2023年(令和5年)5月17日、保釈等により釈放された被告人の公判廷への出頭確保に関する各制度、犯罪被害者等の個人特定事項の秘匿措置の整備等を内容とした、刑事訴訟法等の一部を改正する法律が公布されました。
改正法は、段階的に施行される予定で、その内容は多岐にわたります。
刑事実務上影響があるポイントについて、2回に分けて、改正法の施行順に解説します。 今回は、2023年(令和5年)施行分まで解説します。
1.公布日(2023年(令和5年)5月17日)施行
◯刑の時効の停止
(刑法33条2項新設)
※ほとんど適用される場面がないので、一般には知られていないのですが、刑の言渡しが確定しても、一定期間執行されない場合は、時効が完成します(刑法32条)。
ただし、判決宣告時に執行猶予が付された場合など、法令によって執行を猶予し、又は執行を停止した期間は、時効が停止するとされています(刑法33条1項)。
これに加えて、今回の改正法によって、刑の言渡しを受けた者が国外にいる期間も、時効が停止することになりました。
※なお、「拘禁刑」については、その施行日(2022年(令和4年)6月17日の公布日から3年以内)までは、従前の「懲役」又は「禁錮」と読み替えることになります。
2.公布から20日経過後(2023年(令和5年)6月6日)施行
1️⃣逃走罪の主体の拡張及び法定刑の引上げ
(刑法97条改正)
※改正前の主体は「裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者」とされていましたので、例えば、現行犯逮捕された者が、裁判官発付の勾留状執行前に刑事施設から逃走しても、逃走罪に当たりませんでした。 今回の改正法により、法令に基づいて拘禁された者は全て、逃走すれば逃走罪が成立することになりました。
※また、改正前の法定刑は「1年以下の懲役」でしたので、今回の改正法により、罪が重くなりました。
2️⃣加重逃走罪の主体の拡張
(刑法98条改正)
※改正前の主体は「前条に規定する者又は勾引状の執行を受けた者」とされていました。
今回の改正法により、刑法98条にいう「前条」である刑法97条の主体が拡張され、改正前の刑法98条「勾引状の執行を受けた者」は改正後の同条「前条に規定する者」に含まれることになったので、「勾引状の執行を受けた者」との文言は削除されたものです。
実際は、刑法97条逃走罪の主体が拡張された分、刑法98条加重逃走罪の主体も拡張されることになりました。
3️⃣拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告後における裁量保釈の要件の明確化
(刑事訴訟法344条2項新設)
※裁判所の裁量による保釈を規定した刑事訴訟法90条では、裁判所が保釈を許すには、保釈によって被告人が逃亡・罪証隠滅するおそれと身柄拘束によって被告人が受ける不利益の程度等を利益衡量することとされています。
従来は、この規定に関し、控訴審における特別規定はありませんでした。
しかし、今回の改正法により、第1審において実刑判決が宣告された場合には、その後に裁判所の裁量で保釈を許可するためには、身柄拘束によって被告人が受ける不利益の程度が著しく高い場合でなければならないと新たに規定されました。
その意味で、保釈条件が厳しくなったようにみえます。
もっとも、刑事実務上は、第1審において保釈が許可されていた場合は、控訴審においても保釈が許可される可能性が高いです。
ただし、保釈保証金は第1審のときより増額されることが多いです。
3.公布から6か月(2023年(令和5年)11月17日)以内に施行
1️⃣公判期日への出頭等を確保するための罰則の新設
㋐勾留の執行停止の期間満了後の被告人の不出頭罪
(刑事訴訟法95条の2新設)
※これまでは、被告人が勾留の執行停止期間満了後に決められた場所に出頭しなくても、罪に問われることはありませんでした。
なお、刑事実務上は、逃亡した事実は、これまで、勾留・起訴されている事件の量刑判断において、悪い情状として評価されていました。
しかし、今回の改正法施行後は、不出頭罪が成立することになります。
㋑保釈又は勾留執行停止の許可を受けた被告人の制限住居離脱罪
(刑事訴訟法95条の3新設)
※刑事実務上、保釈や勾留執行停止が許可される際、別途裁判所の許可がなければ3日以上制限住居を離れてはいけないなどという条件が付されることが多いです。
もっとも、これまでは、許可なく制限住居を離脱しても、例えば、裁判所から1週間の旅行許可をもらって、旅行に行って、1週間以上制限住居に戻らなくても、罪に問われることはありませんでした。
しかし、今回の改正法施行後は、制限住居離脱罪が成立することになります。
