はじめに
前回はガイドラインを基に、所謂「作業手当」、つまり業務の危険度又は作業環境に応じて支給される手当に関して正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題がないかという点について説明させていただきました。
前回のブログはこちらから:『同一労働同一賃金』とは?③ ~作業手当編~
今回は、ガイドラインを基に、会社が従業員に支給する諸手当のうち、「食事手当」の性質を有する手当について正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題ないか、説明させていただきたいと思います。
1.同一労働同一賃金とは?
振り返りとなりますが、再度「同一労働同一賃金」について簡単に説明しますと、同一労働同一賃金とは、「同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消をめざすもの」とされています。
したがって、会社内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者に基本給等の労働条件に待遇差が存在する場合、その待遇差が「不合理」な待遇差であるか「合理的」な待遇差であるかを検討・判断する必要があります。
2.食事手当の取扱いについて
⑴ 食事手当とは
ここでいう「食事手当」とは、労働時間の途中に食事のための休憩時間がある労働者に対して、食費の負担補助として支給される手当を指します。
⑵ 食事手当の待遇差がある例
それでは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で食事手当の待遇がある場合とはどのような場合でしょうか。
①正社員に対しては食事手当を一律月額5,000円支給するが、正社員と同一の職務内容と勤務形態である契約社員には支給しない場合。
②正社員だけでなく非正規雇用労働者にも食事手当を支給するが、正社員に対する支給額を非正規雇用労働者よりも高く設定する場合。
③全従業員のうち、食事のための休憩時間をとる必要がない短時間労働者のみを支給対象外とする場合。
などが、考えられます。
⑶ 食事手当の待遇差が「不合理」と評価される場合
上記⑵で挙げた例①から③のうち、どの例が「不合理」な待遇差になるのでしょうか。
この点を考えるにあたっては、これまでの回と同様に「食事手当」の性質を考える必要があります。
そうしますと、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の職務内容、及び勤務形態に違いがないのであれば、食事手当の支給の取扱いの相違を設ける必要性は見出せません。
また、仮に職務の内容・配置の変更の範囲が異なったとしても、勤務中に食事を取る必要性やその程度に影響を及ぼすものはありません。
したがって、正規雇用労働者と同一の勤務形態で勤務する非正規雇用労働者に対しては、原則として正規雇用労働者と同様の食事手当を支給する必要があると考えられます。
ガイドラインにおいても、原則的な考え方として「短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の食事手当を支給しなければならない。」と定めています。
そうしますと、例①については、正社員と契約社員の職務内容、勤務形態等が同一で、双方とも勤務時間の途中に食事のための休憩時間が付与されているにもかかわらず、正社員のみに食事手当が支給されていますので、不合理な待遇差と評価されるでしょう。
同様に、非正規雇用労働者に勤務時間の途中に食事のための休憩時間が付与されている場合、正社員と比較して支給額に差異を設ける必要性はないと考えられますので、例②についても不合理な待遇差と判断される可能性が高いでしょう。
ガイドラインにおいても、問題となる例として「通常の労働者に対して、有機雇用労働者に比べ、食事手当を高く支給している」場合をあげています。
他方で、 上述した食事手当の趣旨から考えますと、そもそも労働時間の途中に食事のために休憩することが予定されていない勤務形態である非正規雇用労働者に対して食事手当を支給していないとしても、直ちに不合理な待遇差とは評価されないものと思われます。
ガイドラインにおいても、問題とならない例として、「労働時間の途中に昼食のための休憩時間がない(例えば、午後2時から午後5時までの勤務)短時間労働者に対して食事手当を支給しない」場合をあげています。
そうしますと、例③については、同様に考えて不合理な待遇差とはまではいえないと考えられます。
3.まとめ
今回は、同一労働同一賃金で問題となる食事手当の待遇差について、ガイドライン等を基に説明させていただきました。
同一労働同一賃金の対応にお困りでしたら、一度労務関係に強い専門家にご相談されることをお勧めいたします。
KOMODA LAW OFFICE 弁護士
坂本 志乃 SHINO SAKAMOTO
得意分野は労務、企業法務。
座右の銘は『努力は人を裏切らない』