医療業界の経営・法務・労務に精通した総合リーガルファーム
病院 診療所 クリニック 歯科医院 薬局
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2023年に始まった新型コロナ特例融資の元本返済が本格化し、金融機関は医療機関に対しても与信審査を厳格化しています。加えて2024年度診療報酬改定は実質プラス幅が小さく、物価・人件費の上昇をカバーし切れない診療所が増えました。経常利益率が低下すれば、「まずは自宅や医院建物を担保に」「院長個人保証も必須」という提案になる傾向が強まります。個人保証をつけたままでは、将来の分院展開や事業承継時に保証解除で数百万円単位の追加担保を求められることも珍しくありません。したがって、開業・運転資金・設備更新いずれの局面でも、最初の融資契約で金利・担保・保証人条項をどこまで交渉できるかが、医療機関経営の持続性を左右するといえるでしょう。
日本政策金融公庫や地元金融機関が重点的に確認するのは、①自己資金比率(目安10~20%)、②過去2~3年分の確定申告書における医業所得の安定度、③家族の信用情報・連帯保証人の有無です。直近期の所得が高くても異動歴が多い場合や、家族に延滞歴がある場合は金利上乗せや融資枠縮小が起こりがちです。
金融機関が最も気にするのは「毎月の返済原資が確保できるか」。開業初年度の月次売上は一般的に予想の60~70%で着地するため、着地の数字でも返済が滞らないことを示せるような資金繰り表を提出することが重要となります。
医業ローンでは「毎月のレセプト入金債権」を担保に求められるのが通常です。契約書で①将来口座を変更できるか、②売上が落ちDSCR(返済余裕率)1.2倍を切ったらどうなるか、を必ず確認してください。たとえば「利益剰余金がマイナスになったら追加担保を差し入れる代わりに、早期返済請求は6か月待ってもらう」など、追加担保と猶予期間をセットで交渉するなどの方法があります。
また、分院資金の融資を受ける場合は、本院と分院それぞれの損益予想を作り、法人全体でEBITDA(営業利益+減価償却費)÷利息支払額が5倍以上になることを数字で示せるとベストです。
MS法人や不動産SPCを持つ場合、医院単体の財務諸表ではなく連結のキャッシュフロー計算書を提示することで、グループ全体の資金生成力を審査の際に考慮してもらえる場合があります。移転価格や外注費適正性を説明する資料も併せて提出が必要な場合もありますので、金融機関から求められた場合に備えて準備をしておくと安心です。
融資金利は一般的に固定金利1.3~1.8%が相場ですが、保証協会付きかプロパーかで0.3%以上の差が出ます。融資時の金利については必ず確認をしておきましょう。
また、見落としがちなのが担保条項で、診療報酬債権、医療機器、将来取得する不動産まで包括設定されているような場合があります。将来の分院開設やM&Aに備え、担保対象を「借入時点で存在する資産に限定」「追加取得資産は個別合意を要する」といった文言に修正しておくことが望ましいです。
また、特約条項として「自己資本比率20%以上維持」「DSCR1.2倍未満で期限の利益喪失」などの条項を入れるように金融機関が求めるケースがありますが、達成できなかった場合=即期限の利益喪失の条文は医院側にとってリスクが高いので、一定期間の猶予を盛り込むような形で合意ができないか交渉する方がよいでしょう。また、個人保証は3~5年後の解除条項を明示させ、一定の返済実績を条件に院長個人の担保を外せる道を確保しておくと事業承継時に役立ちます。
融資に関連する点として、普段の税務面やキャッシュフローを最適化しておくことも大事になります。
設備投資をローンにするかリースにするかを決める際は、消費税と減価償却のバランスがポイントですので、それぞれの特徴を踏まえてキャッシュフロー面から最適な支払方法を決めることが重要となります。
初期費用の消費税を一括で納付する代わりに、機器本体は法定耐用年数(一般機器5年)で減価償却できるため、初年度は償却費の計上により課税所得が圧縮されるため法人税負担が軽くなります。
リース料合計が損金算入でき、消費税も分割払いに近い形になるのでキャッシュアウトが平準化します。ただし、中途解約違約金と保守料が上乗せされるため、総支払額はローンより高くなる傾向にあります。
開業3年目前後からは、役員報酬を毎年3~5%ずつスライドダウンし、同額を企業型確定拠出年金(企業型DC)や小規模企業共済(年84万円まで全額所得控除)に振り替えると、法人・個人双方の税負担を抑えつつ将来資金を確保できます。
さらに長期平準定期保険を利用し、保険料の1/2を損金、1/2を資本積立に計上すると、10~15年後の解約返戻金を退職慰労金や相続対策原資に充当できます。保険料負担は月次キャッシュフローと照らし、返戻率が70~80%に達するタイミングで見直すと資金ロスを最小限に抑えられます。
これらのスキームは単独では効果が限定的ですが、設備投資の償却タイミング・役員報酬の減額時期・保険の返戻時期を総合的に組み合わせることで、返済ピークと税負担ピークをずらし、常に手元流動性を確保できる財務体質へと近づけることができます。
また、月次試算表と資金繰り表をできるだけリアルタイムで更新できる体制を作り、現状のキャッシュ状況を院長が正確に把握しておくことで追加の資金調達の計画も余裕をもって進めることができます。
当事務所は弁護士・税理士が在籍し、以下のような院長個人・医療法人の融資手続きについて法務面・税務面の両軸でのサポートを行っております。
事業計画書・資金繰り表の精査と数値シナリオの作成から金利・担保・財務制限条項のリーガルチェックと交渉代行、税務面の最適化(消費税・減価償却・役員報酬)に至るまで融資手続きを幅広くサポートいたします。また、借入後のモニタリング、金利引下げ、リスケ交渉、個人保証解除サポート等、医療機関の経営に伴走いたします。
法務と財務の両面から最適解を提案し、院長個人・医療法人双方の資金繰りを長期にわたってフォローいたしますので、まずはお気軽にご相談ください。