近年、退職代行サービスの利用が一般化しつつあります。会社と直接やり取りをせずに退職を申し出ることができる手軽さから、若年層を中心に利用者が増加しています。しかし一方で、退職代行をめぐって「弁護士法違反の疑い」が報じられるケースも見られ、どこまでの対応が許されるのか、その線引きが社会的な関心を集めています。
本稿では、報道の概要を踏まえつつ、弁護士法上の非弁行為(弁護士でない者による法律事務の取扱い)の考え方を整理します。
1. なぜ今退職代行が問題視されているのか?
近時、退職代行サービスを運営する事業者に対し、弁護士法違反(非弁提携)の疑いで捜索が行われたとの報道がありました。報道によれば、この事業者は退職を希望する利用者を弁護士に有償で紹介し、紹介料を受け取っていた疑いがあるとされています。
弁護士法では、弁護士と非弁業者が報酬を得る目的で事件をあっせん・紹介する行為(いわゆる「事件の周旋」)を禁止しています。
退職代行サービスは、退職者にとって有用な手段の一つとなりますが、その仕組みや提携形態によっては弁護士法上のリスクを伴う場合があります。
退職の意思を伝えるだけであれば問題になりにくい一方、会社と条件交渉を行う場合には弁護士でなければ行えません。
未払残業代や退職金など、金銭的・法的利害が絡む交渉を伴う場合には、必ず弁護士に依頼することが安全です。
2.退職代行で許されること/許されないこと
2-1.許される行為の例
一般的に、弁護士でない退職代行業者が行えるのは、以下のような「伝達業務」に限られます。
- 「退職の意思」を会社に伝えること
- 退職届や貸与物の返却方法など、事務的な連絡の取次ぎ
- 私物の引き取りや退職日の確認といった事実関係の調整
これらはあくまで伝言にとどまるため、法律事務には該当しません。
2-2.許されない行為の例
一方で、以下のような行為は弁護士でなければ行えません。
- 未払い賃金・残業代支払いなどの条件交渉
- 合意書や清算書面の作成、法的助言
- 交渉経過や金額をもとに和解を取りまとめる行為
これらを退職代行業者が行えば、弁護士法72条違反(非弁行為)に該当するおそれがあります。
3.弁護士法の基礎整理:非弁行為・非弁提携とは
3-1.非弁行為とは
弁護士法72条は、
「弁護士でない者は、報酬を得る目的で法律事務を取り扱ってはならない」
と定めています。
法律事務とは、法律上の権利義務に直接影響を与える行為を指し、示談や交渉、請求、法的書面の作成などが含まれます。
3-2.非弁提携とは
報酬を得る目的で他人の法律事件を弁護士に紹介・あっせんする行為を弁護士が受け入れること、あるいは非弁業者に自らの名義を利用させて法律事務を事実上行わせることは、非弁提携として禁止対象です。(弁護士法27条)
実務上は、形式的な「事件紹介」だけでなく、弁護士と非弁業者が経済的に一体となって事件処理を行う関係、すなわち報酬分配・成果連動・顧客誘致の協働など、非弁業者を通じて事件を獲得・処理するスキームも、その実態に応じて非弁提携と評価される場合があります。
退職代行業者と弁護士が提携する場合も、この規制を十分に理解した上で、適法なスキームを構築する必要があります。
4.企業側の留意点:コンプライアンスと社内対応
退職代行から連絡を受けた企業側にも注意が必要です。
- まずは会社名、荷電者の名前等での本人確認を確実に行い、記録を残す
- 「退職意思の確認」は受けるが、「交渉的要請」には応じない
- 残業代・退職金等の条件交渉の話が出たら、相手方が弁護士でない以上は対応を続けない
退職代行業者が弁護士でない場合、やり取りの内容次第では企業側も法的トラブルに巻き込まれることがあります。本人以外からの急な退職連絡で驚いてしまうかもしれませんが、落ち着いて対応を進めるようにしましょう。
なお、平時の予防労務として退職代行からの連絡が入った場合の初動対応フローを備えておくこともお勧めです。
顧問弁護士がいる場合は、退職代行からの連絡があった場合の対応方法・どの段階・どの判断基準で弁護士に相談・エスカレーションするかを事前に決めておくことで、より法的に安全な対応を取ることができます。
当事務所では、社労士資格を持つ弁護士を中心に、企業様の法務・労務面を一貫してサポートを行っています。
条件交渉や未払賃金請求への対応を含めて、従業員の退職に関するお困りごとがございましたらまずはご相談ください。











