医療業界の経営・法務・労務に精通した総合リーガルファーム
病院 診療所 クリニック 歯科医院 薬局
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MS 法人(メディカル・サービス法人) とは、医療法人や個人クリニックから診療以外の周辺業務――物品販売、医療機器保守、施設管理、事務代行、IT サポート、広報など――を切り出して受託する営利法人のことを指します。
医療法人は保険診療など非課税売上が大きいため、課税売上割合が低くなりがちです。その結果、仕入税額控除は課税売上割合に応じた按分しか認められず、消費税の一部がコストとして残りやすい構造にあります。一方で MS 法人は課税売上主体 となるため、医療法人から受け取る外注費を「適正な対価」として設定すれば、仕入税額控除をフルに機能 させることができます。結果としてグループ全体の消費税負担を圧縮でき、法人税・所得税のバランスも最適化されます。さらに、美容や物販など赤字補填が難しい自費部門を MS 法人へ移管すれば、医療法人の医業利益率を維持したままキャッシュフローを底上げできる点もメリットの1つといえます。
人材トラブル、設備リースの故障、広告ガイドライン違反など「医療行為に直接関係しないが賠償責任が重い」案件を MS 法人に吸収すれば、本体の医療法人は診療に集中できます。さらに MS 法人を株式保有により家族や幹部に分散すれば、後継者育成やインセンティブ設計にも利用できるため、成長戦略の選択肢が一気に広がります。
合同会社は会社法上、出資額=議決権=利益配分が自動的に比例するのが原則です。院長と配偶者、あるいは幹部職員など少人数で MS 法人を運営する場合、追加の株式設計や種類株式を用意しなくても「出資70%なら議決権70%」がワンステップで確定します。社員全員が業務執行権を持つため、日常の資金決済や物販仕入れもスピーディーに決裁でき、IT 部門や物販部門のように迅速な意思決定を求められる小規模事業に向いています。
一方、第三者投資やストックオプションを将来想定するなら株式会社が王道です。初期は院長51%・医療法人49%の株数を発行し、のちに金融機関や外部パートナーへ新株発行で出資を受けるといった資本政策の柔軟性があります。議決権の調整には株数再設計や種類株式の発行が必要になり手続コストは増えますが、Exit(株式譲渡・M&A)を視野に入れる場合はメリットが大きい形態です。
医療法人51%・院長個人49%とするケースが最も多く、これにより医療法人を親会社としてグループガバナンスを統一できます。出資者を幹部職員や家族にも分散したい場合は、合同会社なら出資金の振替だけで議決権も連動し、株式会社なら株式設計を追加で行う―という違いを押さえておくと選択を誤りません。
会社形態が決まったら定款目的に現時点+3〜5年以内に着手する可能性のある医療関連事業を網羅的に盛り込みます。
■例)「医療関連サービス業」「医療機器販売業」「オンライン診療支援業」「広告宣伝業」など
あまりに漠然と「飲食業」「不動産開発業」まで列挙すると、登記官から具体性不足の補正指示が出る場合や、金融機関審査で「資金使途が散漫」と評価される場合があります。医療との相乗効果が説明できる範囲に留めつつ、末尾に「その他前各号に附帯関連する一切の事業」を加えるのが実務的な落としどころです。これなら将来の事業多角化にも十分対応でき、定款変更の手間を最小化できます。
厚生局の個別指導では、外注費が「医療法人売上の 30~40% を超える」と利益移転とみなされ是正指導を受ける傾向があります。市場価格+経済合理性=外注価格 を証明できる資料(見積書比較、業務実態報告書)を MS 法人側に保管しておくと、税務署・厚生局双方の調査時の根拠資料として使用できます。
MS法人と本体法人で経費を按分する場合は、必ずその合理性を説明できるようにしておくほか、按分根拠を議事録に残すようにしてください。(床面積比・従業員数比・診療時間比などでの按分をする等)
この基準があいまいな場合は、税務調査で「全額医療法人負担」と更正される可能性があります。また、人件費を MS 法人で負担させる場合は、労働者派遣法抵触を避けるため、①業務請負契約で外注範囲と対価を定め、②その業務を遂行するスタッフについては出向契約で労務管理と給与負担を整理するという構造を取っておくことが安全です。
スタッフを MS 法人に雇用替えして出向させる場合、社会保険は MS 法人適用となります。このとき医療法人直接雇用の職員と賃金・賞与・退職金水準が大きく乖離すると、「同一業務なのに待遇が違う」とハラスメントや賃金差別を主張されるリスクが高まります。そこで就業規則はコア部分を両法人で統一し、MS 法人固有の手当やインセンティブは法人別付則で調整する形が実務的です。さらに出向契約には「復帰後も最低同水準の賃金を保証する」条項を入れておけば、減給規制や労務トラブルを防止できます。
美容皮膚科や自由診療のインプラント、企業健診、訪問看護ステーションなど、将来的に保険点数改定の影響を受けにくい分野を MS 法人で展開すると、収益ポートフォリオが安定します。医療法人本体では認められない営利性の高い広告戦略を MS 法人で実行できる点も大きな利点です。
医院建物を不動産 SPV に売却して MS 法人がマスターリース契約を結ぶと、医療法人は賃料のみ負担し、資金調達コストと固定資産税を外部化できます。さらに MS 法人が SPV 出資持分を保有すれば、賃料収益をグループ内でコントロールし、節税と資金回収の両方を実現できます。ただし実質的所有移転と税務上否認されないよう、第三者評価額と賃料収支計画 をセットで準備する必要があります。
MS 法人は節税・業務効率・リスク分散を同時に実現できる点が魅力ですが、外注費過大や出向契約不備があると是正指導を受けるリスクもあります。
当事務所は弁護士だけでなく税理士・社労士・司法書士が在籍し、法人設立前のスキーム設計から法人設立登記、設立後の運営サポートまで一貫して対応できる点が強みです。
また、顧問契約をご活用いただくことで、MS 法人設立後の税務調査・厚生局指導・労務紛争にも継続して対応し、リスクを最小限に抑えながら経営効率を高めることも可能です。まずはお気軽にご相談ください。