㋒保釈又は勾留執行停止の取消し後における出頭命令違反の罪
(刑事訴訟法98条の3新設)
保釈又は勾留の執行停止を取り消され、検察官からの出頭を命じられた被告人が、正当な理由がなく、指定された日時及び場所に出頭しないときは、2年以下の拘禁刑に処する。
※これまでは、保釈又は勾留執行停止を取り消された被告人が、検察官から出頭を要請されて出頭しなくても、罪に問われることはありませんでした。
なお、刑事実務上は、逃亡した事実は、これまで、勾留・起訴されている事件の量刑判断において、悪い情状として評価されていました。
しかし、今回の改正法施行後は、出頭命令違反罪が成立することになります。
㋓保釈・勾留執行停止をされた被告人の公判期日への不出頭罪
(刑事訴訟法278条の2新設)
保釈又は勾留の執行停止をされた被告人が、召喚を受け正当な理由がなく公判期日に出頭しないときは、2年以下の拘禁刑に処する。
※これまでは、被告人が保釈又は勾留執行停止によって釈放された後、召喚を受けたにもかかわらず公判期日に出頭しなくても、罪に問われることはありませんでした。
なお、刑事実務上は、逃亡した事実は、これまで、勾留・起訴されている事件の量刑判断において、悪い情状として評価されていました。
しかし、今回の改正法施行後は、不出頭罪が成立することになります。
㋔刑の執行のための呼出しを受けた者の不出頭罪
(刑事訴訟法484条の2新設)
※身柄拘束されずに拘留以上の刑の言渡しを受けた者は、検察官から呼出しを受けて、出頭し、刑の執行を受けることになります(刑事訴訟法484条)。
もっとも、これまでは、検察官からの呼出しの日時場所に出頭しなくても、罪に問われることはありませんでした。
しかし、今回の改正法施行後は、不出頭罪が成立することになります。
2️⃣保釈又は勾留執行停止の許可を受けた被告人に対する裁判所による報告命令制度の創設
(刑事訴訟法95条の4新設)
※これまでは、被告人の保釈や勾留執行停止による釈放に当たって、裁判所が被告人に報告等を命じる制度はありませんでした。
しかし、今回の改正法施行後は、裁判所が報告等の命令を出すことができるようになりました。
また、裁判所は、報告等の命令に対し、被告人から報告があったこと又はなかったこと等を検察官に報告することとされました。
3️⃣保釈又は勾留執行停止の取消し及び保釈保証金の没取に関する規定の整備
(刑事訴訟法96条改正)
※これまでも、保釈又は勾留執行停止の取消し及び保釈保証金の没取の規定はありましたが、今回の改正法施行後は、以下のとおり、その適用範囲が広がります。
・保釈を取り消された者が、検察官の出頭命令を受けても正当な理由がなく出頭しないとき又は逃亡したとき、裁判所は、保釈保証金を没取することができる(3項)。
・拘禁刑以上の実刑判決(一部執行猶予判決を含む。 )の宣告を受けた後、保釈又は勾留執行停止の許可を受けた被告人が逃亡したときは、裁判所は、保釈又は勾留執行停止を取り消さなければならず、保釈保証金も没取しなければならない(4項)(5項)。
・保釈を取り消された者が、検察官の出頭命令を受けても正当な理由がなく出頭しないとき又は逃亡したとき、その者が拘禁刑以上の実刑判決(一部執行猶予判決を含む。)の宣告を受けた者であるときは、裁判所は、保釈保証金を没取しなければならない(6項)。
・保釈された者が、実刑判決(一部執行猶予判決を含む。)の宣告を受けた後、検察官による出頭命令を受け正当な理由がなく出頭しないとき又は逃亡したときは、裁判所は、保釈保証金を没取しなければならない(7項)。
4️⃣控訴審における判決宣告期日への被告人の出頭の義務付け等
㋐控訴審における判決宣告期日への被告人の出頭命令
(刑事訴訟法390条の2新設)
※被告人には控訴審の公判期日への出頭義務はありません(刑事訴訟法390条)。
このため、これまでは、保釈又は勾留の執行停止の許可を得た被告人が、所在不明になってしまい、判決謄本の送達ができない場合や、判決謄本は親族が受け取るなどして送達は終えたものの、刑の執行が困難になってしまう場合等がありました。
しかし、今回の改正法施行により、控訴裁判所は、保釈又は勾留の執行停止の許可を得た被告人に対し、原則として出頭命令を出すものとされました。
㋑控訴審における判決宣告期日に被告人が出頭しない場合の判決言渡し
(刑事訴訟法402条の2新設)
※今回の改正法施行により、控訴裁判所は、保釈又は勾留の執行停止の許可を得た被告人が判決宣告期日に出頭しない場合、原則として判決宣告ができなくなりました。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。