「区分所有」は、その表記からなんとなく内容を想像しやすいので、特に不動産に関わることも無ければ深く気にすることなく流してしまうような言葉かもしれません。
ただ、もし自分の関わる場所でトラブルが発生してしまった場合を考えると、絶対に知っておくべきキーワードなのです。
1.区分所有を知るメリット
「区分所有」という言葉は、不動産に携わっている方ならば頻繁に耳にする言葉だと思いますが、実際のところは何となくこんなものかな、としか理解していないのではないでしょうか?一方で、普段不動産に縁の無い方であれば、初めて聞く言葉かもしれません。
この「区分所有」は特にマンションのオーナーの方々にとってはとても重要なワードで、万一法律トラブルが発生した場合の対応に、このワードを理解しているか否かによって大きな差が生じてきます。
区分所有の何たるかを理解していれば、問題に突き当たったとき、何に着眼し、誰にどんな対応が必要なのかを見極めやすくなります。
2.区分所有の概念
民法上、1棟の建物は法的に1個の物として扱われるもので、複数人でその建物を共同して保有する場合には、「共有」として扱われます。
これに対し、区分所有法においては、一定の要件の下、建物を複数の部分に区分けした上で、それぞれの区画を異なる者が単独で所有することが認められています。
それでは、これを踏まえた上で法律上の定義を見てみましょう。
第1条 一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。
この条文を分解して考えます。
①「構造上区分された・・・部分」(構造上の独立性)
②「独立して・・・建物としての用途に供することができるもの」(利用上の独立性)
まずはこの2つを備えることが求められていることが読み取れます。
そして、ここで注意すべきところが、この①構造上の独立性と②利用上の独立性を兼ね備えているからと言って、その建物においてイコール区分所有権が成立するわけではないということです。
もう一度条文を読み直してみましょう。最後の部分に着目すると、
「・・・所有権の目的とすることができる」
と記されています。
つまり、先に登場した2つの要件を兼ね備えていることだけでは足りず、所有者がその建物を「区分所有建物として保有したい」という意思を持って保有することで、初めてその建物において区分所有権が成立するのです。
3.専有部分と共有部分の区別
区分所有建物においては、先ほど1.の中で「建物を複数の部分に区分け」すると説明しました。この「区分け」された部分は、「専有部分」と「共有部分」の2つに分類することができます。以下に、それぞれの具体例を挙げつつ説明していきます。
●A専有部分
先に説明した、法1条の中に出てくる2つの要件、
①構造上の独立性 ②利用上の独立性
を備える必要があります。そして、専有部分は、独立した所有権の対象となります。
・・・その使途は居住用に限らず、店舗・事務所・倉庫・講堂・医院・教室・駐車場等のように「建物として」の用途に供することができるもの。
当てはまらないもの:エレベーター
・・・要件① 構造上の独立性 〇 ② 利用上の独立性 ×
ここで、②で説明した区分所有権について1点補足があります。
区分所有権が成立するためには、「一棟の建物の中に複数の専有部分」が存在していることが必要となります。
法1条でいうところの「・・・数個の部分で」がこれに該当します。実際に想像してみると、例えば1部屋しかない建物を複数人で区分所有することはできないので、当然の事ではありますね。
●B共用部分
区分所有建物の中で、専有部分以外の部分は、当然に「共用部分」とされます。そして、共用部分は、原則として区分所有者全員の共有に属するものと定められています。
ただし、ここでいう共有は、民法上の共有とは異なる法律関係が定められていることには注意が必要です。
一方で、本来は専有部分となるべき部分を、規約によって共用部分とすることも可能です。先にあげた共用部分と区別するために、「規約共用部分」と呼びます。この規約共用部分であることを第三者に対抗するためには、その旨を登記する必要があります。
なお、原則として規約共用部分も、一般的な共用部分と同様に、区分所有者全員の共有に属します。
→ 区分所有者全員のための集会室として使用する
4.附属物の話~建物の設備関係について
マンションを思い浮かべると分かりやすいのですが、区分所有建物の中には、これまでに触れてきた「居室」や「廊下」以外に、電気、ガス、上下水道、冷暖房等の配線、配管設備が存在しています。これらをまとめて、区分所有法上では「附属物」と呼称しています。
建物の附属物は、通常は建物に付合しているため、建物の一部とみなします。ところが区分所有建物においては、一棟の建物に存在するすべてのパーツを先に述べた「専有部分」と「共有部分」のいずれかに区別するため、附属物が実際にどちらに属するのかが問題となります。
ここで、あらためてマンションの構造を想像してみてください。ライフラインの配管等は、居室(専有部分)の内部にある部分もあれば、ベランダ(共有部分)に露出しているものもあります。そういうわけで、建物の附属物については「○○部分である」とは簡単に分類できないのです。
5.まとめ
区分所有法によって、1棟の建物を複数の区画に分け、各区画を複数の人が別々に所有するという法律関係が生じます。その一方で、1棟の建物が物理的に1個の物であることは変わりません。
そのため、複数の所有者(区分所有者)が、1棟の建物を共同で維持・管理し、その建物の利用に伴って生じる利害の対立等を調整する必要が生じます。こういった複雑な関係性が存在するため、区分所有建物に関係する紛争を扱うためには、区分所有法特有の概念や権利・義務関係を正しく理解することが必要となるのです。
マンショントラブルにおいて、まずはその建物の所有形態が区分所有になっていないか、そしてトラブルの発生源が専有部分なのか、それとも共用部分なのかを把握した上で対応を検討する必要があるということ、実際のところはすぐに区別できない部分もあるために争いになってしまう部分もあることを覚えておいていただければと思います。