の5つのステップを踏むことで、開設後のトラブルや想定外のリスクを最小限に抑えることができます。

1 目的・コンセプトの明確化

分院展開の第一歩は、「なぜ分院を出すのか」を言語化することから始まります。たとえば「患者数の増加対応」「専門外来の強化」「自由診療の拡大」といった目的を明確にし、それを達成するための経営指標(KPI)へ落とし込んでいく作業が不可欠です。曖昧な目的のまま開設を進めてしまうと、運営上の判断軸がぶれやすくなるため、初期段階での戦略設計が非常に重要です。

2 立地調査と市場分析

立地の選定では、地域ニーズの把握が欠かせません。以下の観点で調査・分析を行いましょう:

  • 診療圏人口(徒歩圏・車移動圏)
  • 競合クリニックの数と診療科の重複状況
  • 交通アクセスや駐車場の有無・台数

加えて、現地を訪問し、実際の生活導線や住民層の属性を肌で感じることが成功の鍵となります。

3 財務シミュレーションと資金調達プラン

分院の成否は、開設時の資金計画にかかっていると言っても過言ではありません。

  • 内装・医療機器・人件費などの初期投資額
  • 診療報酬・自由診療による売上予測
  • 融資・リース・補助金の組み合わせによる資金調達

これらをもとに、黒字化の分岐点(損益分岐点)と返済スケジュールを明確化し、経営の持続可能性を客観的に評価する必要があります。

4 人材戦略:分院長・スタッフ採用

人材確保は、分院展開の最も大きなボトルネックの一つです。特に分院長候補となる医師を早期に確保できない場合、開院時期の延期や診療科目の制限に直結します。募集から採用、研修までのスケジュールを逆算し、必要人員を計画的に採用・育成していくことが求められます。

5 医療法人化・診療報酬シミュレーション

分院を展開するためには、医療法人であることが前提となります。法人化することで分院設置の自由度が大きく高まり、役員報酬や退職金を活用した税制優遇も享受できます。ただし、医療法人には配当の禁止や理事会の設置・運営義務といった法人特有のガバナンス制約も伴います。これらのメリットとデメリットを十分に理解したうえで、自院に適した法人形態と運営体制を検討することが重要です。また、分院ごとの診療報酬収益が本院と合算されるため、全体としての収益構造のシミュレーションも併せて行いましょう。

6. 分院展開を成功に導くためのポイント

6-1. 「経営者としての視点」の強化

医師としての専門性に加え、経営者としての視野を持つことが重要です。特に分院展開においては、現場の診療と経営の両立が求められ、採算管理や労務管理など新たな経営課題への対応が不可欠です。

6-2. スタッフ教育とマネジメント体制の構築

分院ごとに異なる人材構成になることが多く、マニュアル整備や定期的な研修体制の構築が必要です。分院長や看護師長といった現場責任者を早期に育成することで、組織の安定性が高まります。

6-3. 本院とのブランド統一・業務連携

患者から見て「どの拠点に行っても同じ安心感を得られる」ことが理想です。ロゴや内装、スタッフ対応などに統一感を持たせるほか、電子カルテや予約システムなどの業務面での連携も不可欠です。

6-4. 外部専門家の活用(弁護士・社労士・税理士)

分院展開には法務・労務・財務といった多方面の知見が求められます。経験豊富な専門家と連携することで、リスク回避と効率的な手続きが可能となります。

7. よくあるトラブル事例とその予防策

7-1. 届出の不備による開設遅延

分院の開設にあたり、必要な許認可書類の提出が漏れていた、または記載内容に不備があったことで、開設時期が予定より大幅に遅れるケースがあります。こうした事態を避けるには、各種手続きを早期に確認し、チェックリストを用いた進捗管理を行うことが重要です。

7-2. 人材トラブルによる分院閉鎖

分院に配置された管理医師やスタッフの急な退職や、労務トラブルが発生し、分院運営が継続困難になる事例もあります。予防策としては、複数の代替要員を想定した人員計画を立てるとともに、就業規則や労働契約の整備が必要です。

7-3. 財務見通しの甘さによる赤字化

開設時の収支予測が甘く、開院直後から赤字に陥るクリニックもあります。特に賃料や人件費の負担が過大になっていないか、想定患者数が現実的かを精緻に検討し、第三者の視点を取り入れて収支計画を策定することが肝要です。

7-4. 予防のために整えておくべき社内体制

これらのリスクに備えるためには、以下のような社内体制整備が有効です。

  • 経営・法務・労務の各分野をカバーする専門家との顧問契約
  • 標準業務マニュアルやトラブル対応フローの作成
  • 定期的な内部監査・リスクチェックの実施

8. 弁護士法人Nexill&Partnersグループの支援体制

8-1. ワンストップで分院展開をサポート

当事務所は、弁護士・社会保険労務士・税理士・司法書士・行政書士が在籍するグループ体制を整えており、分院開設に必要なすべての分野をワンストップでサポート可能です。

8-2. よくある相談事例と当事務所の対応

過去には、次のようなご相談を多くいただいています:

  • 医療法人化に伴う定款変更と都道府県申請の対応
  • 開設予定地の物件契約に伴う法的リスク調査
  • 分院長の労務契約や管理体制整備の支援
  • 開設後の広告規制チェックと行政対応のアドバイス

これらの事例では、初期の企画段階から携わることで、法的リスクの予防と実行スピードの両立を実現しています。

8-3. 法人運営・労務・税務・許認可まで一括支援

分院展開は多岐にわたる専門手続きが必要です。当事務所では以下の支援が可能です:

  • 医療法人設立および登記
  • 労働条件通知書・就業規則の整備
  • 給与・社会保険の初期設定
  • 保健所・厚生局への届出代行
  • 医療広告ガイドラインへの適合確認

すべてを一括で依頼いただくことで、煩雑なプロジェクトもスムーズに進行できます。

9. まとめ:分院展開は戦略的な経営判断として取り組む

少子高齢化や医療需要の地域偏在が進む中で、分院展開はクリニック経営の大きな転換点となり得ます。成功すれば、医療の質と地域貢献の両立を実現する有力な手段になります。
「まだ分院を出すか決めていない」という段階でも、早めに専門家へ相談することで、余裕を持った判断ができるようになります。分院展開を成功させるためには、初期段階での設計と体制づくりが鍵です。
当事務所では、クリニック経営に関する法務・労務・税務のご相談を随時受け付けておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。